16話.モブのバフとデバフ
「お、目が覚めたかの玲央」
「ローガン師匠……。っ……これは……」
「うむ。お主の体は今までとは違い、魔力に満ちておる。感覚を体の中へと向けてみるのじゃ」
「体の中へ……」
再度目を閉じる。
ドクン、ドクンと心臓の音が聞こえる。
そしてそこから、暖かい光を感じる。
これは、もしかしてこれが、魔力……!?
「感じる事が出来たようじゃな。そう、それが魔力じゃ。それを指先へ集めるように意識を集中させてみるのじゃ」
指先へ、この暖かいものが流れるように……。
「うむ、その調子じゃ。魔力が動いているのを感じるじゃろう。よし、そこで何か知っている魔法を唱えてみよ」
「『メテオレイン』」
「ばっ……!?」
青空から、無数の隕石が現れ、大地に降り注いだ。
「「……」」
俺は勿論、ローガン師匠まで無言になった。
「お主、もしかしてアホじゃな? 何故極大級魔法をポンと使うのじゃ?」
「す、すみません。まさか本当に使えるとは思わなくて……」
いや、本当に。ごっそり魔力を使った気がする。
体の中から、何かが急速に抜けていく感じ。
だけど、数秒もしないうちに"増えた"。
「ふぉふぉ……不思議じゃろう? 今、お主は"魔眼"の力をオフに出来ておる。じゃから、失った魔力が急速に補充されたのじゃ」
「!?」
「つまりの。お主は極大魔法ですら、使った魔力量をすぐに補充できてしまう自然回復量を保有しておる。これがどれだけ凄い事か分かるかの?」
「……」
「あえて言おうかの。"魔眼"を使わなければ、お主は最強の魔導士となれる。それこそ、わし以上の、な」
「関係ないです。俺は、俺の力が仲間を……友達をサポート出来るのなら、それが一番なんです。だからローガン師匠。俺に"魔眼"と魔法の扱い方を教えてください。いざという時に、俺自身を守れる力と……仲間を守れる力を得る為に」
「……うむ、わしは、お主を弟子に出来た事を誇りに思う。力に溺れる事無く、誰かの為にその力を活かす事が出来る。言うは易く行うは難しよ。玲央、お主にはわしの全てを教えよう」
「お願いします、ローガン師匠!」
それから、ローガン師匠の修業が始まった。
"魔眼"のコントロールも、一度魔力が切れた事と、自分の魔力を感じ取れた事もあって、比較的簡単に出来るようになった。
魔法については、どんな魔法か名前で分かる(ゲームのエフェクトで見ていたからだと思う)ので、イメージもしやすくすぐに扱えるようになった。
ただ、問題なのは仲間の力を上げるバフ系統と、敵の力を下げるデバフ系統の魔法だった。
これはエフェクトがどちらも雑で、バフは黄色く光って上の矢印がでて、デバフは黒く光って下の矢印が出るというものだったんだよね、ゲームでは。
なので、これだけはイメージではどうしようもなく。
実際にローガン師匠が誰かに掛けるという事で見せてもらう事になった。
「で、私を呼んだわけね、榊君。まぁ良いけれど……」
「ご、ごめんリーシャさん。烈火達はどこで訓練受けてるか分からないから……。その点、リーシャさんは藤堂先生と一緒だから、場所も決まってて分かりやすくて……というか今回はすぐ側に居たし……」
「……むう。そこは私が一番の友人だから呼んだ、の方が嬉しいわ」
「!?」
「ワハハハハハ!! 言うじゃねぇかリーシャ!」
リーシャさんが頬を少し膨らませて可愛らしく言うので、また俺の心臓が吐血しそうになったよ(心臓は吐血しません)
藤堂先生のお蔭で笑って流せたけれど、心臓に悪いです。
「まぁわしは誠也でも良いのじゃが、こいつじゃと分かりにくいじゃろうからな」
「力は俺を、速度はリーシャで試せば良いだろローガン」
「それはそうじゃな。バフは元の値が大きければ大きいほど、その上がり方が顕著になるでな」
それはその通りなんだよね。
バフって、効果量は使い手のレベルにもよるんだけど、%(パーセント)で上がるから。
ローガン師匠ほどの魔導士が使うバフは恐らく最高レベル。
多分600%くらいあがる。
普通の魔導士で大体150%から200%な事を考えると、破格である。
バフもデバフも、効果時間の延長こそ可能だけど、効果の倍増は出来ない。
しかも同じ人でない場合、掛からないという使い辛さもある。
それは効果量が違うからだ。
600%のバフが1分間掛かっている状態で、200%とか低いバフは弾かれてしまうのだ。
逆に、それ以上の効果の場合は掛けなおし状態として、新しく掛ける事は可能だ。
バフ量の調整を出来る人なら、最初に少し低くかけ、後から高い数値を掛けなおしていく事で、バフ切れの時間をなくす戦法も出来たりする。
熟練のユーザーは、時間を正確に測り、バフを途切れないように再度掛けたりするけどね。
ちなみに俺もそれが出来る方のユーザーである。
伊達に何百週もやり込んではいない。
「では玲央よ、見ておれ。『パワーエンハンス』!」
