4話.クラス内順位争奪戦
それから一週間、俺はローガン師匠からの訓練の指示が来た為班行動から一時離脱。
リーシャさんも藤堂先生から指導を受けるという事で、パーティメンバーの半分が離脱する事に。
アインと剛毅は、それなら各自鍛錬を続けるという事になった。
それからローガン師匠には、かなりキツメのお叱りを受けた。
"邪眼"研究所での俺の醜態を聞いたからである。
「強力な魔力で覆われたモノを直視するなど、サンを直に見るのに等しい行為じゃぞ玲央! そういう対象を視る場合の方法がいくつかある故、それを先に教えねばならんのぅ」
「はい、すみません……」
お叱りも俺の事を思っての事だし、ちゃんと受けとめなければならない。
ちなみに、この世界にも太陽と月がちゃんとある。
この世界は惑星の一つであり、地球とは呼ばれていないが、『アース』と呼ばれている。
太陽は『サン』、月は『ムーン』と呼ばれている。
……うん、深くは突っ込まない。
少し前に新聞で読んだけれど、『ムーン』に住む原住民との邂逅があったそうな。
前の世界では月に住んでる生物なんて発見されなかったはずなので、そこら辺も違いがあるみたいだ。
アリスさんがこの邂逅に関わっている可能性も高いと思う。
ちなみにサンを直視するのを軽減する方法として、例えで言うならサングラスをかけるみたいな方法だった。
要は"魔眼"を魔力で保護する感じらしい。
ただでさえ魔力消費の激しい"魔眼"だけど、そういった強固なモノを見る事で脳に負担が掛かるのを減少させる為に絶対に行うようにと念を押された。
「お主が倒れれば、心配する者がいる事……ゆめゆめ忘れてはならぬぞ玲央。勿論わしもその一人じゃ」
そう言われてしまっては、守らないわけにはいかないだろう。
この一週間は"魔眼"のコントロールの修練を続ける事となった。
そうしてまた週が巡り、月曜日のホームルーム。
「お前ら、先週も頑張ったみてぇだな。トップを独走してる榊チームは変わってねぇが、二位以下とのポイント差は大分縮んでいるぞ」
「「「「「!!」」」」」
おお、皆頑張ってるんだなぁ。
クリア報告とかたくさん聞いてるし、さもありなん。
「そんなお前らに朗報だ。明日は一日、クラス内順位争奪戦を行う。これは一週間に一度行うイベントだと思えば良い。ただ、総当たりじゃねぇぞ。挑めるのは自分より上三つまでの順位だ。自分達のチームより上を倒せば、ダンジョン攻略並みのポイントが入るから、気張れよ!」
「「「「「!?」」」」」
ダンジョン攻略並みのポイントか……ダンジョンの数は限られている為、これは大きい気がする。
攻略の速度ポイントや順位ポイントは加味されないとはいえ、順位の変動は大きいだろう。
「そうだ、やる気を出させる為にこのクラス限定の処置を行うぜ。榊チームを破ったチームには、特別に一か月間の学食費用免除、購買の三割引き権を贈呈してやる。気張れよ!」
「「「「「おおおおおっ!!」」」」」
ちょ、まっ!
それ俺達には何のメリットもないですよね!?
「ああ、ちなみに榊チームは防衛する度にポイントを追加でやろう。流石にそれくらいはねぇと不公平だからな」
防衛成功でポイントか……それならまぁ、一位を目指す上ではあり、なの、かな?
「いいえ、まだ不公平です藤堂先生」
「お、おう、リーシャ。そうか?」
そこでビシッと手を挙げてリーシャさんが言う。
「はい。私達に挑めるのは二位から四位という事になりますが、下位の順位は入れ替わり、必然的に一番挑まれるでしょう。なのにそれが防衛ポイントだけというのは納得がいきません」
「それはまぁ、確かにそうかもしんねぇが……」
「ですので、私達も購買の三割引き適応は頂きたいです」
「ふむ……それもそうだな。お前達だけ特権がねぇのも違うか。よし! ならお前達は十回防衛成功か、クラス内順位争奪戦期間内一位継続で同等の権利をやろう! それで良いかリーシャ」
「はい、それなら問題ありません藤堂先生。ありがとうございます」
そう言って、リーシャさんは席に座った。
相変わらず凄いな。あの藤堂先生にしっかりと意見を伝えて、報酬までもぎ取ったよ。
しかし十勝って、全チーム相手に倒せって事かな?
