10話.モブの能力開発
「さて、榊とリーシャにはまだ話がある。お前達は先に教室に戻って良いぞ。午後からは訓練の合同説明が入る。俺達はそれには出ねぇからな」
「「「「はい」」」」
あれ? さらっと俺とリーシャさんが午後の訓練説明に出ない事になったのに、皆異議を唱えないのどうして?
そここそ、どうして玲央が一緒に受けないんだ!? って言うところじゃない?
「……(ま、玲央はもう訓練の内容とか知ってるだろうしな)」
「……(釈迦に説法という事か。今更玲央に必要ないのだろう)」
「……(恐らく情報通の玲央さんはすでにご存じなのでしょう。だから誠也おじさまは省略する事にしたのでしょうね)」
「……(リーシャさんは藤堂先生の弟子だし、玲央は多分キングとしての話があるんだよね)」
頷きながら去って行く皆に、
「皆! また後で!」
そう叫ぶ。
皆は一斉に振り返って、微笑みながら
「おう!」
「ああ」
「はい。また後でお会いしましょう」
「終わったら皆で待ってるわよ玲央!」
そう言ってくれた。
心があったかいもので満たされていく。
ああ、俺この世界に生まれて良かった。
「なんか幸せそうね榊君」
「分かる?」
「そんな自信満々に言われても……クスッ」
リーシャさんに笑われてしまった。
天使のような笑顔である。
「オホン! ったく、うちのリーシャまで落とすとは、手が速ぇじゃねぇか榊、いや玲央」
「「!?」」
「ち、ちちち違います藤堂先生ッ!! 榊君とは友人になったんですっ!」
「そそそ、そうですよ! 誓って邪な気持ちはありませんっ!」
「……それって、私には女性的な魅力がないって事……?」
「違うよ!? これどう答えても俺詰んでるよね!?」
「ククッ……!」
「ふふっ……」
同時に二人が笑いだす。あ、からかわれた?
この性悪師弟めぇっ!!
でもそんなところも好き。
「ハハハ! いやすまんな玲央。見ての通り、こいつは友人が居なくてな。気難しいが、この見た目だ。よからぬ輩がひっきりなしに寄ってくる。戦場でもこいつはやたらと魔族に狙われていたんだよ」
「見ての通り友人が居ないってどういう意味ですか藤堂先生……」
「お、おう。その、美しすぎて近寄りがたいって意味だぞリーシャ」
「絶対違いましたよね?」
「……玲央、よくこいつと友人になれたな?」
「藤堂先生ッ!」
なにこの絡み、最高かな?
ポテトチップス食べながらコーラ飲んでずっと見ていたい。
「ゴホンッ! まぁともかくだ。玲央、お前には"魔眼"の力をコントロールする訓練を別途受けてもらう。俺の古くからの友人に、それ専門の力の研究をしている奴が居てな。これから連絡をとって、そいつがOKしてくれればにはなるが、お前の指導をしてもらおうと考えている。リーシャは俺が直々に稽古をつけてやるからな。ってわけで、お前達はしばらく他の奴らとは別で指導を受けてもらう。まぁ他の奴らも自分で選んだ訓練をする事になっているから、教室で浮く事にはならねぇから安心しろよ。それじゃ、少し待ってろ。そこに菓子もあるから、適当に食べてて良いぞ」
そう言って、藤堂先生は奥の部屋へと入って行った。
藤堂先生の友達でスキルに詳しいと言えば、聖賢のローガンだろうか。
サブキャラクターではないのだけど、物語で時々NPCとして仲間に加わってくれるキャラクターだ。
賢者の上の称号であり、賢者の力に加えて光魔法をも行使する。
藤堂先生がムキムキの最前戦型だとすれば、聖賢のローガンは完全後衛型の超高範囲魔法アタッカーである。
魔族キル数は藤堂先生に近い、第三位。
まぁ前戦に立ちながら最多キルな藤堂先生が頭おかしいだけである。
「とりあえず、座って待ってましょうか榊君」
「そ、そうだね」
流石に隣に座る勇気はないので、向かい側に腰を下ろす。
何故か頬を少し膨らませるリーシャさん。
「どうして離れて座るの?」
「え"。いやその、深い意味は無いのだけど、は、恥ずかしくて」
「!! そ、そう。そういえば榊君は私に……ご、ごめんなさい無神経だったわ。でも、気にしなくて良いのよ? その、榊君は友人なのだから」
「っ!!」
ゴフッ!! 俺の心臓にクリティカルダメージが入りました。
「むしろ、藤堂先生の事で私達は運命共同体とも言えるんだから……!」
ぐはっ!!(吐血) 待って、俺のライフポイントはもうゼロよっ!
この剣聖、自身の容姿の良さを分かっていない!
「う、うん、ありがとう。俺もリーシャさんの力になりたいと思ってるし、出来る限り協力するからね」
「!! ええ、ありがとう榊君!」
リーシャさんが身を乗り出し、両手を覆うように、その美しい手で包み込んでくれる。
見た目に反して、手の内側は硬い。きっと、鍛錬に継ぐ鍛錬で、豆がつぶれて固まって、それを繰り返したからだろう。
俺はそれを美しいと思う。努力の跡だ。
「あっ……ごめんなさい。私の手、硬くてあれでしょう……? 本当に、女の子らしくなくて、醜……」
「そんな事は無い!」
「!?」
「リーシャさんの手は、奇麗だよ。俺達人間の仲間を守るために剣を振るって、手がボロボロになって豆が潰れても痛さに耐えて、訓練を続けてきた証だ! その手を俺は奇麗だと、美しいと思う!」
「榊君……」
あ、しまった。ついモブとしての……剣聖リーシャ・エーデルハイトの努力を知っているからこその……気持ちが先走ってしまった。
今の友達一日目の俺が言うようなセリフじゃない。
こんなの、気持ち悪いって思われても仕方ないじゃないか……!
「あ……ご、ごめ……」
「ありがとう、榊君」
「!?」
「私、自分の手が醜いと思ってた。同級生の皆の奇麗な手を見て、良いなって思ってたの。でも、それもどうでも良くなった。こんな私の手を、奇麗だと言ってくれる友人が居てくれるなら……この手を、誇れる気になれたから」
「リーシャさん……」
……やっぱ、素敵な人だよなリーシャさん。
一歩間違たら、ストーカーと言われても否定できないのに。
そんな俺の言葉を、喜んでくれた。
「オホンッ! お前ら、菓子でも食ってて良いとは言ったが、イチャコラしてろとは言ってねぇ」
「「!!」」
「ったく。玲央、OKを貰えたから昼には来るそうだ。飯は出前でも取るから、二人とも好きなもん頼め」
どうやら初日は学食を頼めないようだ。
ちょっと楽しみにしていたんで、少しだけ残念だけど……
「あ、藤堂先生。私ハンバーガーセット食べたいです」
「お前、相変わらずジャンクフードが好きだな……」
「美味しいんです。榊君もどうですか?」
「あ、なら俺も同じので」
「ったく……今のわけぇ奴らは。俺の時はうな重とか食ってたんだがなぁ……」
それはそれで美味しそうって思ったけど、リーシャさんの手前言えない俺だった。
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