11話.回想
今日は祝日、という事でサプライズ投稿です!
少し空く予定だったのに()
ゆったりした休日のお供えに、楽しんで頂けたら嬉しいです。
「65……66……」
毎日の鍛錬をしながら、本郷先輩に『エリクサー』を渡し、売店でリーシャさんにお詫びとしてアイスクリームをプレゼントした時の事を思い出す。
『んー! 美味しい……!』
あのリーシャさんが、年相応の乙女のようにアイスクリームを嬉しそうに食べているのを見て、無駄な保護欲を搔き立ててしまった俺は、今でこそ思うが余計な事を言ってしまった。
だって、アイスクリームにあんなに高い値段の物があるなんて、流石に知らなかったんだよ。
というかゲームでは無かったんだよ。"白夜"と呼ばれる、白トリュフを使った最高級アイスクリーム。
お値段なんと、88万ポイント。
1ポイント1円のレートなので、そのまま88万円である。
そんな物がヴァルハラの売店に売ってるとは思わないじゃないですか。
精々2、300円くらいだと思ってたわけで。
『リーシャさん、それ一個はお詫び。もう一個、この売店で一番高いアイスクリームをプレゼントさせてよ。ほら、いつも守ってくれて、お世話になってるから。俺からのお礼と思って』
『そ、そう? 私も任務だし、そんな事を思わなくて良いのだけど……気持ちを受け取らないのも違うわよね。なら、頂くとするわ』
『了解! おばちゃん、この店で一番高いのを頼むよ!』
『い、良いんだね?』
『?』
今思えば、おばちゃんが驚いていたのも納得である。
俺のカッコつけから、凄まじい散財をしてしまった。
勿論買わないなんて選択肢は無かったからね。
だって、お世話になっているお礼と言ったんだ。
男に二言は無いよ。
まぁ流石に、値段見て飛び上がるくらい驚いたのは許してほしい。
『なにこれ、今まで一度もこんなに美味しいアイスクリーム食べたことないわ……!』
リーシャさんのとびきりの笑顔を見れたので、値段の価値はあったよ。
ポイントはまた稼げばいいからね、うん。
アイスクリーム買ってほぼゼロになった生徒なんて俺くらいじゃないだろうか……。
『アンタ、男だねぇ。気に入ったよ!』
『あいたっあいたっ!』
背中をバンバンと叩かれたけど、売店のおばちゃんに気に入られてしまった。
当然だけど、リーシャさんに値段は話していない。
絶対に断られるからね。
『美味しかったわ。ありがとう玲央君』
その言葉と笑顔だけで、俺は満足である。
そもそもお礼なんだけどね。
「100っと。よし、次はスクワット開始。1……2……」
ちなみに、腕立て伏せの時に毎回猫ではなく人型で背中に乗ってくるマカロンは、今日は咲に捕まっている為居ない。
さ、寂しくなんかないんだからね。
咲はマカロンの事をとても気に入っていて、というか大好きなんだろうな。
片時も離れようとしないのである。
それでもマカロンは隙を見て脱出しては、俺の部屋に来るのだけど。
マカロンも咲の事を嫌がっているわけではないらしいけど、流石にずっとは暑苦しいのだそうだ。
猫は気まぐれと拓の買ってきた本に書いてあった事を拓から諭され、マカロンから離れた時は咲も追わないように気を付けているみたいだけど。
それでも我慢が出来なくなってマカロンを探し出すあたり、どれだけ好きなのかっていう。
そういえば、少し前にマカロンと話をしたのだけど……
『にゃー(玲央、お前の家族はやる事が似ているな)』
『え、そう?』
『にゃん(ああ。お前の父親も母親も、そして咲と拓も、他の者に隠れて私に餌を食べさせようとしてくる)』
『あ、あー……』
マカロンに好かれようと必死だな皆……。
『にゃ(後は、両親がお前の事で申し訳なく思っている)』
『え?』
『にゃ(お前達が就寝した後、お前の母親から聞いた話だ。と言っても、私が餌を食べている間に、一人語っていただけだが)』
『さ、美味しい高級缶詰だよー。食べて良いよマカロンちゃん』
『にゃん。ハグハグ……』
『可愛いなぁ……。……聞いてくれる、マカロンちゃん』
『にゃ?』
『あ、食べながらで良いよ。賢いなぁ。……うちの子達はね、本当に良い子達なの。私達は夫婦共働きでね……玲央達にはずっと寂しい思いをさせてきたと思ってるの。文句も言わず、家事も進んでやってくれて……本当に理想の子達で……それが、本当に申し訳なくて……』
『……』
『普通の子なら、癇癪を起したり口喧嘩したり、あると思うの。ただでさえ、私達は仕事で放ったらかしだったから。でもあの子は、玲央は妹と弟の面倒を見ながら、全てを飲み込んで、いつも笑ってくれていたの。あの子の笑顔に、私達がどれだけ救われたか……それと同時に、とても罪悪感でいっぱいになったわ。仕事を辞めようとも思った』
『ハグ……ハグ……』
『咲と拓にも、きっと寂しい思いをさせた。だけど、玲央が……二人を支えてくれたの。ようやく私達の仕事も落ち着いた頃には、もう皆成長していて……本当に、駄目な大人なの、私達』
『にゃん……』
『わがまま一つ言わないあの子が、初めてお願いしてくれたの。マカロンちゃんを飼っても良いかって。とっても嬉しかった。今まであの子が、私達にお願いをしたことなんて、一度も無かったから。だから……マカロンちゃんにも感謝してるんだよ。子供達の情緒教育に、小さい頃から動物を飼うのは良いって聞いてたけど……私達が子供達の面倒すら見れていないのに、どの口が言うのって感じでね、言えなかった』
