第23話:恋と補助員と甘味と罠
その日、任務の合間にほんの数時間だけ“空白”ができた。
「よしっ、行きましょう!」
補助員・エルナは勢いよく手を挙げた。
「……どこに?」
「決まってます、スイーツです!働いたあとの糖分補給は義務ですよ!」
その笑顔に押され、真一は「まあ、たまにはいいか」と頷いた。
甘いものは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
だが——
「……あなたたちだけで行くつもり?」
背後から、静かな声がした。
振り返れば、私服のリリスがそこに立っていた。
「えっ、リリスさんも来るんですか?」
「“職務中の補助員の動向監視”は私の仕事よ」
「えぇぇええ!? 完全にオフじゃないですか!」
かくして、三人は王都の有名スイーツ店へと向かうことになった。
* * *
「いらっしゃいませ~! お好きなメニューをどうぞ!」
ガラスのショーケースには、美しく並んだケーキやパフェ。
どれも宝石のようにキラキラしていた。
「うわ~っ! この“時間凍結プリン”にしますっ!」
「私は“記憶のミルフィーユ”にしようかしら」
「俺……無難にショートケーキで」
和やかな時間。
甘い香りに包まれた空間で、三人はテーブルを囲む。
「ねえ真一さん、ちょっとあーんしてみません?」
「しねぇよ! なんだそのイベント感!」
「ん~、やっぱ恥ずかしいですか? でもちょっとだけ期待しました?」
「してねぇよ!」
「してたわね」
リリスが紅茶を啜りながらボソッと突っ込む。
「お前はお前で、なんで私服で来てんだよ……」
「偶然通りかかっただけよ。
それに、補助員が不審な行動を取ってないか監視してるだけだし」
「いやお前のほうが怪しいだろ」
* * *
その時、ふと真一が違和感を覚えた。
「……ん? 俺、何頼んだっけ?」
「えっ? ケーキじゃなかったんですか?」
「いや、確か……プリン……あれ?」
エルナもリリスも、一瞬だけ動きが止まる。
「私……何食べてたか、思い出せない」
「え? あたしも……え? ……えええ!?」
三人は顔を見合わせた。
そして、リリスが素早く端末を展開。
「……やっぱり。“迷魂”よ。
この店、記憶をエネルギーに吸う低級霊に寄生されてる」
「うわーまたそういうオチ! 甘味屋でバトルとかやめてー!!」
「エルナ、真一、警戒して。こっちに来るわ!」
ショーケースの奥から、ぐにゃりと歪んだ影が浮かび上がる。
——おいしそうな記憶……
——あまくて、やさしい……おもいで……
——もっと……もっとほしい……
「うわっ! こいつ、喋ってんのか!? 脳内に直接!?」
「とっとと焼却処理!」
リリスの手に赤黒い短杖が出現。
呪文詠唱と共に、迷魂を一撃で浄化する。
瞬間、店内の空気がすうっと軽くなった。
「……ふう、浄化完了。魂の波長も正常に戻ったわ」
「良かった~……甘味屋で戦闘とか、カロリー消費が本末転倒ですよぉ……」
結局、頼んだメニューはすべて消えてしまっていた。
「なあ……俺たち、ただ甘いもん食べに来ただけだったよな?」
「はい……ほんとは“デートっぽいこと”も期待してたんですけど……」
「……帰って食堂のプリンでいいわ……」
「やけにしょっぱいプリンになりそうだな……」
三人は、肩を並べて店を後にした。
少しぐったりしていたけれど、なんとなく、心はちょっとあたたかかった。
「……俺たち、わりと仲良いよな」
ふと呟いた真一の言葉に、リリスとエルナが一瞬黙ったあと——
「今さら気づいたの?」
「仲良し三人組ですっ!」
その声が重なって、三人はふっと笑った。
(第23話・完)
「いや~、今回バトル少なめだと思ったでしょ!?
でもまさか甘味屋で記憶喪失ギャグからの浄化バトルとか、予想外すぎ!
感想とかブクマとか、甘いコメントとか~! あたしにくださいっ!」




