39話.モブの準備
どこに視線を向けても推しが居る至福な昼食タイムを満喫した後。
烈火が売店で装備を見たいと言うので、皆で行く事になった。
ヴァルハラには食事を管理する学食と、武器・防具・装飾品・ポーション等アイテム類に、魔道具の販売を行っている売店が存在する。
それらは全て生徒達が作った物であり、売れたものは製作者にポイントが入るシステムとなっている。
生産職の生徒達にとって、主流のポイント稼ぎになるわけだ。
鍛冶師や錬金術師といった、基本的に戦闘を生業としない職業の生徒達はクラス自体が別となるからね。
ポイントの稼ぎ方そのものが違う。
例えば錬金術師の生徒達は、依頼として素材の採集をポイントで出す。
それで集めた素材で魔道具を作り、それを売店や軍部に納める事で規定のポイントを得られる。
依頼をするポイントを節約する為に自分で取りに行く人だっているけどね。
もしくは、俺がアーベルン先輩に頼んだように、素材を集めて作ってもらう。
イメージは手数料みたいなものかな。
技術料とでも言おうか、結構馬鹿にならない量のポイントをゲームでは請求された。
全てが生徒作なので、完全にヴァルハラの自給自足状態である。
その為品質にはかなり上下がある事にも留意する必要がある。
同じアイテムでも品質に差があるのだ。
「げ、このポーション色が普通じゃねぇぞ」
「それ魔力回復ポーションでしょ馬鹿烈火。傷薬のポーションはこっち」
「おっと、すまねぇ美鈴。あー、でも荷物はかさばるんだよなぁ。あんま持ってたくねぇ」
「烈火のチームはヒーラー居たでしょ。必要なの?」
「あー。それがよ、使うとすぐに魔力切れ起こすみたいでよ……」
「それは……辛いわね」
なんと、烈火のクラスでヒーラーと言えば、クラス聖女のあの人しかいない。
確かレベル上がるまでMPがめっちゃくちゃ低いんだよね。
大器晩成型で、後半はずっと回復魔法を使い続けても問題ないくらいに魔力量が成長する。
スキル『聖女の祝福』は、広範囲リジェネレーション(HPの継続回復)なんだよね。
あれも重宝するスキルだった。
という事は、烈火チームは火力メインアタッカーの烈火に、遠近魔法万能型の西園寺さん、それに加えて聖女のヒーラーと……無敵の編成かな?
聖女は支援魔法もある程度のレベルで扱えるし……。
支援だけで言えば劣化版の美鈴さんのイメージだ。
あと一人が誰か分からないけど、その時点で滅茶苦茶強いチームなんですけど。
「フン……今日はハズレだな。碌な装備が無い」
「そうですね……これなら、まだ今の装備で良いでしょう」
美樹也が言うように、装備品は日替わりで更新される。
なので、売店は毎日確認に来る方が良いのだ。
まぁ専用装備が手に入ったら、少なくとも武器に関しては必要なくなるんだけどね。
品物も時間が経てば良い物が販売されるようになる。
これは多分、製作者の腕が上がっていくからだと思うけれど。
ゲーム的には話が進めば装備も強くしていくってだけだったろうけど。
ゲームと違う点と言えば、美樹也も西園寺さんも、凄く良い装備をすでにしているという事かな。
ゲームではメインキャラクターの皆の装備はこっちが整えないと駄目だったけど……二人とも凄く良い装備をしてるもん。
反対に烈火と美鈴さんは、なんていうか装備を変えた方が良いレベルの物を身に着けている。
やっぱりお金の差だろうか……。
烈火と美鈴さんは一般家庭、庶民の出だ。
対して西園寺さんは大企業の令嬢だし、美樹也も軍部の偉い人が父親だったはず。
そこら辺がゲームとは違い、如実に差が出来ている気がする。
せ、世知辛い。
かく言う俺も装備は銅の剣である。
木よりマシ、鉄より弱い。
クソ雑魚ナメクジである。
「榊君、これなんてどう?」
「おお、ミスリルの剣だ。でもお高いんでしょ?」
「命には代えられないでしょ。ほら買った買った」
「ちょ、ちょっと待って。俺のポイントで足りるかどう……」
「『ポイント10,000を支払いますか?』……え? なんで10,000?」
「……ちょっとだけ支援しておいたわ。榊君はもしもの時に身を守る術の一つや二つや三つや四つは持っておくべきだもの」
多い多い。どんどん増えてるよリーシャさん。
というか、ミスリルって凄く高い装備だったはず。決して10,000ポイントなんかで買えるような代物ではない。
少なく見積もってもその百倍はする。
もっと言うなら、この時点でミスリルの剣が売っているわけがない。
という事は、だ。
「リーシャさん?」
