31話.モブは新たな依頼を受ける
俺達の班の後、皆次々と入って行ったのだが……
「なんだあの罠、死ぬぞ……」
「どこに先に進む道あるのぉ!?」
「あのゴブリン、嬉々として襲ってくるんだけど……しかも背後から……あんなん無理だって……」
等々、皆途中で引き返してきた。
「分かるか榊。こうなるんだ普通」
「なんで俺に向かって言うんです藤堂先生」
「はは、それはな。……お前ら! 能力を鍛えるのも大事だがな、周りをよく見て観察する力が大事なのはこれで分かったろ! 後は情報だ。このダンジョンはな、ヴァルハラの公式ホームページから生徒は詳細を見る事が出来る。つまり、事前に調べてさえおけば、対応できたって事だ!」
「「「「「!?」」」」」
「「「あ……」」」
『まぁ簡単なダンジョンだからね。全部頭に入ってるし、この先も余裕だよ。ボスをさっさと倒して、新記録出すのも面白そうだよね!』
「(そういう、事か。だから榊君はあの時、全部頭に入っている、と……)」
「(成程……榊君はしっかり下調べをして、努力した結果なのね。なのに私ったら榊君の"魔眼"の力だろうと……自分の至らなさに恥ずかしくなるわね……)』
「(優秀なのは、その努力故か。榊殿は凄い方だ。俺も、頑張らないと)』※心の中では饒舌
藤堂先生が片目をパチッとウインクしてくる。
いやあの、何ナイスフォローだろ感出してるんですか!
しかも俺、そのホームページの存在今知ったんですけど!?
だってスマホ触れなかったし、この世界のネット関係は全然見た事ないんですってば!
……帰ったら確認しとこう。
「ちなみにこのダンジョンに挑めるのは今月だけだからな。挑戦を繰り返すなら午後は頑張るこった」
「「「「「!!」」」」」
なんと、そんな制限があるのか。
ゲームだとずっと挑めたけど……現実では維持とかそういうのが大変だったりするのかな。
「さて、そろそろ午後になるし、今日はこれで解散だ。自分達がいかに準備不足か、鍛錬が足りていないか体感したな? あー、まぁ一部違うチームがいるせいで締まらねぇが、これを伝える為に連れてきたんだ。本来、まだ入学したてで初めての攻略、クリアできる方がおかしいんだ」
「「「「「……」」」」」
皆の視線が突き刺さる。
ごめんなさい、そんな意図があったなんて知らなくて、最短記録挑戦してやるぜ! くらいの気持ちでした。
ほんとすみません。
「ククッ……まぁ咎めてるわけじゃねぇぞ榊。お前の情報通ってのが武器だって最初に言っただろ? それが証明されたなってこった」
「!!」
「そんじゃ、解散! この後班ごとに親睦を深める奴も多いだろうが……すまんが、榊とリーシャは借りて行くぜ」
「あ、はい。異存ありません藤堂先生」
「は、い」
アインさんと水無瀬さんが承諾し、俺とリーシャさんは藤堂先生の後に続く。
毎日のように連行されてる気がするんだけどなぁ。
「よし、適当に座れ。このメンツで気を張る必要もねぇし、気楽にさせてもらうぜ?」
「もう藤堂先生。今はヴァルハラの講師の時間ですよ?」
「良いじゃねぇか、ここにはお前と玲央しかいねぇんだしよ」
なんか俺も普通に入れられてて感動である。
「あの、リーシャさんは分かるんですけど、なんで俺まで? あ、不満があるとかじゃないですよ?」
そう、本当に不満なんてない。むしろ光栄で幸せである。
あの大英雄、藤堂誠也に親しみを持たれるとか、一般モブにはありえない幸運だと思うんだよね。
「あン? そんなもん、一緒に昼飯でも食おうかと思っただけだ」
「え」
「藤堂先生っ! 職権乱用甚だしいですよ!?」
「なんだよリーシャ、嬉しいだろ?」
