転生したら目からビームが出るようになった
気分転換で書きました。
評価が良かったら、連載するかもしれませんね。(笑)
『おのれ、まさか我が人間ごときに後れを取り、倒れる日が来るとは』
荒れ果てた荒野で、黒く巨大で禍々しい存在がうつぶせで倒れ、今まさに命を終えようとしている。
黒く鋭かった双角は右側は根元から折れて、左側は中ほどから折れている。
六本あった腕は、左腕の中腕を残してそれ以外は肩元から無くなり、残された一本も肘から先は消し飛んでいる。
羊のような足は右足を失い。
体にはいくつもの穴が開いて、紫色の血を溢れんばかりに垂れ流している。
いかな名剣でもその体を傷つけることは叶わず、いかな魔法でもその体を覆う魔力を貫くことも叶わず。
伝説の聖剣と聖女の奇跡のみがその心臓を貫き、魔を払うと神託で言われている討伐対象、魔王。
そんな存在と対峙する男がいた。
その男は、この世界では珍しくもない茶色の髪を短く切り揃え、糸目と言えるほど細く閉じた瞼は本当に前が見えているのかと問われることが多いのだが、しっかりと見えているからこそ命が尽きそうになっている魔王を見下ろしている。
左手には大きな盾を持ち、反対の手には武器は持っていない。
体には軽鎧を身にまとっている。
兵士かと問われればそうだと言えるほど、高価ではあるが、金を積めば買える装備に身に包んだいで立ち
体は鍛えられ、しっかりと背筋を伸ばした姿勢をもっているから真面目だと言われそうな風貌。
十人中六から七人には整っていると言われるような顔立ちの男が立っているのは、大国と呼ばれていた国がかつて存在し、元々人が治めていた街が存在していてそこに立派な城が存在していた旧人間領、現在は魔王領と呼ばれている場所。
突如として現れた魔族と呼ばれる異世界からの侵略者によって略奪の限りを尽くされて、栄華を飾っていた街の面影は欠片も残っておらず、ましてやこの男と魔王との戦いで完全に荒れ果てた荒野と化していた。
『くくく、まさか我を倒す〝勇者〟が現れていたとは、勇者が現れるのはあと百年は先だと踏んでいたのだが、これも我の慢心が招いた結果か』
死にゆく魔王の最後の言葉と思って黙って男は聞く。
命が尽きる証として足元からどんどん灰になっていく魔王。
それを見届ける男は何も話さない。
『よもや、この我が聖女を連れぬ勇者に、神の作った聖剣を抜かせることすらできんとはな。褒めてやろう。この我、魔王ディアゲルヒがお前が歴代最強の勇者だと認めてやろう』
魔王からの賞賛も、無言で受け止め、口元を固く結び、表情を極力殺して。
『ふ、我を憐れむか。それもまた勝者の特権だ。だが、侮るな勇者よ。我の魂は不滅!!いずれまた復活し、またこの世界に来るであろう!!その時にはこの世界を我が手中に収める!!その時まで精々平和を謳歌しておるのだな!!』
そして最後に消え去った魔王の言葉がこだまするように響き、そして静寂が場を満たした時、男はようやく口を開いた。
「……どうしよう。俺、勇者じゃなくてただの冒険者だって最後まで言えなかった」
その男、ジンは魔大陸の素材が欲しくて彷徨っている時に魔族の四天王の一人に襲われたから返り討ちにして、なぜか集まってきた他の三人を倒したらなぜか、最後の力を振り絞った四天王によって魔王のいる場所に送り込まれてそのまま戦って勝利。
「と言うか、ここ……どこ?」
そして現在迷子になっていて、偶然で世界を救ってしまった転生者であった。
そんな男がこの世界に生まれ落ちたのは二十年ほど前に遡る。
さて、いきなりだけど特別が欲しいと思ったことはないだろうか。
誰よりも速く走ったり、サッカーがうまかったり、野球がうまいという才能であったり。
