80話.クレハの実力
「そやさ☆」
「グァァァァッ!?」
「ほいさっ☆」
「ギャァァァァッ!!」
「とりゃさ☆」
「ガハァァァッ!!」
「……」
噓でしょ。
クレハさん、信じられないくらいに強いんですけど。
ちょっと、シャレになってないくらいに強い。
瞬間移動、というのだろうか。
敵に気付いたら、そこに一瞬で移動して首を刈り取る。
まるで死神の大鎌だ。
「んー☆ 弱い弱い☆ あ、みっけ☆」
「ギギィッ!? ギャァァ!!」
まるで虫を踏みつぶすが如く、魔物を斬り殺して行く。
それもピクニックに来ているかのように、軽やかな足取りで。
それに、このダンジョンは人工ダンジョンではないので、魔物の死体は消えない。
そう、消えないはずなのだ。
なのに……どうして魔物が倒された後、死体が消えてしまうんだろう?
「あ、玲央ちゃん魔物の死体が残らない事が疑問だったりするのかな☆」
「!!」
びっくりした、いきなり心を読まれたのかと思ったよ。
「う、うん。ここは人工じゃなくて、天然のダンジョンだから、魔物は創られた存在じゃなくて、ダンジョンに生み出された存在でしょ?」
だから、死体は消えないはずなのだ。
ただ、時間が経てばダンジョンが吸収するので、いずれ消えるのは一緒なんだけど。
少なくとも死んですぐに消えはしない。
「んー☆ まぁ玲央ちゃんにならいっか☆ ウチの大鎌、『ソウルイーター』って言うんだよね☆ その名の通り魂を食べる武器なんだけど、魔物って全身が魂そのものだからね☆ 全部この子が食べてるんだー☆」
「!?」
確かに、そんな武器は存在した。
説明文も、魂を刈り取るってあった。
でもまさか、現実だとそうなるとは……。
「この大鎌、食わせれば食わせる程強くなるんだー☆ ウチ、これでもたくさん屠ってきたからね☆ 人間だろうが同族だろうが、魔王様の敵は全部全部殺してきたから☆」
クレハさんの眼が漆黒の闇を映し、背筋がゾクッとした。
会話の口調はいつも通り軽い。だというのに、その言葉には凄い重みを感じた。
本当に、マカロンに忠誠を誓っているのが分かる。
「だから、魔王様が玲央ちゃんに力を貸せって言うなら全力で力を貸すし、ないとは思うけど……魔王様が玲央ちゃんを殺せって命じたら、ウチは躊躇わずに玲央ちゃんを斬るよ☆」
「……。そこは、殺すって言わないんだ?」
「!! ……たはは☆ やっぱ玲央ちゃんには敵わないなー☆ うん、ウチは玲央ちゃんは殺せない☆ ま、乗っ取られてる魔王様ならいざ知らず、今の魔王様がそんな命令するわけないけど☆」
クレハさんは、繰り返す時の中で……俺と敵対していた時があったのかもしれない。
それは俺ではないけれど……その俺ではない俺は、もしかしたら……いや、考えても仕方がない事か。
「ほいさ☆」
「ギャァァ!?」
「!!」
「ステルス使っても無駄無駄☆ ウチの探知の範囲を舐めんなよ☆」
もはやクレハさんの実力は疑いようがない。
俺が何か指示をする暇も無く、クレハさんは敵を始末していく。
「どう玲央ちゃん☆ ウチ頼りになるっしょ☆」
「はい。正直クレハさんの事舐めてました」
「うは☆ 玲央ちゃん正直☆ ま、魔王様とウチを救ってくれた玲央ちゃんなら良いけど☆」
そうか、クレハさんが絶対的に俺の味方をしてくれるのは……忠誠を誓っているマカロンを、俺が救ったから。
そんなことを考えていると、ボス部屋の前に辿り着いた。
「お、ここだねぇ☆」
確かここのボスは悪魔公爵、ダンタリオン。
凄まじい魔法を操る強敵だ。
前回はマカロンが居たから戦いにならなかったけど、今回はそうはいかないだろう。
気合を入れて、俺は扉を押して行く。
「グハハハハハ! よく来たな下等生物共よ! この大悪魔、ダンタリオン様の餌となるがよい! ハハハ……!」
「お、ダンちゃんおっひさー☆」
「ハハ……ゑ?」
「久しぶりだねぇ☆ あ、でも本体は魔界だよね☆」
「く、クレハ様ぁぁぁぁ!?」
何このデジャヴ。
ボス部屋に居た、大きな黒い翼を生やした悪魔が、また平伏した。
流石に二度目となると大きな驚きはな……いや驚くよ。
「クレハ様が現界しておられるとは……大変喜ばしいことですな! しかして、その人間は?」
「あ、俺は榊 玲央と言い……」
「貴様には聞いておらぬわ! 誰が言葉を発して良いと言ったにんげゴファッ!?」
マカロンもクレハも知ってる人、いや悪魔だし、一応自己紹介をしようかと思って言おうとしたら、遮られたのだけど……その途中でクレハさんがぶん殴った。
「おいダンタリオン☆ 口の利き方に気をつけろよ☆ 玲央ちゃんはお前程度が言葉を遮って良い方じゃねぇゾ☆」
「も、申し訳ありませんでしたぁクレハ様っ!!」
「謝る相手が違うだろォ☆」
「は、はいっ! 申し訳ありませんでしたっ!!」
今度は俺に向かって、凄まじい勢いで土下座をしてくるダンタリオンさん。
それを見たクレハさんはにっこりする。
今はその笑顔が凄まじく怖いんですけど。
というか、ダンタリオンって悪魔の階位で言えば公爵で、通常の階位で言えば頂点クラスの存在なはずなんだけど。
その上ってもう王族とか、皇帝、大公爵といった極少ない階位しかないと思うんだけど。
そんな人(悪魔)が土下座するって、一体どういう状況なのか。
「ごめんね玲央ちゃん☆ 魔族は舐められたら終わりだから☆ しっかり上下関係は躾ておかないとなんだ☆」
「そ、そう、なんです、ね」
もはやめっちゃ引き気味に答える事しか出来ない俺である。
「そ、それでクレハ様。やはり私が落とすドロップ品がお望みでしょうか……?」
「そだよ☆ あ、ちなみに素材コレコレ要るんだけど、ついでだから配下に集めさせてくんないかな☆」
「おお、成程。確かにこれらなら私の配下で全て揃えられますな。しばしお時間を頂けますか?」
「オーケー☆ それじゃそこで座って待ってるから、よろしくね☆」
「畏まりました! おい! お前達、他のダンジョンを守っている守護者達に伝えろ」
それから、ダンタリオンさんはぶつぶつと何か一人で言い出した。
「玲央ちゃん☆ ウチ達はのんびり待ってよ☆」
「えっと……良いんですかね?」
「勿論☆ 玲央ちゃんは人を動かす事を覚えないとだねー☆」
うぐぅ、自分でやれる事は自分でやりたくなるタチなんだけどなぁ……。
せっかくダンジョンに来たのに、まさかの一ヵ所目でただ待つだけになるとは想定外である。
お読み頂きありがとうございますー。




