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第5話:死神管理局の監視と、ノルマの重圧

翌朝。死神であるはずの真一は、目覚めと同時にため息をついた。


 異世界の空気にも、死の気配にも慣れる暇はない。

 代わりに背中にのしかかってくるのは、昨日から始まったノルマ地獄という現実だった。


 《魂回収数:1/100》


 ホログラムの数字が、嫌でも目に飛び込んでくる。

 たった一件。けれど、精神的には十件分くらい消耗した。


 


「ふぁ……」


 傍らで、布団代わりの毛布を被ったエルナが小さく欠伸をする。


 まだ少し幼さの残る顔立ち。けれど、その瞳には昨日とは違う意志の光が宿っていた。


 


「おはようございます、死神様」


「……その呼び方はやめろって言ってんだろ」


「でも……死神でしょ? 私は、補助員なんですし」


「補助員ってのも、正式に許可されたもんじゃねえけどな」


 ぼやきながら立ち上がり、身支度を整える。

 死神に“休息”の制度はない。だからといって、ずっと働けるほど、心が強いわけでもない。


 


「にしても……今日は何件いけるかなぁ」


 数字の“99”が、もはやギャグにしか見えない。


 


* * *


 


 しばらくして、街の外れにある廃屋にリリスがやってきた。


 彼女は相変わらずのゴスロリ姿で、手には可愛らしい箱を抱えている。


「おっはようございます! 朝の管理報告にまいりました〜!」


「……何それ」


「ほら、死神って基本“自主性重視”な職場ですけど、ちゃんと“上”は見てますからね?」


 笑顔のまま、リリスはホログラムを展開する。そこには昨日の行動ログがびっしり。


「行動ルート、時間配分、能力使用履歴、回収対象の属性と影響度。全部送信済みです!」


「いや、怖っ。プライバシーって概念ないの?」


「死神ですから♪」


 真一は言葉を失う。自分が“監視されている”という事実は、想像以上に気味が悪い。


 


「ところで……昨日、少し“ルールから逸脱”しましたよね?」


「……は?」


「エルナさん。回収対象でしたよ?」


 リリスは笑顔のまま、鋭く突き刺すように言った。


「なのに、あなたは彼女を助け、補助員として行動を共にした。これ、死神規約では完全にグレーゾーンです」


「だったら、あんたが止めればよかっただろ」


「止めましたよ。心の中で」


「意味ねぇ……!」


 


 けれどそのやり取りの後、リリスは珍しく静かになった。


 何かを考えるように、視線を下げ、小さく息を吐いた。


 


「……ま、別にいいんですけど。個人的には、あなたの“ああいう行動”……嫌いじゃないです」


「……ん?」


「なんでもないです!」


 リリスは顔を背けるようにして、ぽいっと箱を渡してくる。開けると、中には何やら小さなパイと紅茶のティーバッグ。


「今朝の“供給品”です。たぶん、これが“人間らしさの維持”になるそうです。お気に入りの味とか、選べますよ?」


「……まるで社畜の“ご褒美スイーツ”だな」


「元社畜にちょうどいいと思って♪」


 どこかからかっているようでいて、ほんの少しだけ、優しい気配も混じっている。

 リリスのこういう態度は、時折、真一の心を不意に揺らす。


 


* * *


 


 午後。魂回収端末が点滅した。


 《警告:魂回収進捗が基準値を下回っています。是正措置が検討されます》


 真一は一瞬、背筋が冷たくなるのを感じた。


「リリス……これって、まさか“削除対象”に……?」


「いえ、まだ“一段階目”です。次で“個別指導”、その次で“強制アサイン”……その次が削除です」


「なんだよそのブラック企業みたいな段階……!」


 


 ノルマとは、命に関わる数字。

 けれど、その“命”がどちらを向いているのか、今の真一にはもうわからなくなりかけていた。


 


「とりあえず……今日も、行くか。回収できる相手を探そう」


「エルナさんが調べてますよ。今朝からずっと、街の掲示板や取引記録を見てます」


「……あいつ、マジで有能すぎだろ」


「有能な女の子、好きですか?」


「……唐突になんだお前」


「ふふ。いえ、ただの質問です」


 


 そして、リリスは一歩、真一の方へと歩み寄る。

 その距離は、昨日よりほんの少しだけ、近かった。


 


(第5話・完)


「はぁ……監視とか査察とか、マジで気が休まらねぇ。俺はただ、のんびりしたかっただけなのに。

……せめてブクマとか評価とか感想くらい、くれよな。

頼むよ。俺、死神だけど、メンタルは人間なんだよ……」

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