17話.モブと錬金術師
入学式、能力測定、そして"魔眼"についてを知って、今日で四日目の学校だ。
毎日が濃すぎて一日が過ぎるのがとてつもなく早い。
入学式に烈火達と友達になって、能力測定の朝にまさかのリーシャさんと友達になって。
その日に"魔眼"について教えてもらい、ローガン師匠と出会って、弟子入り出来た。
なんというか、全然モブとして行動できていない。
推し活が出来ていない!
いや推し活ではないのだけど、主人公達のイベントを草葉の陰から覗いて応援してモブ台詞を吐きたいのである……!
なんて事を考えながら登校していたら、
「榊君? 大丈夫?」
なんて隣を歩くリーシャさんに心配されてしまったけれど。
俺としてはリーシャさんがまた朝も早くから家に来た事が異常事態なんだけど。
リーシャさんいわく、ローガン師匠に様子を見てほしいと言われたからなんだそうだ。
なんでも、"魔眼"のオンオフを可能になった事と、俺の体の魔力回路を強化した事により副作用が起こるかもしれないから、なんだとか。
俺の魔力回復量は常人のそれとは一線を画すらしく、そのままでは魔力回路が壊れ、その反動で命を落とす可能性があったらしい。
そこでローガン師匠は俺の魔力回路を強化、要は広げて太くしてくれたそうな。
更に、最大魔力保有量を大幅に上げてくれたのだとか。
そのお蔭で、自然魔力回復量よりも最大魔力容量の方がかなり高くなり、すぐに溢れるという事はなくなった。
また、"枷"を受けた事により成長した自然魔力回復量のお蔭で、"魔眼"を常時使用中だった頃には熟練の魔導士がなんとか感じられる程度だった魔力が、普通に感じ取れる量になったようだ。
これには咲にも驚かれた。
「え、ヴァルハラっておにいみたいな魔力があんな少ししかない人でもこんなに成長させれるの? なんなの、強化人間養成所なの?」
と、俺にもヴァルハラにも失礼な感想を零していた。
いや咲の事だから褒めてるのかな?
まぁ遅くなったのがそういう事と勘違いしてくれたので、何も言わなかったけど。
嘘でもないし。ローガン師匠の"枷"のせい、いやお蔭かな?
まぁとにかく、そういう事があったので、リーシャさんが監視という名目のこんなモブである俺の家へと迎えに来るという罰ゲームを受けているわけだ。
流石に申し訳なかったので、飲み物でも差し上げようと家の中に少し戻っている隙に、咲と拓がリーシャさんに出会いに行ってしまった。
「うわすっごく綺麗っ! ふ、ふつつかな兄ですけど、よろしくお願いしますっ!」
「兄貴にこんな美人がっ……! 兄貴をよろしくお願いします……!」
「え、あの? え……?」
お前達は俺のなんなの。最愛の妹と弟でした。
そしてあたふたとしているリーシャさんが、申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれどとても可愛かった。
まぁそりゃ、家に迎えに来るような女の子なんて、幼馴染でもなければそう受け取るよね。
ちなみに俺にそんなギャルゲーの主人公のような幼馴染の女の子なんていない。
帰ったらどうやって誤解を解こう……。
「そうだリーシャさん。今日の授業の3、4時限目は自由講義だったよね」
「あ、うん。そうね」
「その時間、俺が貰っていいかな?」
「え、え!? そ、その、それは構わないと言えば構わないのだけど、私達はまだ友人だし、そんな急に……」
「藤堂先生の呪いを解く為の準備には、錬金術の副リーダーの手助けが要るって話をしたよね。この自由講義時間で、その副リーダーに会いに……どうしたのリーシャさん?」
「……いえ、良いの続けて。榊君が正しいから。いえ本当に……」
「?」
赤くなったり、急に俯いたり、どうしたんだろうか?
あ、そうか。俺の妹と弟に勘違いされた事に気を揉んでるんだな。
本当に申し訳ない……ちゃんと誤解は解いておきますからね!