「な、なにかしら?」
「この剣、リーシャさんのでしょ?」
「……。……な、何のことかしら?」
滅茶苦茶目が泳いでいる。
もう自白しているようなものである。
「……ありがとう。この剣に相応しい男になれるように、努力するよ」
「!! ええ、どう致しまして」
「おお、玲央良いなぁ! リーシャさん、俺にも余ってる剣とかねぇかな?」
「轟君にはミスリルだと軽すぎて合わないでしょうし……タングステンとか重い方が合いそうよね。私は重い剣は合わなくて、チタンやミスリルの剣しか持っていないのよね」
「あー。そりゃ確かにそうだよなぁ……」
烈火は両手剣とか、重い剣を主に使うスタイルだからね。
リーシャさんとのタッグは実に強かった。
力の烈火に速度・技のリーシャさん。
かみ合いすぎてて無双できるんだよね。
まぁリーシャさんが強すぎるのもあるんだけど。
伊達に最強のサブキャラクターと言われていない。
操作出来ない藤堂先生を合わせたら、流石に少しだけ劣るかもしれないけれど。
まぁあの人は化け物すぎるだけなので除外で良い。
勝手に動くし。
「これなんか良いんじゃない烈火。ほら、バスタードソードだって。んぎぎ、重、いっ……!」
「っと無理すんな美鈴! ……おお、良い感じだな。ポイントは……ギリギリ足りるな。うし、これ買うか!」
「私も魔法を補佐してくれる杖か札が欲しいなー。玲央、良いのないかな?」
「うーん、ちょっと待ってね。……これと、これかな。こっちは支援効果を微増してくれる装飾品、小さいヘアピンだから邪魔にならないよ。こっちは時間でほんの少し魔力を回復してくれる指輪だね。こっちも邪魔にならないと思う。その、指に合うかは運だけど」
「成程……ヘアピンは大丈夫として指輪は……がーん、大きい……」
「あちゃー」
美鈴さんは小柄だからなぁ。指も細いし、合わなかったか。
ゲームではなんでも装備出来たのになぁ。
現実だとそりゃ合う合わないが出てくるか。
「では百目鬼さん、私から同じ効果の物をプレゼント致しましょう」
「いやいや! 友達にそういうお金関係の貸し借りはしないって決めてるの! 気持ちだけ受け取っとくわ」
「……ショボン。そうですか……」
おおう、西園寺さんが目に見えて落ち込んでいる。
「うぐっ……その、ほんと気持ちは嬉しいから!」
美鈴さんもそういうのに弱いからなぁ。
めっちゃ効いてる。
少しフォローしておくか。
「それじゃ、その指輪を美鈴さんが買って、西園寺さんの職人さんに美鈴さんに合ったサイズに調整してもらう、のはどうかな?」
「「!!」」
「それなら、貸し借りじゃないでしょ?」
「……それなら、まぁ。お願いして良い? 西園寺さん」
「はいっ! お任せくださいな!」
さっきの悲しそうな顔から、滅茶苦茶嬉しそうな表情に変わる。
基本西園寺さんは人に尽くすタイプの人なんだよね。
気に入った人には特に。
さて、俺もアイテム類の補充をしておこう。
amuronでも大体買えるけど……あ、もしもの為にあの木偶人形は人数分買っておいて、片割れを皆に渡しておかないとね。
「ありがと、玲央」
「ありがとうございます玲央さん」
「いやその、俺は何もしてないけどね……」
本当にそう。ただ言っただけで、俺は何もしていないのだ。
というか、『魔法のカバン』が欲しい。
あれがあれば、複数のアイテムをまとめて仕舞えるだけじゃなく、重さもバッグの重さしか感じない優れもの。
容量は製作者の力量によるのだけど……アーベルン先輩なら最高のカバンを作ってくれそうだし……。
そうだ、今日は皆にちょっと無理言ってみようかな。
「ねぇ皆。少し頼みたい事があ……」
「「「「付き合う(ぜ、ぞ、よ、わ)」」」」
「おおぅ……」
烈火、美樹也、美鈴さん、リーシャさんの声がハモる。
聞こえなかったのは西園寺さんだけど……見たら、配下の人? に指示を出しているようだった。
学校にまで来てるのか、SPさん……。普段見えないのは、隠れて護衛してるんだろうか。
今回は美鈴さんの指輪の事だろうね。
話し終えてこちらに気付いた西園寺さんは、
「あ、もしかして乗り遅れてしまいましたか!?」
なんて大層焦っていて、皆笑ってしまった。
「勿論ご一緒致します!」
って言ってくれたけどね。
皆が協力してくれるなら、『魔法のカバン』を作る為の素材集めはすぐに終わるはず。
この時の俺はそう思っていました。
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