43話.モブの決意
チャイムが鳴り、午前の授業が終わる。
皆休み時間が終わるたびにダンジョンの話をしに来るようになったので、推しの皆と話が出来なくて少し残念だったけれど……それでも、クラスメイトの皆の力になれるなら。
昨日と違い、より具体的な悩みも出てきたようで、もはや相談みたいな感じになっていた。
休み時間は10分しかないので、すぐ終わってしまう。
なので、毎時間の終わりに聞きに来るという感じだ。
午後は藤堂先生に呼ばれているし、俺とリーシャさんだけじゃないので、アインと剛毅も一緒に昼食を済ませる方が良いよね。
「お疲れ様榊君。行きましょうか」
「あ、うん。ちょっと待ってリーシャさん。二人が一緒でも構わないかな?」
「ああ、そういう事。良いわよ。その方が手間も掛からないものね」
流石リーシャさん、全てを言わなくても察してくれる。
まさに一を言って十を知るみたいな。
「おーいアイン! 剛毅!」
「「!!」」
「お昼一緒にどうかなー!?」
「もう榊君はそんな大声で……」
「良い、肺活、量」
「そこなの!? いや、確かに凄いけれど。それに、榊君の声は何故か、よく通るよね。こんなに騒がしいのに、良く聞こえるし」
「あ、あ。天性の、もの」
「だね」
「アイーン! 剛毅ー!?」
「っと、早く行かないと榊君が困惑してしまうね!」
「あ、あ!」
聞こえなかったかな? と思って再度呼ぶと、二人が走ってこちらへと来てくれた。
「学食だよね? 僕はいつも弁当なんだけど、大丈夫なのかな?」
「俺、も」
「あ、そうだったんだ。ごめん、知らなくて……」
「大丈夫よ。学食で弁当を食べてる子も居たわよ」
「ほっ。大丈夫みたいだし、アインと剛毅が良ければ一緒にどうかな?」
「僕は良いんだけど……お邪魔じゃない?」
「俺も、同じ、く」
「邪魔……? なんで? 友達じゃないか! 一緒に食べよう!」
「!! うん、榊君が良いなら、ご一緒させてもらうよ」
「右、に、同、じ」
「良かった! それじゃ学食に行こ……」
「おーい玲央! 俺達も行くぜー!」
「フ……俺も居るぞ」
「氷河はなんでいつも決めポーズを取りながら言うのよ……」
「クス。私はもう慣れましたよ百目鬼さん」
「嫌な慣れね……」
どうやら、皆でまた学食に行く事になったようだ。
推し達と一緒に食べるご飯、最高すぎて鼻血出そう。
「なんで首を叩いてるの榊君?」
「いや、ちょっと……」
「時々、意味の分からない事するよね榊君は……」
「何か、思惑、が?」
そんな事あるわけないですが!?
ただ鼻血が出ないように叩いただけです。
前は我慢できなかったので……。
そうして皆で楽しい昼食を終え、藤堂先生の待つ『表彰部屋』へとたどり着く。
「榊チーム、並びにロイヤルガード全員、集まりました」
「ああ、入れ」
「失礼します」
全員で『表彰部屋』へと入室する。
俺が先頭で良いんだろうか? と来る前に相談したら、皆に怪訝な顔をされたのが忘れられない。
だって、俺からしたら烈火がやっぱり先頭を歩くべきだという思いが強くてですね……。
「よく来たな。今日集まってもらったのは他でもねぇ。魔族の"邪眼"研究施設の場所が判明し、その施設の破壊の依頼申請が無事通った。学園長のお墨付きだぜ」
「「「「「!!」」」」」
ヴァルハラ学園長、アリス・フローレンス。
齢200歳を超えるハイエルフで、西の大陸の覇者。
リーシャさんの生まれ故郷である大陸の前統治者でもある。
その強さは藤堂先生には及ばないものの、その知恵と魔力の高さは他の追随を許さない程。
ローガン師匠と対を成す魔導の極致に居る方だ。
メインキャラクターやサブキャラクターではなく、物語上で何度か出てくるローガン師匠と同じような方でもある。
別の話だけど、藤堂先生の子供の頃を知っているエピソードもあり、藤堂先生が唯一頭の上がらない相手でもある。
一時期藤堂先生は学園長に師事もしており、信頼関係がとても強い。だからこそ藤堂先生はヴァルハラの講師になったんだけどね。
「事前に少し調べてみたが、明らかに魔族の数が少なくなっている。攻めるなら今しかねぇと判断した」
「「「「「!?」」」」」
『フ……そうか。場所はアインから聞けば分かるだろうし……その区画はしばらく空けてやろう』
マカロンは、有言実行してくれたみたいだ。
