7話.モブとしての行動
下駄箱で靴を履き替え、同じクラスなのでリーシャさんと一緒にE組へと歩く。
剣聖としての強さもそうだけど、リーシャさんはその美しさも際立っている。
廊下を歩くだけでも男女関係なく視線が行く。
流石にリーシャさんは慣れているんだろう、気にした様子はない。
問題は俺だ。モブの中のモブを自負している俺が、リーシャさんと並んで歩いているのだ。
まずリーシャさんに目が行き、その後に隣の俺を見て、『あれ誰?』って声が聞こえるのだ。
それは仕方ない、俺だって同じ状況を見たらきっとそう言う。むしろ言う側が良かった……!
いやリーシャさんと友達になると決めたのは俺自身じゃないか。
これくらい甘んじて受けよう。
「ごめんね」
「!!」
俺にしか聞こえない小さな声で、リーシャさんが謝った。
何の事かなんて、分かりきっていた。
情けない、情けないぞ榊 玲央! 俺は友達にそんな感情を抱かせるようなモブなのかっ!
俺は背を伸ばし、気持ち胸を張るように歩き方を意識する。
「こっちこそ、ごめん。俺が不甲斐ないばかりに、リーシャさんに気を遣わせて。せめて、堂々と歩くよ!」
そう伝えると、
「ふふ、なにそれ」
そう言って笑ってくれた。
推しが可愛くて心臓が壊れそうです。
クラスに主人公グループが居なくて助かった。キャパオーバーしてしまうところだった。
そんな事を考えたからだろうか。
クラスについて、リーシャさんは席に向かう為奥に行き、俺は机にカバンを置いた直後、
「「「「玲央ー(さん)!!」」」」
主人公グループがEクラスに来た。なんで?
「お、おはよう皆。今日は能力測定の日だから、自分のクラスに居た方が良いよ……?」
と、やんわりと戻るように伝えたのだけど。
「大丈夫だって! どうせ説明が最初にあんだろ? それより玲央と話したい事が山ほどあんだよ!」
「そうそう! 烈火の言う通り!」
「待て烈火、百目鬼。今日は俺が先だ」
「あら氷河君、抜け駆けは許しませんよ。私も玲央さんに聞きたい事があるんですから」
何故か四人の言い合いが始まってしまった。なぜぇ?
推しが俺の為に争っているのを見るのって、嬉しいより困る、正直すっごい困る。
でもここで、俺の為に争わないで! なんて言おうものなら、クラスが一気に静かになる気がする。
それは避けたい。というかそれを言って良いのは女の子だけだと俺は思う。
間違ってもモブが言うようなセリフではない。
そんな事を考えていると、救世主が現れた。
「お前らまたか。今日は能力測定の日だから、早めにホームルームを始めると伝えただろ」
「「「「あ」」」」
「ったく。榊、こいつらの面倒をしっかり見とけよ」
「お、俺がですか!?」
「そりゃそうだろ。誰がどう見てもお前がそいつらの中心だろうが」
「!?」
体に雷が走るって、こういう感じなのだろうか。
え? モブの俺が?
周りからは中心に見えてるの?
うそでしょ?
恐れ多すぎて心臓がうっかり呼吸を止めてしまいます。
いや心臓は呼吸しないけども。
驚きすぎて思考が馬鹿になってるぞ俺。
「とにかく! お前達は自分のクラスに戻れ。こっちは来た奴から順番にカードを配っていくからな」
「仕方ねぇか。それじゃ玲央、また後でな!」
「次は能力測定の場でだな」
「女子も一緒にやるんだよね? また後でね玲央!」
「確か一緒だとは聞いていますよ。それでは玲央さん、また後程お会いしましょう」
そう言って、すぐに皆戻って行った。
俺は高鳴る心臓の鼓動をなんとか抑えようと必死だったけど。
藤堂先生から、自身の能力値を記録するカードを受け取り、説明を受ける。
ここはゲームと全く一緒だが、一つ知らない要素が増えている。
いや意味としては知っているのだけど、ゲームの表記では見た事のない項目、体力だ。持久力とも言うのだろうか。
まぁステータスの意味合い的にはHPとかに当たるんだろうな。
この学校はとてつもなく広い。
校舎自体はそこまで大きくはないのだが、軍事学校なだけあって、訓練施設が数多く並んでいる。
入学式を行った体育館も、実際に使う事はほぼ無かったはず。
レジャー施設やアミューズメント施設を全て配置しても余るほどの広さがあり、中には人工ダンジョンまで複数ある。
レベル上げは基本的に人工ダンジョンで行う事が多いが、鍛錬でステータスを上げるのは学校の施設を利用するのだ。
今日行う能力測定は、基本的に一つの場所で行う。
今年入学の生徒全員が入っても全然問題ない広さがある。
つまり、俺の推し達が全員! ここに! 居るのだっ!
