24話.勘違いと勘違い
烈火チームの訓練も終わり、帰る段階でリーシャさんに聞かれる。
「それで? どうして紅葉呼びになったのかしら?」
「……」
さてどうしよう。
今この場には、烈火チームも帰る準備をしていて、紅葉さんも居る。
ここはやはり、俺から話すのはダメだと思うので。
「紅葉さーん」
「あ、はーい。今行きますね」
遠くで烈火達と片付けをしてくれていた(鉄の剣と鉄の盾の残骸)紅葉さんが、こちらへと駆けてくる。
「どうしました玲央さん? それにリーシャさん。あ、そういう事ですか」
どうやら察してくれたらしい。
「婚約はまだですよ?」
全然察してくれてなかった。
「そういう話じゃないです」
「あれ、違いました?」
茶目っ気たっぷりな紅葉さんも可愛いけれど、今は勘弁してください。
「まだ、ね。それはつまり、お爺さんに会わせるつもりがありそうね紅葉」
「クス、分かります?」
「「……」」
な、なんでだろう。
普通に会話してるだけのはずなのに、冷気を感じる今日この頃。
「あ、あの。俺が言うのもなんだけど、紅葉さんを呼んだのは……」
「クスクス、分かっております玲央さん。おふざけをして申し訳ありません。でも、リーシャさんとこうして話す事が出来るのが、嬉しくて。あの頃は顔を向けてもくれなかったんですよ?」
「え……」
「子供の頃の話でしょう!」
「それはそうなんですが、中学生くらいの頃になって、誠也おじさまと一緒に戦場を駆けているリーシャさんは、凄く遠い存在になっていたんです」
「それは……」
成程……幼いころから顔合わせだけはしていて、大きくなってからは居場所が違った。
ゲームでは一文であっても、リアルとなると違う。
その間の想いがある。感情があるんだ。
「はぁ、そんな事を話す為に来たわけじゃないでしょう紅葉。貴女は今、どちらなの」
「「!!」」
紅葉さんルートで判明した事だが……この時点で、すでに知ってはいたという事なのか。
「私は、私です。クレハとは最初から違います」
「成程ね。まぁ、もうそれは良いのだけど」
「「え?」」
「だって、藤堂先生の腕は戻せるもの。なら、憎しみはないわ。いえ完全には無くならないし恨みは晴らすかもしれないけど。でも、治す当てのないあの頃とは違う。今は、玲央君が居るもの」
「リーシャさん……」
そうか……俺は、出会ったあの頃から……リーシャさんの恨みの道を、潰せていたのか。
「ふふ、そうでしたか。玲央さんも隅に置けませんね」
「え?」
「これを下心なしでしているのが分かるのですから、困りものです」
「それは分かるわ。多分紅葉、貴女もそうだったんじゃないの」
「はい。本当に私の事を考えて、助けて頂きました。この命を……」
「……そう。じゃ、貴女はライバルって事で良いのね?」
「そうなりますね。この戦いだけは、負ける気はありませんよ?」
「こちらのセリフよ紅葉」
あれ、なんかさっきの冷気から、今度は熱気を感じるのだけど。
ライバル、か。
烈火と美樹也のように、紅葉さんとリーシャさんも熱い友情で結ばれるわけだね。
くぅー! やっぱり俺の推し達はどこまでも良いなぁ!
「あ、この顔は別の事考えてるわ」
「はい、間違いないですね」
「え……?」
「「はぁ……」」
何故か二人の美女にため息を吐かれた。
俺、いつも言われるから流石に分かってきたけど、顔がきもかったりするのかな……地味にショックを受けてしまう。
「おーい! 帰る準備出来たぜ! って、玲央、なんだこの雰囲気?」
「気にしないで。俺の顔がキモイだけだから……」
「? お前の顔はイケてると思うぜ玲央!」
「烈火……!」
生まれて初めてそんな事言われたよ!