誰よりも美しかったり、誰よりも格好良かったりと言った容姿に関してであったり。
誰よりもお金持ちであったり、誰よりも有名であったり、誰よりも地位が高かったり。
はたまた、超能力が使えたり、魔法が使えたり、実は秘密のヒーローであったりと特別というのは様々だ。
そんな願望を誰でも一度は願ったことはあるはずだ。
俺もそうだ。
ごく一般的な家庭に生まれて子供のころはテレビのヒーローに憧れたし、中学生になったら女の子にモテモテになりたいって思った。
だけど、高校生、大学生、社会人って大人になっていくと特別っていうものは本当に一握りの人間にしか与えられないモノなのだと言うのを理解していった。
人並外れた才能、人並み外れた努力、人並み外れた幸運。
いずれかを持っている人が特別になれるんだって、社会人になって俺は理解した。
俺だってそれなりに努力はした、少しでもいい学校に進んで、少しでもいい会社に入って、少しでも昇進してお金を少しでも稼いで、そして少しでもいい人と結婚して、子供を育てて。
気づけばそんなどこにでもある、平凡だけど幸せな未来が俺に待っていると思った。
だけど、どうやら俺にはそんな未来は来なかったようだ。
俺が入った会社は大手と中堅の間のような会社。
忙しい時は忙しいけど、しっかりと福利厚生があって、給与も満足できる程度にはもらえて安定している会社。
人間関係のトラブルもなく、強いて言えば男が多くて三十過ぎても結婚ができないくらいに女性との出会いが少ないのが玉に瑕な会社。
そんな会社の倉庫で資料を整理していた時にそれは起きた。
突然の地震、崩れ落ちてくる棚から咄嗟に新入社員の女性を助けてしまったがゆえに、俺は棚の下敷きになってしまった。
耐震対策はしてあったはずなのに崩れた棚は角度が悪く、俺の胴体を押しつぶして、あばらを折って肺を突き刺してしまったらしい。
呼吸ができない。
意識がもうろうとする。
「主任!!」
ああ、声が遠い。
「誰か!誰か来て!主任が主任が!!」
だけどこの声は……ああ、彼女は無事だったようだ。
助けられて良かった。
そうやって俺の小さな特別はあったかもしれないが、目立つような特別はなかった人生は幕を閉じた。
「……?」
閉じたはずだった。
力が抜け、もう目覚めることはないって思っていたけど、気づけばまた目を開けていた。
ここは天国かと思った。
一度も見たこともない満点の星空、そして輝くような白い月。
その光の下に照らされた教会。
ああここが天国の門かと一瞬だけ思った。
俺の家は仏門だけど、良いのかなとも思った。
しかし、時間が経てど経てど、一向に景色が変わる様子もなく、閻魔様が来るでも、導きの天使が来るでもなく。
一分、二分と段々時間が経過して、おかしいなと思って体を動かそうとしたが。
「?」
自由に動かない。
おかしい、まさか死んだときの状態がそのまま引き継がれるのかと焦ったが、どうも様子がおかしい。
手が小さい?
もぞもぞと体を動かしていると、布のような物に包まれているのはわかった。
そこから手を出すのに一苦労して、手を顔の方に持って行くと俺が知っている自分の手とはかけ離れた小さな手がそこにはあった。
そのことに驚こうとしたが。
「あうぁあ~」
声もろくに出ない。
正確に発音できない。
なんだこれ?
え?
どういうこと?
マジでこれどうなってるの。
俺の手はこんなに小さくないはず、何がどうなってるの?
これじゃまるで赤ちゃんの手みたいじゃないか。
ぐっと握り込んでもろくに力が入らない。
体も全然動かない。
あと、お腹空いたぁ。
あ、なに、これ、え?
