14話.モブの魔力欠乏
授業中も訓練しよう、そう思っていたのだが。
一時限目。
「すまん榊、ちょっとこっち向かないでくれるか? あれなら、目を閉じててほしい」
「はい」
二時限目。
「ごめんねぇ榊君。私踊り場に立ってるわけじゃないからぁ……目、ぎゅってしててくれる?」
「はい……」
三時限目。
「おい榊、俺は壇上で光り輝く趣味はねぇぞ。目ぇつむっててくれ」
「……はい」
四時限目。
「あー、一応他の先生から話は聞いた。お前の意志でしてるわけじゃない事も。だがすまん、目をつむっててくれるか?」
「……はいっ……」
全然訓練できませんでしたっ!
だって先生全員目をつむってろって言うんだもん……!
休み時間になるたびに遊びに来てくれる烈火達のお蔭で気は紛れたけれど、地味につらい。
リーシャさんなんて三時限目辺りから、どう声を掛けたらいいのか分からないって感じだったよ。
烈火達が来たら明らかにホッとしてたもんね。
このまま学食に行っても注目の的になるだけだし、お昼を抜いても良いから『表彰部屋』へと向かう事にした。
一緒に食べようと誘ってくれた烈火達には悪いけど、注目されて滅茶苦茶食べ辛いだろうから。
周りにいる烈火達もこんな事で注目を浴びて悪目立ちしてほしくないし。
「行こうか榊君」
「え?」
「行くんでしょ? 私も一緒に行くわ」
「でも、昼食どうするの?」
「ふふっ。それを言うなら榊君だってそうじゃない」
「いやでも、俺の都合でリーシャさんまでご飯抜きは……」
「大丈夫、ちょっと待っててね。……もしもし……うん、そうです。注文頼んでおいて良いですか? 昨日と同じの。え? うん、そうですよ? それじゃお願いします。……これで大丈夫榊君」
「えっと……電話の相手、もしかして藤堂先生?」
「そうよ。あ、そうだ。榊君もスマホは持ってる? 良ければ連絡先を交換しない? その、ほら。友人なんだから、いつでも気軽に連絡取りたいじゃない……?」
ぐっふ(吐血)
リーシャさんは俺を萌え殺す気ですか。
「その……実は、俺スマホを持ってなくて……」
「え!?」
「あ、勘違いはしないで欲しいんだけど、貧しいからとか経済的な理由でも、親からダメって言われたからでもないよ? むしろ、家族は俺に合わせて連絡を冷蔵庫の白板を使ってしてくれるくらい、気遣ってくれてるから」
「どういう事なの?」
『表彰部屋』へと向かいながら、俺の事情を説明した。
まだ小学生だった頃、スマホには現在地を知らせるGPMと呼ばれる機能が搭載されているという事で、俺達の安全を考慮した両親はスマホを買ってくれようとした。
しかし、俺はスマホを機能不全(システムが色々と起動しない)にさせてしまい、使う事が出来なかったのだ。
その為、咲と拓の分だけでも買ってあげてと両親に頼んだのだが……両親ではなく、二人が拒否した。
「おにいがいらないなら、わたしもいらないっ!」
「あにちゃとあねちゃがいらないなら、ぼくもいらない!」
なんて言って、店員さん達に凄く暖かい目で見られたのを今でも覚えている。
なので、俺は勿論の事、咲と拓もスマホを持っていない。
今のご時世でスマホを持っていないのは、色々と不便もあるだろうに……でも俺がそう言うと二人は今でもこう言う。
「おにいは気にしすぎ。それにパソコンはあるし、それでチャットだって出来るから問題ないよ。もっと言うなら、男子に連絡先聞かれた時とか断りやすくて助かってる」
「あー、俺は機械とか苦手だしなぁ。兄貴が気にする事じゃねぇよ。それにそんなもん弄ってる暇があるなら、筋トレしてた方が良いわ!」
もうね、俺に気を使わせないようにそう言ってくれる二人を、大切に想わないなんて不可能だよ。
「成程……もしかしたらそれは、"魔眼"の影響かもしれないわね」
「え?」
「憶測にすぎないけれど、榊君の"魔眼"がスマホに掛かってる魔法の力を打ち消してるんじゃないかしら? それでスマホが機能しなくなっているのだとしたら、合点が行くじゃない?」
「……成程」
確かに、そう考える事も出来る。
昔は"魔眼"なんて事すら考えた事も無かったけれど……今は違う。
「失礼します」
会話しながらだと、部屋に着くのもあっという間だ。
リーシャさんがノックをしてからドアを開ける。
そこには藤堂先生とローガン師匠がソファに座って歓談していた。
「おう! 来たか玲央、リーシャ!」
「ふぉふぉふぉ、よう来たのう」
「失礼します藤堂先生、ローガン導師」
「こんにちは藤堂先生、ローガン師匠」
「「師匠!?」」
あれ、なんか二人に驚かれた。
いやそれも当然か。
ローガン師匠は、直接的な弟子を取らず、師匠と呼ばせない事で有名なのだ。
俺の場合、何故か呼ばせてきたのだけど。
「ふぉふぉふぉ。そう驚いてくれるな。玲央は天才じゃ。魔法の才も、わしを超える逸材じゃと思うておる。なんせ、恐らく魔力欠乏で気絶するじゃろうと見込んで掛けた魔法が、まさか自然回復量が凌駕するとは思わなんだでのう」
「「!!」」
二人が本当に驚いているけど、それよりも気になる事が。
「えっとローガン師匠、どういう事です?」
「あ、あー。説明しておらんかったな。お主に掛けた"枷"はな、直接的な害は無いのじゃが……魔力消費量は格段に上がるデバフ魔法でのう。つまり、お主は普段よりも多く魔力を常時放出しておるのじゃ」
「えっ……」
「ちょ、ローガン導師!? そんな事をしたら、榊君が魔力欠乏状態になって生命の危機がっ!」
「うむ、そうなった時に備えて、わしが目の前で見ていたのじゃが……一向に倒れるそぶりも無いどころか、ケロッとしておるのじゃよ」
「「!?」」
あの藤堂先生が開いた口が塞がらなくなってるし、リーシャさんまで驚いたまんまだ。
それを見ているからか、俺は随分と落ち着けているけど。
「で、じゃ……少し調べたのじゃが……玲央の魔力の自然回復量がの、増えた。それによって、わしの掛けた"枷"がの、意味なしになってもうた。それどころか、"枷"を解いた瞬間、玲央の最大魔力量が恐らく限界突破すると睨んでおる」
「「!!」」
よく分かっていない俺をよそに、二人の顔が厳しくなる。
だって、魔力の限界突破とか、ゲームにはなかった。
何か不味い事でもあるのだろうか?
