第34話「新人たちの目に映った現実」
翌日、真一は新人二人──レオとマリナ──を連れて、都市の外れにある古い集合住宅へと向かっていた。
天気は薄曇り。湿った空気が肌にまとわりつき、遠くで雷鳴が鈍く響いている。
彼らの任務は、急逝した住人の魂を回収すること。表向きは簡単そうに聞こえるが、この仕事の本質は「死」を間近に見ることにある。
「へぇ〜、ここが現場か。思ったよりショボいな」
レオはポケットに手を突っ込みながら、飽きたような声を出した。
「こんなとこで魂拾うくらいなら、余裕でしょ」
マリナも肩をすくめて笑う。
真一は足を止め、二人をじっと見た。
「……余裕だと思うなら、それでいい。ただし、最後まで目をそらすなよ」
部屋の扉を開けると、薄暗い空間に、ひんやりとした空気が押し寄せた。
鼻をつく匂い──古い畳と、消えかけた線香の香り。
布団の上には、小柄な老人が静かに横たわっていた。
その表情は穏やかだったが、部屋の隅に漂うのは、確かに“終わり”の気配だった。
「……うっ」
レオが顔をしかめる。
マリナも、最初こそ平静を装っていたが、次第に唇をかみしめ始めた。
ふいに、空気が揺れる。
布団の上から、透き通った光の粒子がふわりと舞い上がり、ゆっくりと人型を成していく。
それは、この部屋の主──老人の魂だった。
「ありがとう……」
かすれた声が、二人の耳に届く。
「わしは、もう十分に生きた。……だが、孫の顔を、最後にもう一度見たかった」
レオが息を飲む。
マリナの目にも、迷いの色が浮かんだ。
真一は黙って二人を見守る。今、下手な言葉は不要だった。
老人の魂は、ゆっくりと光の粒子へと戻り、死神の鎌に吸い込まれる。
残されたのは、静けさだけ。
その静寂が、二人の胸に重くのしかかった。
「……これが、俺たちの仕事、か」
レオがぽつりとつぶやく。先ほどまでの軽薄な態度は、そこにはなかった。
「……人の最後って、こんなに……」
マリナも言葉を探すように呟いたが、最後まで言い切れなかった。
真一はゆっくりと頷く。
「そうだ。俺たちは、ただ“奪う”んじゃない。最期を見届け、次へ送り出す。……それが、死神の役目だ」
二人は黙って頷き、その背筋は来た時よりもわずかに伸びていた。
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第35話につづく
「……いやぁ、参ったな。俺、完全に舐めてたわ。
でも、あんな顔見せられたら……なんか、ちゃんとやんなきゃって思った。
あ、そうそう! 読んでくれた人はブクマと評価、頼むぜ?
真一先輩の寿命と俺ら新人の給料に直結してんだからよ!」




