23話.烈火チームの指導
倒れた美樹也にティナさんが『ヒーリング』をかけ、マジックポーションを振りかける事で美樹也は意識を回復させる。
ポーション系は飲む方が効果は強いのだけど、マジックポーションに限り直接肌に触れれば飲むのと変わらない効果を発揮する。
ゲームでは無かった要素だ。
「約束通り、今日"は"譲ろう烈火。玲央、来週の月曜は俺達を見てくれないか?」
「あ、うん。分かった美樹也」
「美樹也!? ずりぃぞそれはっ!?」
「フ……ではな。行くぞ百目鬼、竜、影縫」
「お、おう!」
「分かったネ。榊、またネ!」
「ま、来週教えて貰えるならここは引きましょ。それじゃね皆!」
そう言って、美樹也チームは去って行った。
あのチームも強いだろうし、指南する事で学ぶ事も多そうだ。
「ったく。そんじゃ、場所移すか玲央! ここは他の奴らも使うからよ!」
「そうだね」
「一応言っておくけれど轟君。私は近くに居るからね」
「お、おう。リーシャさんはまぁ仕方ねぇな」
「むぅ、榊君。火曜はまたクラス内順位争奪戦だって分かってるよね? 僕達、今週は一度もまとまって班練習してないよ?」
「俺、と、アイン殿も、まだ完璧、ではない。今は、俺達の、練度を、高めれば、良い。アイン殿」
「うぐ……まぁそれももっともな意見なんだけど。……そうだね、榊君にみっともない姿は見せられないし、もっと洗練させてから見てもらおうか」
「そう、しよう」
アインと剛毅の言葉に胸が詰まる。
確かに俺達のチームでの訓練が全くできていない。
アインと剛毅は連携を強化してくれているのだから、チーム全体の強化も視野に入れないといけない。
来週こそ、俺達のチーム全体の強化に時間を当てよう。
今週は……うん、仕方なかったんだ色々と。
そうして場所を移し、人工ダンジョンの攻略としてはあまり人気のない場所に着いた。
なんせ、何もない場所なのだ。
所々に居るモンスターは非アクティブ型のモンスターであり、こちらから攻撃を仕掛けない限り、襲い掛かってはこない。
見敵必殺ではないのである。
人工ダンジョンの第一層は、こういう作りになっている場合が多い。
「おし、ここなら他の奴らに見られるって事もねぇだろ!」
「私を除いて、ね」
「は、はは。そんじゃ玲央、頼むぜ!」
またすっごい雑に投げてきたな!
「轟君……」
これには流石にリーシャさんも呆れ顔である。
良いぞもっとしてやって。
「とりあえずそうだね、職種の適正から……」
というわけで、各自の職種の基本的な在り方について説明していった。
こういうのって、ゲームだと基本でも知らなかったりする場合があるんじゃないかと思ったからだ。
そしてそれは、当たっていて。
「そう、だったのか……だから俺がスキルを使った後、凄い疲労を感じたのですね……」
いや、うん。ゲームだとHP消費してたからね? 疲労で済ませて良い話じゃないと思うよ?
すっごい怪我を重ねてるみたいなものだよ?
「あ、あの、榊さん。その、私……あるのは分かっているのですが、使えない魔法やスキルが沢山あって……」
ああ……多分、最大魔力量……分かりやすく言うとMPが足りてないんだ。
レベル上げ以外でMPを上げる方法はあるにはある。
一つは錬金術で出来るある能力成長アイテムを使う事。
もう一つは錬金術で制作した物で、バフ効果で最大MPアップのものを身に着ける事。
そして最後に……
「ティナさん」
「は、はい」
「滅茶苦茶辛くなるけど、確実にM……最大魔力量が上がる道と。滅茶苦茶しんどいけど、最大魔力量が上がる道、どっちがいい?」
「どちらかしかないのですか!?」
「うん」
「すごくまじめなお顔で頷かれますね!?」
「諦めろティナ。玲央はいつも本気で言ってる」
「嘘ですよね烈火さん……。その、辛いのとしんどいのとは、どれくらいの差があるのでしょうか……?」
「そうだね……前者は体力が尽きてもポーションで無理やり回復させられて、また走るのを繰り返すみたいな?」
「ぐふぅっ……も、もう一つは……?」
「魔力をずっと使い続けて、もう倒れそうってなった時にマジックポーションで回復させて、また魔力を使い続ける、みたいな?」
「具体的ですけどやる事変わっておりませんね!?」
そうかな? そうかもしれない。
百面相するティナさんが面白い。
「おー、ティナの問題が魔力量の少なさだからな。それが解消されたらめっちゃ助かるし……頼むぜ玲央」
「ん、了解。それじゃ、烈火とゼウスさんも協力頼んで良い?」
「そりゃ勿論!」
「俺で力になれるのでしたら!」
「あの、玲央さん。私は良いのですか?」
「うん。紅葉さんにはさせられないかな。なんていうか、荒業だからね」
「あら、わざ……?」
きょとんとする紅葉さんが可愛い。
見とれていたらリーシャさんに睨まれた気がするので切り替えよう。
「それじゃ、ちょっと楽しくする為に小道具出すね。よっと」
『魔法のカバン』に入れておいた武器防具を取り出していく。
「これは……鉄の剣に、鉄の盾、ですね玲央さん……?」
確認するように言ってくる紅葉さんに、頷いて返す。
「うん、そうだよ。二人にはこれを使って殴り合いをしてもらいます」
「「……え?」」
烈火とゼウスさんに、何言ってんだこいつって目で見られる。
落ち着いて全部聞いてほしい。
「ここに台を置いてっと。この上に鉄の剣と鉄の盾を置いて、準備完了。烈火とゼウスさんには、これから『斬って防いでジャンケンポン』をしてもらいます」
「「斬って防いでジャンケンポン?」」
あ、二人とも知らなそう。
本来は『たたいてかぶってジャンケンポン』っていうお遊びである。
ジャンケンで勝ったらポンっとたたき、負けたらサッとヘルメットをかぶる!
