22話.烈火vs美樹也
午前が終わり、午後。
学食を終えて、競技場に集まる。
「皆は初だよな? この三人が俺のチームメイトだぜ」
「皆さん初めまして。クラス聖女の、ティナ・オートレス・ヘブンズホールと申します。どうぞお気軽にティナとお呼びくださいね」
「初めまして。クラス暗黒騎士のゼウス・グラディウスです」
「初めまして。クラス姫巫女、西園寺 紅葉です」
烈火の紹介から、チームが判明した。
聖女であるティナさんは知ってたが……暗黒騎士か。
彼はサブキャラクターではない。
だけど、暗黒騎士は滅茶苦茶強い。
魔族にしか扱えない闇属性魔法を、唯一例外として扱える職種だ。
そして、聖女であるティナさんとの相性がとんでもなく良いのだ。
暗黒騎士は自身の体力を消耗し、威力の高い攻撃を繰り出す事が出来る。
その消耗を、聖女のスキルで補えるのだ。
体力消費があるからこその強さの技を、体力消費を気にせず使えるのだから強いに決まっている。
そして、姫巫女と聖女も相性が良く、合体魔法が多種多様に存在する。
中でも『ヒーリングストーム』は敵に回したらガチでヤヴァイ。
発動中、ずっと傷が回復するチート合成魔法である。
しかもこれ、発動中動けなくなるのは聖女だけであり、姫巫女の紅葉さんは行動できるという。
攻略がキツイ所では必ずお世話になる必須級の魔法だった。
聖女一人で扱えるスキル『聖女の祝福』も広範囲リジェネレーション(HPの継続回復)だけど、これの上位版である。
「こちらも紹介しよう」
「氷河が言うから来たがよ、こんなナヨナヨした奴らにお前が負けるかぁ?」
「見くびるな、お前の悪い癖だ竜」
「そうかよ。俺は金剛 竜だ。クラス拳闘士だぜ」
「弱い犬ほどよく嚙みつくネ」
「なんだと旋風!?」
「自覚あったネ? アタシは影縫 旋風って言うネ。クラスアサシン、暗殺者とも言うネ。こっちのデカいのが失礼な事を言ってゴメンネ」
「はいはい、ちょっとは仲良くしなさいよアンタらは。私は百目鬼 美鈴よ。クラスは結界師ね」
拳闘士は言葉通り、肉体を武器に戦う職業だ。
オーラを主軸に、拳を鋼のように固くして殴る。
極めた拳なら剣すら砕く。
ただ、あの人を俺は知らないので、モブだと思うし……あんまり強くなさそうな気がする。
反対にこちらの影縫さん。この人もサブキャラクターではないしモブだと思うけれど……身にまとうオーラの量が、ちょっと尋常じゃない。
金剛さんの三倍は軽く見積もってもありそうだ。
あれでナイフを扱うなら、その切れ味たるや……。
「今回勝負すんのは、俺と美樹也だ。聞いてるとは思うが、勝った方がそこに居る玲央から戦いの指南を教えてもらえるぜ」
烈火がそう言うと、皆の視線が俺に向く。
「貴方が、烈火さんがいつも言っている榊さんなんですね! 一度、お会いしたいと思っておりました!」
「貴公が、あの烈火殿が絶賛している榊殿なのですね……! お会いできて光栄です……!」
「おお! おめぇがあの氷河が手放しで褒めてる野郎か! 噂は聞いてんぜ! 会ってみてぇと思ってたんだよ!」
「貴方が榊ネ。お会いしたかったネ! うんうん、どこぞの筋肉馬鹿と違って、思慮深そうネ!」
「誰が筋肉馬鹿だぁ!?」
おおう、皆が一斉に詰め寄ってきた。
近い近い。
「はい、そこまで」
「「「「!!」」」」
リーシャさんの目にも止まらない剣の一閃が、俺と皆の間に振るわれる。
「私は玲央君の護衛を任されているの。不用意に近づきすぎない事。良いわね?」
「「「「コクコク」」」」
皆無言で、凄まじい速度で頭を上下に振った。
流石の威圧感である。
「ははっ。さて、そんじゃ舞台に上がろうぜ美樹也」
「フ……ああ」
競技場の舞台へと上がる二人。
烈火と美樹也。
ゲームでも幾度となく立ちふさがる相手、それが美樹也だ。
時には共闘し、共に強くなっていく。
ポケモンのライバルのように、幾度となく戦いを仕掛けてくるのだ。
「フ……お前もあれから、腕を上げたようだな烈火」
「分かるか? あの時の勝ちは、俺の実力じゃねぇからな」
「「……」」
見合う二人に、リーシャさんが中央に近づく。
「審判は私がしてあげるわ。良いわね?」
「ああ、頼むぜ!」
「任せる」
「ええ。それじゃ……はじめ!」
「「おおっ!!」」
リーシャさんが手を振り下ろすと同時に、烈火と美樹也の剣が重なる。
「へっ……軽いぜ、美樹也ぁっ!!」
「チィッ……相変わらずの馬鹿力がっ! 『残影陣』」
「分身か!」
烈火に剣を押され、後方に飛んだ美樹也は『残影陣』を使い分身した。
美樹也得意の技の一つ。
けど、それはあくまで分身。本体ではない。
烈火に見破れるか……!
