46話.モブの研究施設攻略戦①
本日二話目です。
「入口のトラップ、解除したわよ玲央!」
「ありがとう美鈴さん! よし、入るよ皆!」
「『認識阻害』、『気配遮断』、掛けておきました玲央さん。直接見つかれば効果は無いですが!」
「了解、ありがとう西園寺さん! 烈火、美樹也! その角を曲がった先に、二人!」
「「了解!」」
指示を出すと、二人は一瞬で間合いを詰め、魔族の首を切り落とした。
ゴロンと転がる頭を見ても、不思議と何も感じない。
「ふぅ、意外となんとも思わねぇもんだな」
「フ……当然だ。こいつら魔族に、俺達の知己が数多く殺されている。憎き相手が死んだだけの事に、心を痛める必要などない。どちらが先かはもう問題ではないからな。……アイン、お前は違うがな」
「……うん、ありがとう氷河君」
人間と魔族の戦いは、俺達が生まれる前から続いてる長い戦争だ。
どれだけの人が亡くなったのだろうか。
でもそれは、魔族側とて言える事で。
どちらからこの戦いが始まったのか、それはもう関係のない事になってしまっている。
人間は魔族を憎み、魔族は人間を憎んでいる。
それが、この世界の住人の共通認識だ。
俺と現魔王であるマカロンは、その共通認識の外の世界に居る。
だから、認識の違いがあるけれど……。
それでも、アインやツヴァイさんに酷い事をした、この研究所に居る魔族達には、怒りが沸いている。
「アイン、資料がありそうな部屋は分かる?」
「うん。道を案内するから、ついてきて」
「了解。皆、陣形を維持して進むよ。罠は全て俺が感知する。解除は美鈴さん、任せたよ」
「まっかせなさいっ!」
そうしてアイン先導の元、通路を進む。
時折響く爆音で、藤堂先生とリーシャさんが暴れているのが分かる。
恐らく魔族達は多くがそちらへと向かっているはず。
手薄な今がチャンスだ。
「ここだ、榊君!」
「「「「「!!」」」」」
見るからに本や紙が錯乱している部屋に着いた。
しかし、これだけの量を全てカバンの中に入れるには時間が……
「ここはオレに任せナァ、レオ。このオレは、鑑定眼の力を司る眼を与えられてンだ。ソレと、ソレ。後その棚のもぜンぶだ、仕舞え!」
「!! 分かった! ありがとうツヴァイさんっ!」
「あぁン!? 背中がゾクッとする呼び方すンじゃねェッ! 呼び捨てヤガレ!」
「ご、ごめんツヴァイ! 後はどれ!?」
「後は……チッ!」
「わっ!?」
突然ツヴァイに抱かれ、場所を移動する。
俺が居た場所には、何かの焼け焦げた跡が残っていた。
「おい、テメェツヴァイか? 何の真似だこれは。どうしてヴァルハラにいるはずのお前が、ここに……ガフッ!?」
「すみません、知り合いでしたか?」
「いンや。オレをこうした腐れ野郎の一人サ、気にすンな」
西園寺さんが後ろから、一撃で首を切り落とした。
俺の仲間、凄すぎる。
「ツヴァイ、ありがとう」
「ッ!」
「あいたぁっ!?」
「か、勘違いすンな。お前に死なれちゃ困るンだヨ!」
突然落とされて尻餅をついてしまった。
でも、顔を真っ赤にしてそう言うツヴァイを見ると、なんだか和んでしまう。
「チッ……それより資料の回収を急げ! あとはその棚のと、そこのテーブルの上に置いてあンのもだ!」
「「「「「了解!」」」」」
ツヴァイの指示の元、皆で手分けして『魔法のカバン』の中に入れて行く。
そうして全部入れ終えた後、藤堂先生に連絡を入れる。
『こちらβ。研究資料は全て回収しました』
『こちらα、了解した。こっちはこのまま暴れとく。お前らはそっちから逃げようとする魔族を討て』
『β、了解しました』
「皆、藤堂先生には伝えたよ。後は、こっちから逃げようとする魔族を逃がさず掃討するよ!」
「「「「「おう!」」」」」
魔族達は強い、そう聞いていた。
けれど……
「おらよっ!」
「フ……!」
「はい甘いっ!」
「残念、それは残像です」
「はぁっ……!」
「ふ、んっ!」
もはや無双状態である。
多くの魔族達がこちら側へと逃げてくるのを、撃破していく。
魔族からしたらまさに前門の虎、後門の狼だろう。
魔族達が万全の状態であれば、こうも簡単にはいかなかったと思う。
藤堂先生の事を知っている魔族はいち早く退散しようとして、俺達の餌食になっているという具合だ。
ここまでは順調、残りの魔族もすぐに片が付くだろうと思ったけれど……やはり、そうは問屋が卸さなかったようだ。
「急げっ! こいつを開放するぞ!」
「し、しかしっ! こいつは俺達の制御が効かないんだぞ!?」
「馬鹿野郎! あの藤堂誠也が来ているんだぞ!? このままじゃどの道死ぬ! なら、こいつに賭けるしかねぇだろうが!」
「!! ち、畜生! なんで俺達がこんな目にっ! "邪眼"の力を得て、他の魔族達を従えて、魔王に成り替わる予定だったのによ……!」
「良いからそっちを押せ!」
「ああもう、知らねぇからなっ!」
突然、凄まじい魔力が大地を揺らす。
これは、藤堂先生でも、リーシャさんでもない。
今まで感じた事のない膨大な魔力。
なんだ、これは。まだ近くに姿は見えない。なのに、体が震える。
圧倒的な魔力量に、足が一歩も動いてくれない。
「フヒヒヒ、おい、聞こえるか! 俺達がお前のごひゅっ……?」
「ばっ! そいつと会話なんかできるはず……」
「グヒ……ゴハン、ゴハン」
「ま、待て、俺はご飯じゃな……ぎゃぁぁぁぁっ!!」
「バギ……グシャ……グブブ……マズイ、マズイ……エサ、ドコダ……チカク……ソコカ……」
凄まじい速さで、ソレが近づいてくるのが分かる。
まるで暴風のようなソレは、すぐそこまで来ている!
