29話.西園寺家②
「小僧が嬢ちゃんよりどこまで聞いたか知らんが、全て本意であると言っておこう」
「そうか。いや、それが聞けただけでめでたい事よ。本来国にも進言すべきであろうが……」
「……」
「フハハ、そう睨むでない。わしに話を通してくれただけでも感謝しておるのだ。わしはこの国でも権力はある方でな、任せるが良い」
「フン、よきにはからえ」
おお、実際に言うのを初めて聞いた。
人生で一度は言ってみたいセリフである。
俺は言う機会無いだろうな……。
「そうだ榊殿、離れにトレーニングルームがあるのだが、少しわしの腕を披露させてはくれんか?」
「え?」
「榊殿の目の良さ、見識の深さを紅葉から聞いてな。是非わしも見てもらいたいと思っておったのだ」
「紅葉さん!?」
「すみません玲央さん。御爺様に隠し事は基本出来ないのです」
「成程……。分かりました。俺で良ければ」
「おお! それは有難い! では早速行くとしようか!」
ううん、高齢とは思えないほどガッシリとした体格をしている。
歩き方も隙が無い。
戦士のそれだ。
噂通り、凄まじい強さなはず。
ゲームでは実際に戦うことは無かったし、ちょっと楽しみである。
「よく見ておけ玲央。あやつはアレで、多くの魔族を屠ってきた強者だ」
「!!」
「ですねぇ☆ ウチもあのお爺さんとはあんまり戦いたくない相手です☆」
魔族側の主戦力達が認めてるのなら、相当だろうなこれ。
「これは当主様! 使用されるのですか?」
「うむ。敵をランダムで出現させい。当然難易度は最高で構わんでな」
「畏まりました!」
「ではこれより、わしがモンスターと戦う。榊殿はそれを見ていてくれ」
「分かりました」
「よし、はじめい!」
「では、開始致します!」
剛毅さんが構えたのは槍だった。
上着を脱ぎ、筋肉質な肉体を晒している。
「つぉぉっ……!」
「ギャゥン!?」
凄まじい威力の槍の突き。
あれは剛槍の部類だ。
軽い槍ではなく、凄く重たい槍を、まるで手足のように振るっている。
でも何故だろう……俺はこの槍振いを、見たことがあるような気がする。
「フハハハハ! ではここらで一つ、技を見せようぞ! 西園寺流槍術『無双三段突き』!!」
「グアァァァァっ!!」
「!!」
上段、中段、下段を順番、いやほぼ同時に突く技か。
人間は正中線と呼ばれる、要は真ん中に急所が集まっている。
それを同時に攻撃するとか、かなり殺傷力の高い技である。
それも槍だ。避けるのは難しく、受けるのも難しい。
「ふむ、これで終わりか。他愛無い。どうじゃ榊殿、わしの強さは」
「文句のつけどころが無いですね。強いです。俺の仲間にも頼もしい槍の使い手が居るのですけど、その仲間を思い出しました」
「ほぅ……? その者は、わしより強いか?」
ニヤッと笑う剛毅さん。
奇しくも同じ名前だ。
ここは、紅葉さんを立てるように、剛毅さんにおべっかを言うのが正解なのかもしれない。
だけど……俺にはそんな真似は出来ない。
「どうでしょう。単純に比べるのは難しいです」
「ほう?」
「俺の仲間の槍の腕前は、もしかしたら剛毅さんに劣るかもしれません。でもそれ以上に……彼の仲間を守るという熱い想いと、強さに助けられました」
仲間が立ち上がる時間を、アインと共に稼いでくれた。
俺達を守る為に、あの化け物に立ち塞がってくれた背中を、俺は鮮明に覚えている。
「俺の最高の仲間である彼は、凄く強い。としか言えません、すみません」
気を悪くさせてしまったかもしれない。
誰だって、一学生よりも剛毅さんの方が強いと言うだろうし、知名度だってある。
剛毅さんも当たり前の事で、雑談のように聞いただけだったかもしれない。
それなのに俺は、ムキになって子供みたいな対抗心を燃やしてしまった。
「フハハハハ! そうか、そうか。うむ、わしは今非常に気分が良い。紅葉、客人達をあの部屋へ。わしも着替えたら向かう」
「畏まりました、御爺様」
そう言って、剛毅さんは去って行ってしまった。
「お、怒らせちゃったかな紅葉さん。ごめん……」
「ふふ、御爺様はむしろ喜んでいましたよ。非常に気分が良いと、言っていたでしょう?」
「それは……」
「フフ……気にするな玲央。あの小僧は本当に喜んでいただけだ」
ちょっと喜ぶ意味が分からないけれど……二人がそう言うなら、大丈夫って事で良いのかな。
それから案内された部屋には、凄い料理が所狭しと並んでいた。
「見たことない料理がいっぱい並んでる……」
「ほう……中々豪勢だな」
「うはー☆ ウチお腹すいてきた☆」
「ふふ、御爺様が来るまで、少しお待ちくださいね」
流石に当主様より先に食べるなんて無礼は出来ないよね。
マカロンならしそうな気がしたけど、大人しく待っていてくれた。
「待たせてすまぬな。さぁ、好きに食べて飲んでくれ! 今日この場にはわし達しかおらぬでな!」
この量を俺達だけで!?
と思ったのだけど、マカロンとクレハが凄まじい量を食べるので、意外にも食べ尽くす事が出来たのだった。
滅茶苦茶美味しかったです。
途中で咲や拓にお土産を頼まれていたのを思い出して、少し持ち帰って良いか聞いたら、新しく包んでくれた。
ちょっと恥ずかしかったけど、言って良かった。
「んんまぁぁぁい! この世の物とは思えないんだけどおにい!」
「これが本場の腕前かっ……負けたぜ……でもいつか超えてやる……!」
咲は感極まっていたし、拓は悔しさをバネに、料理の道を究めそうな雰囲気を出していた。
特級厨師目指したりしないよね?
目指すなら兄ちゃん応援するけども。
あ、ちゃんと両親にも渡したよ。
どっちも咲みたいな反応だった、親子だよね。
お読み頂きありがとうございますー。
また、誤字報告もありがとうございます。直接お伝え出来ないので後書きで失礼致します。
投稿後も何度か読み直してはいるのですが、気付けていない誤字がありますね。
報告受けて、おおって毎回なります。
続きも良ければ読んでいってくださいね!