色々と混乱して、最後の所で空腹を実感した途端、何か無性に泣きたくなってきた。
「おぎゃああああ!おぎゃぁ!」
わお、ナニコレ、マジで、冷静に考えられているけど、マジで泣かないとやってらんないって感じですわ。
誰か!!ここに空腹の赤子がいますよ!!って叫べって本能が言ってますよ。
どうにもこの空腹を抑え込める気がしないし、泣き止み方もわからん。
自分の体なのに感情制御が別のところに置かれていて、体が勝手に泣きだしているんだ。
まるで生存本能だ。
……ちょっと待て、俺ってさっき死んだよな。
棚にこうやってグシャッて潰されて死んだはずなのに、何で生存本能なんだよ。
あ、ヤバ、死んだときの記憶思い出したら怖くなって余計に泣き声が強くなった。
自分の声がうるさいって思う日が来るとは思わなかった。
いやマジで、元気がいいのは助かるし、こう生きてますって感じで結構とも思える。
しかも、結構肌寒いって言うのもわかるから生きてるって否が応でも実感して、俺生きてるわってことになる。
となるとあれか、これは巷に聞く転生ってことで、いいのか?
神様転生でもなく、トラックに轢かれたでもなく、地震の事故で死んで転生かぁ。
なるほど、そういうパターンもあるのかと、オタク知識もそれなりにあるから、死んだ恐怖も驚きで引っ込んだよ。
となると目下の問題は。
俺の保護者いねぇじゃん!!
どう見ても俺の状況って寒空の下に、育てられなくなったから捨てました的な捨て子に転生してるじゃん!!
今の俺は正真正銘無力じゃん!
今の俺ならゴブリンどころか、そこらの子犬にすら負ける自信があるぞ!
何も来なくてもこの空腹具合と寒さ、どう見ても餓死か凍死の二択。
このままじゃただ泣きわめいて、夜を過ごして力が尽きて、あとは二度目の死。
俺の体は絶賛泣いていて、それ以外の行動がとれないけど、段々と疲れてきているのがわかる。
ヤバい、マジでヤバい。
このままだと、転生ていう貴重体験しているけど、人生マジで終わる。
こういう時、何かチートはないのかチートは!!
ステータスオープン!
出ねぇ!
内なる魔力よ目覚めよ!!って、魔力ってなんだよ!?
一応俺童貞じゃねぇって、いや、新しい体だから童貞なのか?
どっちにしろこの理屈だと魔法使いは三十歳にならないとダメじゃねぇか!?
え、もしかしてノー特典?
神様にも会ってないし、ガチでノーマル転生?
この体のスペック頼り?
今の俺のスペック、未知なる力があったとしても使い方がわからない、非力な赤子よ?
出来ることと言えば、本気で泣き声をあげることしかできない赤子よ?
その泣き声もどんどん、小さくなっていくのがわかる。
あ、マジで泣くのって疲れるんだね。
そして、これ、二度目の人生終了?
段々と意識が落ちていく、これが眠りなのか永眠なのか。
『おや、こんなところに赤子が……かわいそうに』
最後に聞こえたこの声が幻聴ではないのを祈って、俺は眠りについた。
結果だけで言おう。
俺は助かって、今ではすくすくと育ってすでに五歳になっている。
え?いきなり時間が経ちすぎ?赤ちゃんの時はどうしたって?
言わせんな恥ずかしい。
食って……いやこの場合は吸ってが正解か?