「皆、逃げっ……」
「ミツ、ケタ……!」
「「「「「!!」」」」」
「チィッ……!」
「ツヴァイッ!?」
「ガァァッ……!!」
俺を突き飛ばし、残ったツヴァイは巨大なナニカに噛みつかれる。
「マズイ、オマエジャ、ナイ!」
「ガハッ……!」
「ツヴァイ!? 野郎っ!」
「フ……!」
「ジャマ、ダッ!」
「「ガッ!?」」
「烈火! 美樹也!」
「こんのっ! 『グランド・スピア』」
「吹き荒れよ嵐! 『フィアフル・ストーム』」
「ヌオォォォォォッ!!」
「嘘っ!? 魔法が跳ね返っ……」
「「きゃぁぁぁっ!!」」
「美鈴さんっ! 西園寺さん!」
まずい、皆吹き飛ばされてしまった。
幸いダメージは深刻ではなさそうだけれど、かなりの一撃を受け立ち上がれないでいる。
「榊、殿。俺の、後ろへ」
「剛毅……無茶だ……!」
「ふ、ふ。なん、の。これ、しき。フン……!」
「ヌゥ……!? ジャマヲ、スルナ!」
「それ、こそ、俺の、役目! つらぬ、け『ゲイ・ボルク』」
「ォォォォォッ!?」
す、凄い。
剛毅の今まで見た事の無かった槍が、あの化け物を吹き飛ばした。
「ぬぅ、これ、でも……貫けぬ、か」
「ジャマヲ……スルナァァァァァッ……!」
「!?」
「剛毅っ!!」
凄まじい速度で移動した化け物は、剛毅をその大きな右腕で薙ぎ払った。
剛毅は盾で受けたものの、耐えきれずに壁へと吹き飛ばされた。
なんてパワーだ、皆を一撃で……。
「チィ……レオ、無事かヨ」
「ツヴァイ!」
「端的に言うゾ。奴は、鑑定眼の情報から、強化型"邪眼"の能力をフルに使ってやがル。その命を糧としテ、だ」
「!?」
「放っておいても、二、三日もすりゃおっちんじまうだろうサ」
二、三日か。
この研究所から、ヴァルハラまでそこまで離れているってわけじゃない。
そうすると、こんな化物が皆を襲うかもしれない。
それだけは、許すわけにはいかない。
「それデモ、ヤンだな?」
「うん。ツヴァイ、力を貸してくれる?」
「ケケッ……良いサ、だがこっからは、オレじゃぁネェ。やりやがれ、アイン。あのお前の失敗作を、潰しちまいなァ!」
「……。……うん、ツヴァイ。榊君、僕の"邪眼"は、言った通り短い時間しか持たない。だけど、今の状況でのその時間は、黄金に値すると思ってる。皆、後は、榊君を、頼んだよ……! うおぉぉおぉぉぉぉっ!!」
「!! キザマ、ソノチカラハ、ソノチカラハァァァッ!!」
「でぇりゃぁぁぁっ!!」
「オウッ!? ゴノ、ヤロウッ……!」
凄い、あの化け物と、アインは互角に戦っている。
皆も起き上がりつつある今、俺に出来る事は……!
"魔眼"の発動をより強化する。
奴の体の中に流れる魔力を解剖するんだっ……!
「グゥッ……! ごめん、榊君……僕は、ここまで、みたいだ……」
「テコヅラセ、ヤガッテ……シネェ、マガイモノ……!」
「させ、る、か!」
「シャラ、クサイ……!」
「ぐ、ぬぅ……!」
アイン、剛毅……! 焦るな、全ての神経を"魔眼"に集中させろ。
見ろ、視ろ、診ろ……!
奴の全てを見通せ、"魔眼"……!
「ジャマ、ダァァァッ!」
「ぐはっ……!」
剛毅がこちらへと飛ばされる。化け物が一歩一歩、こちらへと近づいてくる。
気付けば、烈火達が周りに集まっていた。
武器を構え、油断なく化け物を見据えている。
俺の指示を、待ってくれているんだ。
なら、俺がすべき事はたった一つ。
けれど、奴の全身を覆う魔力が、俺の"魔眼"を阻害する。
視えない、奴の力の流れが。
このままでは……俺は……!
「ったく、こっちが本命かよ」
「助けに来たわ榊君、皆」
「「「「「!!」」」」」
藤堂先生に、リーシャさんっ!
恐らく全ての魔族を片付け終えたのであろう二人が、こちらへと駆けつけてくれた。
背後で燃え盛る炎が、どれだけの戦いをしてきたのかを連想させる。
「ナンダァ、オマエラモ、ジャマスルツモリカァ……! ナラ、シネェ!!」
「デガブツが、調子乗ってんじゃねぇぞコラッ……!」
「はぁぁぁぁっ!!」
「ヌグァ!?」
凄い、流石藤堂先生にリーシャさんだ。
あの化け物相手に一歩も引いていない。
けれど、あの二人ですら、押せないでいる。
呆けている場合じゃない。あの二人が稼いでくれた時間、俺を信じて待ってくれている皆の為。
俺は全ての魔力を"魔眼"へと集める。
お読み頂きありがとうございます。
いよいよ終わりが近づいてきました。
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