24話.モブの帰り道
表彰部屋に戻ると、なにやら話し込んでいた藤堂先生とローガン師匠がこちらに気付き、笑顔を向けてくれた。
「よう玲央! お前なら出来ると信じてたぜ! リーシャもよく玲央を守った!」
「キャッ!? もう、藤堂先生! 髪が乱れますから!」
「ふぉふぉふぉ! ようやったのじゃ玲央ぉっ! 流石はわしの弟子じゃ~!」
「おわぁっ! 髭が、髭がチクチクしますローガン師匠! いやほんとに!」
「ういやつじゃのう~!」
「それは女性や子供に言う台詞ぅ~!」
リーシャさんは藤堂先生に頭をわしゃわしゃと撫でられ、俺はというとローガン師匠に頬ずりされた。
うう、髭がチクチク地味に痛い。
それから経緯を報告して、リーシャさんは藤堂先生との訓練に行く為別れた。
剣聖の技が更に冴えわたることだろう。
藤堂先生の使う剣術は威力の高い技だらけだから、リーシャさんが覚えると凄まじい強さに磨きがかかる。
いくらリーシャさんとはいえ、技を覚えるのは大変だろうけど……頑張って欲しい。
俺は、兼ねてから懸念していたバフの効果量の調整についてローガン師匠に質問をした。
答えは可能との事だったので、午後の残りの時間はバフの効果量の調整の訓練を行う事になった。
ローガン師匠は付きっきりで丁寧に教えてくれて、俺なんかに時間を割かせて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
引く手あまたのローガン師匠の大切な時間を使わせて貰ってるんだ。
真剣に取り組まねば。
弟子としても、ね。
「うむうむ、お主は真面目じゃなぁ。教えがいのある弟子で嬉しいわい」
「ローガン師匠の弟子なら、皆真面目なんじゃないですか?」
誰もがこぞって弟子入りを望む程、素晴らしい魔法使いなのだローガン師匠は。
今こうして普通に会話しているけど、それがもうおかしいレベルで。
「それはそうなんじゃが、素直、というのかの。魔法使いはわしを含めて、皆頑固な所があっての、自分の主張を中々曲げんのじゃ。しかし、お主にはそれがない。まるで渇いたスポンジのように、水をどんどん吸収していくが如く、学んでおる」
「成程……?」
「ふぉふぉふぉ……よいよい、お主は分からぬでも構わぬ。さて、単体効果量の調整は上手くなってきたことじゃし、次は複数のダブルキャストに移行しようかの」
「はい! ローガン師匠! ご指導ご鞭撻のほど、お願いしますっ!」
「うーむ、硬いのう玲央。もっとフランクで良いのじゃぞ?」
「そんな無茶な」
尊敬するローガン師匠に、そんな態度をとれるわけがない。
「ま、時間をかけて懐柔してやろうかのぉ」
「あの、声に出てますローガン師匠」
「出してるのじゃ☆」
そんな、あててんのよ、みたいな言い方を。
それからすっかり暗くなるまで訓練を続けた俺は、帰りの下駄箱で推しと出会った。
「美鈴さん?」
「あら玲央、こんな時間まで訓練していたんだ。偉いわね。才能にあぐらをかかない人って素敵よ」
「それを言うなら美鈴さんこそ」
俺に才能あるかは別として、美鈴さんが努力を怠らない人である事を知っている。
こんな時間になるまで、美鈴さんも訓練をしていたのだろう。
ただ、おかしいのは靴を履いていない事なんだけど……そこでピンと来た。
「それじゃ、お先に。また来週美鈴さん」
「ええ。また来週。良い休日を玲央」
そう笑顔で言ってくれる美鈴さんに手を上げ、外に出るフリをして、戻る。
ふっふっふっ……俺は知っている。
何故下駄箱に美鈴さんが居るのか。
それは、主人公である烈火を待っているのだ!
いつもツンツンした態度で烈火に当たっているけれど、あれは当然照れ隠しである事をユーザー全員が知っている。
毎日遅くまで訓練を繰り返す烈火を覗いている美鈴のシーンは、本当に多かった。
恐らく今日も、烈火の帰りを待っているのだ。
こんな遅くまで、自分も訓練をした後で。
「お? 美鈴じゃねぇか! お前もこんな時間までやってたのかよ?」
「あ、ああ。烈火、偶然ね。私も訓練を終えて、今から帰る所だったのよ」
「そうか、なら家も近くだし一緒に帰るか?」
「!! うん!」
超嬉しそうな笑顔。
眩しい。可愛い。烈火、この笑顔を見て自分に好意を持っていないと思うなんて噓でしょ。
さて、見つからないように後をつけよう。ストーカー? うん、推しの尊い姿を見る為なら、そのそしりを受けるのを甘んじて受けとめる覚悟がある所存。
「そういえば、さっき玲央も帰る所だったみたい。凄いわよね、才能も見識も、知識もあるのに、努力まで惜しまない」
「ああ、分かるぜ。玲央はすげぇ奴だ」
ぐっほ! 推し達が俺なんかを話題に出して、俺なんかを褒めてくれてる!?
