38話.モブの連絡先交換
父さん母さんが帰宅してから、猫(魔王)を飼って良いか相談してみたら一発OKが出てしまって困惑した。
「おー! 父さん昔の独身時代は犬飼ってたんだよ! 猫だって好きだぞ! 母さんが良いなら父さんは反対しないぞ!」
「勿論良いわよ! 母さんも昔から猫を飼ってみたかったのよねぇ! けど、猫を飼うと婚期を逃すって聞いて……(モゴモゴ」
母さんの闇を暴きそうになったので話を逸らす事に。
「ありがとう父さん、母さん。名前はもう付けてて、マカロン」
「にゃ~」
話を聞いていたマカロン(魔王猫形態)は足にすり寄ってくる。
くぅ~! か~わい~い! 魔王だと分かっていても! 分かっていてもぉ!
「きゃ~! かーわいーい! マーちゃーん! 咲だよぉ、今日から家族だねぇ! よしよし、良い子良い子~!」
「う゛み゛ぁ゛ぁ゛……!?」
「あ、あっ! ご、ごめんよぅマーちゃん! 強く抱きしめすぎちゃったね!?」
「何やってんだよ姉貴……とりあえず、明日は猫の飼い方の本でも買ってくっか……」
凄いぞ咲。多分人類で初、魔王に絶大なダメージを与えたぞ。
すでに愛称で呼んでいる咲に苦笑しつつ。
「よーしよし、『浄化』っと。これでキレイキレイ。今日は私と一緒に寝ようねマーちゃん! おにい、良いよね?」
「ああ。というかお前が飼いたかったんだろ咲」
「てへ、やっぱおにいにはバレてたか」
まぁ、猫(魔王)から直接聞いたとは思うまい。
「世話は俺達三人で基本的にやるから父さん、母さん」
「可愛がるだけで良いなんて最高か?」
「アナタ……?」
「ごめんなさい。トイレ掃除とか、気付いたらやるから」
「私も。ご飯をあげるのは多分任せっきりになっちゃうと思うから……でも、猫用の良いご飯買ってくるからね!」
「父さんも父さんも!」
うん、張り切る両親には悪いのだけど……猫用のご飯、魔王は食べれるのだろうか?
その、色んな意味で。
そう思って猫形態のマカロンを見ると、何故かドヤァって顔された。
可愛いのずるい。
そんなこんなで、うちで魔王を飼うのは認められたのだった。
うん、字面が酷いな。
そして翌日。
「それじゃ先に出るけど、戸締り頼んだぞー。行ってきまーす」
「「行ってらっしゃーい!」」
「にゃーん!」
「あーこら、ついてっちゃダメだよマーちゃん! あ、おねえもおはよう! 行ってらっしゃい!」
「おはよう咲ちゃん。行ってくるわね。……猫を飼ってたの榊君?」
「あ、うん。昨日からちょっと縁があって……その、日課のランニングしている時に、怪我をしてるの見かけて。多少手当をしたら、家までつけられてたみたいでね。咲が見つけて、なんか飼う事になって」
玄関にまで見送りにやってきたマカロン(猫形態)は、リーシャさんに見つかってしまった。
まぁ嘘は言っていない。嘘は。
「そうなんだ。ふふ、やっぱり榊君は優しいわね」
そう笑って言うリーシャさんに今日も心臓が元気に鼓動する。ちょっと元気すぎるので落ち着いて欲しい、とまれとは言わないから死んじゃうし。
「手当と言っても、本当に応急処置というかそのレベルにも満たない、消毒みたいなものしか出来てないけどね」
「そうじゃないわ。それをしようとするのが偉いのよ」
ぐっ……リーシャさんは何を言っても褒めてくるのでこれ以上は藪蛇だ。
「そういえば、もう西園寺さんや氷河君には伝えたの?」
「今日話すつもりだよ。その、スマホの連絡先も知らないからね。烈火達の誰かの連絡先でも知ってたら、今日早めにヴァルハラにって話も出来たんだけど……」
「あ、そう、だったわね」
なんだかんだ時間が取れなかったのである。
烈火と美鈴さんとは会っているんだから、その時に交換しておけって話ではあるのだけど。
「それじゃ、今日はスマホの話からね」
「あはは。そうなるね」
なんて会話をしながら教室へ。
毎朝こうして女の子と、それも超絶美女であるリーシャさんと登校してるとか、刺されてもおかしくないな。
いや刺されない為にリーシャさんが居てくれるのだけど。
ガラッと扉を開けて教室へと入ると、すでに居たクラスメイト達全員から視線を浴びる。
な、何事?
