51話.vs『烈火チーム』③
「みなを癒せ、『聖女の祝福』」
烈火が先頭に立ち、聖女であるティナさんへの道筋を防いでいる。
なら、やはりリーシャさんに烈火を倒してもらうしか道は無い。
「行くわよ皆、散ッ!」
「「おおっ!!」」
リーシャさんが烈火へと走り、アインと剛毅は左右に分かれる。
俺への道はリーシャさんが塞いでくれているから、これで良い!
「へへっ……やっぱそう来るよなっ! 行くぜぇリーシャさんっ!」
「はぁぁぁぁっ!!」
「おらぁぁぁぁっ!!」
烈火の剣と、リーシャさんの剣が交わる。
俺はその姿を見て、ゲームでの名シーンを思い出した。
藤堂先生を救う時の、大悪魔を倒すときの共闘シーンだ。
背中を合わせて苦境を乗り越える二人の姿を見て、熱くなった。
その二人が今、敵としてぶつかり合っている……!
「お、おっ……!」
「くっ! おじ……ゴホゴホッ! 水無瀬君っ……!」
「邪魔は、させん、ぞ……!」
「それはこちらのセリフですっ……!」
剛毅の槍が、紅葉さんをティナさんのいる後方へと押し出す。
槍と剣では、槍の方が圧倒的に有利。
どちらも相当な腕だから、その差が効いてくる。
「『暗黒剣閃』!」
「おっと! 確かに当たれば危ないけど、隙が大きいね! 直線的だし、避けれない技じゃないっ!」
「我が道はただ愚直にまっすぐに……! 何度でも放とう、我が身傷つこうとも……! 『暗黒剣閃』『暗黒剣閃』『暗黒剣閃』!」
「くっ……! 何発も何発もっ……!」
ゼウスさんの放つ必殺技、『暗黒剣閃』は、文字通り必殺級の威力がある。
ギリギリで避ければ周りの暗黒から継続ダメージまで受けるおまけ付きで、非常に厄介な技だ。
放てば自分の身にもダメージを受けるという欠点があるが、それをティナさんの固有スキル、『聖女の祝福』によりデメリット無しで放てる驚異の技へと進化している。
戦況は互角。だけどここから俺は支援を開始する。
「『ダブルキャスト』『パワーエンハンス』『スピード……」
「!! させ……」
「ぬ、のは、こちら、だっ!」
「くっ!?」
「エンハンス』! もう一つ! 『オールエンハンス』!」
通常、エンハンスは一人に一つの効果をかけていくしかない。
それを倍速にしてくれるのが、この『ダブルキャスト』の効果だ。
消費も微増するけれど、時間短縮という点でこれ以上ない利点がある。
そして最後にかけた『オールエンハンス』。
これは全ての能力値を底上げしてくれる魔法だ。
ただ、単体で掛ける効果よりも量は少ないという欠点はある。
『パワーエンハンス』により上がる力が1,5倍だとしたら、『オールエンハンス』により上がる力は1,2倍といった具合である。
避ける為にスピードが必要であろうアインには『スピードエンハンス』を、剛毅には『パワーエンハンス』をかけ、烈火と戦うリーシャさんには『オールエンハンス』で底上げをしておく。
これで有利に戦えるはず……!
「榊様、流石です。ですが榊様の不肖の弟子であるこの私は、魔法を掻き消す事が出来ます! 『聖女の祈り』!」
「!!」
しまった……! まさか、もう習得しているとは……!
聖女専用スキル、『聖女の祈り』は、場の全ての魔法効果を打ち消す、ユーザー間では通称いてつくはどうと呼ばれていた。
これは魔法効果に限る為、烈火のスキルの効果は消えない。
これじゃ、バフを使っても意味がない……!
あと、いつのまに弟子になったんでしょう……?
「隙アリだぜリーシャさんっ!」
「くっ……!」
「!!」
バフを消された、ほんの少しの調子の狂い。
そこを烈火に突かれたリーシャさんは、一撃を……
「『金剛不壊』!」
「うぉっ! 硬てぇ!?」
受けたのに、弾いた!?
「いたぁっ……! 『金剛不壊』の上からこのダメージって、なんて馬鹿力なのよ……!?」
いや、痛そうだ。
そりゃ痛いよね、むしろよく痛いで済んでるよ。
「ハハッ! 流石だぜリーシャさん! なら、どこまで耐えられるかなっ! 『パワーブレイカー』!」
「そんな大振り、当たらないわっ!」
「だろうなっ! けど、受けれねぇだろっ! 『パワーブレイカー』!」
「チッ……!」
烈火の連続攻撃は単純だがそれ故に強い。
受ければ大ダメージ必至であり、避けるしかない。
避ける為攻撃に転じる事が出来ない。
あのレベルの戦いでは、下手に手を出せば邪魔になる。
なら、俺に出来る事は一つ。
「おぉぉぉぉっ!!」
「「「「「!?」」」」」
この場の誰もが意識していなかっただろう。
後衛指揮官の俺が、前に出るなど。
「玲央!?」
「!! 行かせないわよ轟君!」
「チィッ!? まずい、玲央を止めろゼウス!」
「承知っ!」
「させる、ものかぁっ! おおおおおぉぉっ!!」
「何っ!? この力は、烈火殿と同じ!?」
「玲央さんっ!?」
「行かせは、せぬぞ!」
「くぅっ……!」
烈火をリーシャさんが、ゼウスさんをアインが、そして紅葉さんを剛毅が抑えてくれている。
『聖女の祝福』によりその場を動けないティナさんを、俺が倒す!
「チェックメイトだ、ティナさん。スキルを解いてもらおうか」
「!! ……流石です、榊様」
祈りの姿から両手を上げて立ち上がるティナさん。
倒しても良いのだけど、あまり手を上げたくなくて。
それに、負けを認めたティナさんが、やっぱり負けてませんなんて後から動くことはないだろう。
「がはっ……! つよ、い……後は、頼みます烈火、ど……の……」
「はぁっ……はぁっ……ごめん、もう限界だ……後は、任せたよ皆……」
ゼウスさんはアインによって倒され、恐らく"邪眼"を使ったアインは反動で動けなくなった。
残りは烈火と紅葉さんだが……
「はぁぁぁっ!」
「あま、いっ……!」
紅葉さんと剛毅は一進一退の攻防を続けている。
そしてまた烈火とリーシャさんもそれは同じ。
だけどここからは、聖女の邪魔は入らない。
「リーシャ、剛毅! 押し返せ! 『オールエンハンス』!」
「「!!」」
「!! 紅葉さん、いけっか!?」
「厳しいですが、やってみます……!」
「分かった! こっちも残り時間はわずかしかねぇ、一気にかたぁつけてやるっ!」
烈火と紅葉さんの眼の色が変わる。
本気だ。
ここを凌げれば勝てる!
「『ダブルキャスト』『パワーロウダウン』『スピードロウダウン』!」
「おおっ! 効かねぇっ!!」
「はぁぁっ! 効きませんっ!」
「!!」
やはり二人とも弾くか! これでもう俺に出来る事はない。
いくらか戦えるようになったとはいえ、純戦闘職の二人に俺の小手先の技は通用しない。
リーシャさん、剛毅! 頼んだよ……!
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