27話.モブの謝罪
西園寺さんとリーシャさんと合流し、処置を施した爆弾は西園寺さんのSP達が処理してくれる事になった。
西園寺さんからは重ねてお礼を言われ、この事を世間に公表したいと言われたが、断った。
「何故ですか玲央さん。今回の事、多くの命を救ったのですよ?」
「それは……ニュースに、なるでしょ?」
「ええ、それは」
「そうするとですね……家族に知られてしまうんです」
「?」
「あ……そういう事ね」
「リーシャさんは分かるのですか?」
「ええ……その、榊君が今日、家族で来ていたのは知っているわよね西園寺さん」
「それは、今日初めてお会いしましたから」
「咲ちゃんと拓君、なんだけど。理由を知らせずに家に帰したの。なんでか、分かる?」
「あ……。理解、致しました。……申し訳ありません、玲央さん。人情を理解しないなど、為政者の恥です」
「いや、そうしたのは俺の勝手な判断だし。皆危ない状況だったのに、俺の家族だけ先に帰したんだよ。責められたっておかしくないよ」
そう、皆命の危険にあった。
アイオンモールに来ていた人達皆、死ぬ可能性があった。
なのに俺は、自分の家族だけを先に助けたのだから。
「お前は真面目だな玲央」
「美樹也……?」
今まで静かに話を聞いていた美樹也が、こちらへと近づいてきた。
「家族を大事に思って何が悪い。誰しも優先順位があるものだ。第一が家族で、何が悪い。その事で何か言ってくる奴がいるのなら、俺が相手をしてやる。お前は間違っていない、玲央」
「……うん、ありがとう美樹也」
「こればかりは周りがどう言おうと、本人の気次第ですからね。ただ、為政者と国民の考え方は違います。為政者は第一を国民に考えなければなりませんが、国民は家族を第一で構わないと、私も考えます玲央さん」
「西園寺さん……」
「あまり思いつめないで榊君。それに、結果的に皆を助ける事が出来たじゃない。それは榊君と、氷河君が頑張った結果なのだから」
「そういう事です。今日一番の英雄が、しょぼくれていては私達が気まずいですよ?」
「ふふ、そういう事。帰ったら二人に叱られてきなさい」
そう言って、三人が気遣ってくれる。
俺は、本当に素敵な人達と縁が持てたな。
「後の事は私にお任せください玲央さん。幸い、アイオンモールの被害はありませんでしたが……今回の爆弾の設置、恐らく魔族がこちらのスタッフと入れ替わっていたのでしょう。これからメンバーの洗い出しをして、二度と同じ事が起こらないように致します。玲央さんのお蔭で、被害を出さずに済みました。西園寺グループを代表し、お礼申し上げます」
そう言って再度、深く頭を下げる西園寺さんに俺は慌てる。
「そ、そんなに気にしないでください! その、友達じゃないですか!」
「とも、だち……」
「はいっ! ヴァルハラの学友で、仲間で、友達です。だから、そんなに特別に思わなくて良いんです。美樹也だって、そんなつもりで助けたわけじゃないですよ!」
「フ……当然だ。俺は玲央が困っていたから手助けしたにすぎん。それに、元々はお前の慈善行為の延長上だ。俺はパトロールに戻るぞ」
来た時は突然に、去る時もクールに。
美樹也はそんなキャラクターだが……友情にとても篤い。
だからこそ、あの烈火のライバルなんだ。
「ふふっ……榊君、王子に恋する乙女みたいな顔してるわよ」
「嘘!? 言葉にされると滅茶苦茶恥ずかしいんだけど!?」
「クス……。私も玲央さんにそんな表情で見られるように、精進しないといけませんね。それでは、私はこれで失礼させて頂きますね。これからしなければならない事が増えましたので……ああ、明日も休日が潰れてしまいました……」
「「ぶふっ」」
最後の呟きに、俺とリーシャさんは我慢できずに噴き出した。
「やっぱり西園寺さんでも休日がなくなるの辛いんだ?」
「当然じゃないですか。今日だって午後はゆっくり休むつもりだったんですよ? 魔族め、許しません……!」
申し訳ないけど、滅茶苦茶笑ってしまった。
ゲームでもこんな姿は描かれていなかったから。
「そうだ玲央さん、スマホ、登録しましたよね?」
「あ、うん」
「では、私とも連絡先を交換しておきましょう。月曜日に、烈火君や氷河君、それに百目鬼さんに先に登録しておいた事でマウントを取りたいですし」
「そんな理由……!」
「ふふん、私はすでに登録済みよ」
「あらリーシャさん、数十分の差なんてノーカンですよ?」
「「……」」
これは一体どういう状況なのか。
何故にリーシャさんと西園寺さんが睨みあって……って、そうだよ。
西園寺さんルートではラスボス前がリーシャさんだよ……!
この二人、何故か張り合うシーンが多かったなそういえば……!
