54話.次に起こるイベント
皆で学食を食べた後、それぞれが次の戦いへと向けた課題を自身に見出していて、クラスを超えて一緒に訓練をする事になった。
この人数であれば模擬戦も相手を変えて行えるし、連携も考えられるし、なにより親睦を深められるのがとても良い事だと思う。
A組、B組、E組のチーム合計12人。
来月開催予定の学年対抗戦に出場するメンバーでもある。
しかしその前に、一つ起こるイベントがある。
ゲームでは共通ルートであり、黒騎士イベントの後に起こる必須イベント。
……なのだが、今回ヴァルハラの結界を俺が強化した事で影響出てきそうなんだよね。
土曜日の今日は何の予定もなくお休みだ。
自室でお父さん座りをして、マカロンを撫でながらその事を相談する。
「うむ、あのイベントか。確かにゲームではあの結界の脆い場所を穴に攻め込むという流れだったな」
「そうなんだよね。でも、今回は俺が結界を強化しちゃってるからさ」
「まぁこの件は気にせずとも良かろう。脆い箇所があったからそこを起点にしただけで、別段ソコでなければならないというわけではないからな」
「え、そうなの?」
「私が、あ、いや、理性を取り戻す前の私が、だぞ? その私であった私ではない私が、結界の一部に穴を開けたからこそ起きたイベントなわけだ」
マカロンの説明に苦笑しながら、耳を傾ける。
「であれば、その穴が無いのであれば、他の魔族が作るだろうな」
「!! マカロン以外に、そんな事が出来る魔族が居るの?」
「居るな。四魔将は全員可能であるし、その四魔将に仕える者でも可能だろう」
成程……なら、あのイベントは起こるものとして動いた方が良さそうか。
魔大陸と近い場所にあるヴァルハラ。
そのヴァルハラへ、一部の魔族達が攻め込んでくるイベント。
通称『ワルキューレの選定』と呼ばれている。
この戦いで名を上げるのが、何を隠そう烈火達主人公メンバーなのだ。
ロイヤルガードとして、また強力な戦士としての名声をここで得る。
それほどに凄まじい数の魔族達が、押し寄せてくるのだ。
それは、国がテレビで取り上げる程の軍勢で。
国の軍隊は目の前に魔族の軍勢が居る為動けず、救援は見込めない状態での戦い。
それを、主人公達が圧勝するのだ。
ここで凄いのは、最初は攻められ籠城するのだが、内部の敵を全部殲滅した後、一年生の主力達が外へ打って出て、敵の大将を討ち取る事。
凄まじい数の魔族に囲まれている状況で敵をなぎ倒しながら、まっすぐに大将の元へと進むのだ。
ここですんごい経験値を稼げて、大分レベルアップするんだよね。
ゲームだと描写は無かったが、きっと三年生や二年生の陽葵先輩をはじめ、強者達がヴァルハラ内部を守ってくれたからこそ、出来たんだろうと今なら分かる。
「マカロン、その穴の場所……こちらで誘導できないかな……?」
「可能だ。良いだろう、情報を流すようにしてやる。場所を言え」
「!! 言っておいてあれだけど、良いの?」
「言っただろう、私の優先順位はお前が一番だ」
聞いてない気がするけど、今それに突っ込むのは違う気がするので、ぐっと我慢する。
「それに今回のイベントは、起こるべくして起こる事だ。ならば、その被害を少しでも抑えられるようにする事に協力するのは、やぶさかではない」
「……その事で、魔族側が多く被害を受けても?」
「参加した阿呆の自業自得であろう。私は人間達を襲えと命令していない。襲うなとも言っていないから命令違反ではないがな」
成程。マカロンが気にしていないなら、俺からこれ以上何かを言う必要はないね。
「今回の魔将はゲーム通りならウォルフガングだろう。直情的な奴の事だ、小細工などは使わぬだろう」
魔将ウォルフガング。眼帯で片目を覆った、オオカミの姿をした二足歩行の魔族。
戦いのタイプで言えば烈火と同じパワーファイターで、かなりのHPがある難敵だ。
「そしてお前達は、いや玲央は来る場所が予め分かっているのだ。後は分かるな?」
マカロンの言いたい事は分かる。
罠を仕掛けるなり、そうしろと言っているのだ。
でも俺は……。
「ううん、それはしない」
「!? 何故だ、玲央」
本当に驚いたマカロンを見るのは初めてな気がする。
だけどね、この避けられないイベントは、避けられないだけの理由があると思っている。
「この戦いで、主人公達の強さと、名声が高まるんだ。そこを、簡単な状況を突破しただけになるのは……違うでしょ?」
「!!」
「大丈夫。俺が事前に何かしなくても、烈火達なら必ず勝てる。まぁ、罠は張らないけど……色々と対策はしておくけどね?」
「フ……そうか。要らぬお節介だったようだ、許せ玲央」
そう言って笑うマカロン(猫だけど)に俺も笑いかける。
「ううん、ありがとうマカロン。心配してくれて嬉しいよ」
「当然だ。私のご主人様だからな」
「その設定は続くんだね……」
「設定ではない、事実だ」
ちなみに、いつもなら頭に聞こえてくるのだけど……今は普通に猫がにゃんと言わずに話している。
違和感が凄かったけど、もう慣れた。
「おにい~。拓がご飯できたって~」
「分かったー! 今行くー!」
「にゃん(行くか玲央)」
ぴょんと飛び降り、ぬくもりが離れて少し寂しく感じながらも、立ち上がる。
今日のお昼ご飯はなんだろなっと。
お読み頂きありがとうございました。