でも違うんです、モブの俺なんかを話題にするより、もっと他に話題があると思うんです!
「けどよ、お前もすげぇよ美鈴」
「え、ええ!? な、なんで私が!?」
「あの玲央が言ってたじゃねぇか。支援の能力は美鈴の方が上だってよ。それなのに、努力してこんな時間まで頑張ってたんだろ? 中々できる事じゃねぇさ。事実、午後の訓練の時間に決まりはねぇから、さっさと帰って遊んでる奴は沢山いるだろ?」
「それは……。……だって、悔しいのよ」
「うん?」
「玲央は、私じゃ分からない手をバンバン打ってくる。まるで最初から正解の道が分かってるかのように、最適解の行動を示してくれる。私も、あんな風になりたいの! 烈火の力になりたいのよ!」
「美鈴……。へへっ、ありがとよ。その気持ちが嬉しいぜ。俺も美鈴や玲央が後ろに居てくれるから、安心して前に出れるんだぜ? きっと美樹也だって同じさ。西園寺さんやリーシャさんはまぁ分かんねぇけど……」
「……うん!」
てぇてぇはここにあった。
あ、鼻血出そう。抑えろ俺……!
「昨日のチーム戦でよ。俺のチームが勝てたのは玲央が居たからだ。リーシャさんも俺達より一歩上の力を持ってるとは思うが……それが俺達の共通認識だろ?」
「うん。私もそう思ってる」
「その玲央が、お前の方が上だと言ってるんだぜ? 自信、持てよ」
「!!」
「美鈴が俺の頑張りを知ってくれてるように、俺も美鈴が頑張ってるのを知ってるんだぜ。足りない所は、補って貰えばいい。それが仲間だし、ダチだろ? それに玲央なら、言えば力を絶対に貸してくれるぜ? あの膨大な知識量を、惜しげもなく教えてくれる。そんな奴が同世代に居るなんて、俺達は恵まれてるよな」
「あはは! 玲央が聞いたら真っ赤になって喜びそう!」
「あー、それも分かるわ。なんつーかあいつ、俺達への好感度高すぎだろ? 隠しもしねぇし。そんなだから、こっちも照れるんだけどよ」
「分かる分かる。休憩時間に烈火と氷河に詰め寄られてただけで顔真っ赤だったし!」
「おう、最初はそっちの気があんじゃねぇだろなって警戒したけどよ。美鈴や西園寺さんにリーシャさん相手でも同じだったからな、安心したぜ」
「あははははは! ダメ、思い出したら笑う!」
「はははっ!」
ぐふぅ……まさかそんな風に思われていただなんて。
俺のこの手が真っ赤に萌えそうで、幸せ掴めと轟き叫びそう!
こんな幸せな事があるだろうか。
いちモブが、主人公達に話題にされて、楽しそうに会話しているのを見られるなんて。
……ずっと見ていたい気持ちもあるけど、このまま遅くなれば咲と拓に心配を掛けてしまう。
もっと見ていたい気持ちが体を引きずるのをなんとか抑えて、家に帰るのだった。
「ったく、心配性だなぁ玲央のやつ」
「あ、やっぱり気付いてたんだ烈火」
「当然だろ。あんな分かりやすく、気配も消さずに後ろをついてきてたら、な」
「玲央って凄いのに、どこか抜けてるわよね」
「はは。食堂でさ、魔族が侵入してきてたろ? あれの関係で、俺達の帰りが遅いから、家に着く近くまで見守ってくれてたんだろうさ」
「あー、あったわね。藤堂先生が取り押さえたんだっけ。今日もその関係かな、玲央とリーシャさん居なかったもんね」
「ああ。多分それ関係だと思うんだよな。俺達のキングなわけだし、もう大事な依頼とか受けてるんだろうな。……俺達も早く、認められて玲央と一緒に受けれるようにならねぇとな美鈴」
「うん! 頑張りましょ烈火! 玲央に、頼ってもらえるように!」
「おう! 頑張ろうぜ!」
なんて会話があった事などつゆ知らず、家に帰ったと同時に、
「おにい!? なんで鼻血!?」
「兄貴!? 何があった!? とりあえずティッシュ持ってくるわ!」
どうやら、鼻の限界を止められなかった模様。
お読み頂きありがとうございます!
主人公達の絡みが少ないと感想頂いたので、増やしていくようにしますね!
今回直接あんまり絡んではいませんが……
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