第26話:地獄の一日体験、死神補佐研修へようこそ
朝。
真一は目をこすりながら、渡された出勤予定表を眺めた。
「えーと……“新人補佐死神業務体験研修・初級編”?」
「はいっ! 今日から一日だけ、死神庁の新人研修に参加してもらいます!」
隣で満面の笑顔を浮かべるのは補助員・エルナ。
「いやいや、俺って正式な死神じゃないよな? なんで?」
「ご安心ください! “仮補佐死神扱い”として事務手続きは済ませました!」
「勝手に処理済ませんなよ!」
そこへ、リリスが現れた。
「……あんたが休み取ろうとしたら、代わりに入れられたのよ。
“人手不足”だからって」
「ブラックすぎる!!」
* * *
死神庁第六研修棟。
「ではまず、最も基本的な業務。回収予備対象の確認と案内です!」
講師役の死神が資料をばさっと広げる。
「今日担当してもらうのは、未分類魂No.1443と、実体化迷魂No.2179です!」
「未分類魂と迷魂……またややこしそうだな……」
「でも大丈夫です! だって——」
エルナは満面の笑みで言った。
「真一さんにはリリスさんがついてますから!」
「え、俺が主役なの!?」
* * *
一件目は、市場の片隅で発見された“未分類魂”。
姿は見えないが、物陰に座り込む気配があった。
「……お前、死んだ自覚あるか?」
「……うん、たぶん。でも誰にも見つけてもらえなかった」
かすかな声。
「名前も、仕事も、何にも残ってない。だから……わたし、未分類になったの」
真一は、少し黙ったあと、小さく笑った。
「でも、こうして俺が見つけた。だから“ゼロ”じゃなかったな」
「……ありがとう」
魂の形がゆらりと浮かび上がり、静かに光へと変わった。
《魂回収数:10/100》
「おおっ、二桁いった! 地味に感動!」
「研修中に感動しないでください」
* * *
二件目は、地元の観光地に出没している“迷魂”。
現場には「撮影禁止! 呪われます!」という貼り紙がべたべた貼ってある。
「このへんって、昔から“心霊スポット”って言われてるとこだよな……」
「はい! 実はここ、変な動画を撮ってネットに上げてた“元・動画投稿者の魂”なんです!」
「それ迷惑系YouTuberだろ絶対!」
現れるや否や、幽霊の姿をした青年が叫ぶ。
「よっしゃあ! 今日は廃校で24時間耐久ドッキリィィ!!」
「なんで死んでなおネタに走ってんだよお前は!」
真一は即座に霊束装置を起動。
「リリス、浄化っ!」
「ええ、全力でやるわ」
リリスが魔符を展開し、電撃のような光が青年を包む。
「チャンネル登録よろしくおおおおお……ッ!」
叫びとともに光に還っていった。
《魂回収数:11/100》
「……あの世でバズってないことを祈る」
「……少しだけ同感」
* * *
夕方。
研修を終え、真一はヘロヘロになってベンチに倒れ込んでいた。
「……なあ、死神って、体力いるんだな」
「お疲れさまでした! 今日の回収数、ふたりで二件でしたねっ!」
エルナが嬉しそうに笑う。
「でも、なんだかんだ言って——」
真一は空を見上げて言った。
「……ちょっとだけ、誰かの役に立てた気がするよ」
リリスは背を向けたまま、小さく呟いた。
「そうね。“役に立った気がする”なんて、軽い言葉だけど……
その気持ちだけは、忘れちゃだめよ」
風が吹き、木々が揺れる。
その中に、ほんの少しだけ温かいものがあった。
(第26話・完)
「今日もお疲れさまでしたっ!
わたしのテンションと魂回収数、もっと上げていけるようにがんばりますっ!
感想・評価・ブクマ、死神庁への推薦状としても使えますのでっ!」




