55話.隣国の英雄①
日曜日の今日。
珍しく何の予定もない俺は、日課のトレーニングを済ませた後、日用品の買い出しに出かける。
「トイレットペーパーもそろそろ買い足しておかないとなぁ。あとはティッシュに、調味料も各種減ってきたんだよね」
「にゃん(おかんか)」
マカロンにそう突っ込まれるけど、否定は出来ない。
良いじゃないか、男が家事したって。
というわけで、近くのスーパーへ(と言っても中々の距離があるけど)買い物に出かけた。
魔族に出会う可能性はあるけれど、そんな頻繁に出会うってわけでもないからね。
まぁ問題は、俺は昔から何故かよく出会うのだけど。
こんな風に。
「死んでもらうぞ人間!」
「キャァァァァッ!」
まずい、この距離じゃ間に合わないっ!
「どおりゃぁぁぁっ!!」
「なんだきさガフゥ!?」
「ハッ! 魔族が人間様の縄張りに入ってきてんじゃないわよっ! 『ソリッドキャリバー』!」
「グハァァァッ!!」
お、おお。
男性が魔族をアッパーで浮かせて、女性がそれを空中から斬り捨てた。
流れるような見事な連携だ。
「大丈夫かよ?」
「は、はい。ありがとうございます。その制服、もしかして隣国の……」
「ええ。私達は隣国『エリュシオン』にある、『フォールクヴァング』の生徒よ。今日は休日だから、遊びに来てたの」
「やはりそうでしたか。助かりました、ありがとうございます!」
「良いって良いって。怪我が無くてなによりだよ。行こうぜアスカ」
「ええ。……気付いてたヘイム?」
「ああ。一人、凄まじい『オーラ』を内包してる奴が俺達を見てたな」
「そっちじゃないわよ。あの眼。あれは普通の眼じゃなかった」
「……。今の俺達はこの大陸にはまだ関われねぇ。とりあえず、そんな奴が居たって報告は出来そうだな」
「そうね。どうせなら知り合いになりたかったけれ……」
「ちょっと良いかな?」
「「!?」」
「はいこれ、さっき落としてたから」
「あ、財布!?」
「ヘイム……」
「いやマジでありがとう! これ失くしたら先生に大目玉だったわ!」
「ごめんなさい、ありがとう。えっと……私はアスカ。アスカ・ヴァナディースよ」
「俺はヘイム! ヘイム・ダッルだ!」
おおう。ただ財布を落としたのを見かけたから、届けに行っただけなのに……名乗られてしまったからには、俺からも名乗るしかないよね。
「俺は榊 玲央。見ての通りこの国の人間で、『ヴァルハラ』に通ってるよ」
「「!!」」
日曜日なのに何故制服を着ているのかっていうのは、ひとえに便利だからである。
防護魔法まで掛かっているこの服は非常に有能なのだ。
まぁ服選ぶのめんどくさいというのも結構含まれているのだけど。
俺は服選びのセンスが無いらしく、咲にいつもダメ出しを食らうのである。
「『ヴァルハラ』の生徒だったのか。なら俺達は余計な事をしちまったな! アンタなら余裕でさっきの魔族も倒せただろうしな!」
「確かに」
「いやいや、俺じゃ間に合わなかったよ。人を助ける為に自然に動ける二人は凄いと思う。ありがとう」
「お、おう。なんつーか、そう素直に褒められると照れるな」
「当たり前の事をしただけだからね。人類みな兄弟、なんて言うつもりはないけれど、少なくとも共通の敵が居る間は味方でしょ」
「あはは。それじゃ、俺はこれで……」
俺は気持ち慌てて踵を返す。
いやこの人達、この世界にある三大学園の一つ、『フォールクヴァング』に居る英雄だよ!
この世界には魔大陸に隣接する位置にある『ヴァルハラ』と、北の隣国にある『フォールクヴァング』、そして南の隣国にある『グリームヘイム』の三つの巨大な学園が存在する。
人間達の多く住む国にある『ヴァルハラ』と違って、『フォールクヴァング』は亜人の方達が多く在籍している。
名前の漢字の人が少ないと言えばわかりやすいだろうか。
『ヴァルハラ』では半々、気持ち漢字の人が多いだろうか。
そして亜人は、人がオールラウンダーだとすれば、人よりも何かに特化した力を持つ種族だ。
その亜人達の中でも、特別な力を持つ人達を、英雄と呼んでいる。
数少ない英雄のうちの二人が、この二人なのである……!
「まぁ待ちなって。ここで知り合ったのも何かの縁だろ? 俺達はここの地理に疎くてよ、案内が欲しいなと思ってたんだよ! 良ければ付き合ってくれないか?」
「こらヘイム……と言っても、それも事実なのよね。榊君、本当に申し訳ないのだけど、時間を割いてくれる余裕はないかしら?」
うぐぅ、ここで否と言うのは簡単だけど……何の否もないこの人達を邪険にするのも……!
「わ、分かり、ました。俺で良ければ……」
「やりぃ! 話が分かるな! ありがとう!」
「迷惑をかけてごめんなさい。このお礼は必ずするから」
というわけで、日用品の買い出しが、何故か隣国の英雄達の道案内をする事になりましたとさ。
どうしてこうなった。
お読み頂きありがとうございます。
第二章ここまでの登場人物紹介の感想にて、逆に一般すぎる普通の学園で無双してることも知らない町でたまたまあって気づかれてない友達
からの派生で、ちょっと世界を広げてみました。
普通の学園が三大学園の一つになって、一般人が英雄になってしまいましたけど(脱兎)