まぁ挑めるのは上位三チームだけだから、一度負けたらそう何度も挑みに来るとも思えないけれど。
「クラス内順位争奪戦は毎週火曜日に行う。アイテム類の使用は禁止だ。武器防具、装飾品はなんでも身に着けていて構わねぇからな。クラス内順位一位は、学年対抗戦のメンバーにそのまま抜擢される。気張れよ! そんじゃ、今日のホームルームはここまでだ!」
藤堂先生が壇上を去ってから、一気に騒がしくなる。
皆チームでまとまっているようだ。
「とんでもない事になったね榊君」
「面白、い」
「アイン、剛毅。そうだね、俺達も気を引き締めていかないとね。皆実力者達だから」
「ふふ。でも、私達にはクラスの皆を丸裸にしてしまう人が居るからね」
「「うんうん」」
「そんな変態が……!?」
「「ぶふっ……!」」
「言葉通りに受け取らないで頂戴玲央君、恥ずかしくなるから!」
「ごめんごめん。まぁうん、皆から相談受けたり、アドバイスしていたのが効いてるかな。皆の職種も大体は把握してるよ」
「「「「「っ!!」」」」」
クラスメイト達が皆ビクンとなった気がする。
対戦する事になったら、一切手を抜くつもりはない。
それが皆の成長に繋がると思うからだ。
「僕と剛毅の連携を強化して、リーシャさんからのフォローを出来るだけ抑えて、攻撃と防御に専念してもらえるようにしないとね」
「あ、あ。榊、殿が……狙われる、だろう、から、な。守、る」
「そうね。私は二人のうち漏らしと、魔法を牽制するわ。玲央君には指一本触れさせない」
皆の男前な台詞にトゥンクしてしまう。
皆で俺を攻略しようとしてない? 好感度マックスな自覚有るので、すぐに俺ルート入っちゃうよ?
「リーシャさん今日の午後の予定はどうなってる?」
「私は今日も藤堂先生から指導を受ける予定なの、ごめんなさい」
「いや、リーシャさんの腕前が上がるのは純粋にプラスだから、気にしないで」
「僕と剛毅は、二人で技の訓練をしようと思ってるんだ」
「あ、あ。試したい、事も、ある」
「そっか、分かったよ。なら今日は俺はどうしようかな……」
「あら、ローガン導師の指導は今日はお休みなの?」
「うん。ローガン師匠もヴァルハラにずっといる方じゃないから、仕方ないんだ」
「成程、それもそうね」
むしろ、忙しい身の上なのに、俺に時間を割いてくれているのだ。
多分、結構無理をして。
この間は弟子の人か国の役人か知らないけれど、早く戻ってきてください~! って泣きついてきていたので。
『ええい、わしと玲央の邪魔をするでないわい。まったく、仕方がないのう……玲央、わしは行かねばならぬが、そのまま鍛錬を続けておくのじゃぞ。時間が来たら帰って良いでな』
『はい! ローガン師匠!』
『『!?』』
師匠と呼んだらその人達は驚いた表情してたな。
そういえば、今日は烈火達もクラス内順位争奪戦の話があったからだろうけど、来なかったな。
「はぁ~い。授業始めるから、皆座ってねぇ。あら、今日はいつものメンバー来ていないのねぇ榊君」
「はい、どうやら振られちゃったみたいで」
「あはは! なら先生はどぉ~かしら榊君?」
「え!?」
伊吹先生はグラマラスな女性で、ボンッキュッボンのダイナマイトボディであり、主に男子生徒の人気が高い。
かと言って女子生徒に嫌われているというわけではなく、美容の相談にのってあげたり、親しまれている先生だ。
まぁ、俺は人となりとしては好感を持っているけど、それだけである。
「玲央君? ……伊吹先生、それ以上は許しません」
「「ヒィッ!?」」
ちなみに、叫び声は俺と伊吹先生である。
「さ、さぁー! 授業はじめるわよぉ!」
「「「「「……(苦笑)」」」」」
仕切り直せた伊吹先生に敬意を払います。
俺の自業自得とはいえ、リーシャさんの殺気がクラスの温度を明らかに下げたからね、こわい。
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