13話.モブの訓練
枷には勝てなかったよ。
冒頭から酷い。
父さん母さんには流石に心配されたけど、いや咲と拓も笑った後心配してくれたけど。
ヴァルハラの訓練の一環だって説明したら納得してくれた。
嘘ではないからね、俺個人へのって点を除けば。
しかし、この光の何が辛いって、夜に眼を開けたら視線の場所だけやたら明るくなる事だよね。
夜中にトイレ行こうと部屋を出たら、丁度拓も部屋から出た所だったようで、驚かれたもん。
「はは、懐中電灯要らずだな兄貴」
なんて微妙なフォローまで頂く始末。悲しくなっちゃう。
ちなみに懐中電灯の光っているのを直視するのとは違い、眩しくなく俺の眼は見えるのだそうだ。
どんな原理なのだろうか、魔法だから気にしても無駄かな。
そんなこんなで、結局"魔眼"のコントロールどころか、使わないオフ状態にすら出来ないまま翌日になってしまった。
相変わらず、視線を向けた先が明るく照らされる。
明るい朝日が部屋を満たしているのに、それ以上の光で照らすとかなんなの俺の眼。
っと、そんな事より朝飯を用意しないとな。
今日は俺の当番だし、あんまり寝れなかった事もあり時間はまだ早い。
音を立てないようにそっと台所へと向かう。
するとトントントンという音がするではないか。
もしかして……と、そっと台所を覗く。
しかし、それがいけなかった。
俺が視線を向けると、その場所に明かりがいく。
つまり……
「うぉっ! なんだぁ!? って兄貴かよ、驚かすなよ……」
拓に光線(仮)が直撃したのだ。なおダメージはない。
「すまん拓。というか、今日は俺の当番だろ? まだ寝てろよ拓」
「いんだよ。兄貴も姉貴も、学校で頑張ってんだろ? 俺はそんな二人の負担を少しでも減らしてやりてぇんだ」
「拓……!」
この人間のできすぎた弟をどうしてくれよう。
感謝だけでは当然すませられない。
「よし、なら今日は一緒に作るか!」
「俺の話聞いてた兄貴?」
「ああ、だからこそだよ。大好きな弟と一緒に料理を作る。こんな素晴らしい息抜きがあるか?」
「兄貴……。わ、分かったよ! でも、そういうこっぱずかしい事を外では言うなよ兄貴!」
「分かった分かった。今は何を作ろうとしてたんだ?」
「今は味噌汁だな。具材切ってた。兄貴は米を研いでくれるか?」
「ああ、分かった。魚は焼くのか?」
「んー、今日は納豆にしようかと思ってさ。米と味噌汁、納豆に卵焼き、あと姉貴が好きなバナナでも用意すりゃ良いかなって」
うんうん、朝食に必要なエネルギーを大体取れるな。
「おっけ。なら卵焼きは任せろ拓」
「あ、作る時見てて良いか兄貴。兄貴のふわふわな卵焼き、俺じゃどうしても難しくて」
「おう、存分に見るが良い弟よ!」
「ははー! お代官様!」
「って誰がお代官様やねん」
「「はははっ!」」
こうして、手軽な朝食を二人で準備していく。
ご飯が炊けたあたりで父さんと母さんが仕事着を着て、台所へと立ち寄っていく。
「いつもありがとうな玲央、拓」
「お母さん達も頑張ってくるからね!」
「「いってらっしゃい」」
今日は朝食の準備は要らないと白板に書いてあったので、二人の分は用意していない。
それでも、俺達にお礼を言いにわざわざ台所へと寄ってから、外へと行く。
そんな両親が俺は好きだ。
二人は職場恋愛、職場結婚なので、一緒に働いている。
朝が早く、夜は遅い。だけど、不満を言う事なく……いや、きっと俺達には見せないようにしているんだろう。
「兄貴、まだ時間あるけど俺は姉貴起こしてくるわ」
「任せて良いか?」
「うん。兄貴は今大変だろ? その眼の事もだけど、俺達の事は気にせず頑張ってくれよな」
そう少し頬を染めながら、咲の部屋へと走っていく拓を見送る。
俺の弟可愛すぎか?
