12話.モブな俺の知識チート
「うぅむ……まずはその眼を最大限に活かす為、知識を埋め込もうと思ったのじゃが……玲央、お主天才じゃな」
「いやその……これくらい常識じゃないですかローガン師匠?」
あくまでユーザー視点の話にはなるのだが、四大属性の相性や属性の色、その対策等々、当たり前に掲示板で話されるような内容を、師匠の問いで答えたのだが……。
「ふぉふぉふぉ……全く、わしの門下生に玲央の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわい。これ以上は河童に水練、猿に木登りじゃな」
そう笑って言うローガン師匠。
このゲームのシナリオライターが日本人だからか、よく日本のことわざが使われるんだよね。
ちなみに河童も猿もこの世界ではモンスターである。
河童は川を渡ろうとしたら出てくるし、猿は温暖な森林がある場所では普通に出てくるエネミーだ。
河童は水魔法を使ってくる厄介な敵だし、猿は遠距離物理バナナ攻撃をしてくる。
何を言っているんだと思うかもしれないが事実である。
木に成っているバナナを取り、投げてくるのだ。
ダメージはほぼないので、ただ単に嫌がらせだと思う。
戦闘中に10回バナナを投げられると、初回のみ戦闘終了後にそのメンバーでバナナを食べるイラストとショートストーリーがあったりしたから、わざとバナナを投げられるのを待ったなぁ。
一パーティが四人(NPCが入ると五人)なので、色んなパーティに変えて読んだけれど、どれもキャラクターの個性が出ていて面白かった。
「これならば、随分と過程を省略できるのぅ。では残りの時間はお主の"魔眼"の力のコントロールに入ろうかの」
「!!」
「今のお主は、常時"魔眼"を使用しておる状態じゃ。しかし本来、"魔眼"とは使用するだけで莫大な魔力を消費し続けるモノじゃ。どんな魔力の持ち主でも、すぐに空っぽになる程にの」
「藤堂先生が、俺が魔判定Fなのも納得と言ってましたけど、常に消費しているからって事なんですよね?」
「うむ。それは正しくもあり、正確ではないの」
「?」
どういう意味だろう?
正しくはあるけど、正確ではない。
文字通り受け取るなら、魔力を常に消費しているから残り少なくて魔判定がFになっているって事だと思うんだけど。
「そうじゃなぁ。分かりやすく言うなら……そもそもが、魔判定で結果が出るのがおかしいのじゃよ」
「え?」
「言ったじゃろ? お主は"魔眼"を常に使っておると。なら、魔力なんてすっからかんになっておらんとおかしいじゃろ? どれだけ魔力量が高かろうと、"魔眼"を使い続ければ一時間もすれば魔力は空になる。極大魔法を連射する事ができるわしでも例外はない」
「!?」
それは、確かに……けど、"魔眼"ってそんなに消費の大きい力だったのか。
そこまでは考えた事も無かった。
いやそもそも、その考えが正しいのであれば、俺はどうして一日中使い続けられるのだろうか?
「その答えがのう。お主の魔力量ではなく、魔力の自然回復量の高さなのじゃよ」
「魔力の、自然回復量!?」
そういえば、ダンジョンを歩く時、10歩歩けば1MP回復するシステムだったのを思い出す。
これによって、レベルを上げる時に最低限の魔法やスキルを使っても回復させながら進める事が出来た。
「玲央の最大魔力量は恐らく、そこまで高くはない。じゃが、自然に回復する魔力量が尋常ではない。それ故に、最低限の魔力が残った状態で日常生活を送っているという事じゃ」
「なる、ほど……」
「そしてその状態は、体に凄まじい負荷をかけ続けておる。ずっと全身に重りを乗せながら生活しておるようなものじゃからな。お主の異常なまでの体力は、そこから来ておるのじゃろう」
言われてみれば、色々と合点が行く。
昔はしんどかった事も今では苦も無く出来るようになっているし、走り回っても息切れをした事がない。
それが"魔眼"を常時発動させている事による常時鍛錬みたいな状態になっていたのだとしたら……俺は十数年、毎日鍛錬をしていたのと変わらないわけで。
「つまり、その力を自分の意志で発動のオンオフを出来るようになれば……お主の魔力回復量であれば、わしと同等、いやそれ以上に魔法を使う事も可……」
「あ、いえそれは良いです」
「なんと!?」
それは違う。それは解釈違いだ。
俺は自身が『ブレイブファンタジー』の主要キャラクターでも、サブキャラクターでも、有名なNPCでもない事を知っている。
だって、榊 玲央なんてキャラクターは居なかった。
