21話.取り合い
下駄箱の辺りから、ザワザワとした雰囲気を感じ取る。
こう続けば、学びもする。
このオーラと魔力は、彰先輩に陽葵先輩だな。
今回はダブルですか……回避する方法も無いので、リーシャさんと顔を見合わせた後、廊下を歩く。
違いは、ちゃんと俺のE組のドアの前に居た為、他のクラスの邪魔には(さらに奥にあるF組を除いて)なっていない点だろうか。
「お、来た来た! 玲央! 嬢ちゃん!」
「れおちー! リーにゃん! おっはろー!」
「「……」」
この騒ぎを全く意に介していないのは、流石と言うかなんというか。
慣れてるのかもしれないけども。
「ねぇ玲央君、私を巻き込まないで欲しいのだけど?」
「これ俺のせいじゃないよね!?」
とりあえず、教室もそのドアの先なので、先輩達の元へと歩いていく。
「おはようさん二人とも! 昨日もありがとな!」
「おはおは! どしたん? 元気ないぞぉ! あげぽよー!」
ぐぅ、まるで太陽のような方々が二人揃うと眩しすぎて日陰の者であるモブを自称する俺は溶けてしまいそうだ。
「お、おはようございます彰先輩、陽葵先輩」
「おはようございます」
「それで、えっと、今日はどうしてまた?」
流石に今日こそは思い当たる節が無い。
無いよね?
「ああ、えっとな。昨日玲央達と別れた後なんだが、陽葵と話しててよ」
「「!!」」
おお! 陽葵先輩が彰先輩と話せた!? リーシャさんと一緒にこれにはビックリである。
「二人とも失礼だし! あーしだって話す事くらいできるし!」
「「……」」
いや貴女、どの口がそう言うのか。
「はは。そんでな、玲央に嬢ちゃんは一年で連絡が取りにくいだろ? だから、ライムを交換したらどうかって陽葵が教えてくれてよ。目から鱗だったぜ」
「「!!」」
陽葵先輩、頑張ったんですね……!
「ええい、その目を止めるしれおちー! リーにゃん! べ、別にあーしがパイセンとライム交換したかったからとか、そんな事ないし!」
ぶっちゃけてますけども。でも多分、俺達と連絡先を交換したかったのも本当だろうと思う。
「分かりました。交換しましょう彰先輩」
「そうですね。交換しましょう本郷先輩」
「おう!」
「ちょま!? あーし、あーしは!? あーしともするよね!? ね!?」
「あはは。勿論ですよ陽葵先輩」
「ちょっとした冗談です結月先輩」
「うぅ、パイセン、二人が虐めるし!」
「ははは!」
というわけで、無事に二人ともライムを交換できた。
ゲームであった、ダンジョンに行く時に召集するシステムの代わりが、ライムだったりするのだろうか?
この二人は先輩だけど、呼んだら駆けつけてくれそうな気がするのは何故だろう。
「そんじゃま、俺達の要件は終わったからよ、戻るとするぜ。これからはライムを使って連絡取れるし、こういう迷惑はかけねぇからよ」
あ、自覚あったんですね。
そういえば、彰先輩は友人に転移魔法を使って貰う等、一応配慮してくれてたなそういえば。
「えー。あーしらが来るとか目立って良いじゃん、ねーれおちー」
いや、そこで同意を求めないでください。
俺的には目立ちたくて目立ってるわけじゃないんです。
と、陽葵先輩に言えるはず……
「いえ、俺は目立ちたくないんですけど」
「えー、れおちーが目立たないとか無理ポじゃない?」
「「ぶふっ」」
ちゃんと言ったのにこの仕打ち。
リーシャさんに彰先輩まで吹き出したのはなんででしょう?
なんか周りの様子をうかがっているクラスメイト達が、うんうんと頷いているのは何故なんでしょう?
そうして二人が去って行ったと同時に、入れ替わるように皆がやってきた。
「おはようさん玲央! リーシャさん! さっきの三年と二年の先輩だよな? もしかして今日も昼用事あんのか?」
「おはよう烈火。ううん、今日はフリーだね」
「フ……その言葉を待っていたぞ玲央。今日は俺達に付き合え、玲央」
「あ、ずりぃぞ美樹也! 玲央! 俺達に付き合ってくれよ!?」
おう、おう。烈火と美樹也に左右から引っ張られ、あっちにいったりこっちにいったり体が揺さぶられるぅ。
「ちょっと、落ち着きなさい轟君、氷河君。玲央君がアヒルのような声を上げてるでしょ。顔は喜んでるけど」
声に出てました俺!? って別に喜んでませんけど!?
