29話.モブの班分け
ピコンッ
通知音と共に、画面が光る。
寝ぼけ頭のままスマホを手に取ると、通知が一件。
『リーシャからメッセージが届いています』
目が一気に冴えて、通知をタップして開く。
ライムという会話が出来るアプリ。
前世ではラインだったので、少しだけ違うようだ。
なんか炭酸飲料みたいな名前だよね……そりゃラムネか。
リーシャ:おはよう榊君。まだ寝ていて起こしてしまったならごめんなさい。今日はどれくらいの時間に行ったら邪魔にならないか、聞いておこうと思って。昨日のうちに聞いておけばよかったわよね、ごめんなさい。
と来ていた。
俺はすぐに返信する。
玲央:おはようございますリーシャさん。今丁度起きました。時間はいつでも良いですよ、咲も拓も気にしないと思います。遅くなっても待ってますよ。
送信、と。すると、一秒もしないうちに既読マークがついた。
え、ずっと開いて待っててくれたんだろうか?
ダメだ、そんなわけないのに顔がにやけてしまう。
リーシャ:もう、また敬語。分かったわ、適当な時間で行くわね。
そしてすぐに返信が来た。
なにこれ、文通……!
いや違う、そうじゃない。
玲央:了解です。じゃなくて、了解
送信っと。
リーシャ:そこは送信する前に直して良いのよ?
それもそうだ。
さて、まだ時間に余裕はあるけど、準備するとしますか。
学校に着いて、席に座ったと同時。
「おぉーい玲央ぉぉっ!!」
「玲央ー! 大活躍だったそうじゃない!?」
烈火と美鈴さんが猛ダッシュで席に近づいてきた。
うん、登校時間大体同じなのかな?
「どこでそれを……あ、いや、分かるけど」
「フ……当然俺と」
「私が話しました」
ドヤァって顔で、烈火と美鈴さんの後ろから少し遅れて出てきた。
美樹也と西園寺さんである。
「おはよう二人とも。うん、大体予想してたよ」
世間に公表しないでとは言ったけど、仲間に言わないでとまで口止めしなかったもんね。
「大活躍だったそうじゃねぇかっ! くぅ~! 俺もその場に居たらなぁ!」
「阿呆。お前が居たら爆弾が爆発するのを早める」
「そ、そんな事ねぇよ!?」
「いやー、馬鹿烈火ならありえる。玲央の言う事聞かずに暴走しそう」
「なっ!? そ、そんな事ねぇよな玲央!?」
「うん。烈火はそんな事しないよ。ちゃんと指示に従ってくれると思う」
「玲央ぉぉっ! 聞いたかお前ら! 玲央だけだぜ俺を信じてくれるのはよぉ!」
「玲央さんは烈火君に甘いと思いますよ?」
「そんな事はないと思うけど……」
西園寺さんにまで突っ込まれた。まぁ、皆烈火をからかって弄ってるんだよね。
心では皆烈火を信じてるのを知ってる。
あったかい空気に顔が綻んでしまう。
「ふふ、榊君は本当に皆と居る時の顔、幸せそうね」
「うぇ!?」
「お、リーシャさん。はよっす!」
「おはよっ! リーシャさん!」
「二日前は助かったぞ」
「ええ、リーシャさんが知らせてくれたお蔭で、少しですが力になれました」
「おはよう皆。それこそ、榊君の指示があったからよ。私だけだったなら、何も出来なかったわ」
「「「「さす玲央!」」」」
「いや、皆してなんなのその略称は。普通に恥ずかしいのでやめてください、いや本当にね!」
「「「「「あはははっ!!」」」」」
そんな話をしていたら、藤堂先生がやってきた。
「おーい、全員席につけー。お前らはもう言う気も起きんが、さっさと戻りやがれ」
「「「「はい!」」」」
皆それぞれ別れの言葉を言って、クラスへ戻っていく。
リーシャさんは席に戻るだけだからか、ちょっと笑ってた。
そういえば、スマホの連絡先を皆と交換出来なかったな。
今日は無理だろうから、明日また話そうかな。
「ったく。さて、休日はゆっくり休めたか? 一部の奴らは大活躍してたみてぇだが、他の奴らは概ね平穏無事に過ごしたことだろうと思う」
はは、やっぱり藤堂先生には話が行ってますよね。
「最初の一週間で、少しはヴァルハラにも慣れただろう。だが、ここからが本番だぞ? 気を引き締めるように。まず最初に、能力測定の結果からクラスの班決めを行う」
「「「「「!!」」」」」
一気にクラス内が騒がしくなった。
俺としては、ついにきたかって感じである。
モブの俺が誰と組む事になるのか、予測がつかないけれど。
「あー、静かにしろ。……よし。班は四人一組。そしてこれは、今後行われる学年対抗戦、クラス対抗戦に出場するメンバーとなる」
「「「「「!?」」」」」
「クラス内での順位争奪戦の結果次第でクラス対抗戦の出場メンバーを決め、その優勝チームが学年対抗戦に出場する事になるからな。学年対抗戦は軍部のえれぇ奴らも見に来る。気張れよ?」
静かになったクラスが、また再度盛り上がる。
