26話.モブの爆弾解除
咲と拓、それにリーシャさんとのスマホの番号登録を終えた俺達は、スマホショップを後にする。
西園寺さんに挨拶してから行こうと思ったんだけど、商談というか、事業の話をしているんだろうし邪魔したら悪いよね。
どの道明後日にはまたヴァルハラで会えるのだし、お礼はその時で良いだろう。
それより流れとはいえ、リーシャさんのスマホ番号を自然に手に入れてしまった。
まずい、小躍りしそう。
登録したリーシャさんの名前を見てるだけでニヤニヤしそう。
うん、気持ち悪いな俺、落ち着け。
「おにい、次は食料品売り場だよね?」
「ん? そうだな。来週の分を買いだめしとこうか」
「おっけ。ここは反時計回りのスーパーだっけ?」
「よく覚えてるな拓。そうだぞ」
「? どういう事? 玲央君」
何のことか分からない、といった表情で顔をコテンとかしげるリーシャさん。
ああもう動作までいちいち可愛いな畜生!
「あ、ああ。えっとね。スーパーの売り場のレイアウト、配置の事なんだ。右利きの人が多いから、右利きの人が商品を取りやすいようにされてるんだよね」
「へえー。考えた事も無かったわ……」
「あはは、そうだよね。後ね、入り口は野菜類から始まって、反時計回りに回ると肉や魚、乳製品、総菜と主要な生鮮食品を先に回る事で買い忘れを防ぐようにと、店側が考えて配置してくれてるんだよ」
「そうなんだ。凄いのね、全然知らなかった」
まぁ、そんな事考えて買いにいかないもんね。
「それじゃ、時計回りもあるという事?」
「うん。まぁそもそもが、お客さんの買いやすさを意識して配置しているからね。並んでる順番はあまり変わらないけど、回り方がお店によって違うよ」
「そうなのね……私も意識して見てみようかしら」
「良いんだよおねえ。そういうのは得意な人に任せれば! ね、拓!」
「姉貴は覚えろよ……」
「だって私は拓に養ってもらうもん」
「……兄貴、この姉貴をまともにするにはどうしたら良い?」
「無理なんじゃないかな」
「「即答!?」」
「ふふっ……!」
いつもの会話をしていたら、リーシャさんに笑われてしまった、解せぬ。
「良いんだよ咲はそのままで。良い所がいっぱいあるんだから、出来ない事は任せて良いんだ」
「おにい……!」
「兄貴がそんなだから姉貴が……あぁもう! 俺がしっかりするしかねぇ!」
「拓君がしっかり者になった原因が、見えた気がするわ……」
「分かってくれるっスか姉御……」
あれ、俺が咲と通じ合っていたら、リーシャさんと拓も通じ合っていた。
なにそれ尊い。
あ、そうだ。新鮮な食材を集める為にも"魔眼"はオンにしておくか。
今までは見えてるのが普通だったから気にしなかったんだけど、新鮮であればあるほど、食材は淡い光を放っているのだ。
スマホを買うという事で、今日はずっとオフにしていたからね。
これでよし……って、あれ?