だからこそ……主人公達の役割を奪うような、強者になりたいわけじゃない。
主役にそっと花を添えるような……それが俺の役割だと思う。
「ローガン師匠。俺がやりたいのは、皆の役に立つ事です。大切な仲間を、守れるようになる事。でもそれは、俺が力で守るって事じゃなくて……」
なんと言ったら良いのだろうか。
言葉を探しながら答えていくと、ローガン師匠がフッと笑った。
「成程の。お主は本当の意味で、"良い奴"なんじゃな」
「え?」
「あいわかった。しかし、お主自身が強くなる事もまた、仲間の手を煩わせる事がなくなるであろ?」
「それは、確かに」
俺が命の危機に陥って、烈火達に庇われるなんて事があっては絶対にならない。
それだけは俺が俺を許せない。
俺が烈火達を庇うのは良い。
それによって最悪俺が死んだとしても……この世界の主人公達が生きてさえいれば、この世界は救われるのだから。
「ふむ……。いや、今は言うまい。では玲央よ、少しわしの方で"枷"を追加する」
「"枷"ですか?」
「うむ。"魔眼"とは本来、使用時に眼の色が変わるものじゃ。しかし、お主は常時使っておったせいか、普段と何一つ変わらぬ状態じゃ。それが誰も見つけられなかった原因とも言えるの」
そういえば、魔王が"魔眼"を使う時、眼が紅くなった気がする。
その後魔力が膨れ上がって、手が付けられないくらいに極大魔法が連続で飛んでくるんだよね。
烈火が魔法を弾き返す聖剣を扱えるおかげで、なんとかなるんだけど。
烈火専用の武器で、名をマサムネ。
全ての魔法を斬る事で反射させる事のできる、チート武器である。
「じゃからの、今からお主には、"魔眼"の使用中は眼が光る"枷"をつけさせてもらう」
「!?」
え? ちょっとまって。
それってつまり、俺は"魔眼"使ってると、眼が光るの?(そう言ってる)
それってつまり、常時目から怪光線状態って事では!?
「ちょ! ローガン師匠! それはあんまりにもあんまりでは!?」
「うむ。わしも心苦しい。思わず笑ってしまうかもしれぬが、勘弁しておくれ」
「ちょっと!? すでに笑いを我慢しながら近づいてくるのやめてもらえませんか!?」
「獅子は我が子を千尋の谷へ落とすという。わしも辛いが、全てはお主の為……!」
「ちょ、やめ、そんな面白芸人みたいになるのはいやぁぁぁぁぁっ!!」
「逃がさぬよ玲央、ほい捕縛」
「この大賢者ぁあぁぁぁっ!!」
「そう褒めるでない☆」
「ぁぁぁぁぁぁっ!! アッ」
「うむ、これで完了じゃな」
眼を開くと、視線の先に光が届く。
「ぶふっ」
やった戦犯のローガン師匠が吹き出した。汚されちゃった。俺汚されちゃったよ。
「さて玲央、これで"魔眼"のオフを意識するのじゃ。それは感覚的なモノじゃからな、わしからとやかく言える事は無い。光が弱くなれば、それが制御しかけているという証となるのじゃ」
「!!」
な、成程! そういう事だったのか!
俺を人体実験しようとか、面白がってやったんじゃないかと思ってすみませんでしたっ!
「ちなみにローガン師匠、これ解けるんですよね?」
「うむ、大体三日くらいしたらの」
「……。あの、"魔眼"をオフ出来なかったら、このまま帰れと?」
「頑張ってオフするのじゃぞ☆」
こんの鬼ぃぃぃぃぃっ!!
それから数時間、下校時間になるまで制御をしようと頑張ってみたが、光が一向に消える事はなかった。
下駄箱に移動するまでの間に、皆にさんざん笑われ、榊がまた変な事やってるぞって一躍時の人になった。(またってなんだ)
ちなみに烈火達にも思いっきり笑われた。
「ぶはははははっ!! な、なんだよそれは玲央!」
「ッ……玲央、この俺を笑わせるとは、やるじゃないか……!」
「れ、玲央さん、その状態は……ふふっ……! ちょ、ちょっとこちらを向くのは今はやめ……ふふっ……!」
「あははははっ! 一体どういう状況になったらそうなるのよ玲央!」
と、滅茶苦茶にからかわれた。
藤堂先生とリーシャさんに会わなかったのが不幸中の幸いだが、明日結局バレる事を考えると今から憂鬱である。
その前に、家に帰ったらまた咲と拓に心配をかけてしまうな……。
「あははははははっ! おにいどうしたのそれ!?」
「ぶふっ……! あ、兄貴、怪獣かなんかの技でも身に着けたのか?」
心配をしろよっ!
くそう、絶対制御してやるからなっ!
お読み頂きありがとうございます。
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