17話.先輩達の圧倒的な実力
「遅いしっ! 抜刀術『三日月』!」
「グギャァァッ!!」
速い! とてつもなく速い!
俺はリーシャさんの剣速も滅茶苦茶速いと思っていた。
だけど、陽葵先輩の抜刀術は、それを更に超えている!
『三日月』は抜刀術の中でも最速の抜刀術ではあるが、魔力を速度にしか回していないので動きが直線的かつ威力は低いのがゲームでは欠点だったのだが……まさかの一撃である。
「彰先輩、あそこです」
「おっ、了解。居合術『羅刹』」
「ガァ……? ガハッ……!!」
そして更に凄まじいのが彰先輩だ。
彰先輩は基本的に動かない。
動かないと言うと語弊があるのだが、基本的な戦術が『構え』による待ち戦法なのである。
ゲームであった型は数種類あり、主幹となる『不動明王の構え』という、速度が下がる代わりに高確率のカウンターを付与、これだけ他の構えと併用できるインチキレベルのスキル。
一つが『軍荼利明王の構え』。これは防御が下がる代わりに二回行動を付与する、そこは攻撃力下げろよとファンからも突っ込まれたスキルである。
一つが『大威徳明王の構え』。これは自発的に攻撃できなくなる代わりにリジェネ(自動回復)を付与する、『不動明王の構え』でカウンターは問題なく発動するというチートスキルである。
そして最後に、『金剛夜叉明王の構え』。これは単純に味方を庇う構えである。当然の権利のように庇うカウンターが起きるので敵を選べば彰先輩酷使無双ができたのだが……。
だと言うのに、ですよ。
離れた位置に居た敵を、場所を教えただけで『羅刹』を使って倒してしまう。
居合術『羅刹』は攻撃的な居合術であり、刀を抜き放つ時に闘気を解放して斬りつける居合術だ。刀を納めてた時に溜まった気を使ってると本人が言っている為か、ゲームでの消費はまさかのゼロである。
「流石パイセンだしっ!」
「おう、陽葵も良い抜刀術だったぞ」
「!? え、えへへ……」
「にしても、だ。嬢ちゃん、玲央はもしかして、いつも『こう』なのか……?」
「あ、それあーしも気になったし」
「ええ、そうなんです。凄いですよね……まるで丸裸にされている気分を味わえます」
「ああ、それを今体感したぜ」
「分かるし! なんでれおちーはあーしの技が分かるんだし!?」
『それはもう、俺が皆さんを好きなので』って言えたらどれだけ楽だろう。
いや言えても納得する人居ないよね。
さて、どう言ったものか……。
「それが、玲央君は世にも珍しい"魔眼"の所持者なんです。それである程度の事は予知夢のように視えてしまうらしいです」
「"魔眼"か! 噂には聞いた事あんな。すげぇんだな、"魔眼"ってのは……」
「れおちーは戦闘力はないみたいだけど、凄いし。学年対抗戦、もしれおちーのチームが上がってきたら、面白いことになりそうだし! ま、あーしの目的はパイセンだけど」
「おう、俺も陽葵のチームが上がってくるのが楽しみだぜ!」
「あう!?」
「それと、玲央のチームもな。嬢ちゃんはそれだけの実力がありゃ、すでに一年でトップだろ?」
「……いえ。そうとも言えません」
「「「!!」」」
リーシャさんの言葉に、俺を含めて皆驚く。
「例えば、ですが。他クラスに居る轟 烈火。彼は力だけなら私より上ですし、氷河 美樹也は速度だけなら私より上です」
「嬢ちゃんがそこまで言う奴が他にいんのか」
「へー、今年の一年は豊作だし!」
「仮に、ですが。彼らと玲央君がチームを組み、私と敵対した場合……勝てるかどうか分からない、というのが私の考えです」
驚いた。リーシャさんは、決して自身の実力を低く見積もったり、謙遜したりしない。
実力にはハッキリと言う人だ。
そのリーシャさんが、俺をそこまで評価してくれている、なんて。
「成程な。こりゃ、学年対抗戦がますます楽しみじゃねぇか! 玲央に嬢ちゃん、それに一年の他の奴らも強い奴がいるってのは、嬉しいぜ!」
「うん! うかうかしてらんないし! あーしもまだまだ腕を磨かないとだし!」
そこで気合を入れるあたりが、この二人らしいと思ってしまう。
ちなみにこのダンジョン、一年生が本来入るのは物語後半のBランクダンジョン、なのだが……この二人が強すぎる。
「グォォォォッ!!」
「ほい」
「ギャァァァァッ!!」
「やっぱモンスターって馬鹿だし。パイセンに襲い掛かるとか、身の程を知るべきだし」
「オオオオオッ!」
あれは、キングオーガ! 凄まじい巨体で力の強いモンスターだ!
体力もあるし、ゲームでは中々倒れないしぶとい敵だった、んだけど。
「五月蠅いしっ! 抜刀術『半月・上弦』」
「ゴォァァァァッ……!!」
陽葵先輩は空中に一瞬で飛び上がり、体を捻って斜めに斬り下ろした。ゲームの説明文では、捻りと重力が加わるので威力は高いが外した時の隙もでかいとあった。
とはいえ、一撃とは……。
「ははっ。お前は相変わらず攻撃極振りの抜刀術だな」
「? あの、パイセンと同じです、よね?」
「え?」
「え?」
おぉっと。ここで居合術と抜刀術の齟齬が出てきたぞっと。
攻守兼備、抜刀する事をメインとした居合術と、ただそのひと振りで敵を倒す抜刀術は、似てるようで性質が違う。
それをこんこんと説明されている陽葵先輩は、魂が口から抜けかかっているように見える。
「……(強い。これが、二年生筆頭に三年生筆頭の力。私は、少し己惚れていたかもしれないわね)」
「リーシャさん」
「……玲央、君?」
「大丈夫。リーシャさんは最強だよ」
「!! ふふ、玲央君に言われたら、そんな気がしてくるから不思議ね」
いや、事実なんですけどね。
NPCの藤堂先生を除けば、主人公達を抜いて最強のサブキャラクターなんですよリーシャさんは。
今は、レベル差で少し負けているかもしれない。
けど、そんなものはすぐに追い越せるはずだ。
俺の最推しの力はまだまだこんなものじゃない。
藤堂先生の剣術を学び終えてからのリーシャさんは、凄まじい力を得るのだから。
それを楽しみに思いながら、二人の話し合いが終わるのを待つのだった。
10月に入りましたね。
今月も適度に投稿していきますので、お付き合い頂けたら嬉しいです。
お読み頂きありがとうございました。