拓の想いに応える為にも、"魔眼"を制御しなければ……!
学校に着いた。
それまでの道中を思い出したくない。
「おま、榊、入学三日目で狙いすぎだろ!?」
「ぶほっ! おま、それはないわっ! ってこっち見るな頼むからっ! ぶふっ、マジで笑いがとめらんねぇからっ!」
「明るいのに眩しくないの不思議だよねそれ。どうやってるの榊君?」
「おい榊! 昨日はどうし……ってなんで目が光ってんの!? って俺に光をあてないで!? なんか悪い事した俺!?」
等々、道行く生徒達に声を掛けられまくったのである。
昨日はリーシャさんが隣にいたから、誰も声を掛けてこなかったんだなと思う。
モブが変な事してたら、そりゃ声を掛けたくなるよね。
これ俺がしたわけじゃないんです本当なんです。
周りから目から怪光線を出す男って話題にされる俺の気持ちを分かる人なんて絶対いない。
「おはよう榊く……」
「おはようリーシャさん」
「ッ……! っ! ど、どうしたの? その眼」
笑いをこらえながら、努めて平静に話そうとしてくれるリーシャさんに涙がでそう。
「ちょっと、あの後の訓練でね……」
「ああ……ローガン導師に何かされたのね……」
一言で察してくれる。
ああ、良い友達を持ったなぁ俺。
「おーい玲央! 来たぜぇっ! リーシャさんもおはようさん!」
「フ……今日もお前の周りは騒がしいな玲央」
「玲央さん、リーシャさん、おはようございます。玲央さんはまだその状態なんですね」
「おはよ皆っ! ぶふっ! まだ眼が光ってるの玲央!?」
席についたら皆やってきて、より騒がしくなる。
モブの俺が推しに囲まれて、幸せ過ぎて死にそうである。
叶うなら、後ろの花瓶になって皆を見ていたかったけど。
「おぉーい席につけ! あとお前らは毎度毎度、自分のクラスから他クラスに移動してくんな! ほれ戻れ戻れ!」
藤堂先生に一喝されて、笑いながら戻っていく皆を見送る。
烈火の後ろが俺の視線で光って、他の皆から笑われたけど。
「あー、玲……榊。お前眩しいから眼をつむってろ」
「「「「「ぶふっ……!」」」」」
「はい……」
こんな事言われる生徒いる……?
先生公認で居眠りしているようなものである。
いやちゃんと姿勢を正して話は聞いてましたけど。
と言っても、入学式と能力測定の後は、しばらく自由パートだ。
烈火の行く場所で小イベントが多々起こるくらい。
なので、俺としては烈火の後ろ、離れた所からついて回ろうと思っていたのだけど……この状態では一瞬でバレる。
一刻も早く、"魔眼"の制御を出来るようにならなければならない。
少なくともオンオフだけでも。
「以上で伝達事項は終わりだ。午前中は学業、午後からは鍛錬。励めよお前ら!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「あー、それから榊にリーシャ。お前達は昼食後で構わんから、昨日の部屋へ来い」
「分かりました」
「はい、藤堂先生」
そう言って藤堂先生はクラスを出て行く。
何かまだ伝える事があったんだろうか?
それはそれとして、このヴァルハラでは学業もちゃんと力を入れており、テストまである。
それは、魔王を倒す事が目的ではないからだ。
その後の世界平和こそが目的であり、きちんとその先を考えてあるのだ。
そも魔族に支配されてしまえば人類は終わるのだが、魔王を倒し世界が平和になった後の事を考えていないようでは本末転倒だからね。
「もう眼を開けても良いと思うわよ榊君」
「あっ」
ずっと眼をつむったままだった俺は、リーシャさんの一言で目を開ける。
その光がリーシャさんを明るく照らした。
「な、なんだか照れるのは何故かしら」
そう頬を赤くしながら言うリーシャさん。
スポットライト当たってる感じだからかな?
とりあえず、授業中も"魔眼"のオフを意識していこう。
これも訓練みたいなものかな。
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