「ふぅ、ここで張り合っていても仕方がありません。仕事は待ってくれませんからね……それでは玲央さん、また月曜日にお会いしましょう」
「あ、うん。って、スマホは?」
「やっぱり月曜日に皆で登録します。私はリーシャさんのように抜け駆けしませんので」
「なっ……!」
「それでは、ごきげんよう玲央さん、リーシャさん」
そう言って、静かに去って行った西園寺さん。
その後姿を、真っ赤な顔でにらんでるリーシャさんがいた、こわい。
「ち、違うのよ榊君。私は決して抜け駆けしようとしたわけじゃなくて……!」
「分かってるよリーシャさん。それに、勧めてきたのは咲だし。あれを断る事なんてリーシャさんには出来ないでしょ」
「うう、分かっててくれて嬉しいわ……」
なんとも可愛らしいリーシャさんだった。
美樹也も西園寺さんも、本当に良い人達なんだよな。
強いし、その上人柄も良い。
俺の推し達。
モブらしくもっと褒めたたえたい……!
入学式からほとんどモブ活動できてな……って、あー!
そうだ、思い出した!
これランダムイベントの一つだ!
アイオンモール爆破事件
主人公である烈火の行動で、ランダムで起こるイベントの一つ。
金曜日に遅くまで修練し、百目鬼 美鈴と一緒に帰った時に起こるイベントの一つだ。
見事に状況がマッチしている。
これにより、ゲーム内ではアイオンモールは消滅。
西園寺さんと美樹也が大きな怪我を負い、烈火達が話を聞いて、魔族達に怒りを向けるイベントだった。
多くの人が亡くなった、悲しい事件の一つだった。
そうか、見えない爆弾……これは、防ぎようがない。
烈火が直接関わる事件じゃないから、すぐには思い出せなかった。
俺は……西園寺さんに美樹也と、多くの人達を、救えたのか……。
気付けば、ぎゅっと握った手から、血が零れていた。
「榊君……。お疲れ様」
そう言って、俺の手にハンカチを巻いてくれるリーシャさん。
ようやく、皆を救えたという実感が湧いてきた。
「そうだリーシャさん。今日ってまだ時間あるかな……?」
「ふふ、了解。付き合って欲しいんでしょ? 一緒に怒られてあげる」
「!! ありがとう。ついでに、食材も買って帰りたくて」
「荷物持ちって事ね。それも了解よ。行きましょうか」
笑顔で頷いてくれるリーシャさん。
そういえば、二人きりだし……こ、これってデートなのでは……?
いやいや、たかがモブが何を調子に乗っているのか……!
「あーパパ! ママ! あの人さっき走ってた人ー!」
「そうだね。また何かするかもしれないね?」
「こらこら。迷惑を掛けちゃ駄目よ? 彼女さんも一緒なんだから」
「「!?」」
その言葉にリーシャさんと顔を見合わせる。
いやこれ、遠巻きに言われてるだけだから否定も出来ないし、リーシャさんも困るのでは……。
「き、気にしなくて良いわよ榊君。さ、買い物を続けましょ!」
「リーシャさんカゴ! カゴを忘れてる!」
「!!」
顔が真っ赤なリーシャさんがとても可愛かったけれど、きっと俺の顔もゆでだこみたいな事だろう。
ちなみに、沢山買うので俺は両手に二つ持っているし、リーシャさんにも一つ持ってもらわないといけないのだ。
台車を使うのも良いんだけど、なんというか……見栄を張りたいお年頃なので。
いつもの一人の時は遠慮なく台車を使っている、だって重たいからね。
「た、ただいま~」
遠慮がちに家の扉を開けて、そう言う。
「「!!」」
すると、すぐに二人が飛び出してきて、抱きついてきた。
「よ゛がっだ……お゛に゛い゛、ぶじだっだ……!」
「うぅ……兄貴、良かった……! 無事で、良かった……」
「咲、拓……」
抱きついてくる前の二人の目は、泣きはらした後のように真っ赤で、二人とも顔を胸に埋めてくる。
そんな二人の頭を撫でて、幼い子をあやすように優しく抱きしめる。
「ごめんな、心配掛けたよな。大丈夫、今回はリーシャさんも居た。ちゃんと解決してきたよ」
「「う゛ん゛!! リージャざん、あ゛り゛がどぅ゛!!」」
「……どう致しまして。さか……玲央君が咲ちゃんと拓君を大切にしてる気持ち、よく分かるわ」
詳しい事を話さなくても、なんとなくで二人は察してしまっている。
以前も似たような事件が何回かあったから。
その度に俺は傷だらけになって帰ってきて、いや帰って来れた時は良くて、病院で入院なんて事もあった。
その時は必ず、二人は先に帰していたから。
今回も、最悪俺が死ぬかもしれないと想像したはずだ。
だから、泣いていた。
だから、俺が帰ってきて我慢が出来なかった。
「ごめんな」
そう言って抱きしめる力を強くする。
少しの間そうしていたけれど、なんとなく恥ずかしくなったのか、二人が離れる。
二人のぬくもりがなくなって、ちょっと寂しい。
「あ、おねえそれ……!」
「うん。玲央君と買ってきたの」
「おー! なら昼飯は俺が作るぜ!」
「あ、私も手伝うよ拓!」
「おう姉貴!」
「それじゃ俺も手伝……」
「おにいはおねえとゆっくりしてて!」
「兄貴は姉御とゆっくりしてろよ!」
「はい……」
「ふふっ……」
こうして、咲と拓が作ってくれた昼食はとても美味しかった。
午後は皆でスマホの協力狩りゲームをインストールして、一緒にやった。
なんなのこのミラ〇レアスってモンスター、強すぎじゃない?
全滅したけれど、皆でわいわいと楽しんでいると日が暮れてしまったのだった。
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