2話.いつも通りに攻略しました
「へっ。逃げずに来たのは褒めてやるよ。精々化けの皮が剝がれないようにな。どうせ剣聖のリーシャ様や、クラス上位のその二人のお陰だろうからな」
「「「む……」」」
「どーどー。抑えて皆、お願いだから」
俺が貶されているはずなのに、俺が怒るより先に皆が怒ってくれるので、俺が腹を立てる暇もない。
というか、元より俺は腹が立たないけどね。
だって、普通に考えたらそうだもん。
学年トップの実力を誇る剣聖と名高いリーシャさん。
E組の中でもクラス成績上位のアインと剛毅。
そんな中で、力E魔F速E体力Sの俺だよ。
こんなの、誰だっておんぶにだっこだって思うよ。うう、自分で考えてて悲しくなってきた。
「こんにちは。もう知ってるだろうけど、改めて自己紹介をするね。これからチームとして協力する以上、名前と役割は最低限知っておきたいからね。俺は榊 玲央。後衛で罠を発見したり、皆への指揮を担当してる」
「はっ! やっぱてめぇは何にもしてねぇわけだな。後方で腕組んで見てるだけって事だろ?」
「「「……」」」
「どーどー皆。そして次に、前衛タンク役の水無瀬 剛毅。前衛アタッカーのアイン・クトゥルフ。そして中衛のリーシャ・エーデルハイト」
「はぁ!? 剣聖のリーシャ様が中衛!? 本当にてめぇは馬鹿なんだな!? 剣聖のリーシャ様は前衛一択だろ!? 誰だってそう言うぜ!? なぁ?」
「そうよ! あのリーシャ様を前衛から外すなんて、頭おかしいんじゃないの!?」
「……その意見には同意しかないですね。何故リーシャ様程の方を前衛から外すのか、俺には理解不能です」
「ですねぇ。私も理解できません」
おう……早速俺への非難が効果抜群です。
そうだよね、普通はリーシャさんを後ろに下げたりしないよね。
誰だってそうする、俺だってそうする。
でもね。このチームではこれが最適だと思ってる。
「……よし、殺すわ玲央君」
「うん、手を貸すよリーシャさん」
「右に、同じ」
「「「「ヒッ!?」」」」
「どーどー!! 皆、その殺気を抑えて、ね!?」
皆が暴れ牛もビックリなくらいに殺気立っている。
リーシャさんは褒められているので、相手からしたら何が地雷を踏んだのか訳が分からない事だろう。
ふふん、リーシャさんは友達なんだよ(優越感)
だから友達が貶されたと思って怒ってくれてるんだ。
あれ、これ貶されてる俺が悪いのでは? 少しへこんでしまった。
気を取り直そう。
「そ、それじゃ、そちらのチームも教えてくれるかな」
「お、おう。俺はF組のトップ走ってるチーム『紅蓮』率いるリーダー、グレン・オーグレンだ。前衛の魔法剣士だ」
「私はクレリックのムウ・フルムーンよ。後衛」
「俺は剣士のバベル・アイギストス。剣聖であるリーシャ様には遠く及びませんが、これでも高位の実力があると自負しております」
「私は魔法使いの、クリスディア・アイギストスです。家名から分かると思うけどぉ、バベルとは双子の姉弟よぉ」
前衛のグレンにバベル、後衛のムウにクリスディア、だね。
よし覚えた。
「うん、自己紹介ありがとう。戦いの際に呼ぶ時は、敬称を抜いて呼ばせてもらうから、そこは了承して欲しい」
「「「「!!」」」」
「それじゃ時間も勿体ないし(この人達も訓練の時間削ってるんだし)早速行こうか。ダンジョンは指定してくれて良いよ」
「お、おう、強気だな。へっ、てめぇらが苦手なダンジョンは把握してんだぜ? なんせ、一番クリアに時間掛かってたからなぁ! 『鳥獣戯画のダンジョン』だ!」
あ、あー。それ、ボス前で何度も撤退してはボスへ向かうを繰り返したからで……確かにクリア時間のカウントは、物凄い時間掛かってるけど……。
あのダンジョン、罠もないし"魔眼"使わなくて良いので、俺は特にする事ないんだよなぁ。
「分かった。アインと剛毅は初めてだよね。結構モンスター強いけど、二人なら余裕だから安心してね」
「榊君がそう言うなら大丈夫だね!」
「あ、あ。榊殿が、そう、言うの、なら」
「ふふっ。私はもう見慣れ過ぎてモンスターの位置も大体把握しちゃったけど……玲央君の役割奪っちゃうわね?」
「あはは。情報を知ってれば、ダンジョンなんてタイムアタックものだからねぇ。今回は大幅に時間短くしちゃおうか!」
「「「おー!!」」」
「「「「……」」」」
何故か無言になったグレンチームだったけど、気にせずに『鳥獣戯画のダンジョン』へと向かう。
ちゃんと四人もついてきてくれていた。
「さ、それじゃ行こうか」
それからは快進撃とでも言おうか。
もうリーシャさんは言うに及ばず、アインに剛毅も凄まじい強さで、全く苦戦しない。
「「「「……」」」」
後ろの四人は見てるだけなのだが、もはや一言も喋っていない。
「あ、リーシャ、あそこから狙ってるから魔法お願い」
「了解。『ウインドランス』」
「ギィァァァァッ!?」
「ありがとうリーシャ」
「どう致しまして。遠距離は私しか対応できないからね」
「弱くはないけど、榊君の言う通り、あまり強くは感じないね。というより、榊君の指示が的確すぎるだけかな」
「あ、あ。戦い、やすい」
「ありがとう二人とも。でも、皆が指示をこなせる実力があるからこそだからね」
「「「「……」」」」
うーん、俺の実力は全然示せてないけど、大丈夫かなこれ。
リーシャさん達がただただ強いだけなんだよねぇ……。
「剛毅、盾で受けたらそのまま受け流して。アイン、剛毅が態勢を崩すから、その隙を!」
「あ、あ!」
「了解榊君!」
「グァァァァッ!!」
「リーシャ、アインの後ろを!」
「ええ、カバーするわ!」
「!! ありがとうリーシャさん!」
「剛毅、リーシャがアインをカバーしたらスイッチ!」
「お、う!」
モンスターの数が多くなると、指示も雑になってくるけど……皆的確に動いてくれる。
そうして対処していたのだが、流石にモンスターも動かない四人を狙わないなんて事はなく。
「「「「「グオォォォォッ!!」」」」」
「「「「!?」」」」
まずい、陣形が悪いっ!
