9話.戦闘力≠実力
E組のクラス内順位争奪戦も午前で大体の勝負が終わり、午後はいつも通り各自の訓練や人工ダンジョン攻略等に充てる時間となった。
そして現在は学食にて、いつものメンツで集まって食事中だ。
「へへっ、俺達もクラス順位は一位だぜ! な、西園寺さん!」
「はい。チームメイト達も強いですからね」
烈火と紅葉さんはA組。やはり当然というか、一位だよね。
「フ……俺達も一位だ」
「まっ、この私が一緒の班なんだから当たり前よね!」
そして美樹也に美鈴さんはB組。こちらも当然のように一位のようだ。
クラス内順位争奪戦の後は、各クラスの順位一位によるクラス対抗戦の総当たり戦があり、更にその後にクラス総合対抗戦がある。
クラス一位とか関係なく、各クラス単位で勝負する集団戦である。
どのクラスが一番強いのか決める戦いでもあり、まぁ単純に教師陣の対決みたいな所がある。
俺の私のクラスが一番だって言い合う為のというか。
勿論クラスを任されている教師が参戦なんてしないけれどね。
有名な先生もいるけれど、藤堂先生がぶっちぎりすぎるので。
「あ、俺達……」
「E組は聞かなくても分かるぜ玲央」
「そうだな」
「そうですね」
「そうよね」
せめて全部言わせてほしい。
「玲央がリーダーで、リーシャさんにアイン、剛毅が一緒なんだろ? 負けるとこが想像できねぇよ」
「ああ。俺達もクラス対抗戦を見据えているが、最大の難関は玲央のチームだと思っている」
「同意見です」
「それなのよねぇ。ただでさえめっちゃくちゃ強い三人を、玲央が指揮するのよ? どうしろってのよ」
皆言いたい放題である。
こちらから言わせて貰えば、皆もすっごい強いので対処必須なんですけど。
「あら、もう敗北宣言かしら皆。学年対抗戦に出場する三チームのうち一つは、私達で確定しそうね?」
「「「「!!」」」」
リーシャさんが煽る煽る。
そんな事言われたら……
「へっ! 確かに玲央率いるリーシャさん達が強いのは認めるが、負けを認めるわけじゃねぇぜ!」
「フ……烈火と同意見なのはアレだが。俺達もこのままでは無い」
「現時点では劣るかもしれませんが、まだ時間はあります。私達は更なる強さを身に着けてみせます」
「当然よ! 首を洗ってまってなさいよね!」
だよね、闘志を漲らせるんだよ。
この負けん気の強さ、勝負へのこだわり。
それでこそだ!
「つーわけで玲央、俺達の特訓に付き合ってくれねぇか!?」
「はい、玲央さんが居てくれるととても助かります」
「フ、俺達にも付き合え玲央」
「そうそう! 玲央が見てくれたら助かるんだから!」
「ちょっと皆、敵から力を借りようとしないでくれる!?」
「良いじゃねぇかリーシャさん! 玲央も俺達の力が知れて、俺達も強くなれて一石二鳥だろ!?」
「それは、そう、なのかしら……?」
あれ、リーシャさんが烈火に言い含まれるとか珍しいにも程があるんだけど。
「(リーシャさん、榊君の利益が絡むと途端に弱くなるからなぁ……)」
「(この者達は全員強い。切磋琢磨できる者達が近くに居るのは、恵まれたな紅葉)」
とりあえず、今日の午後は皆まだクラス内順位争奪戦の続きがあるそうで、分かれる事に。
E組は午前で終わったので、烈火や美樹也のクラスを見に行こうかなと思って言ったらリーシャさんに止められた。
「玲央君、それをスパイというのよ」
「!?」
衝撃である。
そんなつもりは全くなかったのだけど、周りから見ればそうなるか。
烈火や美樹也のチームが戦うのを隠れて見ている俺を想像する。
……うん、十分に不審者だな。
しかも他クラスの人間。
敵情視察としか見られない。
リーシャさんに止められて良かった。
そうすると、必然的に俺のする事が今日はなくなってしまった。
ローガン師匠は今日も居ないしなぁ。
「アインと剛毅はどうするの?」
「僕は今日も剛毅と一緒に特訓する予定だよ」
「あ、あ。もう、少し、連携を、深め、たい」
成程……。二人は前線を支える要だからね。
俺のチームは俺が戦えないというか、戦ったらすぐに負けてしまうハンディキャップを背負っている。
その為、実質三対四の形になってしまう。
アインと剛毅、それにリーシャさんに掛かる負担がどうしても大きくなってしまうんだよね。
俺に皆と同じくらいの戦闘力があれば……
「榊、殿」
「剛毅……?」
「人には、役割が、ある」
「!!」
「俺は、盾。アイン殿に、リーシャ殿は、矛。そして、それを、上手く、使う、ブレイン。全てが、かみ合って、一人の、人間と、成す」
「一人の、人間」
「あ、あ。全てを、一人で、など、傲慢、だ」
「……そっか、そうだね。うん、ありがとう剛毅」
「いや、余計な、お世話、だった。榊殿は、強い。きっと、誰よりも、よく、分かって、いる、だろう」
「!!」
「行こう、アイン殿」
「あ、うん! それじゃ榊君、リーシャさん、またね!」
剛毅は凄いな。
俺の考えを見透かされている気がした。
「こればかりは水無瀬君が正しいわね」
「リーシャさん?」
「きっと玲央君は、自分の戦闘力の無さを、私達の負担になっていると考えたんでしょう?」
「!!」
「でもそれは違う。戦力はね、足し算じゃない。玲央君の力は、私達の力を数倍に引き上げてくれている。それは、私達と同等の人がもう一人いるより、強いのよ」
「!?」
「水無瀬君は合わさった力を一人の人間として例えてくれたから、私は違う角度でね。玲央君は、自分の戦闘力の低さを、自分の実力の全てだと勘違いしていると思うの」
「それは……」
そう、かもしれない。
俺は皆の強さを知っている。
魔法も、スキルも、そして人としての強さも。
対して俺はどうだろう。
知っているという点においては、俺は今は他の人よりも有利に働いている。
だけど、これからどんどん知らない事も出てくると思っている。
アインが死なずに共に生きられるようになり、紅葉さんが烈火とのエンディングを迎えずとも救われた。
そして魔王、マカロンが理性を保ち敵ではない。
これだけでも、俺の知っている未来とは大きく異なるんだ。
それによって起こる予想外の事件に対して、俺はどこまで上手く立ち回れるだろうか。
俺が皆の役に立てるのは今だけ。そう思ってしまうんだ。
皆が認めてくれている原作知識。それが通用しなくなった俺は、皆の役に立つ事が出来るのだろうか?
そんな風に考えてしまう。
「玲央君が何に悩んでいるのか、私には分からない。だけど、これだけは言える。どんな事があっても、私が玲央君を守るわ」
「リーシャさん……。うん、ありがとう」
そうだ。まだ見ぬ未来を思って不安になっても仕方ない。
その時の最善を尽くせるように……原作の知識だけでなく、この世界の知識も合わせてアップデートしていこう。
俺はもう、一人じゃないんだから。
「表情が明るくなったわね。玲央君はそうでないと。それで、今日はどうする? 私も今日は藤堂先生との鍛錬が無いから、暇なのだけど」
「うーん、このまま帰るのも味気ないし、他の組を見る事も出来ないし……。あ、そうだ!」
「何か思いついた?」
「うん。付き合ってくれる?」
「良いわよ。暇だからね」
そう言って笑ってくれるリーシャさんに俺も笑い、歩き始める。
あの人に、会う為に。
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