「どうかしたの玲央君?」
「おにい?」
「兄貴?」
三人が俺の挙動で異常を察したのか、声を掛けてくれる。
でも、今の俺はそれどころじゃなかった。
お店の至る所に、紫色の塊が視えるのだ。
そして一つを更に魔力を込めて見ると、内容が分かった。
爆弾だ。
「っ……。ここでは話せない、移動しよう」
「「「!!」」」
三人は静かに頷いて、人気のない場所についてきてくれた。
「咲、拓。お前達は先に帰れ」
「「!?」」
「ちょっと玲央君?」
「リーシャさん、今は黙っていてください」
「!!」
「……良いな咲、拓。何も聞かずに、家に帰れ」
「……分かった。前も、こんな事あったねおにい。大事な事、あったんでしょ?」
「兄貴……俺達じゃ、まだ力になれねぇのか?」
「すまない拓」
「!!」
「……分かった。なら、何も聞かねぇ。帰ろうぜ姉貴」
「……うん。おにい、大丈夫だよね? 前みたいに、傷だらけに……ううん、ちゃんと帰ってきてくれるよね……?」
「大丈夫だ、心配するな。ほら、帰った帰った」
何度もこちらを心配そうに見る二人は、それでも帰ってくれた。
ごめんな、咲、拓。
最悪の場合でも、お前達だけでも無事で居て欲しいのは、俺のエゴだ。
「どういう事か、説明してくれるのよね榊君」
玲央君から戻ってしまった事に若干の寂しさを感じつつ、リーシャさんに先ほど見つけた爆弾の事を話す。
「なっ……。成程、それで……。それは二人に言うわけにはいかないわね。あの二人なら手伝おうとするでしょうから」
「うん。良い子達だからね……あの子達を巻き込むわけにはいかない」
「ふふ、なら私は巻き込んでも良いと思ったの?」
「そういうわけじゃ……いや、そういうわけだな。リーシャさん、力を貸してほしい。その命、俺に預けて欲しい」
「……良いわ、力を貸してあげる。けれど、爆弾が相手じゃ私ではどうする事も……」
そうだ、いくらリーシャさんが凄くても……爆弾の処理を任せる事は出来ない。
こんな時に、美樹也が居てくれたら……!
「フ……俺を呼んだか、玲央?」
「「!?」」
み、美樹也ぁぁぁっ!?
な、なんでこんな所に、こんなに良いタイミングで……!?
「このアイオンモールで子供の誘拐が多発していると西園寺から聞いてな。今日はパトロールをしていたんだ。そこで、お前達が緊張した表情で移動しているのを見かけてな。何かあったのではないかと踏んだ。どうした、この俺に話してみろ」
なんという奇跡……いや、それでこそ主人公達なんだ。
必要な時に、その場に居てくれる。
それがヒーローだもんね!
俺は美樹也に爆弾の事を説明する。
「成程な。確かに、いかに玲央とリーシャとて、難しかろう。だが、この俺が来たからには安心しろ。爆弾など凍らせれば爆発しない」
「美樹也、任せて良い? 多分だけど、この爆弾を仕掛けたのは魔族だ。時限式なのか、連鎖式なのかも分からない」
「"魔眼"でそれは調べられるの榊君?」
「ローガン師匠の訓練で、仕掛けが何かまでは分かるようになったんだけど……そこまではまだ……」
「そう。いいえ、爆弾である事が分かっただけでも大進歩よ榊君」
「そうだぞ玲央。隠蔽されているトラップが分かるというだけでも凄い事だ。更にお前は、トラップの種類まで見分けられたのだろう? 普通の者にそんな事は出来ん。自信を持て、玲央。お前はこの俺が認めた、数少ない男の一人なんだぞ」
「リーシャさん、美樹也……」
二人が、こんな俺を褒めて、認めてくれる。
……なら、俺が自分を貶める事は、二人の言っている事を否定する事になる。
二人が俺を信じてくれるなら……俺も二人に行動で返そう……!
「少し待っていて。ローガン師匠から教わった魔力探知で、爆弾がどれだけ設置されているか調べてみる」
「「!!」」
魔力を自身の内側から外へと放出し、違和感がある場所を特定していく。
これは……爆弾の数、総数百二十八個……!?
