35話.モブは難なく解決する
「おっ! 玲央にリーシャさん! 今帰りなら、良けりゃ一緒に帰え……って雰囲気じゃねぇな?」
「烈火、偶々偶然帰りが……ってあれ、玲央にリーシャさん? どうしたの? 何か雰囲気が重い……?」
下駄箱にまで戻ると、丁度下校の途中だった烈火と、それを待っていたのであろう美鈴さんと遭遇した。
この二人なら大丈夫だ。
「烈火、それに美鈴さん。大事な話がある」
「「!!」」
「こんばんは。初めまして。僕はアイン・クトゥルフと言います。純じゃないけど、魔族です」
「「!?」」
「ちょ、アイン!?」
「ごめんね榊君。でも、全部榊君におんぶにだっこじゃ、ケジメがつかないでしょ? 僕は榊君を信じて話す事にしたんだ。なら、僕を信じてもらう為にも、魔族である事は自分から明かしたい。榊君の友人ならね」
「成程な……。そりゃ大切な話だな。オーケー、付き合うぜ玲央」
「なんだか分からないけど、要は玲央がこの私を頼ったって事よね? いいわよ、この私に任せなさい! 何だか分からないけど!」
頼りになる烈火に、なんだか分からないのに協力してくれようとする美鈴さんに、思わず笑ってしまう。
勿論嬉しさでだ。
「ありがとう二人とも。疲れてるだろうに、ごめんね」
「気にすんなよ玲央。それよりも、頼ってくれる方が俺は何倍も嬉しいぜ!」
「そうそう。それに、全然疲れてなんかいないわ! まだ後数時間だってやれるわ!」
「膝が笑ってるのに?」
「そ、そこは分かってても黙っておいてよリーシャさん!」
「ふふ、ごめんなさい」
これから真面目な話をするけれど、美鈴さんとリーシャさんの軽いやりとりのお陰か、雰囲気が少し明るくなった気がする。
「藤堂先生にはまだ、知らせない方が良いわよね。どこで話すのが良いかしら……」
「お、なら良い場所知ってるぜ! この時間に限らず、大体誰もいねぇ良い場所がさっ!」
そう言う烈火についていく。進むにつれて、段々とゲームで良く見慣れた場所である事に気付いた。
「ここ、今は使われなくなった教室、だよね?」
「流石に玲央は知ってたか! 色々ヴァルハラを周ってる時に偶々見つけたんだよな。一年の教室からは少し離れてるし、用事でもなけりゃ誰も近づかない場所にポツンとあるもんだから気になってよ」
そう、ここは昔、シェルターとして使われていた場所だ。
今では使われておらず、廃墟ならぬ廃教室となっている場所。
地下室もあり、ゲームでは皆で集まる場所として使われていた拠点の一つでもある。
やっぱり烈火が見つけたか。
「ここなら誰にも話を聞かれずに、俺達だけで話が出来ると思うぜ玲央」
「へぇ、良いじゃないここ! 誰も使ってないなら、私達の拠点にしない?」
「お、良いなそれ! 玲央、どうだ?」
「そう、だね。これから話す、いや聞く内容次第かな」
「「!!」」
「うん。それが正しいよ榊君。それと、僕まで案内したのは、軽率だったと思うよ轟君」
「そうか? 俺はそうは思わねぇけどなぁ。だってよ、玲央が信じた奴なんだぜ? なら、少なくとも他の奴らに秘密をペラペラ話すような奴じゃねぇだろ」
「!!」
烈火は、俺を心から信じてくれている。
それが物凄く嬉しくて、少し気恥ずかしくて。
「まったく、かなわないな。……うん、僕も榊君に裏切られたなんて思われたくない。それくらい、榊君の事が今日一日でも好きになったからね。だから、正直に話すよ。そして話を聞いて……色々と判断してほしい」
それから真剣な表情で語り始めたアインの内容は、正直驚いた。
ゲーム内でただ知識として得た内容の詳細が、ここまで酷いものだとは……正直思っていなかった。
研究所では非道な行為が横行していた。
ただ一文、こう書かれていた。
その内容が、ここまで酷いとは想像もしていなかった。