「それはっ……否定は、しませんけど」
「ガハハッ! だよなぁ! 玲央と一緒に食えるもんな!」
「なっ……! ち、違います! それに藤堂先生と一緒じゃなくても、榊君とは食べれますから!」
え、そうなの? これからも学食で一緒に食べてくれるつもりだった事に歓喜で小躍りしそう。
「ほれ見ろリーシャ、玲央が意外そうな顔してんじゃねぇか」
「え? その、これからも榊君と一緒に昼食を取るつもりだったんだけど……もしかして、他の予定だった……?」
「いやいやいや!! 違うよ!? 俺はリーシャさんさえ良ければ、ずっと一緒に食べたいくらいだよ!?」
「!! そ、そう。良かった」
「ぶははははっ! お前ら青春してんなぁ。よし、昼飯は俺が奢ってやる! 好きなもん頼め!」
「元々は藤堂先生が呼んだんでしょう! 私は月見バーガーセットにします」
「あ、俺は前回藤堂先生が注文してたうな重で。今日はお腹特にすいたんで、がっつり食いたいんですよね」
「おう! 分かってんじゃねぇか玲央! 特盛頼んでやるよ!」
「!! ……えっと、やっぱり私もうな重にしてみようかしら。並みで良いので」
「ガハハハ!! おう、分かった。注文してくっから、のんびりしとけ。飲みもんはどうする?」
「私はお茶で」
「あ、俺も冷えた麦茶が良いです! やっぱりご飯にはお茶が合うので!」
「分かってんな玲央! 冷蔵庫に茶は入ってるから、注文する必要はねぇな。好きに飲んでて良いぜ」
そう言って藤堂先生は部屋を出て行った。
ここ、『表彰部屋』なのにくつろぎ空間になってるのなんで。
気にしたら負けかな。
冷蔵庫に向かい、近くの棚にあるコップを三つ用意する。
「リーシャさんも麦茶で良い?」
「あ、うん。悪いわ、自分で入れるわよ」
「良いから良いから。自分の分も二人追加も変わんないよ、座ってて」
「そ、そう? ありがとう榊君」
棚を見るとでっかいビールジョッキがある。
これ絶対藤堂先生のだろ。
それからは目をそらして、三人分お茶を注いでテーブルへ。
「どうぞ」
「ありがとう」
ふぅ、美味い。
深い底の鍋があったので水と氷を入れて、そこに麦茶の容器を入れて冷えるようにして、テーブルの端に置いておく。
これで冷蔵庫に取りに行かなくても冷たいお茶が飲める。
「て、手慣れてるわね榊君」
「あ、つい。勝手にしたら不味かったかな……」
「いいえ、どうせ藤堂先生の私室みたいなものだからここ。そう言ってたわ」
そうなんだ。ゲームではそんな話なかったけど、色々と違う所はあるね。
「おし、届いたぜ! 食うか!」
「うわ、ごっつい量ですね!?」
「だろう? 俺のいきつけのとこでよぉ。贔屓してくれてんだよな」
「ご飯が、見えないわね……」
リーシャさんの言う通り、うなぎでご飯が見えない。
そして入れ物が深い。
とんでもない量である。
これは並みで良かったかもしれない……。
「よし、食うかっ!」
「「いただきます」」
手を合わせて、うなぎを一口。
ぐっほぅ! う、うまぁぁぁぁいっ!!
「なにこれ、美味しいっ……」
「だろぉ!?」
「なんで藤堂先生が威張るんですか」
「俺のお勧めの店だからよ!」
「いやほんと、滅茶苦茶美味しいですねこれ。うなぎもしっかりと肉がついてるし、タレが凄い美味しい。今まで食べてきたうなぎはあれですね、アナゴでした」
「ガハハハッ! さ、遠慮なく食え! ってなんだ、麦茶を冷やしてくれてたのか」
「すみません、勝手に」
「いや良いってことよ! 誰もなんも言わねぇからよ! 俺が許す!」
藤堂先生のお墨付きなら大丈夫だね。
烈火達がどうしてるか気にはなるけど、とりあえずうなぎを頂こう!
