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第17話:魂ポストのある路地で

 朝から雨が降っていた。


 灰色の空が、まるで世界そのものがため息をついているようだった。


 


 真一たちは、王都の外れにある旧市街地へと足を運んでいた。


 死神管理局から通達された、新たな回収任務。

 今回の対象は、“死後もなお定時でポストに手紙を投函する少女の魂”。


 


「……また、迷走魂か」


 真一は、フードをかぶりながら呟いた。


 


「対象の魂は、すでに死亡確認済み。

 肉体は土葬されてるけど、魂は毎朝この辺りをうろついてるそうよ」


 リリスが冷静に言う。


 


「それ、回収しそびれたってことだよな」


「……回収拒否を起こして逃げた魂。

 “魂ポスト”って呼ばれてる場所に、同じ時間に現れて、誰かに手紙を出してるらしいわ」


 


「魂ポスト?」


 エルナが首を傾げた。


 


「この辺りにある古いポスト。使われなくなった赤い筒状のやつ。

 少女はそこに手紙を差し込み、すうっと消えるの。毎朝、同じ時間に」


「……それ、誰かが読んでるのか?」


「不明。でも、ポストの中に紙は残ってないらしい。何かが……持っていってる」


 


 旧市街の細道を進むと、そこには本当にあった。

 苔むした石畳の路地。雨に濡れた壁。

 そして、ぽつんと立つ、古びた赤いポスト。


 


 その前に、いた。


 


 白いワンピースを着た、小さな女の子。


 年齢は十歳前後。

 長い髪に、水滴が光っていた。


 


 そして彼女は——ゆっくりと、ポストの投函口に手紙を差し込んだ。


 


 しゅっ。


 手紙が吸い込まれる音と同時に、少女の姿がふわりと霞んで消えた。


 


「……消えた」


「時間通り、ってことか」


「……リリス、あれが対象?」


「ええ。死亡記録と一致するわ。

 名前はルカ・エルディン。三週間前、事故で死亡。

 以来、毎朝ここに現れて、手紙を投函してる」


「……誰に?」


「それは……まだわからない」


 


 真一は、赤いポストを見上げた。


 さびついたその表面には、誰かが書いた小さな落書きがあった。


 


 《お姉ちゃんへ。ぜったい、わすれないよ》


 


「……“お姉ちゃん”って……」


「恐らく、ルカは“姉”として死んだ。

 そして誰か、つまり“弟”か“妹”に手紙を出し続けている」


 


 リリスはポストの側面に手を当てた。


 ホログラムが展開され、波長検知が始まる。


 


「……魂の痕跡、残ってる。かなり強い執着を伴ったエネルギー。

 毎朝、このポストを“通して”現世との接触を図ってるみたい」


「それってつまり、手紙は……」


「届いてる可能性があるわ。現世の誰かに、ね」


 


 雨がぽつりぽつりと、ポストを叩く音だけが響く。


 


「リリス、今日は回収するのか?」


「……いいえ。迷走魂は執着を解いた瞬間、自然回収が可能になる。

 今の状態で強制回収をすれば、魂が壊れてしまう」


「じゃあ……見届けるのか?」


「そう。明日もこの時間、同じ場所に現れるはず。

 彼女の“最後の想い”が何か、それを確かめないといけない」


 


 真一は、小さくうなずいた。


 


 少女の背中に、なぜか懐かしさのようなものを感じていた。


 


「……手紙、ちゃんと届いてるといいな」


「届いてるといいですね。魂の言葉って、きっと誰よりまっすぐだから」


 


 その夜、真一は眠れなかった。


 あの小さな背中が、雨の中にずっと揺れていた。


 


(第17話・つづく)


「お、お、おねーさん泣いてなんかいませんっ! ホコリがっ! 雨粒が目にっ!

でもね、手紙ってやっぱいいよね……。

ブクマとか評価とかも、ちょっとした“想い”だと思うの。

よかったら、あたしにも……って、べ、別に嬉しくなんかないんだからね!」

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