「そこだぁっ!」
「ぐぅっ……! なん、だと!?」
「へへっ……玲央の目線が、お前を追ってたからな!」
「「なっ!?」」
俺と美樹也の声が重なる。
俺の、目線!?
「使えるモンは何でも使う、戦闘の基本だよな美樹也」
「フ……ああ、その通りだ。小手先の技は通じなさそうだな。ならばっ! 『コキュートス・ウォール』」
あの時の競技場での戦いをなぞるかのように、美樹也は同じ魔法を使った。
今回、俺の指示はない。
目線でもこれはどうにもならない。
「へっ……俺が、何の対策もしてねぇと思ったかよ! 炎の嵐よ、全てを飲み込め! 『エクスプロージョン』!」
「!?」
美樹也の作った氷の壁を、炎の嵐が溶かしていく!
「チィッ……!」
「見えたっ! そこだ美樹也ぁっ!」
跳躍して炎の嵐から脱出した美樹也の元へ、烈火が追いすがる!
「刻めぇぇぇっ! 『アイス・ソード』!」
「貫けぇぇぇっ! 『フレイムペネトレイト』!」
美樹也の氷をエンチャントした魔法剣。
それを迎え撃つようにして放った、烈火の魔法。
ぶつかり合うその力は、美樹也の『アイス・ソード』を貫いた。
「がはっ……! チィィッ……」
「取ったぞ、美樹也!」
「そうは、行くかっ……! 裏奥義『天魔氷結』」
「何っ……!? ぐぁぁぁぁぁっ!!」
美樹也の放った奥義が、烈火の全身を凍らせる。
やばい、あれは死ぬ……!
そう思ったのだが……
「おおおおおっ!!」
「なん、だと……!?」」
烈火が、全身から火を放出し、氷を溶かしていく。
「名付けて、『天魔爆炎』ってな。あちちち……死ぬかと思ったぜ」
「フ……ククッ……この俺の裏奥義を以てしても、倒せなかったか。……お前の、勝ちだ烈火」
「そこまで! 勝者、轟 烈火!」
「ぐっ……」
「美樹也っ!」
魔力を使いすぎた美樹也が倒れるのを、烈火が支える。
「へっ……やっぱつええよお前は、美樹也。実のところ、俺は一度死んでるんだぜ……」
あ……。それで、気付いた。
烈火には非常に強力なパッシブスキルがあり、死ぬようなダメージを受けても一度耐えられるのだ。
身代わりの木偶人形要らずと思うなかれ、ちゃんと効果は重複する。
主人公は二度死ぬ、いや死なない。
まぁ実際に学園の中では死ぬことはないようになっている。
魔族に対する戦士育成学校で、死者を出していたら本末転倒だからである。
スキル等で本当の死を迎えない場合は発動しないが、そうでない場合、学園に張り巡らされている魔法陣が助けるようになっているのだ。
「嘘だろ、あの氷河が負けるのかよ……」
「A組筆頭、轟 烈火……覚えたネ」
二人の戦いを食い入るように見ていたのは俺だけじゃなかった。
皆言葉を発するのを忘れて、見入っていた。
それくらい凄い戦いだった。
競技場のチームで戦った時よりも、はるかに腕を上げていた。
皆成長している。この世界にレベルアップという言葉があるのかは分からないけれど……強くなっている。
お読み頂きありがとうございますー。
2025/10/9 追記
ガイア・グラディウス→ゼウス・グラディウスに名称変更致しました。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承くださいー。