ここからがモブの本領発揮だよね!!
「おおぉっとぉ! 流石は東中の麒麟児! その圧倒的なパワーは他の追随を許さないっ! 流石は轟 烈火ァッ!」
「あいつが東中の……!」
「やっぱすげぇ力だな……」
「お、おい玲央。照れるからやめろって」
なんて顔を少し赤くして言ってくる烈火に、首をかしげる。
なんでだろう? ゲームでも他のモブがこうして言っていたし、その時も別段気にしていなかったんだけど。
「事実を言ったまでだよ?」
「いやお前……ダチにそんな風に言われたら、そりゃ照れるだろ……」
「!!」
な、成程。それは盲点だった。確かに、知りもしないモブに言われるのと、友達に言われるのでは全然違うかもしれない。
それでも、俺はヨイショをヤメナイけどねっ!
「もはや魔力の高さより、その美しさが目を奪う! なんと奇麗な魔力の奔流! 流石は西中の姫とまで呼ばれた西園寺 紅葉!」
「あれが噂の……!」
「奇麗よね……」
「あ、あの。玲央さん、恥ずかしいのですけど……」
烈火と同じく、西園寺さんにまでそう言われてしまった。
でもヤメナイ。
俺は推し活を止める事はできない、許してほしいっ……!
「なんというスピード! なんという魔力の洗練さ! 見るも美しいがそれらは残像だっ! 北中の氷王、氷河 美樹也ここにありかっ!」
「早すぎて目で追えねぇとかあんのかよ……」
「あいつが北中の氷王……」
「フ……そう褒めるな玲央。俺の実力を知るのは、お前のように実力者だけで構わん」
美樹也はまんざらでもなさそうだけど、ちょっと聞き逃せない単語が聞こえたような?
俺のような実力者ってなんだろう?
俺なんて素人に毛の生えた程度の実力しかありませんけど。
この学校に受かったのも、何かの間違いじゃないかと思ってるくらい。
むしろモブだからこそ、通ったと思ってるのだけど。
後ろ髪を引かれながらも、美鈴さんの所へと移動する。
「見えるだろうか、彼女の全身から発する分厚い魔力の塊が! あれはバフ魔法の根源! 身体能力を底上げしてくれる強力な支援魔法だが、本来一人当たりへの支援は米粒程度の大きさだぞ! あの大きさは一体何人にバフを掛けられるのかっ! 流石は百目鬼 美鈴! あの東中の麒麟児、轟 烈火の幼馴染だぞっ!」
「すげぇ、バフ魔法って範囲魔法じゃないから、一人一人に掛けないと駄目だし、コントロールも難しいって聞くよね」
「いやそもそも、魔力の塊のバフ魔法の根源ってなんだ?」
「魔力の塊に種類があるの?」
あれ? なんだか少し周りの感想が違う感じになったような?
「凄いわね玲央。私の魔法の特性、魔力から分かっちゃうんだ。流石ね」
あれ? 何故か美鈴さんに感心されちゃったぞ?
どういう事なの?
魔力って、使う種類で色が違うし、感じも違うよね?
実際、ゲーム内でもこういう言葉を使ってたはず。
一言一句違わないとは言えないけど……。
「おい榊、お前は何を走り回っとんだ」
「おぅふっ……藤堂先生、俺猫じゃないんですけど……」
「やかましい。お前の測定が全然進んでないと苦情が来とるんだよ。このまま連れてくからな榊」
「はい……」
藤堂先生に首根っこを掴まれて足が宙に浮いている俺を見て、リーシャさんが笑っているのが見えた。
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