19話.藤堂先生による指導②
本日二話目です。
ここは俺がローガン師匠と一緒に訓練をした場所だ。
周りには誰もおらず、限られた人しか来る事が出来ない。
ただっぴろい平原で、見渡す限り草しか生えていない。
以前、『メテオレイン』を使ってクレーターが出来てしまったんだよね。
人工ダンジョンの一つなので、すぐに綺麗に戻っていたけれど。
「よし、そんじゃはじめっかね」
「あの。話が読めないのですが、藤堂先生」
「あン? 要は本気の俺と戦うって話だ」
「成程、本気の先生と……え?」
「ってわけでだ、アメノオハバリを一時俺に貸してくれるかリーシャ」
「は、はい。どうぞ」
「へっ……やっぱこの剣が一番しっくりくるぜ。手入れもきちんとしているようだなリーシャ」
「それは当然ですが……その、藤堂先生は利き手が……」
「ああ。このままじゃ10秒も戦えねぇだろう」
「なら……」
「そこで、玲央の出番だ。おめぇなら、呪いの解除は無理でも……効果を抑える事なら出来るんじゃねぇか?」
「!!」
可能、だと思う。
呪いは呪術であり、分類で言えば魔法だからだ。
解く事は無理でも……その効果を一時的に薄める事なら。
「やってみます藤堂先生。……! くっ……!?」
凄まじくどす黒い魔力が視える。怨念とも言えるこの魔力、でもしっかりと視える。
「どうだ、やれそうか玲央」
「玲央君……!」
「……はい。多分、いけます」
「「!!」」
「でも、持って3分程、かと思います。呪いの魔力量が高すぎて、俺の魔力量では抑えきれないと思います」
「ククッ……やっぱおめぇはとんでもねぇ奴だな玲央。これはあのアリスですら匙を投げた呪いだってのによ。十分だ、やってくれ玲央」
「はいっ! 行きます藤堂先生っ!」
黒い靄を、俺の"魔眼"で中和していく。……!!
「コォォォォッ……!」
「藤堂先生のオーラが、尋常じゃなく上がっていく……!」
す、凄い。これは武者震い、だろうか。
違う、今までのどの人とも、威圧感が違う。
これが、藤堂誠也。人類最強と呼ばれた、大将軍……!
「へへっ……この感じ、懐かしいな。っと、感傷に浸っている暇はねぇな。さぁ構えろリーシャ」
「!! はいっ!」」
凄まじいオーラを放つ藤堂誠也。それに相対するのは、剣聖リーシャ・エーデルハイト。
原作でもこの二人が戦うシーンは無かった。
リーシャさんルートでは、藤堂誠也はNPCとして仲間に加わってくれるが、リーシャさんの事をすでに認めていて、戦わなかったのだ。
そんな原作を知る者にとってのドリームマッチが、今行われようとしている!
「行くぜぇリーシャ! 剣聖技『金翅鳥王剣』」
「くっ……!」
剣を大上段にとった藤堂先生の圧倒的な気魄で、リーシャさんが怯む。
そこからの強烈な振り下ろしを、リーシャさんは右に転がるように避けた。
地面が『メテオレイン』が衝突したかのように凹み、クレーターが出来上がる。
あの、当たってたらリーシャさん死んでませんかこれ!?
「よく避けたリーシャ。俺の圧から動けるたぁ、やるじゃねぇか。大抵の奴なら動けず死ぬんだがよ」
「っ!!」
「さぁ次だ。手加減はしねえぞ! 剣聖技『天照金色閃』!」
「うぐッ……!」
は、速すぎる……!
俺が剣閃を追えなかった……!
彰先輩の居合術、そして陽葵先輩の抜刀術の最速技である『三日月』も、見えないなんて事はなかった。
だというのに、今の技……天照金色閃は見えなかった。
「……藤堂先生、問答無用で手首と首を同時に斬り取りにきましたね。弟子を殺すつもりですか」
「おう、俺は今敵と相対してるつもりだ。この3分、凌いで見せろリーシャ」
「!!」
「さぁ次の技だ! 剣聖技『天流乱星』!」
「上段、中段、下段の同時攻撃っ……!?」
「考えるより体を動かせ! 死ぬぞリーシャ!」
「くっ……!」
凄まじい速さの剣閃を、なんとか避けているリーシャさんだが……完全には避けきれず、傷を負い血を流している。
藤堂先生がリーシャさんを殺すとは考えられない。
だけど……今までの攻撃全てが、致死性のある攻撃だった。
当たれば死んでいた攻撃ばかりだった。
リーシャさんなら避けると、ある種の信頼が無ければ出来ない攻撃だ。
「どうした! 避けるだけで精一杯かリーシャ!」
「このっ! 『天魔連斬』!」
「ハッ! 俺と力で張り合えると思ったか!」
ギィィィンッ!