「あー、そういう事ね」
「え?」
「黒板の上を見て榊君」
「黒板の上? あ……!」
そこにはデカデカと、E組榊チームポイント学年一位、E組クラス順位一位。
と表示されていた。
なんて目立つ事をしてくれるんだこのヴァルハラは!
こんなのゲームでは無かったんですけど!?
いやあったのかもしれないけど、そんな描写は無かったって事ね!
リーシャさんと別れた途端(と言っても俺は扉の近くで、リーシャさんがクラスの奥に席がある為だけど)、クラスメイトに詰め寄られる。
「榊君! お願い、攻略方法を教えてぇぇぇっ!」
「神様仏様榊様! この矮小な下民に是非その知恵を与えたまえ~!」
「どうやったらクリアできんのぉ!? マジで頼むよ榊君! 何回挑んでもクリア出来る気がしねぇよぉ!」
ちょ、ちょっと落ち着いて欲しい。
というか皆の実力は能力測定で把握しているけど、決して低くはない。
だからちゃんとやればクリアできるはずなんだ。
「分かった、分かったから! 一人一人にアドバイスは難しいから、教えて欲しいダンジョンの攻略法を簡単に話すね」
「「「「「おおー!!」」」」」
「ふふっ……」
遠くで少し笑ってるリーシャさんが見えた。
「うぉ、なんじゃこれ!?」
「玲央の周りに人だかりが出来ているな」
「わぉ。これじゃ近づけないわね」
「流石は玲央さんですね。今日は大事な話があるとリーシャさんから伺いましたが……これは無理そうですね」
「ごめんなさい西園寺さん。まさかこうなるとは思ってなくて」
「おはようございますリーシャさん。いえ、お気になさらないでください。玲央さんですもの、当然です」
「ま、次の休憩時間にまた来るとすっか!」
なんて会話があった事も知らず、俺はクラスメイトに指定ダンジョン攻略法を伝えていると……
「おぉーい、全員席に……って今度はクラスメイトに囲まれてんのか榊」
「あ、あはは……」
「ったく、仕方ねぇ奴らだな。ま、知りたいと思う気持ちは大事だからな。先を行ってる奴から学ぶのは良いこった。向上心こそが成長の鍵だぜ。まぁそれは置いておいて、時間だから席に着け!」
「「「「「はい!」」」」」
波が引くように皆席へと座る。皆素直で良い事だ。
まぁ藤堂先生に逆らったらどうなるか、なんて皆分かってるからってのもあるかもしれないけれど。
「つーわけで、これからは毎日こうして順位が張り出される。まだクリアチームが全然いねぇから、榊のチームだけだが……こういう目立つとこには10位までは載るからよ、気張れよお前ら!」
「「「「「!!」」」」」
成程、これはいい刺激になる。
競争心を煽るし、上に上がりたいと頑張る人も増えるだろう。
まさか色んなところに結果が張り出されているなんて思わなかったけど。
個人個人で、自分が現在何位に居るかは分かるのだけどね。
で、その後も授業が終わるたびに皆が聞きに来るので、身動きが全然取れないまま、昼食の時間が来た。
「ごめん皆、話の続きはまた明日以降で良いかな?」
「えー、もっと話を聞きたいよぅ……」
「そう言うなって。榊も俺達の為に大分時間使ってくれたじゃん。……その、また困ったら聞いても良いか?」
「当然だよ。クラスメイトじゃないか」
「!! ああ、サンキューな榊!」
というわけで、やっと解放された。
「ふふ、お疲れ様榊君。大人気だったわね」
「まぁ今だけだと思うけどね……皆能力は高いから、今は勝手が分からないだけだよ。慣れてくればすぐに低級ダンジョンくらいならクリアできると思う」
「よぉ玲央! やっと話ができるな!」
「フ……流石の人気だ玲央」
「今日は皆で学食にしましょ! 話したい事もあるんだし、良いわよね?」
「ついでにスマートフォンのお話もしたいですし」
「皆! うん、勿論だよ!」
ああ、推し達が居る!