『……ハグ……』
『ありがとう、うちに来てくれて。長生きしてね。うんと甘えて良いんだからね。ちゃんと最後まで、面倒を見るからね』
『にゃ(父親も似たような事を言っていた。そして咲と拓も、玲央が居たから寂しくなかったと言っていた)』
父さん、母さん、咲、拓……。
俺はこの世界の人間じゃないからと、いつも一歩引いた形で家族と接していた。
その違和感を、皆感じていたのかもしれない。
本当の息子ではないのだから、せめて良い子であろうとした。
それが、かえって両親を不安にさせてしまっていたのか……。
『にゃん(お前は良い奴だ玲央。家族も、お前を大切にしているのが伝わってくる。だから、変わる必要はない。そのままで良いと、私は思うぞ)』
『……うん、ありがとうマカロン』
子供なのに大人びていたせいで、歪な事になっていたのかもしれない。
中身がすでに大人だったので、それも仕方ないとは思うのだけど……もっと子供らしくするべきだったのかもしれない。
まぁ後の祭りではあるけれど。
「……100。よし、これで一通り終わり。今朝はランニング出来なかったし、ひとっ走りしてくるかな」
部屋を出てリビングの前を通ると、咲がマカロンをお腹の上に乗せてゴロゴロしているのを見かける。
「あ、おにい。走りに行くの?」
「ああ。今朝走れてないから、夜に走っておかないと。鍛錬は一日サボると、取り返すのに三日掛かるんだぞ」
この世界でもそうなのかは分からないけど。
魔力とか、空気と一緒にマナという力もあるので。
「えー、肉体派って大変だなぁ。私魔法使いで良かったー」
「いや咲、魔法使いだって近距離戦闘は出来た方が良いからな? 遠くでバンバン魔法撃ってれば良いってのは三流以下だぞ?」
「うぐっ……。わ、分かってるもん。ね〜マーちゃん」
「にゃん(何も言うまい)」
「はは。それじゃ行ってくる。鍵は閉めて行くから、知らない人が来ても開けるんじゃないぞ」
「はーい。おにいは心配性だなぁ」
まぁ、最強の守護者というか、魔王のマカロンがいるので、何も心配する必要はないかもしれないけれど。
「ふっ……ふっ……」
流石に夜は早朝よりも人が多い。
残業をしたり、仕事帰りに一杯って人も多いのかもしれない。
走りながら、本郷先輩の事を思う。
千鶴さんの病気は、治す事が出来ただろうか。
ゲームでは烈火と一緒に、千鶴さんに飲ませるシーンがある。
もはや一人では起き上がる事も出来ないくらいに衰弱しており、本郷先輩が飲ませようとしても飲めない為……焦った烈火が勢いに任せ、口移しで飲ませるのだ。
後で千鶴先輩から真っ赤な顔で、『責任取ってくださいね……!』なんて言われて焦る烈火と笑う本郷先輩のイラストは、とても良かったなぁ。
その出会いや親交を、俺の勝手な判断で潰してしまった。
後悔は勿論ある。だけど……救えるのに救わないでいるのは、俺にはどうしても無理だった。
これでまた原作とは違う形になってしまったけれど……悪い形にはならないと思いたい。
本郷先輩は千鶴先輩を救う為、『エリクサー』を手に入れる為に人工ダンジョンを何度も何度も周回する。
隊長を任せられているのに、ソロでずっと行動していた為……部隊から外れる道を選ぶ。
仲間達は協力しようとするのだが、皆を巻き込むわけにはいかない、お前達は魔族との戦いの戦力なんだ、と言って拒絶するのだ。
その後、烈火から受け取った『エリクサー』によって回復した彼女はヴァルハラに復学。
二年生の彼女は、三年生でありながらソロでいる本郷先輩と共に、烈火達に協力する事になるのがゲームのシナリオである。
まだヴァルハラでの生活は始まったばかり。
このタイミングで千鶴先輩が治ったのなら、本郷先輩は部隊を抜けずに済むだろう。
千鶴先輩も少しの間の休学に過ぎず、すぐに腕を上げられるはず。
なんてったってこの二人、同レベルだとリーシャさんには流石に劣るのだが、仲間に入った時点のレベルの高さにより、リーシャさんより強いのだ。
特に本郷先輩はカンスト近いレベルで仲間に入る為、成長の余地はあまりない。
代わりに、即戦力として戦えるんだよね。
侍という上級職を極めていて、『居合』の強さがもうね。
消費MP驚異の0。通常攻撃代わりに『居合』が使えて、その攻撃倍率がトップクラスというふざけたスキルである。
ただし、魔法は一切使えないのだけど。
千鶴先輩はオールラウンダーであり、吸血というスキルを持っている。
これは文字通り血を吸うわけではなく、通常攻撃やスキルで攻撃を与えたダメージの数%を、自身の生命力に取り込むスキルである。
更に心眼というパッシブスキルを二人とも所持している。
こちらは命中率アップ、会心率アップ、回避率アップのぶっ壊れと言えるスキルである。
一応誰でも習得可能のスキルではあるのだけど、習得難易度が高い。
それをこの二人は最初から所持しているのである。
流石に後半に仲間になるキャラなだけあって、特段に強い。
一周目で仲間に出来た場合、レベルの高さもあって主人公達よりも強いんだよね。
これが現実の今だと、どの程度なのか予測がつかないけれど。
そんな事を考えながら走っていたからか、もう家に帰ってきてしまった。
「ただいまー」
さて、お風呂に入って、今日は早めに寝るとしようかな。
お読み頂きありがとうございます。
物語は進みませんでしたが、回想回でした。
次話は本当に少し空きます。これからもどうぞよろしくお願い致しますー。




