8話.第一回・クラス内順位争奪戦②
クラス内順位第三位『ロスファルトチーム』。
チームリーダーのロスファルトさんは、確か職業パラディン。
クレリックと剣士の複合職、いわゆる上級職である。
自前の回復魔法を駆使する事で、疑似タンクのような役割もこなせる。
そしてもう一人の前衛であるリーズさん。
彼女はアサシンでありながら、その卓越した剣の腕前で前衛を務めている。
三人目の彼女、ミリリアさんはビショップ。クレリックの上位職であり、回復だけでなく防護結界にも優れる。
四人目の彼女、アズールさんはアークプリースト。プリーストの上位職であり、こちらは回復とバフ支援に優れる職業である。
タンク兼アタッカーのロスファルトさんを強化しまくり、厄介な敵はアサシンのリーズさんが仕留める形なのだろう。
この編成だと、ダンジョン攻略では確かに後れを取るかもしれないが、地道なというか、時間を掛ける戦略ならこれほど強い編成もそうないだろう。
「おし、配置に着いたな! 開始だっ!」
「フッ……!」
「リーシャ、俺の後ろ」
「了解っ! 『エア・ブレイド』!」
「なっ……!?」
「「「嘘っ!?」」」
いや、アサシンの奇襲って備えるの常識だからね。
アサシンには瞬歩っていう、一気に間合いを詰めるスキルがある。
後衛の俺を一番に狙うのなんてセオリー過ぎるんだよね。
「剛毅、アイン。ロスファルトを潰せ」
「「了解っ!!」」
「くっ……!?」
奇襲に失敗したリーズさんを、リーシャさんが追いつめている間に、剛毅とアインに速攻でロスファルトさんを潰してもらう。
「ロス姉っ! 今回復を! 『ホーリー……』
「うん、させないよ。『マジックキャンセラー・ホーリーヒール』」
「う、嘘っ!?」
「なら支援をっ……! 『フィジカル……』」
「うん、視えてる。『マジックキャンセラー・エンハンス』」
「なっ! これも消すの!?」
「片付いたわよ玲央君」
「きゅぅ……」
「嘘でしょう、リーズ!?」
「剛毅とアインに合流してリーシャ」
「了解っ!」
「くっ……!?」
剛毅とアインの猛攻をなんとか凌いでいたロスファルトさんだったが、流石にリーシャさんまで加わった三対一ではどうしようもない。
「がはっ……! もうし、わけありませんわ……皆……」
「さて、残り二人ね」
「どうする? まだやる?」
「お勧めは、しない、ぞ」
「「こ、降参します……」」
「ったく、やっぱつえぇなお前らは。勝者『榊チーム』!」
「「「「「つ、強いっ……」」」」」
今回のこれは、最初にリーズさんの奇襲が失敗したからこそだと思うけどね。
「あー、榊。敗因を教えてやってくれねぇか。こいつらが立ち直れんのは困るんでな」
「え……」
見れば、四人とも見るからに落ち込んでいた。
これは確かにそのままにしておけないね。
「えっと、良いかな皆」
「「「「……?」」」」
「まず今回の敗因は、俺を狙うのが分かり切っていたから。皆俺ならすぐ倒せると思ったんでしょ?」
「「「「はい……」」」」
うん、素直。そういうの嫌いじゃないよ。
「だけどね、そんなのこっちも当たり前に警戒するよね。だからリーシャさんをどちらにも手を貸せる中衛に配置してるんだし」
「「「「!!」」」」
「で、奇襲で挟撃を狙っていたのを崩されたから、後はそのまま押されて終わっちゃったわけだけど……」
「「「「うう……」」」」
「これをね、最初からロスファルトさんが剛毅の相手を、リーズさんがアインの相手をして、その間にアズールさんがバフ支援をして、ミリリアさんが回復を掛け続けたらどうだろう? こちらは回復を使える人は居ないから、短期決戦するしかないんだよ?」
「「「「!!」」」」
「今回は戦略を間違えただけだよ。次は、もっと上手くやってみよう。君達は十分に強いから、ね?」
「榊様……!」
「……ありがとうございます榊君。甘く見てはいないつもりでしたが……驕りがありましたね」
「ホントです。ロス姉への回復、防がれるなんて思っていませんでしたよぅ……」
「バフもね。榊君が戦える力がないなんて、誰が言ったのよ……」
え? いや、戦える力がないのは正しいと思うけれど。
力Eの速Eですよ俺。
このクラスで最低値であると自負している。(魔導士の女の子ですら俺と同じEはあるのだ)
「あの、榊様。無理を承知でお頼みしますが、ワタクシ達と組みません事!? 榊様さえいらっしゃれば、ワタクシ達はもっと強くなれると思いますの!」
「それは名案ですお嬢様」
「ロス姉、冴えてます!」
「うん、異議なし」
お、おお。まさかの俺を勧誘。
そんな事があるとは思ってもいなかった。でも俺は……
「駄目に決まってるでしょう!?」
「それは絶対許さないよ!?」
「駄目、だ!」
「「「「えぇぇぇ!!」」」」
皆が凄い勢いで否定してくれた、嬉しい。
だけど、こういうのは本人が言わないと納得しないものだからね。
「皆ありがとう。俺が言うよ」
「「「……」」」
三人は頷いて下がってくれた。
「ロスファルトさん、お誘いは本当に嬉しく思うよ。だけど、俺はこのチームを抜けるつもりはないんだ。まぁ、そもそも『榊チーム』なんていう、リーダーを不相応にも任されちゃってるからね。その責任を放り出すつもりはないよ」
「玲央君……」
「榊君……!」
「榊、殿……!」
「はぁ……仕方ありませんわね。けれど、お誘いした心は本物ですわ。いつでも心変わりしたら仰ってくださいましね!」
「私達一同、待っておりますので」
「いやお前ら、そもそも榊を入れるなら誰か抜かないと駄目なんだが、分かってんのか?」
「「「「あ……」」」」
藤堂先生の至極全うな突っ込みにより、この話は無かった事になった。
まぁ、必要とされるのは嬉しい事だよね。
これからも時々指南して欲しいというお願いには了承しておいたけれど。
それから、俺達以外のチームも次々と戦いを開始し、終了後何故か俺の元に感想を聞きに来る形が出来てしまった。
「すまん榊、手間だろうが頼むわ」
と、藤堂先生に言われてしまえば是非もない。
皆の力が上がるのは良い事だし、全力で協力する事にしたよ。
クラス対抗戦だって控えている事だし。
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