「時間を空ければ、また魔族が増えても厄介だからな。少数精鋭で施設を破壊する。その為のメンツが、この場に集まったお前らだ」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「へっ、良い面構えだぜ。作戦っつう程、綿密なモンは今回必要ねぇ。研究資料等、何も残す必要はない。全て焼却、処分だ。つまらんモンをこの世に残す必要はねぇからな。そして、研究施設に居る魔族は一人残らず消す。情けを掛けるな。奴らを人と思うな。容赦なくこちらの首を取ろうとしてくるぞ。甘さは仲間の命を危険に晒す。この事はよく覚えておけ」
「「「「「……」」」」」
皆真剣な表情で藤堂先生の話を聞いている。
俺も、もうこの世界はゲームではなく現実だ。
そして、初めて……魔族を殺す事に加担する。
モンスターは、まだ倒すのを見てもなんとも思わなかった。
けれど今回は違う。人工ダンジョンのように消えてはくれないし、死体はその場に残る。
知識としては知っているけれど、俺はその現実を直視する事ができるだろうか……いや、迷うな。
指揮官の俺が迷えば、仲間の命を危険に晒すんだ。
それだけは、絶対に避けなければいけない。
俺の命だけで済むならいい、だけど仲間達の命を危険に晒す事だけは、なんとしても避けなければ。
「……玲央」
「!!」
「あんま思いつめんなよ? 皆、お前を支柱にしている。お前が倒れなければ、お前が"負けなければ"、誰も負けやしねぇ。お前が仲間を信じてるように、仲間もお前を信じてんだ。ドンと構えろ。その重みは、お前にしか分からねぇ重みではあるが……仲間の存在は、それをいくらか軽くしてくれるはずだ。俺も経験あっからよ、先輩からの助言だ玲央」
「藤堂先生……はいっ!」
やはり藤堂先生には敵わない。
俺の不安と、焦りを見抜かれてしまった。
「うし、良い表情になったな。玲央、その若さでこれだけの期待を背負うのは並大抵のモンじゃねぇだろう。だが、今回は俺も居る。経験を積むいい機会だと思えば良いぜ」
そう言って笑ってくれる藤堂先生に、俺も自然と笑う事が出来た。
少し心配そうにこちらを見ていた皆も、表情が和らいだように思う。
「さて、これが研究所の簡単な見取り図だ。出入口は北と南の二つ。魔族を逃がさねぇように、部隊を二つに分ける。一つは俺の指揮下に、もう一つは玲央、お前の指揮下に入ってもらう」
「!!」
「つっても、俺の方は一人だけで良い。リーシャ、良いな?」
「はい、藤堂先生」
「残りは玲央の指揮下に入れ。通信はこれを使う。俺と玲央が連絡を取れればそれで良いだろう。何かあれば俺達で指示を出す。基本的に玲央の指示をお前らは聞け」
藤堂先生から、具体的な段取りの話が進んでいく。
俺が皆の指揮を……モブの俺が。
出来るのだろうか、こんな俺に。
今からでもリーダーは烈火に変わってもらった方が良いのではないか、そんな考えが浮かぶ。
「玲央」
「烈火……?」
肩に手をポンと置かれ烈火が笑う。
「お前が後ろに居てくれるなら、俺達は負けねぇ、負ける気がしねぇ。だからよ……俺達を信じてくれ」
「!!」
「フ……そうだぞ玲央。そんな不安そうな顔をするな。俺達が魔族などに後れを取るものか」
「玲央、貴方は一人じゃない。任せなさい、私達は負けない!」
「ええ。私達の力と、玲央さんの指揮があれば……誰にも負けませんよ」
「皆……」
皆の励ましに、胸が熱くなるのを感じる。
そうだ、俺が弱気になっていてどうするんだ。
藤堂先生も、俺なら出来ると信じて、指揮を任せてくれたんだ。
その期待に、応えよう……!
「うん、良い表情だね榊君。大丈夫、君は僕達が絶対に守る」
「あ、あ。任せて、欲しい。俺の、命に、掛けて……榊殿を、守ろう……!」
「アイン、剛毅……ありがとう」
俺は仲間に恵まれている。
誰一人として、失ってたまるものか。
アインやツヴァイさん、そしてドライさんに辛い目を合わせた魔族達に、今までの行いの罰を与えてやる!
「決行は明日。明朝6時にヴァルハラの入口に集合だ。正式な任務だからな、出席を気にする必要はねぇぞ? 期間は二日間で申請してある。一日で終われば金曜は好きに休め。土日もあるし、良い連休になるだろ! ガハハ!」
そう言って笑う藤堂先生に、空気が和らぐ。
終わりもこのメンバーが全員揃って。
そう心に決めて。
お読み頂きありがとうございます。
そろそろ第一部?第一章?の終わりが見えてきた感じですが、最後まで応援頂けると嬉しいです。