「僕は、人間として。ツヴァイは魔族として。そしてドライは天族として造られた。僕達は三人で一人の体を有するキメラ型人造生物なんだ。その目的は、強大な魔王様の力の模倣。これは魔王様には秘密裏に行われていた実験で、僕達以外は適応出来ずに皆死んでいったよ」
「「「「っ……」」」」
あまりの内容に、俺達全員、何も言えなかった。
「唯一成功したといえる僕達は、"魔眼"の模倣である"邪眼"を使いこなせなかった。だから研究所の魔族達は考えた。人間の大陸の戦力育成機関であれば、"魔眼"ないし、それに類似する力を持つ者がいるのではないか、と。その者を調べれば、僕達を強化できるのではないかと」
「一つ気になるんだけどよ、お前達を強化して、どうするんだそいつらは」
「僕達は実験体だからね。最終目標は多分、自分達が安全に"邪眼"を使いこなせる事だと思うよ。魔王様が使う力を自分達もって考えてるんだと思う」
「成程、な……下種がっ……」
烈火は苦々しい表情でそう言った。
正直、皆思いは同じだと思う。
安全に、という所が味噌だ。
アインを、いや多くの者達を犠牲にして、自分達は傷つかずに力を手にしようとしているわけだ。
「ありがとう、皆。僕達の事を思って、想像して、悔しく思ってくれてるのが分かるよ。犠牲になった同胞達もきっと、それだけで救われてると思う。僕が、救われてるから」
「アイン……」
「……僕は人間タイプだから、ヴァルハラの結界に弾かれることがない。だから、僕をベースに選んで、ヴァルハラに潜入させたんだ」
「「「「!!」」」」
「指令はこう。"魔眼"を持つ者であれば、その眼をくり抜き帰還せよ。そうでない者であれば、その者を拉致して帰還せよ。……榊君の眼が光っていた時があったよね? 本当はあれで確信したんだ。僕も、同じ現象を見た事があったから」
「……もしかして、ドライさん?」
「そう。僕は強化型の"邪眼"で、ツヴァイは鑑定型。そしてドライは榊君と同じタイプの支援型だった。でも、支援型は他のタイプとはわけが違う難易度の力だった。その魔力の消費量が尋常じゃなさすぎる上にコントロールが厳しすぎた。脳が焼ける程の痛みを常に生じて、僕とツヴァイの魔力を譲渡しても……耐えられなかった。今も、ドライは意識を取り戻していないんだ」
俺は、魔力の自然回復量が凄かったから、なんとか耐えられた。
通常、魔力が尽きれば気絶するほどの精神的ダメージを負う。
それはゲームのMPが0になっただけ、という状態ではない。
走れば体力が減るけど、それはHPが減ってるわけじゃない。
精神力が減ってるとも言える。
HPは傷を負えば減る。
MPは魔法を使うなり、魔力を消費すれば減る。
そして魔力を消費すれば、精神力も減る。
つまり全力で走り続け、体力が尽きても尚走り続けるようなものなのだ。
想像を絶する疲労なはず。
過負荷の掛かった精神は脳に異常を起こし、痛みに変換される。
ドライさんは恐らく、それで脳が焼かれてしまったんだろう。
一度損傷した脳は、戻らない。
ドライさんは生きながらに死んでいる状態と言える。
体はアインとツヴァイさんと同じである以上、生きてはいるのだから。
「研究所の魔族達は、僕達に期限を指定してる。ここに連絡を寄こす事は出来ないからね」
「なぁ、そんなもん無視すりゃ良いんじゃねぇか?」
「駄目なんだ。僕達には時限爆弾が埋め込まれてる。研究所に帰って取り除いて貰わないと、死ぬしかないんだ」
「なっ……」
時限爆弾……! 人の体になんて物を……って、うん? 爆弾って、アインの心臓の横にある紫色のあれかな?
「これを取り外してもらえる条件が、指令を達成する事。後はその研究次第で、成果が出れば僕達を自由にしてくれるって約束してくれたんだ」
「それを守る保証はあんのかよ……」
「守らないかもしれないね。だけど……僕達に選択肢は無かったんだよ……」
うーん。確証はないんだけど……ここには美鈴さんもいるしなぁ。よし!
