19話.モブと主人公とサブキャラクターと
烈火とリーシャさん。
二人の推しと一緒に食べる昼食の時間はまさに、天にも昇る気持ちだった。
ゲームでしか見れなかった二人が、ご飯を口に運び、会話をする。
そんな凄いシーンを直接見る体験が出来ている。
いくら課金すれば良いですか? 今の俺はクレカも限界まで使って良い所存……!
マジマジと見過ぎたのか、リーシャさんは顔を赤く染め、なんなら烈火まで少し頬が赤かった。
そりゃ食事中にずっと見られたら困るよね、反省せねば。やめはしないけど。
食事の中で今日の午前の話になり、リーシャさんは烈火に事のあらましを話す決意をしたようだ。
「轟君は、榊君の信頼する友人なのでしょう? なら、話しても良いと思ったの」
「ああ、俺は口がかてぇ方だ。それに、俺はダチの信頼を裏切るような男じゃねぇぜ」
二人が見つめあい、微笑する。
ああああああああっ! カメラはッ! スマホでも良いッ! この最高のシーンを脳内にしか記憶保存できないなんてぇぇぇぇっ!!
「ど、どうした玲央?」
「榊君……?」
頭を抱える俺を、不思議そうに見る二人に正気を取り戻したのはまた別の話。
でもこれで、ようやく話を本筋に戻す事が出来た。
烈火とリーシャさん。
二人で藤堂先生の呪いを解く。
本来あったルートへと。
うん、少し寂しい気もするけど、俺の役目はここま……
「分配は4,3,3で良いよな?」
「ええ。4,3,3で」
「えっと、ちなみにその4ってまさか……」
「勿論玲央だ」
「勿論榊君よ」
「どうしてぇ!?」
いやいやいや! モブの俺が主役の二人を差し置いて一番分配が多いって何の冗談かな!?
「良いか玲央? 10って数字はな、3では割り切れねぇんだ」
うん、それは知ってる。
「なら、私達のリーダーが一番多くて良いじゃない?」
「そーゆーこった」
待って、突っ込みどころしかない。
誰がリーダーって?
「いやいやいや!? なら、4,4,2で良いよ!?」
「「却下」」
「なんでぇ!?」
二人の息がピッタリだな畜生! 尊いですもっとやれっ! いや違う、ここではそんな息を合わせなくて良いんですけど!
「良いか玲央、俺は二人の手伝いで参加させてもらう側だ。なんなら分配なんて無くて良いくれぇだ。だけどそれじゃ、玲央が納得しねぇだろ?」
「それは当たり前だよ! 烈火が0とか俺が許さないよ!」
「へへ、だからだよ。だから3は貰う。けど、4は無しだ」
「次に私。私は榊君に協力を頼んでいる側よ。そして榊君は、ベストな力を貸してくれている。こうして轟君の助力まで得られたのは、間違いなく榊君のお蔭よ。それだけでも、私が4を貰う事なんて出来ない。なんなら、私の分は無くても良いの。だけど、それじゃ榊君が納得しないでしょう?」
「それも当たり前だよ! リーシャさんが0とか俺が許さないよ!」
「ふふ、だからよ。だから3は貰うわ。けど、4は無いわ」
「「異論は?」」
「うぐぅ……ありません……」
「ははっ!」
「ふふっ」
某たいやき娘のようなうめき声をあげた俺は、二人の説得に納得せざるを得なくて、分配で4を頂く事になった。
この恩は、二人のサポートで荷馬車のように働いて返そう!