「それはつまり……今、榊君の"枷"を解いた場合、最悪の場合……榊君は死んでしまうという事ですね」
「うむ。自己の保有する最大魔力量以上の魔力が、常時増加するのじゃ。溢れた魔力は外に漏れるだけでなく、器にヒビを入れるじゃろう。それは時間が経過する毎に広がり、やがては……」
「破裂する、か。だが、それを阻止する方法もちゃんと考えてあんだろ? じゃねぇと俺やリーシャを呼ばねぇだろ」
「ふぉふぉふぉ、勿論じゃ」
俺の事なのに俺を置いて話が進んでいく。
ゲームでは自然回復でMPがMAXになっても、なんら影響はないんだけど……現実では違うのか。
言われてみれば、満タンになった器にずっと水を注いでるみたいなもので、超えた分は常時溢れてるわけか。
その溢れる量が、普通の人なら問題ない量だけど……俺の場合は川とか海レベルでやばいって事か。
「最大魔力量を増やす為の儀式を行うのじゃ。今のままでは、玲央は自身の魔力にその身を滅ぼされる。わしの後継者を、そんな事で潰させるわけにはいかぬ。誠也、それにリーシャよ。玲央の中に潜む"魔"の相手を頼むのじゃ。わしは玲央を一時的に魔力欠乏状態にし、器の強化を行う」
「良いぜローガン。未来の大将軍候補、キングの為だ。力ぁ貸してやる」
「また先生と一緒に戦えるんですね……!」
「ああ、だがリーシャ。俺は利き手が使えねぇ。以前より大分抑えめになっちまうだろう。だから、お前が主体だ。分かってんな?」
「はいっ!!」
「よし、では準備を始めるとしようかの」
俺の事なのに俺を置いて話が進んでいくパート2。
えっとつまり、俺は何をすれば良いの?
こんなのゲームになかったからさっぱり分からない。
でも藤堂先生とリーシャさんのタッグ戦とかなにそれ見たい(小並感)
「さて玲央」
「は、はい」
いきなりローガン師匠に呼ばれ、意識を向ける。
その表情は普段の好々爺のような優しいものではなく、厳しい表情をしていた。
「これより、お主の最大魔力量を増加させる為の儀式を行う。その為には、お主の魔力を一度ゼロにする必要がある。そして魔力が無くなったお主を乗っ取ろうとする"魔眼の主"を顕現させ、その繋がりを断つ」
「"魔眼の主"……?」
聞いた事のない言葉が出てきた。
言葉通りなら、"魔眼"の本体という事だろうか?
「うむ。"魔眼"とは本来、魔王の力であると話したな? じゃが、それとは関係なく"魔眼"を扱える者もおる。そして……その全てが、"魔眼の主"……要は魔王に、殺されておるのじゃ」
「なっ……」
そんな事、知らなかった。
他の"魔眼"の持ち主が、すでに殺されていたなんて。
いやそうか、だから、か。
だから……ゲームでは魔王しか所持していなかったんだ。
「お主は規格外の肉体を持っておる。恐らく、魔王はお主の肉体を奪おうとするはずじゃ。その繋がりを……誠也とリーシャに絶ち切ってもらう。わしはお主が死なぬように、魔法で保護するでな。安心しておれ、お主にすれば一瞬じゃよ。寝て起きれば、終わっておる」
それは、手術のようなものだろうか。
俺の事なのに、藤堂先生やリーシャさん、ローガン師匠に任せきりで良いのだろうか。
そんな風に思っていたら、
「この借りは後で返してもらうから心配するな玲央」
「そうよ榊君。それに私は貴方の友人だもの。友人の為に力を貸すのは、悪くないわ」
「ふぉふぉふぉ……お主はわしの弟子じゃからな。これが終われば本格的に魔道の指導をしてやるでな、覚悟するんじゃぞ」
そんなあったかい言葉をもらって。
「では、しばし眠れ玲央よ」
ローガン師匠の手が俺の眼に被さったかと思うと、俺の意識は一気に闇へと沈んでいった。
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