リーシャさんの剣を、藤堂先生が斬り払う。
グサッ!
おうふっ!? 目の前にリーシャさんの剣が突き刺さった。
一歩近かったら、脳天直撃してましたけど!?
「さぁ、しまいかリーシャ!」
「まだまだっ! 『オーラブレイド』」
「そうだ、剣を失った程度で諦めるんじゃねぇぞ!」
「はぁぁぁっ!!」
「おおおおっ!!」
『オーラ』、気とも呼ばれる力。
それを剣の形に出現させ、藤堂先生と斬り結ぶリーシャさん。
「どうしたリーシャ! まだ1分あるぞ! ここまでかっ!?」
「くぅっ……私は、私はッ……! 剣速も、力も、魔力も、何一つ一番にはなれないっ……」
「おう、そんなもんは誰でもそうだろうがよっ! だがな、お前は本気の俺と、ここまで持ちこたえられてんぞ!」
「!?」
「俺とここまで戦える奴がゴロゴロ居ると思ってんじゃねぇだろうな!? 言っておくがな、俺は敵だと認識した奴は瞬殺してきたんだぜ! 今お前は、俺の敵だと認識している!」
「!!」
「何かに特化、それも良いだろう! だがお前の力は、スピードは! 魔力は! 一番でなければ価値のないものだったかよ!?」
「っ……!」
そうだ。その通りだ。
何かの一番は他に居るかもしれない。
だけどそれが、一番強いかと言われればそういうわけじゃない。
経験から来る戦い方。
剣の扱い方、身のこなし、魔力操作。
全て似ているようで違う。
力が高いから、ダメージの多い攻撃が出来るだろうか?
速いから、攻撃を回避できるだろうか?
魔力が高いから、綿密な魔法を扱えるだろうか?
そうじゃない。
全て、それを扱う人の力量次第。
「私は……! 『エア・ブレイド』!」
「そよ風だぜリーシャ!」
リーシャさんが飛ばした斬撃を、藤堂先生はまるで蚊を払うかのように掻き消す。
だけど、それは牽制の一撃。
「風よ……! 『エアリアル・ブレイド』!」
「ぬぅっ……!?」
今度は藤堂先生を包み込むように、風の刃が襲い掛かる。
「しゃらくせぇっ!」
が、藤堂先生の気合で全て掻き消えた。
化け物かな?
「まだまだっ……! 風よ、舞え! 『トルネード・ストーム』!」
「ぬぅっ!?」
そうだ。リーシャさんは魔法も繊細に操れる。
俺と違い、まるで針に糸を通すかのように繊細な魔力操作を可能としている。
そしてそれは、魔法剣としてエンチャントする事も可能で。
「いきます……! 剣聖技『暴風閃・ストームブリンガー』!」
「うおぉぉぉぉっ!?」
藤堂先生を包む暴風が、リーシャさんの剣と一体化する。
元々が形の定まっていない『オーラブレイド』と『トルネード・ストーム』の合成技。
流石の藤堂先生も避けきれずに直撃した。
「……へっ。やるじゃねぇかリーシャ。俺の猛攻から3分、耐えきれたな。こんな事が出来る奴ぁ、ヴァルハラに他には居ねぇぞ」
「!! 藤堂、先生」
「良いか、お前は俺の自慢の弟子だ。お前は強い。この俺が唯一認めた、俺の後継者だ。ったく、後は任せらぁ玲央」
「はい……ありがとうございました、藤堂先生……!」
俺は、頭をしっかりと下げて、藤堂先生を見送る。
やっぱり、流石だ藤堂先生は。
実力としても強く、心も強い。
大英雄と呼ぶに相応しい人物だと改めて思う。
「……私は、これで良いのね」
「リーシャさん」
去り際にアメノオハバリを渡されたリーシャさんは、剣に映る自分を見つめながらそう言う。
「ありがとう玲央君。弱気になっていた私に、発破をかけてくれたんでしょう?」
「それは……」
「良いの、言わなくて。分かってるから。……情けない姿を見せたわね。私は私の力を信じて、これからも腕を上げるわ。先ほど藤堂先生が見せてくれた技も、身につけないと。悪いけれど、付き合ってもらっても良いかしら?」
「うん! 喜んで!」
「ふふ、ありがとう」
リーシャさんの吹っ切れた笑顔を見て、心の荷が下りた気分だ。
俺の行動のせいで、リーシャさんに陰りが出来るなんて自分が許せなくなるところだった。
それから残りの時間は全て、リーシャさんの特訓に充てるのだった。
お読み頂きありがとうございます。
明日にしようかとも思いましたが、①の後はすぐに読みたいですよね。
というわけで②をすぐに投稿させて頂きました。
次話はまた少し空くと思いますが、よろしくお願い致しますー。