っていう結構有名な遊びだったんだけどな。
「簡単に言うと、ジャンケンで勝ったら攻撃、負けたら防御。それを繰り返すんだ」
「「成程……」」
「サラッと凄い事言っていますけれど……?」
「まぁ玲央君だからね……」
何故か女子二名が引き気味である。
「あ、あの、もしかして……私は、防げなかった方を治療させる、という?」
「正解。それと、多分防いでもどちらも怪我するから、ジャンケンする度に回復してもらうよ?」
「え、えぇ!?」
「そりゃどういうこった玲央?」
「えっとね、まず烈火の力を鉄の盾で受けきれるわけないんだよね。必ずゼウスさんは怪我するよ。で、ゼウスさんは攻撃に『暗黒剣閃』のスキルを使ってもらいます。これ、使うだけで怪我する技だから」
「「……」」
「で、それを毎回ティナさんに回復してもらいます」
「私気絶しちゃいますよ!?」
「大丈夫。ティナさんの今のM……最大魔力量は多分、『ヒーリング』二回でもう使えなくなるくらい、だよね?」
「!!」
「その状態になったらすぐにマジックポーションを振りかけるから安心して! 絶対気絶なんてさせないから!」
鉄の剣と鉄の盾は錬金術の各種素材になるので、日替わりの売店で売ってる時は買い占めているし、マジックポーションはなんぼあっても良いですからね。
ゲームではx99までしか無理だったけど、現実に所持上限などないのである。
まぁ、言ってしまうとポイントが上限だろうか、世知辛い。
「頼も恐ろしいですぅー!!」
「さぁ、時間も押してるし早速やっていこう! 烈火とゼウスさんの訓練にもなるし、一石二鳥、いや三鳥だね!」
「「「……」」」
「が、頑張ってくださいね皆さん……」
紅葉さんの心底ホッとしたような表情を初めて見た気がする。
それから……
「「ジャンケン……ポン!」」
「っしゃおらぁぁっ!!」
「た、盾! うぐわぁぁぁっ!!」
「ひ、『ヒーリング』っ!」
血で血を洗う(洗わない)激闘が繰り返された。
何度も気絶しそうになるティナさんだったが……。
「うそ……使え、ます……! 他の魔法が、使えます……!」
どうやら無事、最大魔力量が上昇したようである。
「おめでとうティナさん。魔法はね、使えば使うほど練度が上がるし、一度空っぽ近くにしてから最大まで回復させると、増える可能性があるんだ。確実じゃないから繰り返してみたんだけど、上手くいったね」
そう、ゲームでも確定ではないけれど、MP切れの状態から一気に全快近くまで回復させると、上限が上がる事があった。
まぁこれ、最大MPが高い人には無理なので、低いキャラクターを増やせるって事でしかないけれど。
なんせマジックポーションの効果がそこまで高くないから、MPの高い人を一気に全快させられないのである。
ティナさんはゲーム序盤はレベルが低いこともあって、最大MPが低く、ほとんどの魔法が使えない欠点があった。
そんなティナさんを序盤のうちにこの方法で最大MPを上げておくと、後半の最大MPが潤沢になってくる頃のように無双するのである。
「榊様! ありがとうございます……! ぐすっ……本当に、ありがとうございます……!」
ティナさんに泣くほど感謝されてしまった。
なんと様づけである。
多分、ずっと悔しく思ってきたんだろう。
魔法やスキルはあるのに、使えない。
それは本当に辛かっただろうから。
「さぁ烈火さん! ゼウスさん! はりきって怪我してくださいね! 私がすぐに治療致しますから!」
「マジかよ、ティナの性格が変わっちまったぞゼウス……!」
「うぅ、しかし『暗黒剣閃』の熟練度が凄い勢いで上がってまして、俺も続けたい……!」
「おわぁ! こっちも目がすわってやがる!?」
「が、頑張ってくださいね烈火君」
「めっちゃ他人事だな!」
苦笑しながらそう言う紅葉さんに、烈火も言い返す。
ああ、こういうので良いんだよこういうので。
ちなみに烈火も耐久力というか、ずっと闇属性の技を受けている為、闇属性に対する対抗力が上がっているはずである。
これは本来魔族と戦い、攻撃を受けて傷だらけにならなければ得られないので、非常に有難い。
きたる魔族達との戦いで、有利に働く事だろう。
主人公グループを一気に強化である。
紅葉さんが唯一今回何も強化に貢献できていないけれど……紅葉さんって欠点無いんだよなぁ。
剣の腕もたち、魔法も強力、そりゃ一番ってわけじゃないんだけど……いや魔力量に関しては作中魔王を除けば一番だったな。
そんな人に俺が何を教えられると言うのか。
合成魔法くらいかなぁと考えながら、皆を見ておくのだった。
お読み頂きありがとうございますー。