28話.モブのルーチンワーク
AM4:00
まだほんのり薄暗く、かといって真っ暗ではない早朝。
日曜日の今日は、皆お休みである。
昨日帰ってきた両親とリーシャさんの帰りがバッタリと出会い、ひと騒動あった。
両親までこの子をお願いしますとか訳の分からない事を言うもんだから、リーシャさんが終始困っていた。
そりゃそうだ、仲良くしてる人の家族にそんな事言われたら誰だってそうなる。
リーシャさんを送る時に、ちゃんと謝っておいた。
何故かリーシャさんの頬が膨らんだけれど。
可愛いので指摘はしなかった。
スマホは相変わらず"魔眼"をオンにすると起動すらしなくなるけど、オフ時はちゃんと使える。
周りのスマホも俺が視線を当てると同じように機能不全を起こす事が判明したので、できるだけオン時は視界に入れないようにしないとだ。
俺の"魔眼"には魔力遮断の効果があるようだから。
パッシブ効果とは別で、これは発動時だけ起こる効果のようだ。
微弱な魔力しか遮断はできないようだけれど、スマホに使われている程度のものなら遮断してしまうみたいだ。
昨日四人で遊んでいる中で、色々と試して分かった事。
「よし、こんなものかな」
家族全員の朝食を用意し、テーブルに並べておく。
両親も今日は休みで、多分昼まで寝ているだろうけど。
ラップをしておいたから、起きた時にレンジでチンしてくれたら良いからね。
「いってきます」
静かに扉を閉めて、外に出る。
早朝の空気は少しひんやりしていて、気持ち良い。
モブな俺だからこそ、体力作りは欠かさない。
朝のランニングもその一つ。
朝出来ない時は夜にしてるけど、ヴァルハラの訓練で遅くなって出来ない時があったからなぁ。
「はっ……はっ……」
「あら玲央君、今日もせいが出るわね」
「あ、おばさん! おはようございます!」
「いつも元気ねぇ玲央君は。ランニング頑張ってね」
「はいっ!」
幼い頃から毎日続けてる事もあって、声を掛けてくれる人も結構いる。
犬の散歩をしている人や、朝の散歩を楽しんでいる人。
特に土日は顕著に人の数が増える。
「あれ……?」
いつものルートを走っていると、猫がうずくまって動いていないのを発見する。
「にゃー……」
近づいても逃げない。
これは……足を怪我しているのか。
幸い軽い怪我のようだし……
「ちょっと待っていてくれな」
俺は近くのコンビニへと走る。
バスタオルと水を購入して、元の場所へ。
よし、まだ居た。
「よしよし……良い子だな」
バスタオルで優しく包んであげてから、傷口を水で流す。
「にゃ……」
「しみるか、ごめんな。でもばい菌が入ったら困るからな……我慢してくれな」
「にゃぁ……」
言っている事は多分伝わっていないだろうけれど、それでも動くことなく、身を任せてくれていた。
「これでキレイになったかな。歩けるか……?」
「にゃあん」
先ほどまで微動だにしなかった猫が、ゆっくりと立ち上がる。
根本的な治療は出来ていないけれど……良かった。
そもそもそこまで深い傷ではなかったから、ただ単に休んでいただけかもしれない。
「それじゃ、俺はこれで行くね。猫同士の喧嘩かもしれないけど、無茶しないようにな? ばいばい」
そうして、元のランニングルートへと戻る。
俺が走り去った後、猫が人型の姿に成っていた事など知る由もなく。
「あれが榊 玲央か。……優しい人間だったな。大抵の者は、あの姿の私を見ても素通りだったのに。……もう少し、探りを入れてみるか」
そうしてまた猫の姿を取る。
『魔王』……ニグルメウム・メルギトス・マカロンであった。
「ただいま~っと」
静かに扉を開けて、家の中に入る。
まだ家族は寝ているだろうからね。
そう思って部屋に入ると、
「おにいおはょぅ~」
「はよっ兄貴! あぁ姉貴! 頭を動かすなって言ってるだろ!?」
「お帰り、おはよう玲央。走ってきたんだね。起こしてくれたら一緒に走ったのに。最近運動不足でね……」
「おはよう。お帰りなさい玲央。ご飯の用意、ありがとうね。感謝感謝よもう」
父さんに母さん、咲と拓が起きてテーブルに座っていた。
それに、用意した朝食に手を付けていない。
「おはよう皆。先に食べててくれて良かったのに」
「そんな事~できるわけないでしょ~おにい~」
「姉貴、寝ぼけ頭でもそれは言えるんだよな……。まぁそういうこった兄貴!」
「そうだぞ玲央。早起きをして朝食を準備してくれて、体力づくりの為に走りに行く……そんな玲央を置いて先に食べるなんて出来るわけがないだろう」
「そうそう。それに、どうせ食べるなら一緒が良いじゃない。さ、手を洗ってうがいして、一緒に食べましょ玲央」
「……うん!」
何度でも言うけど、俺は家族が大好きだ。
今日もまた、ゆったりとした休日の時間が過ぎて行くだろうけど……それで良い。
モブの休日なんてそんなものだ。
主人公達のように毎日イベントが起こっていたら身が持たないからね!
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