41話.モブの何事もない終わり
素材集めを終えたので、アーベルン先輩に頼みに行く為に皆とはそのまま解散という形を取った。
あまり大勢で押しかけたくはないからね。
流石のアーベルン先輩も『魔法のカバン』の材料をこんなに早く集めてくるとは思っていなかったようで、驚かれたけれど。
ついでに、色々な素材が集まったのでいくらか手数料代わりにあげたら、喜んでいたよ。
勿論素材は皆で均等に分けた。
『鳥獣の魔石』を貰う分、俺の分は少なくて良いと言ったんだけど……何故か皆譲らなかった。
強くなれたし、礼だと思って欲しいとも言われたけれど……お礼をするべきなのは俺の方なわけで。
とはいえ、皆は俺の直接的なお礼なんて受け取ってはくれないだろう。
なら、これからも皆の役に立てるように、モブなりに頑張るしかないよね。
『魔法のカバン』が出来れば、荷物持ちとしても役に立てるようになるし!
アーベルン先輩からは、明日の帰りにでも寄って欲しいと言われたので了承する。
これで今日の俺の用事は完全終了だ。
「リーシャさんは他に用事はある?」
「いいえ。榊君を送ったら、私も帰るわ」
毎日本当に申し訳ないけれど……リーシャさんと帰れるのが嬉しい俺は、ホント駄目だな。
そうして今日は何事もなく、家に帰ってきた。
「それじゃ榊君、また明日」
「うん、また明日リーシャさん。送っていけなくてごめんね」
「それをしてもらうと、私はまた榊君を送っていかないといけなくなるのよ」
「それは……永遠にループするね……」
「ふふ、そういう事。これも任務のうちだから気にしないで」
そう言って去って行くリーシャさんをそのまま見送り、玄関の扉を開ける。
「ただいま~」
「「お帰りー!」」
「にゃ~!」
すでに帰っている咲と拓の声に安堵する。
靴を脱いで上がると、マカロン(猫形態)が飛びついてきたので、抱っこする。
「ただいまマカロン」
「にゃー!」
「あー! おにいはなんでマーちゃんを自然に抱っこできるのぉ!?」
「え?」
「マーちゃん、おいでぇ?」
「フシャー!」
「ふぇぇぇん、なんでぇマーちゃん……! 私はこんなに貴方を愛しているのにっ……!」
なんかどこぞのドラマで聞きそうなセリフを言い出したぞ。
「だから姉貴、好かれようとまたたびを付け過ぎなんだよ。過剰摂取は呼吸困難や心停止、痙攣、吐き戻しをする事があるって書いてんぞ」
「そ、そんなぁ。猫にまたたびって嘘だったのぉ!?」
「いや嘘じゃねぇよ。ただ、量を考えろってこった」
「うぅ、お風呂入ってくるぅ~」
「まだ沸かしてねぇからシャワーな姉貴」
「ガーン!」
何をやっているのか……。
「拓、少し早いけどお風呂沸かしてやって。俺も今日は汗をかいたから、早めに入りたいところだったんだ」
「まぁ兄貴がそう言うなら……」
「おにい~!」
我ながら妹に甘い気もするけど、汗をかいてお風呂に早く入りたいのも本当だし。
「マカロン、俺の部屋に来るかい?」
「にゃん」
「マカロンは賢いよな、まるで兄貴の言葉が分かってるみたいだもんな」
「に゛ゃ゛ん゛!?」
「はは、今もなんか分かってそうだもんな、偉い偉い」
「にゃ、にゃん」
凄いぞ拓。魔王をめっちゃくちゃ驚かせたぞ。
多分人類初だぞ。
とりあえずマカロンを抱っこしたまま、部屋へと入る。
すると、腕から飛び降りてすぐに人型へと戻った。
猫で居て良いのに。
「俺が居ない間、大丈夫だった?」
「うむ。咲も拓も良い奴だな。可愛がろうとしてくるのがよく分かった。しかし、流石にまたたびの付け過ぎは厳しくてな……」
「あはは。完全に猫の特性になってしまうんだっけ? それはきついよね」
「まぁ猫の形態でも強さは変わらんがな。魔力は極力抑えておるから、傷つける事は無い故、安心するがよい」
「うん。そこは心配していないよ」
「そ、そうか」
なんだかんだ、マカロンはうちの家族を気に入ってくれているのが分かったからね。
「さぁ、今日はどんな事をしてきたのか、私に話せ」
「ん、咲がお風呂から上がったら俺も入るから、その後でも良い?」
「ふむ、そうだな。なら今は猫としてゴロゴロしておくとしよう。……にゃぁん」
人型の姿だとすっごい美女なので別の意味で緊張するのだけど、ひとたび猫になってしまえば可愛さが勝つ。
「おいでマカロン」
「にゃん」
素直に膝に乗ってくるので、軽く撫でてあげる。
手触りの良い毛並みだ。
「にゃぁ~ん……」
とても気持ちよさそうにするマカロンだけど、撫でているこちらも気持ちが良い。
そんなゆったりした時間を過ごすのだった。
--西園寺 紅葉視点--
「おじいさま。入ってもよろしいですか?」
「おう、紅葉か。構わ、ぬよ」
「失礼致します。あら、まだその姿なのですね」
「うむ、気を抜けば、精神を、持って、いかれる、でな。慣れる、為に、維持、しておる」
西園寺 剛毅。このヴァルハラに、水無瀬 剛毅として通う私の祖父だ。
「その若返りの秘宝を使ってまで、調べなければならない事だったのですか?」
「あ、あ。うむ、会話が、これでは、面倒、じゃな。よし、少し、解除、するか、の」
おじいさまが丸い球を取り出し、額に当てる。
すると、元のおじいさまの姿へと変わった。
「ふぃぃ。やはりこの姿の方がしっくりくるわい。若かりし頃の姿も良いのじゃが、いかんせんあの頃は口下手すぎるでのぉ」
「精神もその年齢に引っ張られるのでしたね。大丈夫なのですか?」
「うむ、心配するでない。それに、役目はもう終えたでの」
「そう、なのですか?」
「あ奴からの依頼で、班に入っておったが……どうやら解決したようでな。くっくっ……榊、玲央か。面白い男じゃて」
「!! おじいさまも、玲央さんに目を?」
「おう。紅葉も気になっておるのじゃろう?」
「……はい。私の名を、呼ばせても大丈夫な気がしております」
「ふはは! そこまでか。しかし、今は耐えよ。魔王に気取られぬ為にも、な」
「はい。心得ております。それで、おじいさまはもう帰られるのですか?」
「そのつもりじゃったのだがな。気が変わった」
「え?」
「誠也の依頼とは関係なく、わしが榊 玲央をもう少し見たくなった。故に、今しばらくヴァルハラへと通うつもりじゃ」
「えぇ……それでは、おじいさまを含めた玲央さんのチームと戦う可能性があるという事ですか……? あのリーシャさんも同じ班ですよね? 反則では?」
おじいさまは西園寺流槍術の師範である。
盾職としても優れ、右に出る者は居ない。
あの大英雄、藤堂誠也おじさまと対を成すとまで言われた豪傑なのです。
そんな方が、あの深慮遠謀、博学多才、眼光紙背の玲央さんの味方だなんて、考えただけでも恐ろしい。
「ふははは! 確かに剣聖の嬢ちゃんは強い。そしてアインとやら、アレも一角の者じゃな。どうする? わしらは強いぞ?」
「おじいさま!」
「ふはははは!」
私は何を話に来たのかを忘れ、しばらくおじいさまとの雑談を楽しんでしまうのでした。
--西園寺 紅葉視点・了--
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