そんなこんなで教室につき、烈火達が昨日どうしてたか等話を聞いて。
二時限目の授業が終了したので、リーシャさんの席へと向かう。
烈火達には一時限目の終了時に話をしてあるので、今日は各自で好きに動くはずだ。
本来、烈火がリーシャさんとやる事を俺なんかが進めて良いのかとも思うけど……リーシャさんから相談されたのは俺だ。
その俺が、烈火と行ってなんて口が裂けても言えないよ。
それは彼女の信頼を裏切る行為だ。
いくら俺がモブでも、一人の人間として最低限の礼儀は通さないと駄目だ。
あのボスがいる場所には、烈火に一緒に行ってもらうけれどね。
とはいえ、あの時とは状況が違う。
今の俺なら、もしかしたらリーシャさんと組んで行けるかもしれない……いやいや、それは慢心だ。
主人公である烈火の強さと、リーシャさんで組んでギリギリだったんだぞ。
調子に乗るな俺。
「リーシャさん、準備は良い?」
「ええ。特に何も持っていかなくて良いのよね?」
「うん。ただあの言葉だけ忘れないでくれたら大丈夫」
「大丈夫、覚えてるわ。それじゃ、行きましょうか」
そうして、俺とリーシャさんは二階のある教室へと向かう。
「失礼します」
ドアを開け、中へと入る。
薄暗い部屋はカーテンを閉め切っており、外から中を見ることが出来ないようになっている。
部屋の中の一番奥。
ひと際黒い影が、のそりとこちらへと向いた。
「おや、新入生かな? ここは私の部屋でね、自由講……」
「錬金術とは、等価交換である」
「!!」
「錬金術とは、賢者の石を目指すものである」
「!! その心はっ!」
「「錬金術最高!」」
「おお、同志よ! ようこそ、錬金術部へ! 入部希望かな? その決まり台詞を知るという事は、OBの誰かの推薦なのだろう? いやぁ、嬉しいなぁ」
違うのだけど、説明のしようもないしなぁ。
本来烈火は、錬金術の素材を取りに山奥へと採集に行っていたこの人を助ける事で交流が生まれる。
今回のは、ストーリーを知っているからこそできる裏技みたいなものだ。
こうでもしなければ、ただのモブである俺がこの人と縁を持てないから仕方ない。
「あはは、ちょっと違うんですけど……軍部に知り合いが居るのは本当です」
「「!!」」
嘘です。リーシャさんも驚いているけど、嘘なんですごめんなさい。
物語を読んで知ってるだけなんです、本当にごめんなさい。
「それでですね、先輩は錬金術の素材集めに難儀してますよね? それ、俺達が手伝います」
「!! 成程。その対価に、何を望むんだい?」
流石、話が早い。
頭の回転がもの凄く早いのだこの人は。
「ある素材から、創って頂きたい物があります。その素材も、俺達で集めてきます。先輩はただ、創って頂けたら」
「私も高難易度の錬金が出来るなら嬉しいよ? レベルも上がるからね。ただ、私でも出来るか分からない物はあるよ?」
「大丈夫です。先輩なら必ず創れる物です。『犠牲の指輪』ですから」
「「!?」」
そう。対象の呪いを解呪するのではなく、移す。
それが藤堂先生を救う唯一の方法だ。
ただ、この『犠牲の指輪』を創るには条件がとても厳しい。
素材に使うアイテムを守る敵が、アホみたいに強いんだよね。
「正気かい? それは確かに私も創りたい物リストの上位に入るシロモノだよ。でも……材料を集めきった者がほぼいない事でも有名だ」
それも知っている。
けど、誰かが創ったから、その存在が知れているんだ。
「正直、君達の実力が分からない以上……そうか、それでか。ふふ……君は頭が切れるね」
どうやら、自己完結した模様。
俺が信頼関係を作ろうと素材集めを手伝うと言った事を瞬時に理解したんだろうね。
「分かった。そういう事なら早速頼んでいいかい? 少しまっていておくれ、リストにまとめよう」
「分かりました」
ずっと黙ってるリーシャさんには、素材集めに行く時にちゃんと説明しよう。
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