昼食を終えた俺達は、早速場所を移動する。
「おおっ! 体が軽い軽いっ! これならいくらでもやれんぜっ! オラァッ!!」
「ピギュゥゥゥッ!?」
「流石ね轟君。私も負けていられないわ。はっ!」
「ピュギャァァァッ!!」
二人が凄まじい勢いでモンスターを狩っていく。
ポイントが恐ろしいスピードで貯まり、素材もどんどんと集まっていく。
正直、強すぎてイージーモードである。
「おっし、大体片付いたな。リーシャさんもすげぇが、やっぱ玲央はすげぇな!」
「ええ。轟君もかなり凄いけれど……本当に榊君は凄いわ」
「え?」
二人が認め合う素晴らしいシーンに、何故か俺が凄いと褒められてしまう。
特に語るような事はしてなくて、二人が単純に凄いだけだと思……
「玲央のバフの時間、感覚が一寸の狂いもねぇ。訓練でもあったんだが、他の奴だとよ……こう、バフを掛けてくる時間がマチマチでさ……なんつーか疲れるんだよな」
「そうそう。バフが掛かっていない時間が疲労してる時間のように感じるのよね。その後にまたバフが飛んできたりして、言い方は悪いけれど風邪を引きそうよ」
「ははははっ! それだ! でもよ、玲央のは違う。俺達の調子が狂わねぇように、寸分の狂いもなくバフの時間を延長してくれる。それによ、敵の攻撃に対してデバフを効率的に掛けてくれてるだろ?」
「そうそう、それも。敵の動きが急に鈍化するから、心に余裕をもって対処できるわ。あれも何気に助かるのよね」
「だよな。それに……」
「あー! 分かったから! それ以上褒められるとくすぐったいから!」
「ぶはっ!!」
「ふふっ!!」
多分俺は、耳まで真っ赤になっていると思う。
そんな俺を見て、二人が笑い出した。
「ははは。ちょっとはダチに褒められるのがどんなに恥ずかしいか、分かったかよ?」
「そうよ榊君。貴方は純粋に私達を褒めてくれるから、私達がどんな気持ちか分からなかったでしょう? だから、仕返しよ」
「なぁっ!?」
モブの行為を、主人公とサブキャラクター筆頭にさせてしまったというのか!?
いや違うな。
友達が、俺を褒めてくれたんだ。
こんなに嬉しい事はない。
「あはは。ありがとう二人とも。でも、凄いのは二人の方だよ。俺のバフに対応して、モンスターに対処してる。烈火の力なら敵を叩き潰す事も可能なのに、力を加減して俺が素材を集めやすいようにその場で倒れるように倒してるし、リーシャさんに至っては急所を一撃だ。狙いすました一撃は凄まじいの一言だよ。俺のバフなんて関係なく、二人は本当に強いし凄いよ」
「お、おう……ったく、やっぱ玲央には敵わねぇな」
「……そうね、本当に榊君は自然に褒めてくるから、どうしようもないわね」
二人が並んで斜め下に視線をさまよわせているのを見て、笑ってしまった。
「うん、素材は過剰に集まったね。後は先輩に持っていこう。烈火も顔合わせしておこうよ」
「俺も? ま、玲央がそう言うんなら」
「ふふ。それじゃ行きましょうか」
そうして素材集めを終了し、リストを受け取った先輩の元へと向かう。
道中、やはり烈火とリーシャさんは目立つのか、周りの視線を集めていた。
「しかし、リーシャさんの剣捌きはやべーな。俺は最初見えなかったぜ」
「そうよね。大抵の人、修練を重ねた人でもそう言うもの。まぁ、榊君は別なんだけど」
「あー、玲央は仕方ねぇよ」
あれ? 二人の認め合う尊い話だったのに、また俺が入った件について。
「本人の自覚が低い事が難点だと思うの轟君」
「いや、あれはわざとそうしてんだよ。よく言うだろ、能ある鷹は爪を隠すってよ」
「!! 成程、盲点だったわ。私もまだまだね」
いえ、そんな事ありませんけど。
爪なんて隠した事ないですし、なんなら全てをさらけ出してますよ。
能力測定の結果見ましたよね?
なんて会話を聞きながら、時には相槌を打ちながら、先輩の元へとたどり着いた。
「おや? 一人増えているね?」
「ども。一年の轟 烈火っす」
「これはどうもご丁寧に。二年錬金術部副リーダーの、アーベルン・シュワルツだよ。そういえば、君達の名前も聞いてなかったね?」
「「あ」」
「おい……」
烈火に呆れ顔で見られてしまったけど、これは俺が悪いね、うん。
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