もう烈火大好き!
「「!!」」
「こんな所に強敵が居たわね紅葉」
「はい、思わぬ伏兵です。いえ知ってはいたんですが……」
何故に二人が烈火を敵視するの……?
「そんじゃ帰ろうぜ! ティナにゼウスは帰る方向一緒なんだよな?」
「はい烈火さん。幼馴染ですので」
「はい烈火殿。ティナ殿は必ず無事に送り届けます」
「おう、頼んだぜゼウス! そんじゃ、解散だ!」
「はい! 榊様、今日の御恩は一生忘れません。それと、その、また機会があればで構いませんので、ご指導ご鞭撻の程、お願いできないでしょうか……?」
それは構わないのだけど、何故上司に向かって言うようなセリフを……?
「うん、大丈夫だよ。時間があればいつでも」
「!! ありがとうございます!」
「あ、あの! 榊殿! 自分も、よろしいでしょうか!?」
「勿論。いつでもいいよ」
「あ、ありがとうございます榊殿!」
人の役に立てるのって嬉しいよね。
これだけ望んでくれるなら、やりがいもあるってものだ。
「玲央君、私が言うのも違うとは思うのだけど……あんまり安請け合いしすぎるのも良くないわよ?」
「え?」
「そうです玲央さん。今はまだ良いんです。けれどこれからも、玲央さんはそうやって頼まれたら断れないのではないですか?」
うっ……それは、確かにそんな気がする。
「あー、そこが玲央の良いとこでもあっからよ、悪く言うつもりはねぇが……俺達はお前の体が心配なだけだぜ。誰かの為にいつも全力なお前は、自分をないがしろにしてる気がしてよ。断る勇気も持てよ、玲央?」
「そう、だね。うん。ありがとう皆。こんな俺を心配してくれて」
本当に、俺の推し達は優しい。
「ったく! こんなとか言うなよ!」
「おわっ!?」
烈火に肩を抱かれる。
「俺達はダチなんだからよ! 当たり前だろ!」
「あわわわ……! 烈火x玲央ですね解釈一致です……!」
「紅葉……?」
「はっ!? コホン。玲央x烈火も良いと思います意外性で」
「誰もそんな事を気にしていないのよ紅葉……貴女どうしたの……」
「いえその、ずっとクレハが言ってくるので……その……」
「貴女、会話できるの!?」
「はい、会話どころか表に出す事も可能なんですよね……というか、常時ハイテンションで話しかけてくるので、いい加減しんどいと言いますか……」
「……」
何か腐のオーラを感じ取ったのだけど、一瞬で消えた。
なんだったんだ、今の悪寒は。
もしやクレハさんが何かしているんだろうか?
とはいえ、許可がなければ表には出ないはずだ。
マカロンと約束してるし。
「良いわ、良い機会だから話をしましょ。玲央君、明日は休みだし行っても良いわよね?」
「え? うん、良いよ」
やばい、話を聞いていなかった。
条件反射で良いと言ってしまった。
「玲央君からの許可も出たし、明日は玲央君の家で話をしましょ紅葉」
「分かりました。では明日、玲央さんの家で」
「ええ」
あっれぇ!? 何故か俺の家にリーシャさんと紅葉さんが来る流れになってるぅ!?
大丈夫かな、俺のノミの心臓。耐えてくれよ……!
そうだ、烈火も混ぜたらいくらかマシに……! いや同性的な意味合いではマシだけど、推しが来るんだぞ耐えられるのか俺……!
って違う、紅葉さんの秘密を話すのに、俺から対象者増やせないからぁ!
「あの紅葉さん……」
「まずはリーシャさんだけです玲央さん」
「……はい」
そうにこやかに言われてしまえば、是非もないわけで。
「なんかよくわからんが、頑張れよ玲央!」
すごく良い笑顔だけど、雑ぅ……!
お読み頂きありがとうございますー。