まずはE組のクラス内対抗戦で順位を上げて、クラス一位がクラス対抗戦、AからFクラスまでの6クラスと総当たり戦を行う事になる。
トーナメント方式ではなく、総当たり戦だ。
日は分けて行われる為に消耗は考えなくて良く、全力で毎回戦える。
そうしてクラス対抗戦で最も良い戦績を出したチームが、学年対抗戦に出場する事となる。
ゲームでは烈火視点だったので、西園寺さん、あとサブキャラクターの二人を選ぶ事が出来たけれど……今回は完全に学校側が選ぶもんね。
「ちなみにだが、このチーム内のメンバーは入れ替わる可能性がある。戦いぶりを考慮して、こっちで指定すっからな。怠けてたら落ちて行くぜ?」
「「「「「!!」」」」」
うは、初週で訓練せずに帰っていた人達への激励だなこれは。
何の為にヴァルハラに来たんだって話になるもんね。
まぁ俺も他人事じゃないけど。
「さて、それじゃ早速チームを発表していくぞ。まず一チーム目……」
そうして次々と名前が呼ばれていく。
……あれ、俺全然呼ばれないな。
「最後の班だ。リーシャ・エーデルハイト、アイン・クトゥルフ、水無瀬 剛毅、そして……榊 玲央。以上の班分けとする。今日は班行動をメインで動いてもらうからな、一限目は好きに親睦を深めると良い。俺は座ってるから、何か質問があれば来い」
そう言って、窓際に椅子を持っていき、ドカッと座る藤堂先生。
うーん、相変わらず豪快だ。
しかしまさか、リーシャさんと組めるとは。
絶対これ藤堂先生の思惑だよね。
とりあえず、リーシャさんの所へ向かおう……と思ったら、すでに三人が俺の元へと集まっていた。
「やっ。榊君。こうして話せて嬉しいよ。僕はアイン・クトゥルフ。いつも凄い人達に囲まれてて、話しかけられなかったんだよね」
「……俺、は……水無瀬 剛毅。話すのが、苦手、なんだ。だけど……指示には、従う、から、よろしく、頼む」
「あら、二人とももう榊君が指揮官だって認めてるのね?」
「はは、それは勿論だよリーシャ様。競技場での抜群の指揮、見ていなかった人は少ないんじゃないかな」
「あ、あ。俺、も、見た。榊、殿なら……任せられると、思った」
「ふふっ。そうよね。あと、私に様は要らないから。少なくとも班が一緒の間はね」
「そ、そう? なら、そうさせてもらうね。あ、僕も剣士なんだけど、リーシャさん程の腕前はないからね」
「俺、は。タンク、だ。硬い、から。良いように、使って、ほしい」
おー、剣士が二人にタンクが一人。
支援の俺で見事に前衛が偏ってるな。
リーシャさんは魔法も超一流だけど……剣の腕前を腐らせるのは勿体ないよなぁ。
うん……良し。
「なら、前衛はアインさんと水無瀬さん。中衛にリーシャさんで、後衛が俺って形はどう?」
「あ、僕の事はアインと呼び捨てて良いよ榊君。指示飛ばす時だって、短い方が良いでしょ?」
「俺も、剛毅、と」
「あ、確かにそうよね。普段の時はともかく、チームとして戦う時、指揮官は呼び捨てた方が良いわよ榊君」
「な、成程。分かったよ。なら、戦いの時、指示する時は呼び捨てるね」
確かに他のゲームでも、指揮官は短い呼称で呼んでいる気がする。
伝える速度を少しでも上げる為だと思う。
「それで、少し疑問なんだけど。リーシャさんを中衛にするのは何故だい? 明らかに僕より前衛が向いてるよね?」
「そこは否定しないよ。だけど、アインさんは力も速度も平均的に高かったよね。なら、そこらの前衛には負けないと思うんだ。リーシャさんは魔法だって超一流だから、中衛に配置して敵の魔法にも対処してもらいたいんだ」
「「「!!」」」
「その上で、リーシャさんには遊撃の立場になってもらいたい。基本的に自分の意志で動いて貰っていいよ。下手に俺が指示を出すより、リーシャさんなら適切な行動が取れるだろうから。何かして欲しい事があれば、こちらから指示も出すよ」
「なる、ほど……」
「それは確かに……それが一番良いね。流石は榊君だ」
「了解よ榊君。中々バランスの良いチームになったかもしれないわね」
「あはは。いや、リーシャさんと榊君と組めたら、どんな人が来てもそうなると思うよ僕。うん、僕頑張るよ!」
「そう、だな。俺も、残れるように、頑張り、ます……!」
同じクラスなのに初めて話したけれど、気の良い人達で一安心だ。
それから少しの間雑談していると、
「よーしお前ら、大体話は終わったな? そのまま班でついてこい。ダンジョンに行くぞ」
「「「「「!?」」」」」
きたきた、最初の人工ダンジョン!
烈火の時とは違う場所になるんだろうけど、楽しみだ!
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