それだけで俺の蓄積された疲労がぶっ飛んでいくよ!
「ふふっ……本当に榊君は……」
「え? 俺の顔に何かついてるリーシャさん?」
「なんでもないわ、なんでも。ふふっ……」
何故か俺の顔を見て笑うリーシャさんに、俺は自分の顔をペタペタと触ってみる。
なんにもついてないよね? ご飯粒とかついてて皆知ってて見逃してくれてるなんて事があったら恥ずかしくて死んでしまう。
「ククッ……! さぁ行くぞ玲央。学食は戦場だ」
「かっこつけて言う事じゃねぇだろ美樹也……」
「席取りは任せて! 烈火に氷河は私達の注文お願いね!」
そんな会話をしながら、学食へ着いた。
相変わらず凄い人数でいっぱいだ。
「あ、それじゃ俺は皆の水汲んでくるね」
「「「「「!?」」」」」
いやだって俺に出来る事、それくらいしかなくて。
あの戦場で(美樹也談)注文を取って持ってくるなんて俺には厳しい。
「流石に人数が多いし、私も手伝うわ榊君」
「リーシャさん。あり……」
「あらリーシャさん。席を取るのもリーシャさん程の威光が必要かと思いますよ? 私がお手伝い致しますから、どうぞ座っていてください」
「何を言っているの西園寺さん。威光なんて言うなら、西園寺さんの方がその名が通っているでしょう? 後光がさして皆近づかないわよ?」
「「……」」
なにこれ怖い。
「おい玲央、なんとかしろよ」
「俺ぇ!?」
「女の戦いは恐ろしいな。ここは玲央に任せて先に行くぞ烈火」
「お、おう! そうするか美樹也!」
「ちょっと烈火、美樹也!?」
「あ、私席取ってくるわね玲央。後は任せたわよ!」
美鈴さんまでこの場を離れてしまった。
こ、こうなったら。
「えっと、二人も一緒に行こう? ほら、六人分だし、一人二つ持ち運べばトレイもいらないし安全だよね」
「「!!」」
本当は二人にも水汲みなんて真似をさせたくないけど……これはもうどうしようもないと思うので。
超大企業である西園寺家のご令嬢と、剣聖に水を運ばせるってどんな贅沢だよ……。
運ばせる側の人達だよ……。
そんな事に文句の一つ言わず、二人は一緒に水を持って行ってくれた。
本当に人間の出来た人達である。
そうして烈火と美樹也が行く途中に話していたセットを持ってきてくれる。
美樹也は氷で大きな土台を作り、その上にのせていた。
烈火は烈火で両手一杯に料理をのせて運んできたし。
曲芸師かな?
そうして皆で食事をとる。
アインも誘いたかったのだけれど、クラスを出て行く後ろ姿を見たので、声を掛けられなかった。
まぁ午後から話す機会もあるだろう。
「あ、そうだ皆。日曜日にスマホを買ったんだけど……」
「お! なら連絡先交換しとこうぜ玲央!」
「そうだな。あの時にしておけば良かったな、言うのが遅いくらいだぞ玲央」
「そういえば玲央の連絡先知らなかったわね。すでに知ってるみたいな感じになってたわ!」
「それでは、順番に交換していきましょう。玲央さん、やり方は分かりますか?」
「あ、うん。リーシャさんに教えてもらったから大丈夫」
「「「!!」」」
「ちょ、ちょっと榊君。今それを言うのは……」
「へぇ、リーシャさんはすでに玲央の連絡先登録してたって事か」
「フ……流石、手が早いな」
「ヒュゥ♪ リーシャさんやるぅ」
「……クス」
「ち、違っ! そんなんじゃないのよ!? ちょっと榊君、なんとか言って!」
「あ、ああ、それはね……」
顔を真っ赤にしたリーシャさんと、それをニヤニヤとした顔で見る西園寺さんに笑いながら、実は知っているであろう事実を皆に説明する。
まぁ要は、皆で友達のリーシャさんをからかっているのだ。
……そうだよね?
というわけで、皆とライムの連絡先を交換できたのだった。
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