18話.藤堂先生による指導①
彰先輩から居合術と抜刀術の違いを教えられ、彰先輩に憧れて同じ術を扱っていると思っていた陽葵先輩は最初、魂が抜けかけているように見えた。
だけどその後、
「陽葵の抜刀の速度、そして威力はすでに俺以上だ。俺と同じ道を歩む必要はねぇ。俺とは違う道で、互いに最強を目指そうぜ。俺はこれでも、お前を認めてんだぜ」
「!! パイセンッ……あーし、このまま抜刀術を極めるし! ……そしたら、また戦ってくれますか?」
「おう! 俺も現状の強さで満足せずに、常に上を向かねぇとな。陽葵に嬢ちゃんといった、強ぇ後輩がすぐ後ろにいっからな」
「あーし、パイセンに絶対勝ちますしっ! そして、勝って……ううん、この先はまだ言わないし」
「はは! 俺もそう簡単に負けてやるつもりはねぇからな!」
彰先輩に言われ、目に力を取り戻した陽葵先輩。
うん、これで原作よりも良い流れになったんじゃないだろうか。
彰先輩は原作と違い、更に力を磨こうとするだろう。
陽葵先輩は原作通り、彰先輩を追いかけるだろうけど……その意味合いは変わったと思う。
憧れから、ライバルへ。
俺ができるフォローはここまでだ。
まぁ、対して何もやれていないと、見ている人が居たら言われそうだけど。
「……」
しかし、リーシャさんの陰りが少し心配だ。
俺はリーシャさんが最強である事を知っている。
だけど本人としては、そうではないんだ。
今回の彰先輩や陽葵先輩といった、各学年最強の人達とリーシャさんとの邂逅は、原作には無かった点。
これが俺は少し心配になった。
俺はリーシャさんが精神面で少し脆い事を知っている。
それが今回の事で、悪い面を与えてしまったかもしれない。
天才であるがゆえに、壁に直面せず、ただひたすらに強さの壁を登って、もしくは壊して進んでいくリーシャさん。
藤堂先生は年齢の差もあり、また名実共に最強の人であるので、誰しもが持つ劣等感を感じなかったはずだ。
そこで、いきなり間近の年齢で、自分より上の人と出会ってしまった。
今リーシャさんは、俺なんかには想像できないような葛藤に苛まれているかもしれない。
リーシャさんを知る者として……いや、友達として。
放ってはおけない。
ダンジョンを楽々と攻略した俺達は、
「それじゃ彰先輩、陽葵先輩、今日はありがとうございました! 滅茶苦茶参考になりましたし、楽しかったです」
「おう、俺の方こそ付き合ってくれてありがとうな! 楽しかったぜ!」
「あーしも楽しかったし! また一緒にやろうねれおちー! リーにゃん! そ、それに、パイセンも……」
「はい!」
「ええ」
「はは、おう!」
別れの挨拶もそこそこに、俺はリーシャさんの手を取り、引っ張る。
「それじゃ、行くよリーシャさん」
「え? ちょっ、玲央君!? どこに行くの!?」
行先は藤堂先生の居る場所だ。
"魔眼"を開放し、居場所を確認する。
すでに見慣れた魔力だ、手に取るように場所は分かる。
「玲央君ー!?」
藤堂先生なら、なんとかしてくれるはずだ。
「しかし、凄い一年共だな陽葵。俺達が一年の頃、あそこまで探知に長けた奴に万能タイプの戦士は居なかったよな」
「あーしの時も粒ぞろいでしたけど、あそこまでの人は居なかったし。れおちーはこのダンジョン攻略で分かったけど、まともじゃないし。リーにゃんは二年でも勝てる奴は多分いないし」
「ああ。嬢ちゃんの強さは現時点で恐らくヴァルハラのトップクラスなのは間違いねぇ。そして玲央だ。あいつ、このダンジョンは初めてのはずなのに、一切驚きも戸惑いもなかった。普通の、現時点の一年がこのダンジョンに入ったら、モンスターの圧に押されてもおかしくねぇのに、だ」
「あーしも同意見です。それに、れおちーの指揮は"魔眼"じゃ説明がつかない部分が多すぎるし。あれはまるで……あーしやパイセンの事を全て知ってるようだったし」
「はは。ったく、謎の多い新入生だぜ。けど……良い奴だ。それだけは間違いねぇ」
「それにも同意だし! 今日初めて会ったのに、もうちっさい頃からのともぴみたいだし!」
「お前初めて会ってあの距離感だったのかよ!?」
「あ、そういえばそうだし。れおちーって、親しみやすいですよねパイセン!」
「いやそれは否定しねぇが……思えば、俺にもそうだったな。不思議な奴だぜ、玲央。……そんじゃ、ついでだしダンジョン何個か攻略していくか陽葵」
「!! やります! やったし! デートだし!」
「千鶴も来週から復学だからよ、また仲良くしてやってくれな」
「チルチル来週から来るんだし!? やったー!」
「ははっ」
そんな会話があった事など知らず、俺達は藤堂先生の元へとやってきた。
「おいおい。仲良く手を繋いで、俺に見せつけに来たのか? せめて結婚はヴァルハラを卒業してからにし……」
「「違いますよ!?」」
慌てて手を放し、言葉がハモる。
うう、自分で言ってて自分で精神的ダメージを負っていたら世話はない。
「なんだ、玲央なら俺は良いぞリーシャ」
「だから違いますってば!!」
「……いや、まぁ、俺もからかいすぎた。だからそんなに落ち込むな玲央、悪かった」
「なんで玲央君が落ち込んでるの!?」
「あ、はは。その、気にしないで貰えるとありがたいです……」
追い打ちにしかならないので、マジで。
「ゴホン。んで、どうした玲央。お前がリーシャを連れてきたって事は、何か訳アリだろ?」
流石は藤堂先生。
俺の意図を察してくれている。
これでからかわずにすぐに本題に入ってくれたら、俺の心は平穏だったのですけど。
「ええと……リーシャさんは少し離れてて貰えるかな?」
「え。私の事、なのよね?」
「うん」
「なのに本人には話せないの?」
「知らない方が上手くいくと思うから」
「……そう。気にはなるけど……玲央君が言うなら、そうなんでしょうね。分かったわ」
そう言って、少し離れた位置に歩いていくリーシャさん。
俺の事を信じてくれるのがとても嬉しい。
必ず、今の不安を払拭させてあげるから。
「んで、何があった? リーシャが落ち込んでる事と関係があんだろ?」
「!!」
流石は藤堂先生である。
何気ない態度から、違いを感じ取ったのだろう。
俺よりも長い時間、リーシャさんと一緒に居る人だもんな。
俺は今日あった出来事を、全て藤堂先生に話した。
「成程な……。あいつは常に俺の背を追いかけてきたからな。強さの自信が揺らいでんのか。ったく、しゃーねぇな。おい玲央、付き合ってくれんだろうな?」
「俺に出来る事なら、なんでも」
「フ……良い男だなお前はよ。……俺はさっき言った事、嘘じゃねぇからな? さて、リーシャ連れて広いとこへ行くとするか。ついてこい玲央」
「!! はいっ!」
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