32話.モブの班行動①
教室に戻った俺とリーシャさんの元へ、アインさんと水無瀬さんがすぐにやってきた。
「やぁ。藤堂先生用事はなんだったの?」
「あー、うん。ちょっとね」
「あ、言えない感じかな。それは仕方ないね。それより、今日の午後からなんだけど、新しく班が出来た事だし、皆で一緒に人工ダンジョンを周るのはどうかな? 今日から解禁された箇所が複数あるんだって。あ、榊君ならすでに知ってるだろうけど」
何故かやたらとグイグイくるアインさんに戸惑う。
いや、普通の事しか言っていない気はするのだけど、藤堂先生から言われた事で気にしすぎているのかもしれないな、気を付けないと。
「そうだね。皆がそれで良ければ、そうしようか」
「ええ。私は構わないわよ。班の練度を上げるのは必要だと思うわ」
「あ、あ。俺、も、アイン殿と、すでに話して、たから……問題、ない」
「そっか、なら決まりだね」
「そうこなくちゃ!」
「それで、どのダンジョンに行きたいとか希望はある?」
周りに聞き耳を立てると皆ダンジョンに行く話題をしているので、不自然な事はない。
だけど、アインさんに何か思惑があるのなら、ここで指定してくるかもしれないからね。
様子見だ。
「あ、それならさ! お昼休憩でホームページ内を色々確認してて、気になるダンジョンがあったんだよね。えっと……これこれ!」
スマホを操作し、画面を見せてくる。
そこには人工ダンジョン紹介の簡単な地図と、その傾向が書かれていた。
「『歪の洞窟』……罠が沢山仕掛けられているダンジョンで、試練難易度はCか」
ちなみに、チュートリアルダンジョンというか、午前中に攻略した『嘆きの洞窟』はFである。
モンスターの強さにはそれ程差はないけれど、罠の凶悪さで難易度が上がっているタイプのダンジョンだね。
「榊君なら罠が見えるんでしょ? ならこのダンジョンクリアは簡単そうじゃない? 早期クリア報酬の班ポイントは沢山貰えるみたいだから、一気にクラス内順位を上げるチャンスだと思うんだ!」
成程……確かにそれは大きい。
人工ダンジョンはクリア者の時間と順位が10位まで入り口に表記されている。
クリアだけでもクラス内ポイントは加算されるが、記録を更新する事でも大きくポイントが加算されるのだ。
これは学年別なので、一年生は今誰も記録がない状態という事。
そこで一位になれば、かなりのポイントが期待できるのだ。
二年生以上だとソロも中には居て、単独で最速記録を更新し続けているような猛者も居るんだよね。
特に三年生のあの方は、ソロでずっと人工ダンジョンを攻略し続けている。
烈火で記録を更新するのを続けると、イベント発生で絡みが発生するんだ。
まぁ今回は直接関係する事もないだろうけど、烈火と絡んでるシーンは見たいなぁ。
あの先輩、三年生で実力もトップクラスなのに来年も残ると公言している変人として知られている。
理由を知っている身としては、変人という言葉はあれなんだけど。
その理由は人工ダンジョンで超低確率で手に入る、あるアイテムを手に入れる為。
まぁ王道だけど、不治の病を患っている妹を助ける為に人工ダンジョンを周りまくっているのだ。
そのアイテムを手に入れて、先輩に渡すと妹と一緒に仲間になってくれるんだよね。
この二人もまた、とんでもなく強いので是非とも仲間にし……
「ちょっと待って。どうして榊君が罠が見えると知っているの?」
「「!!」」
考え事をしていたら、リーシャさんの言葉で思考が切り替わった。
当たり前に聞き流していたけど、リーシャさんの言う通りだ。
俺の"魔眼"については、一部の人達を除いて知られていない。
アインさんが知っているのは不自然だ。
そう思って彼の顔を見ると、苦笑しながら言った。
「あ、ごめんね。実は僕、"邪眼"っていう力を持ってるんだ。僕の眼を見ててね……ン……!」
「「!!」」
アインさんの眼が、黒色から赤色へと変化する。
これは強化型"魔眼"の特徴だっ!
「見てくれたかな? それじゃ解くね。……ふぅ。この"邪眼"について調べてるうちにね、"魔眼"についても知る機会があって。後は感覚的に分かるって言うのかな……こればかりは言葉で伝えるのは難しくて……でも、証明になったかな……?」
「そう、ね。疑って悪かったわ」
表面上はポーカーフェイスだけど、流石のリーシャさんも驚いているのは分かる。
確か"邪眼"は"魔眼"の亜種で、魔王直属の部隊が研究していた。
しかしある人物が(藤堂先生である)研究本部を壊滅させ、実験は中止。
以降行われる事はなかったと公式に情報が載っていたのを思い出す。
もしかしてアインさんは、その被験者なのでは?
「ううん。まぁ"邪眼"なんて言っても、魔力の消費が大きすぎて30秒くらいしか持たないし、制御が上手く出来なくて。肉体的強さは数十倍になるとはいえ……使いどころのない力だよね。あはは……」
「そんな事はないよアインさん! 逆だよ! 使いどころのある、まさに切り札な能力じゃないか!」
「え……?」
「力を一気に跳ね上げられるんだよね? それこそが、ここぞという時に使える力じゃないか! 凄いよアインさん!」
「榊君……。あはは、ありがとう。この力の事を話したのは、実は皆が初めてなんだけど……そう言って貰えると自信がつくよ」
凄く良い笑顔でそう言ってくれるアインさん。
え、この人(?)、敵なんですよね?
この笑顔の裏で漆黒の笑みを浮かべた演技とかしてるなら、強敵すぎるんですけど?
なんで隠すべき秘密である"邪眼"についてをポンと話してくれたのか。
いくら失言からの弁明と言っても、これほどの切り札足りえる能力をおいそれと話すだろうか?
ただの馬鹿ならともかく。
「榊、殿。どうされ、ますか?」
「水無瀬さん……そうだね、それじゃ『歪の洞窟』に行ってみようか」
「そうこなくちゃ!」
「分かり、ました。頑張り、ます!」
「……そうね。とりあえずは、そうしましょうか榊君」
リーシャさんは警戒を緩めていないようだ。
俺もアインさんの事が全く分からない。
班行動をするうちに、分かってくるのだろうか。
お読み頂きありがとうございます。
今話書いている時にパソコンの背後が真っ暗になり、保存して再起動したら、保存されてなくて書き直しになりましたorz
同じ内容になんとかまとめたのですが、最初に書いていた為に記憶違いで少し内容が抜けてたりするかもしれません。
その場合、見直して都度修正しておきますので、読み直した時に、あれ? こんな文あったっけ? と思われたら、修正追加したんだなって思って頂ければ幸いです。