「っと、わりぃ玲央!」
「おっと、すまない玲央」
「おわぁっ!?」
「きゃっ」
急に二人に手を離されたので、態勢が崩れて倒れてしまった。
あれ、なにかやわらかい感触が手に……
「あ、あの。玲央さん、不可抗力なのは分かっていますので……」
「うわぁっ!? 紅葉さんっ! ご、ごごごごごめんっ!!」
俺はまたギャルゲーの主人公みたいなベタな展開を!!
「「「「紅葉さん!?」」」」
「あ……」
つい、言ってしまった。気を付けていたのに。
「ふふ、構いませんよ玲央さん。皆さんにも、いずれ話すつもりではありましたから」
俺に押し倒された紅葉さんは、優雅に立ち上がり、スカートを払う。
そして、皆の方を見て一言。
「これからは、皆さんも紅葉と呼んでくださいね」
「「「「!!」」」」
皆一様に驚きはしたけれど。
「おう、分かったぜ紅葉さん!」
「フ……理由は詮索しないでおこう。関係が変わるわけでなし、これからもよろしく頼むぞ紅葉」
「やっと紅葉って呼べるのね! どうせ玲央がなんかしたんでしょ? 良かったわね紅葉!」
「経緯を聞きたい所だけれど……まぁ後で、ね? 紅葉」
「皆さん……ふふ、ありがとうございます」
皆の感動のシーン、俺はこの目に焼き付けたよ……!
「お前らは席に着かず廊下で何やってんだ」
「「「「「あ」」」」」
いつの間にか時間が来ていたようで、藤堂先生が間近に来ていた。
慌てて各クラスに戻る皆をよそに、リーシャさんがまた何かやったのね、という目で見てくるのをどうしたら良いんでしょう。
これは俺の問題じゃなく紅葉さんの問題なので、俺から何か言えないんですよう。
そしてホームルームが終わり、いつもの授業前の休憩時間。
「俺だ」
「いーや俺だ!」
烈火と美樹也が俺の午後を取り合っている。
俺の意思? そんなのどちらでも、むしろどちらもでもバッチ恋ならぬバッチ来いなので、何も言えませんが何か。
「玲央君はどちらとやりたいとか、ないの?」
「どちらともやりたいですけど」
「……聞いた私が馬鹿だったわね」
「何故に」
教える側の俺はともかく、烈火と紅葉さんはA組、美樹也と美鈴さんはB組であり、一緒にやることは出来ないのである。
「こうなっては仕方あるまい。烈火、俺と勝負しろ。勝った方が玲央の指導を受ける」
「オーケー、乗ったぜ美樹也!」
なっ!? 烈火と美樹也の一対一のバトル!?
こんなの見たいに決まってる!
「なら、飯の後にチームで集まってやるか!」
「ほう、チーム戦をか?」
「いや、顔合わせみたいなもんさ。やるのは俺と美樹也の一騎打ちだ!」
「フ……良いだろう。覚悟しておくんだな、烈火。俺は競技場での俺とはもう違うぞ」
「へへっ! それでこそだぜ!」
二人の視線が熱く交わう。
主人公である烈火、そしてライバルである美樹也。
ひょんなことから、二人の一騎打ちが見れるなんて……! こんなに嬉しい事があるだろうか!?
「玲央君、嬉しそうね」
「分かる? 滅茶苦茶楽しみだよ!」
「勝負で取り合ってんの、玲央の指導受けたいからなんだけどね……玲央にそんな感覚ないのがアレよね……」
「同感です美鈴さん」
なんで俺は周りの美女達に揃ってため息をつかれてるんだろう……?
「なんにせよ、私も玲央の指導受けたいし……烈火には悪いけど、氷河の応援させてもらうから!」
「私も同じく、玲央さんの指導受けたいですから。氷河君には悪いですが、烈火君の応援をさせて頂きますね」
あれ、こっちでも火花が。
「というか榊君は僕達のチームなんだから、もっと僕達とやるべきじゃない?」
「俺も、そう、思う」
「そうよね」
三人のチームメイトが揃ってそう言う。
ごもっともです。
感想で三周目突入なんて嬉しい言葉を頂けたのもあり、空けるつもりが張りきって書きました。
皆さん、読んで頂いて本当にありがとうございます。
次話は本当に空くと思いますが、よろしくお願い致します。