特別編.榊家のバレンタイン
バレンタインですので、急遽書いてみました。お楽しみ頂けたら嬉しいです。
※このお話は、まだ玲央が『ブレイブファンタジー』の主人公達と出会っていない頃となります。
今日は2月14日。転生前に居た世界でも、この世界でもバレンタインだ。
今年の4月からはヴァルハラに入学になる為、その付近は前イベントもあるし、主人公達をヨイショする為にも俺は先回りする必要がある。
「うー、寒い。早く温かくならないかな……」
中学校から家に帰る道を歩きながら、そう呟く。
通りすがりのお店にあるテレビから、見慣れたアイドルの姿が映し出されていた。
『西園寺グループの誇るバレンタインチョコレート、是非食べてくださいね!』
『ブレイブファンタジー』のヒロインの一人、西園寺 紅葉さんのグループ会社が手掛ける事業は多岐に渡る。
お菓子もそのうちの一つで、去年も母さんと咲から貰ったチョコレートは、西園寺グループのロゴが入っていた。
とても美味しかったので、ホワイトデーでは手作りのお返しで大丈夫か不安だったけど……喜んでくれたのでヨシとしよう。
学校で仲の良い友人達は沢山居るけれど、受験でそれどころではないクラスメイトだらけだった。
あとモブを自覚している俺は、広く浅い付き合いを続けてきたので、親友と言えるような友人は残念ながら居ない。
まぁスマホも持てないし、皆の話に混ざれないので、聞くだけになっていたのもあるけれど。
居ても居なくても変わらない、それが俺である。
考えてて悲しくなってくるけど、モブだから仕方ないよね。
モブにはモブの人生がある。主人公達のような光輝く道ではなくても、ただ平坦な道を歩いていくのだって良いものだと思う。
いつもの道を、気分で少し変える。
大きな川が流れていて、橋が架かっている土手の元へと歩く。
ポチャンという音がして、そこを見ると魚が跳ねているのが見えた。
前世の世界ではもう見れなくなっていたなと、ふと思い出した。
河原を少し見渡し、石を手に取る。
「ほっ!」
トンッ トンッ トンッ ポチャンッ
「3回かー。中々難しいなぁ」
そこらに落ちている出来るだけ平らな石を水平に投げて、水の上を跳ねさせる。
俺の最高は5回くらいだけど、上手い人はもっとやれるんだよね。
「おーい! 兄貴ー!」
「!! 拓!」
走ってこちらへと向かってきた拓は、少し息を切らしていたのを整えて聞いてきた。
「ふぅ、何やってんだ兄貴?」
「うん? 水切り。ほっ!」
トンッ トンッ トンッ ポチャンッ
「あー、やっぱり難しいな」
「兄貴も苦手な事あんだなー。えーと、これなんか良さそうだな。おりゃっ!」
トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ
え、どこまで跳ねるの?
拓が投げた石が、一向に水の中へと落ちる気配がない。
トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ ポチャン
「あー。20回くらいか? まぁ適当にやったにしちゃ上出来か」
「拓師匠! どうやったらそんなに続くの!?」
「石の形と投げ方かなぁ。コツ掴んだら、兄貴だってこれくらいすぐに出来るようになると思うけど」
「よし、付き合ってくれ拓!」
「おお、兄貴燃えてんな!?」
「付き合うの!? おにいと拓が!?」
「「!?」」
突然の声に驚いてそちらを向くと、咲が驚いた顔で立っていた。
「待て咲、どうしてそうなる」
「だ、だって、おにいが拓の手を取って付き合ってくれって!」
「「……」」
どうしてこの子はそういう一部分だけを都合悪く見ちゃうのだろう。
「落ち着け咲、まずは誤解だと言っておこう」
「だって今日バレンタインだし……」
あぁぁぁぁぁっ……! タイミングまで悪いのか!!
「良いか、まず俺はちゃんと女の子が好きだ」
「おにいが……?」
「兄貴が……?」
うん? どういう意味の言葉なの?