「ひゃ、百二十八個……」
「嘘っ……」
「フン……魔族め、このアイオンモールを消し飛ばすつもりだったか。という事は、全体に均等に仕掛けられていると見るべきだな」
「ええ。それに、爆弾の種類で対応が変わるわ。下手に一個目を凍らせて相手に気付かれたら、時限式でなくても即爆発させられたら目も当てられない」
「ああ。時限式も同様の理由はあるが、時限式に感知を仕掛ける意味は薄いだろう」
「……俺が一つを見てくるよ。さっきは遠くからだったからあれだけど、近くで見れば何か分かるかもしれない」
「俺達も行こう。玲央に何かあれば、全てが終わる」
「そうね。爆弾が視えるのは榊君だけなんだから」
「……うん、お願いするよリーシャさん、美樹也」
「「了解」」
そうして、近くにあった紫色の塊……爆弾の近くへと移動する。
流石に近づきすぎるのも危険なので、少し距離は開けている。
リーシャさんと美樹也には、怪しまれないように雑談をお願いしている。
美男美女が仲良さげに話しているので、周りの人達の視線が凄い集まっている。
今はそれどころじゃないけれど、俺もそっち側で見ていたかったです。
爆弾を注視して分かった事は三つ。
連鎖式かつ時限式の爆弾である事。
そして外部からの感知は施されていない事。
最大の難点は……あと10分で爆発する事だっ!
「リーシャさん! 美樹也! あと爆発まで10分しかないっ! リーシャさんは西園寺さんに急いで知らせてきて!」
「!! 分かったわ!」
リーシャさんが疾風のようにこの場を去る。
時間がない、俺達も行動を起こさないと!
「美樹也、悪いんだけど滅茶苦茶走りまくるよ」
「フ……この俺を誰だと思っている? 氷王、そして神速の美樹也とは俺の事だ。場所を教えろ玲央、全て凍らせてやろう……!」
「うん! まずはここ、その後を俺が先に走って、見つけたら指さすから、そこを凍らせて!」
「ああ!」
そして俺達は駆けだす。
爆弾を見つけて、美樹也が凍らせる。
その途中で、全体にアナウンスが行われた。
「今日もアイオンモールへのご来店、誠にありがとうございます。現在、新たな試みを試験的に行っており、その為ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、ご了承の程お願いいたします。繰り返します……」
成程、爆弾の事をそのまま伝えればパニックになり、俺達の邪魔になる。
俺達が防げる事を信じて、俺達の邪魔にならないようにお客さん達を誘導してくれたんだ。
西園寺さん……その信頼に応える為にも、絶対に爆弾を爆発させないっ……!
「美樹也、あそこっ!」
「凍れっ……!」
「次はそこっ!」
アイオンモールを端から端へと走り回り、後一個の所まできた。
残り1分もない。
どこだ、最後の一個! あったはずなのに、見つからないっ……!
「玲央、落ち着け。焦るな。焦りは余計なモノを生む。逆境の時こそ、冷静になれ。そうする事で活路が出来ると、俺は師から学んだ」
「美樹也……うん、ありがとう」
落ち着け俺。さぁ、もう一度だ。
さっきまでは確かにあった。
それが何故なくなった……?
「あった……! あそこだ美樹也……!」
「観覧車の上かっ……」
爆弾のある位置が、頂上付近。
残り時間、あと30秒を切った。
「美樹也! 『スピードエンハンス』!」
「おおおぉぉぉぉっ!!」
他の観覧車の席を蹴りながら、頂上へと駆ける。
「凍れぇぇぇっ!」
残り10秒をきった所で、美樹也の魔法が爆弾を包む。
「美樹也……!」
「……ふぅ。フ……成功だ、玲央!」
「「「「「ワァァァァァァッ!!」」」」」
「すっげぇぇぇっ! 最後のなんだあれ!」
「観覧車を駆けあがって行ったの痺れる!」
「かっこいいぃぃぃっ!!」
はは、成功したら腰が抜けてしまった。
その場に座り込んだ俺は、汗でべとべとである。
「フ……よくやった玲央。流石は俺達のキングだ」
観覧車から降り、近づいてきた美樹也がそう言う。
「美樹也……うん。ありがとう、美樹也が居なければ、無理だったよ」
「何を言う。キングを守るのが俺達の使命。それは学園を出たからと変わるものではない。助けが必要な時はすぐに呼べ、いつでも駆けつけよう」
そう笑って言う美樹也は、最高にかっこよかった。
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