「っと! 相変わらずローガンのバフはすげぇな。力が沸きあがるぜ」
俺は、力の流れを見る為に"魔眼"をオンにする。
ローガン師匠から放たれた黄色い魔力の塊が、藤堂先生の体へと吸い込まれていく。
そして、それが全身へと保護膜のように覆った。
凄まじい魔力の塊が、藤堂先生に吸収されていくのが視える。
「凄いの、玲央。お主、流れが全て見えておるんじゃな」
「……はい。でも多分、俺が同じ魔法を掛けても弾かれますね。俺はローガン師匠ほどの効果量は無いと思います」
「「「!!」」」
「一度見ただけで、そこまで分かるのかの。いやいや……末恐ろしい弟子じゃのう」
「なら、そのままリーシャに掛けてみると良いだろう。リーシャ、良いな?」
「はい、藤堂先生。良いですよ榊君」
二人が俺を見て頷いてくれる。
俺はリーシャさんに向けて片手を広げる。
「いきます。『パワーエンハンス』」
「っ!! こ、これは……凄い……!」
「うぉっ……おいおい……こりゃぁ、もしかして……」
「……玲央よ、お主はもう免許皆伝じゃな」
「え?」
「論より証拠じゃ。誠也、それにリーシャよ。少し打ち合ってくれぬか?」
「へへ、良いぜ。修練の続きだ、模倣しろリーシャ!」
「はいっ! 藤堂先生っ!」
そうして、急に剣を構えた二人が刃を交え始めた。
その姿は師匠と弟子というよりも……まるで兄と妹がじゃれあうかのように。
楽しそうに、舞うように、刃を合わせ……藤堂先生が、後ろへと飛ばされた。
「うぉっ!? マジかよ、俺のパワーをリーシャが上回ったってぇのか!」
「藤堂先生が利き腕ではないのもありますが……それを差し引いても、私が藤堂先生に力で押すなんてありえませんでした。やはり、榊君のバフは凄い……!」
え、えぇ。
俺のバフが、ローガン師匠を超えてるの……!?
「次に、デバフもかけてみようかの。今度は誠也にお主がかけてみるといい」
「おいローガン。俺も弟子に負けさせようって腹だろ?」
「ふぉふぉふぉ、なんの事じゃか」
「俺の目を見て言いやがれ……!」
「ふふっ!」
ああ、相変わらずこの人達の会話は癒される。
って癒されてる場合じゃないな。
デバフか、バフと同じくらい大切な魔法だ。
バフの反対で、相手のステータスをダウンさせる魔法。
またデバフはバフより種類が多く、麻痺にさせたり毒にさせたり、そういう状態異常にさせる事もいう。
ただし、デバフは魔法抵抗力が高い相手には失敗する確率が高い。
藤堂先生やリーシャさんは、対魔法抵抗力が桁違いに高い英雄だ。
俺じゃ効かない可能性もあるけど。
「ではリーシャよ、力を抜くのじゃぞ?」
「分かりましたローガン導師」
「うむ! 『パワーロウダウン』」
「……下がった気はしますが、まだいつもより力がある感じがします」
「そうじゃろうな。バフで上がった分の方が、下げた分を上回っておるのじゃろう」
成程……。魔力の流れは見えた。
これなら俺にも使えるかもしれない。
「あー、分かった分かった。そんな目で見んな玲央。俺も男だ、ドンと来やがれ!」
「それじゃ遠慮なく。『パワーロウダウン』」
「うぉっ……!? こりゃぁしんどいな……。お前のデバフはもはやデバフの域を超えて、呪いの域かもしんねぇな……」
「それじゃ藤堂先生! やりましょうかっ!」
「おい、なんでそんなに生き生きとしてやがるリーシャ」
「べっつにー。散々榊君の事でからかってきた仕返しが出来るなんて全然思ってませんよー!」
「顔は笑顔なのに目が笑ってねぇぞ!?」
ぶはっ。リーシャさん、どれだけ藤堂先生にからわかれてきたんだ。
そして戦いが始まってしまったけれど、あの藤堂先生が利き腕ではないとはいえ、リーシャさんに滅茶苦茶押されてる。
こんなの初めて見た。
まぁ、デバフが大体この二人に効かないのはあるんだけど。
多分無抵抗で受け入れてくれたから効いただけで、普段ならこの二人はデバフなんて弾くだろう。
「ふぉふぉふぉ。玲央よ、少しパンでも食べながら座って見ておくとしようかの。良い酒のつまみじゃわい」
「ローガン師匠、まだ授業中ですよ」
「おや知らんかったかの? もう20時じゃぞ?」
「え?」
こんなに明るいのに?
「ここは外の明るさは関係なく、ずっとこの気候じゃからな。お主の"魔眼"の事もあって、場所は移動しておるぞ?」
言われて見ればその通りだった。
あの時気絶させられてから、場所を移動してたんだ。
そりゃあの『表彰部屋』で戦うわけがなかった。
戦いの時は集中してたし、今の今まで気づかなかったよ。
ってやばい! 咲と拓に心配かけてる……!
「ああ、安心するのじゃ。念の為、お主の家には連絡を入れておいた。兄をお願いしますと丁寧に言われたのじゃ」
「!!」
そっか、良かった。ならひとまずは安心かな。
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