バックアタック状態だ!
「グレン! 急いでムウの位置へ走れ! ムウはそのまま前へ走れ!」
「「!!」」
「バベルはクリスディアを守れ! 皆少しで良い、耐えてくれっ!」
「チィッ!」
「わ、分かったわよ!」
「了解した……!」
「は、はいっ……!」
よし、急な指示だけど皆従ってくれた。
リーシャさん達はまだ殲滅に時間が掛かる。
なら、グレンさん達にも多少倒してもらうしかない!
「グレン! イノシシの突進は受けずに避けろ! どうせ短距離だから横に避けて良い! 避けた後に斬れ!」
「わ、分かった! おぉぉっ!! 『紅蓮斬』!」
「グモォォォッ!?」
「ぐっ……小癪な……」
「ムウ! バベルの腕の傷を回復! 他は良い、腕を重点的に! 剣が持てなくなればクリスディアの詠唱を守れなくなる!」
「わ、分かったわ! 『ピンポイント・ヒール』!」
「!! 助かる、ムウ……!」
「……よし、詠唱完了よぉ!」
「クリスディア! グレンに向かって放て! グレンはそのまま横に飛べっ!」
「い、良いの!? もう、知らないわよ!? 『クリムゾン・フレア』!」
「うぉぉぉっ!?」
「グンモォォォォォッ!!」
「なっ……俺の居た位置に、もう一匹……!?」
ステルスという斥候職が使うスキルを使う、身を隠す事に優れたイノシシが居るんだよね。
単体だとすぐ分かるけど、こういう乱戦になると中々厄介だ。
まぁ、見えてるので意味ないんだけど。
「待たせたわね! 消えなさい、『天魔連斬』」
「「「「「ギャァァァァァッ!!」」」」
リーシャさんの踊るような剣舞で、モンスター達が次々とアイテムと化していく。
「す、すげぇ……」
「流石リーシャ様っ……」
アインと剛毅も合流し、モンスターの大群をなんとか殲滅する事が出来た。
後はボスである。
「皆お疲れ様。ごめんよ、後方を注意しきれてなかった俺の落ち度だね」
「……いや。てめぇの……。榊の指示がなけりゃ、少なくとも俺はおっちんでた。すまない、助かった。礼を言う」
「!!」
ビックリした。何か嫌味でも言われるかなと思っていたのだけど。
「フン……! ま、まぁ? 少しは褒めてあげなくもないけど?」
「……俺も、腕には自信があるつもりでした。ですが……急襲とはいえ、この体たらく……自分が情けない。榊君の指示が無ければ、俺は姉さんを守れないところだった。ありがとう」
「バベルの言う通りねぇ。それに今回の事だけじゃないわぁ。ここまでの道中でも、もぅ貴方の力を疑ってなんていないのぉ」
「!!」
驚いた。まさか、俺を認めてくれる流れになるとは思っていなかった。
でも、俺のお陰みたいに言ってるけど、それは違う。
「皆、勘違いしちゃいけないよ」
「「「「?」」」」
「俺が指示した通りに、皆は動いてくれた。グレンさんはきちんと避けて攻撃して倒したし、ムウさんだってしっかりと回復する場所を選んで重点的に回復させてた」
「「!!」」
「バベルさんはクリスディアさんが詠唱を始めたのに気づいたら、一も二もなく守りに入った。そんなバベルさんを信頼して、クリスディアさんは詠唱を止めなかった。『紅蓮チーム』の実力が高かったからこそ、耐え抜く事が出来たんだよ。ここは曲がりなりにもC級ダンジョンだよ? モンスターの強さは高いんだ。自信を持って良いと思う」
「「「「!!」」」」
「もう、玲央君は……」
「あはは、まぁそれでこそ榊君って気はするけど」
「あ、あ。良い、男、だ」
あれ、何故かリーシャさんには呆れられた目で見られ、アインと剛毅には信頼に満ちた目で見られてる気がする。
「リーシャさん、それにアインに剛毅もありがとう。次はボス戦だけど、いけそう?」
「ええ、勿論。今すぐでも構わないわよ」
「僕も大丈夫」
「俺、も」
「了解。それじゃ、行こうか!」
「「「おう!」」」
そうして二度目のシャドウキメラを倒し、俺達は記録を大幅に更新するのだった。
「あ、『鳥獣の魔石』」
「……玲央君? これボスドロップ限定なんじゃないの?」
「そ、そんなまさかー……」
ゲームと違う可能性もあるので違うとは言い切れない俺は、リーシャさんの疑問の声に冷や汗を流すのだった。
お読み頂きありがとうございます。
たくさん感想頂けたので、なんとか二話目くらいはすぐにと思って書きました。
楽しんで頂けたなら、嬉しいです。