「「ごちそうさまでした」」
「おう、お粗末さん」
先に食べ終えていた藤堂先生がそう言ってくれる。
「あ、器片づけますね」
「待って。それくらいは私がするから、榊君は座ってて」
「そ、そう? ありがとう」
「ブハッ! お前ら夫婦かよ! 式には呼んでくれよな?」
「「!?」」
「もう! 藤堂先生ッ!!」
成程、リーシャさんはこうやってずっと弄られているわけか。
あのデバフを掛けた状態の戦いの前、目が笑っていないリーシャさんの姿も納得である。
とても心臓に悪いです。
「さて、腹も膨れた事だし、話をしようか玲央」
「!!」
「あー、硬くならなくて良い。別に悪い話じゃねぇ……というか、お前にとっては悪い話になるか……」
「俺にとっては悪い話?」
「ああ。お前の班に入れた、アイン・クトゥルフについてだ」
「!?」
「あいつはな、普通の人間じゃねぇ」
「え?」
アイン・クトゥルフなんてサブキャラクターは、ゲームでは居なかった。
だから、能力測定でもモブの一人として能力値は把握しておいたけど、特別気にはしていなかったのだけど。
勿論、水無瀬 剛毅なんてサブキャラクターも居なかった。
「魔族、つーのも違う。あいつはな、人造人間……ホムンクルスって奴だ」
「!!」
「どういう事ですか?」
器を片づけたリーシャさんが戻ってきて隣に座り、話に加わる。
「つまりだ。魔王が送り込んできた刺客ってこった」
「「!?」」
「そのまま俺が処分しても良かったんだが……現状、魔王の情報を知る手段が限られ過ぎていてな。国防軍としては、魔王の情報を得たい。そこで白羽の矢がたったのがお前だ、玲央」
「お、俺?」
「ああ。お前の力はあのローガンが愛弟子にするくれぇだ。危険はあるが、任せて良いと判断した」
「つまり、目的が判明するまで泳がせる、と?」
「ま、要約するとそんな感じだ」
「榊君が危険です。今すぐ処分するべきです。なんなら私が今すぐ……」
「落ち着けリーシャ。こうなる事が分かってたから、玲央も呼んだんだよ」
「でも……!」
「リーシャさん、大丈夫だと思う。ありがとう」
「大丈夫って……」
「根拠は少しあるんだ。もし命を狙ってるなら、これまでに何度もチャンスがあったはずだし。という事は、なんらかの目的があって、今は大人しくしてるって事だから」
少し落ち着いてくれたリーシャさんは、立ち上がっていたのを座りなおしてくれた。
話を聞く気になってくれたんだろう。
俺の心配をしてくれているのだから、感謝と嬉しさでいっぱいだ。
「ま、そういうこった。だが……ここからは俺の独断だ。もしお前が嫌なら、言え。お前のような理想の生徒が、こんな事で失われるなんてこたぁあっちゃならねぇ。そん時は、俺がなんとかしてやる」
「藤堂先生……」
藤堂先生程の人が、ここまで言ってくれるなんて。
軍の命令と藤堂先生の考えで、俺に寄り添った道を選んでくれたんだ。
なら俺は……藤堂先生の、話しても良いと考えてくれた信頼に、応えたい。
「……やります」
「榊君!?」
「やらせてください。俺にしか出来ない事だと思うんです」
「分かった。こっちから最大限の配慮はする。だが、無茶はするな。良いな?」
「はい、藤堂先生」
「っ……! 藤堂先生、なら……」
「あー、わぁってるよ。だから同じ班にしたんだろ。ローガンからも言われてるだろうが、俺からもだ。玲央を守ってやれ」
「!! はい、必ず!」
こんなに嬉しい事があって良いのだろうか。
自分が狙われているかもしれないのに、感動してしまう。
「あ、藤堂先生。ロイヤルガードの皆には、この事を話しても大丈夫ですか?」
「ああ。その判断はキングのお前がしろ。俺がするのは、お前に伝える事だけだ。これからもな」
「!!」
つまり、俺の采配でこれからも好きにして良いと、言ってくれたって事か。
「ありがとうございます、藤堂先生」
「それはこっちのセリフだ。表立ってこっちから動けば取り逃がす可能性もある。十分に気をつけろ。……あー、後、だな」
「「?」」
「懐柔できそうなら、して構わんからな?」
「「!!」」
それはつまり。命を奪う必要はないと言ってくれているわけで。
「……分かりました。ありがとうございます藤堂先生」
「おう。そんじゃ、解散だ。午後は各自鍛錬の時間だが、今日は班行動する奴が多いだろう。お前らもそうしろ」
「早速仕事開始って事ですね」
「敵と分かっていながら、今まで通りに振舞うのって難しそうね」
「そこはちゃんとやれよリーシャ。お前なら出来ると思ってっから話してんだぞ?」
「分かってますよ」
「玲央はまぁ、心配いらねぇだろうが……それでもお前も人間だからな。……人間だよな?」
「なんでそこで疑問符がつくんです!? 人間に決まってるじゃないですか!?」
「ふふっ……!」
「ガハハ! すまんすまん。お前は俺の予想をいつも上回ってくるからな。今回も期待してんぜ?」
肩をバンバンと叩いて、部屋から去って行く藤堂先生。
さて、俺達も教室に戻ろう。
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