「そこに疑問を持たれると辛いんだけど、そうなの。で、拓には水切りのやり方を教えて貰おうとしてただけだぞ」
「あー、そういう。紛らわしい事しないでよおにい」
「目の前で俺の数倍も石を跳ねさせられたら、そうもなるって」
「兄貴、水切りは俺より……」
「あ、これ良さそうな石! そりゃっ!」
トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ
「え」
「おお、姉貴の水切りは久しぶりだな!」
「へへん! 見ておれ弟よー!」
トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ トンッ
噓みたいに跳ねて、なんと川の向こうまで届いてしまった。
「どんなもんだい!」
「相変わらずすげぇな姉貴」
「咲にこんな特技がっ……!」
「えへへ、これ得意なんだー! 楽しいから友達とよくやってたんだよねー」
こんなに跳ねさせられたら、ヒーローだろう。
我が妹ながら、凄い。
あれ、3回しか出来ないのが急に恥ずかしくなってきたぞ?
「拓、咲、俺にご指導ご鞭撻の程、お願いしますっ!」
「お、おお、兄貴がいつになく真面目に」
「あはは! くるしゅうないー! その代わり家帰ったらチョコレート作っておにいー!」
「それは構わないけど、今日は女の子が送る方では……?」
「今日のおにいはおねえって事で!」
「そんな性別コロコロ変わらないんだけど? まぁ良いけど」
「良いのか兄貴。ま、俺も手伝うぜ。帰りスーパー寄ってこうぜ」
「さんせー! ついでにアーモンドポッキー買っておにい!」
「はいはい。流石に店のより美味しさは期待するなよ?」
「「……」」
「あれ、なんで無言」
「だってなぁ、姉貴」
「ねぇ。おにいのお菓子、店売りより美味しいし、去年ホワイトデーに貰った残りを学校に持って行ったら、クラスの女子で争奪戦が起こったからね?」
「……」
なにそれ知らない。
それから水切りの練習をして、帰りにスーパーに寄ってチョコレートの材料を買い、家に着いたら拓と作る。
勿論咲はソファーでゴロゴロしている。
「おにい、拓、頑張れー!」
すっごい笑顔でそう言ってくるので、こちらもにっこにこである。
「兄貴は姉貴に甘すぎねぇ?」
「拓には言われたくないぞ?」
俺より甘やかしているのが拓である。
とりあえず、一から作るのには夕飯の時間もあり無理なので、市販ので色々と省略させる。
お湯を沸かして、ボウルに板チョコを割り入れ、生クリームも入れる。
お湯が湧いたのでボウルの底をつけて温める。
チョコレートが半分位溶けたのでボウルを湯煎からあげて、ゴムベラで混ぜ合わせる。
「あ、それは俺がやるよ兄貴」
「助かる」
拓がやってくれる間にタルトカップを用意。
スプーンで生チョコを注いでいく。
チョコを入れ終わったら、軽くトントンと落とし、表面を平らにっと。
ここはなんでも良いけど、今回は苺パウダーを散らす。
粗熱が取れたら冷蔵庫にっと。
「よし、簡単だけどこれで終わりだな」
「流石兄貴、手際良いな」
「慣れだよ。色々手を抜いてるし」
「そこがすでに凄げぇんだけど、兄貴には伝わらないよな……」
「?」
誰でもやれば出来ると思うけどね。
面倒だからやらないだけだと思うんだ。
俺の場合、自分の為じゃなくて、咲や拓が食べてくれるからって思って作れるのが大きいと思う。
自分の為なら、多分作らないし。
固まるまでの間は少しかかるので、咲と拓と一緒にトランプで遊ぶ。
そこでクラスであった事や、友人達の話を聞く。
楽しそうに話す二人の話を聞いていると、俺も嬉しくなる。
「「ただいまー!」」
「あ、帰ってきたよおにい!」
「「「お帰りー!」」」
「玲央、咲、拓、チョコレートよー!」
「ありがとう母さん」
「あんがと母さん!」
「咲、父さんにチョコレートあるー!?」
「勿論あるよ! ね、おにい!」
「あっと、もう固まったかな……? 見てくる」
「ちょま! 兄貴、それ兄貴と俺で作ったやつだけど!?」
「ちっちっちっ。拓、よく言うでしょ。お前のモノは俺のモノ!」
「なんつージャイアニズム!」
「ははっ。まぁ人数分作ってるから大丈夫だよ。皆で食べよう」
「「「「はーい!」」」」
そうして今日もバレンタインが過ぎていく。
女友達や彼女からっていう、あまずっぱいチョコレートは貰えないけれど、俺は満足している。
お読み頂きありがとうございました。