「美鈴さん、ちょっと良い?」
「う、うん? どしたの玲央?」
「ちょっとお耳を拝借」
「あひゃ! こしょばいんだけど! ……うん、うん? それなら出来るよ?」
「やった! なら頼みます!」
「よく分からないけど、了解! えっと、そこよね? 『プロテクション』!」
「えっ!?」
美鈴さんに頼んで、アインの心臓の横にある紫色の塊を、防護結界で包んでもらう。
「アイン、これからする事を黙って見ていて欲しい」
「!! うん!」
「ありがとう。烈火、美鈴さんの結界の中に炎を届かせられる?」
「結界を破るんじゃなく、中に届かせりゃ良いんだな?」
「うん。弱くで良いよ」
「オーケー。美樹也の氷をかいくぐる為に編み出したスキルだけどよ、まさかもう玲央にバレてるたぁな。ま、良いか! 行くぜ! 『フレイムペネトレイト』!」
「っ……」
「大丈夫アイン。美鈴さんの結界は超強力だから!」
「まっかせなさいっ! 極大魔法だって防御してみせるわよ!」
そう、美鈴さんはゲーム内で最強の支援職かつ、結界師なのである。
防御魔法に関して右に出る者はいないのだ。
それで、アインの中にある罠を包んでもらった。
そして後は、烈火の力で誘爆させる。
「え……」
「ふぅ……上手くいったかな」
アインの横にあった紫色のトラップは発動した。
そして、アインを傷つける事無く、結界に防がれ消滅。
やはりあれがアインに仕掛けられた爆弾だったか。
「えっ……と、も、もしかして……」
「うん。美鈴さんと烈火の力で、爆弾壊してもらったよ」
「なっ……!?」
「「「ええええっ!?」」」
あれ、なんで烈火と美鈴さんまで驚いてるの?
「ちょっと榊君? もう訳が分からないから、一から説明してくれる? お願いだから!」
「そうだぜ玲央! 俺はなんで今スキル使わされたんだ!?」
「そうよ玲央! 説明しなさい!」
「あ、うん。えっとね」
それから、アインの心臓の横に爆弾を見つけた事、それを取り除くために美鈴さんに結界を頼んでアインに罠が届かないようにしてもらい、烈火の力で罠を強制的に発動させた事を話した。
「「「「はぁぁぁぁ……」」」」
アイン含めて、皆にため息をつかれた。な、何故。
「良い、榊君。正座」
「は、はい」
「あのね、榊君が凄い事は認める。その慧眼も、戦略も、思考の深さも、その全てが凄いと認めてる」
「あ、ありがとうございます」
「褒めてはいるけど、今は褒めてないの! やるなら! ちゃんと! 事前に! 説明してから! やりなさい!!」
「は、はいっ! ごめんなさいっ!」
「もう! こっちは驚かされてばかりで困るんだからね!」
「そうだぜ玲央! こればっかりはリーシャさんが正しいぞ!」
「ほんとよ! つい言われた通りにやっちゃったけど、もし結界が破られたらどうするつもりだったのよ!?」
「え? そんなのあり得ないから大丈夫だよ。美鈴さんの結界だよ?」
「んなっ……!?」
「それに、烈火には弱くで良いって言ったから、力のコントロールを烈火がミスるわけないし……」
「んぐっ……!?」
「もう……榊君、その信頼による褒め殺しは卑怯なのよ……轟君も百目鬼さんも、言葉にならなくなってるでしょ……」
「……(///)」
「え……?」
「あはは……榊君はそれが素なんだよね……。榊君、僕は、いや僕達は……榊君に命を救われた。本当にありがとう。ほらツヴァイ」
「チッ……まァ、なンだ。アリガトよ。奴らから解放してくれた事にゃァ、礼を言う。この借りは、ちゃンと返すカラよ」
一瞬だけ最初に出会った姿に戻ったツヴァイさんは、またすぐにアインに戻った。
「あはは、気を悪くしないでね。ツヴァイも照れてるだけだから」
「(照れてネェ! ふかしてンじゃねぇぞアインッ!)」
「(僕に隠したって無駄だよツヴァイ。嬉しいの伝わってくるからね。逆に僕の気持ちだって、伝わってるでしょ?)」
「(チッ……!)」
でも良かった、烈火や美鈴さんのお陰で簡単に解決できた。
いや、まだ解決すべき事は残ってるな。
「リーシャさん」
「はいはい、今度は何をすればいいの?」
「藤堂先生を呼んで欲しい」
「!! そう、分かったわ」
俺の意を汲んでくれたリーシャさんは、すぐに藤堂先生へ電話を掛けてくれる。
さぁ、今度はこっちから仕掛けさせてもらおう。
アインやツヴァイさん、そしてドライさんが受けた仕打ち……万倍にして返してやる。
お読み頂きありがとうございます。
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