3話.ヴァルハラ学園長アリス・フローレンス
「おう、やっと来たかお前ら」
「こんにちは。入学式の挨拶以来でしょうか」
「「「「!!」」」」
グレンさん達との確執も収まり、藤堂先生の待つ『表彰部屋』に入ると、予想外の人に出迎えられた。
ヴァルハラの現学園長であり、元西の大陸の覇者、前統治者であり、王であった方。
ゲーム上では烈火とはほとんど接点がなく、地文でこういう事があった、と出るくらいの方だった。
ヴァルハラに居る事もほとんどない、レア中のレアキャラである。
「リーシャ、個人的に挨拶をする時間が取れなくてごめんなさい。元気でしたか?」
「アリス様、ご無沙汰しております。リーシャ・エーデルハイト、つつがなく過ごしております」
リーシャさんが、まるで国王陛下に謁見するような形で膝をつく。
「あらあら、堅苦しい真似は寂しいわ。リーシャ、私は貴女を自分の娘のように思っているのですよ?」
「アリス様……」
「ブハハハッ! 二百歳を超えたババァが何を言あばばばばばばばっ!?」
「お黙りなさい誠也」
「……ごふ……調子に乗りましたすんません……」
「よろしい」
……あの藤堂先生が、倒れる程の威力の魔法、だと!?
いや驚くところはそこじゃない。
「凄い。詠唱無しの魔法は威力が数段落ちるのが常なのに、今のは詠唱を破棄した効果じゃなく、短縮での破棄同等の速度、同等以上の効果を出しているのか……」
「!! ふふっ……榊 玲央さん。やはり貴方の智謀、見識は凄いですね。誠也やローガンの言うように、ただ者ではないと感じます」
「!? あ、すいません! つい凄いなと思って……」
「その凄さを分かるのも、実力者故ですよ。普通の者は、何が凄いかすら分かりませんから」
やばいなアリスさん。褒めたら褒め返してくる。強敵である。いや敵ではないんだけども。
「おいアリス、良いから話を進めろよ。お前は時間が押してるだろうが」
「おっと、そうですね。すみません皆さん、この後他国へ行かなければならなくて……。けれど、今回の"邪眼"研究所の件、そしてホムンクルスの件、直接お話ししないわけにはいかないと思いまして、こうして皆さんに時間を取ってもらって、ごめんなさいね」
「!!」
俺は、なんていう事を。
アリスさんは、世界中を飛び回る大変に忙しい方だ。
そんな方の貴重な時間を、俺の事なんかで待たせて使わせてしまったんだ。
本当に申し訳ない……。……そうだ。藤堂先生だって、いつもならあんな風に聞いてこなかったはずだ。
アリスさんが関わっていたから、聞いてきたんだ。
「ふふ、何があったかは聞きません。けれど、そんな申し訳なさそうな顔をしないでください。生徒達の自主性を重んじ、教師は成長を促す。私はその筆頭なのです。自分の事を甘くみるような輩には、一発食らわせてやれば良いのですよ!」
「!!」
「アリス様……」
「ブハッ! まぁアリスはこういう奴だ。それに、許可したのは俺だ。気にすんな玲央」
アリスさんは、事情を把握していたのか。
もはや流石を通り越して畏敬の念すら覚える。
「アイン・クトゥルフ」
「は、はいっ……」
「貴方は作られし人間ですが……命に変わりはありません。貴方は、人間に害を成すつもりはありますか?」
「とんでもありません。この命は、榊君や皆に救われました。だから……この命、人間の為に……とは言えませんけど、榊君達の為に使うのなら、惜しくありません」
「アイン……」
「……そう。嘘偽りのない、心からの言葉であると、このアリス・フローレンスが聞き届けました。ではこれが国籍と住民票になります。一つ、私から家をプレゼントしますから、学園に通う間はそこを利用してくださいね」
「!? い、良いんですか?」
「はい、勿論です。貴方はれっきとした、人間です。私達の仲間ですから」
「っ……。ありがとう、ございますっ……!」
アイン……。
これまで、人造人間として人の世に溶け込む為、どれだけの苦労をしてきたのだろう。
俺みたいな平凡な人生を送ってきた人間には、とても口を出せる事じゃないと思う。
だけど、だからこそ……これからの人生を、俺達と一緒に生きてくれたら嬉しく思う。
「そして、アインの中に居る、というのですか? ツヴァイとドライについてですが……研究資料を読んでみた所、その融合は不完全なものであるようです。ドライが目を覚ましていないのが、その証拠ですね」
「「「「!!」」」」
「完全な融合であれば、無理だったと思いますが……術式の甘い、偶々上手くいっただけの産物のようですから、分離は可能と私は考えます」
「ほ、本当ですか!?」
「やったねアイン!」
「うん! 榊君! ツヴァイやドライに、また会えるかもしれないんだ……!」
「私の都合もあり、少しお待たせてしてしまうかもしれませんが……」
「とんでもありません! いつまでだって待ちます! 本当に、ありがとうございますっ……!」
「ふふ。それでは、私はこの辺で失礼しますね。本当はもっとお話をしたかったのですが、次の予定が煩い爺共でして……」
「おいアリス、繕ってるのが早速破れかかってんぞ」
「あらやだ失礼オホホ。では皆さん、良い学園生活を。リーシャ、戦場にいる貴女より、今の貴女の方が私は好きですよ」
「!!」
「アイン、家には誠也に案内させますから、この後聞いてくださいね」
「はい!」
「剛毅、皆さんをお願いします。そして玲央さん、皆を導いてあげてくださいね。貴方ならきっとできます」
「!?」
そう言って、アリスさんは姿を消した。
高位転送魔法『テレポート』を使ったのだろう。
生身で使えるのは本当に一握りの魔導士だけなんだけど、流石だ。
にしても、剛毅をアリスさんは知っている感じだったけど……流石にモブであろう剛毅の詳しい内情までは分からないし、まぁ色んな付き合いがあるよね!
「さて、お前らは人工ダンジョンクリアしまくってるし、リーシャの個人鍛錬も進めたいところだが……今日はアインへの案内も頼まれてっからな。ローガンも今日はいねぇし、午後は好きにしてこい。アインは終わり次第職員室に来な。いなけりゃここだ」
「「「「分かりました」」」」
「あっと、水無瀬は少し残ってくれるか」
「分かり、まし、た」
「それでは、俺達はこれで失礼します藤堂先生」
「おう」
そうして剛毅を残し、俺達は部屋を出る。
残りの時間はどうしようかな?
「よう剛毅、調子はどうだ?」
「この、舌足らずの、我が身が、辛、い」
「ははははっ! 若返りの秘宝はその時の状況をダイレクトに再現するからな。どうしようもねぇよ」
「う、む。それ、に、精神、も……ひっぱら、れる……」
「あー、そういう点もあんのか。特に長時間使ってるしな、俺んとこに来る時は戻っとくか?」
「いや、慣れ、る為に……このままで、居る……」
「そうか。それで、今日残ってもらったのはだな……」
なんて会話が行われている事など知らず、クラスに戻った俺達は、
「榊! リーシャさん! アイン! どうだった!?」
「吠え面かかせてきたよな!?」
「皆疑ってもないからね!」
と、クラスメイト達に囲まれてしまった。
君達、訓練やダンジョン攻略せずに待ってたの!?
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