取り合えず、吸って寝て出しての繰り返しだったよ。
お腹が空いたら泣いて、寝て起きたら泣いて、出すもの出したら泣いて。
あえて感想を言うなら、成人した男が、赤子になったと言う体験は黒歴史の中で禁書レベルの拷問とだけ言っておこう
離乳食になって、つかまり立ちができてから気合で歩けるようになるまで必死に頑張ったわ。
その努力の根源は羞恥心が自分の性癖に変わるか変わらないかの瀬戸際の危機だ。
君たちも転生すればわかる、一人でトイレに行けた時の感動を。
「おや、どうしたんだいジン。そんなところで窓の外を見て、また何かに感動して泣いていたのかい?」
「シスター、おはようございます」
今でも俺は思い出せる、一人でトイレに行けた時の喜びを。
そんな喜びをかみしめていると、後ろから話しかけられて、振り向くと初老の女性が立っていた。
その初老の女性は俺の命の恩人。
寒空に捨てられた俺を拾って育ててくれて、そしてジンというこの世界の名前をくれたこの世界の母親的な存在だ。
「はい、おはよう。朝から掃除かい?偉いねぇ」
そしてここ、教会も兼ねた孤児院の院長でもある。
「いえ、シスターには育ててもらった恩がありますから、これくらいは」
俺は朝日が昇ってからすぐに起きて、習慣になっている礼拝堂の掃除をしているのだ。
ここの孤児院は正直言って裕福ではない。
だけど、シスターは出来るだけ俺たちにたくさんの物を食べさせようと日夜薬草を育てて、薬とか作って金策をして俺の他にもいる孤児たちを養ってくれている。
そのほかにもこの世界の言葉が全くわからず、他の子供たちよりもこの世界での言葉を理解できずなかなか会話ができない俺をつきっきりで言葉を教えてくれたりもする。
そう、この世界で生き残れているのはこのシスターがいてくれたと言っても過言ではない。
そんな恩人に出来るせめてもの恩返しはこうやって掃除や、俺よりも後に入ってきたちびたちの世話を手伝って少しでもシスターの負担を減らすことだ。
小さくたって中身は大人だ。
出来ることはきっとあると毎日模索している。
「何言ってんだい。あんたは私の家族さ。お前がここに来たのも神様の導きがあっただけのこと、そこに恩なんてないよ」
「はい」
どうやら俺は親ガチャには成功したようだ。
ゆっくりと優しく頭を撫でられて、心地よいって思うのはいつ振りだろうか。
子供のころに親に撫でられたと言う記憶があまりないから、新鮮で少し気恥しいけど、シスターの手は暖かくて、ちょっとマザコン気味になっている自分が心配になる。
「ここまで元気に過ごせたのは神様がジンを見守ってくださったからだよ。私に感謝するのもいいけど、ちゃんと神様にも感謝するんだよ」
「はい、シスター」
「うん、ジンは良い子だね」
そんなシスターは教会に住んでいるだけあって、信心深い。
こうやって毎朝1人でお祈りに来る。
こう言っちゃなんだけど、ここに捨てられていてよかった。
ここは孤児院だけど、普通だし、借金とかもない。
だから普通に食事も出るし、一部を除いて孤児たちとも仲がいい。
それにシスターの人徳故か、色々とこの教会には訪れる人もいて、5歳まで生きていると、それなりにこの世界の常識は知ることは出来る環境だった。
文明レベルは中世、スキルと言う特別な力があって、魔法という技術もある。
他にも王政が普通で、王様がいて、貴族がいて、平民がいる。
エルフとか獣人とかは聞いたことはない。
もしかしたら珍しいだけで、いるかもしれないけど、今のところは聞いたことはない。
他にもモンスターというヤッバい生き物がいるらしい。
らしいって言うのは、この孤児院は結界で守られていて、モンスターが入り込めないようなってるから見たことがないからだ。
俺はまだ幼いから、孤児院の外に出るときはシスターか年上の先輩たちと一緒じゃないと孤児院の敷地から出られない。
なんでも6歳になればお使いとかで村に買い物くらいは行けるらしいけど。
教会に来て薬草を使った傷薬を買っていく冒険者から、ゴブリンが出たとか、狼が出たとか、グールがいるとか、吸血鬼がいるとか武勇伝を聞けるから窮屈とは感じなかった。
来る人来る人に、無邪気に質問すれば冒険者なら武勇伝、商人なら商売の豆知識、農民なら薬草の知識とか色々と教えてくれるから大体この世界が、お約束のファンタジー世界と言うのがわかった。
「今日でジンも神様から祝福をもらえるから、もっと元気でいておくれよ」
「はい!」
そしてこの世界にはレベルと言う神様の加護がある。
この世界ではシスターが言う神様の祝福を5歳になると受けることができる。
何故5歳かと言うと、その5歳まで生き残れる子供が想像以上に少ないからだ。
この世界の医学は現代と比べてかなり遅れている。
熱いお湯で消毒ができるとか、熱が上がったらこの薬草を飲ませるとかそのレベル。
だから生まれてすぐの赤子は本当に5歳まで生き残れるかどうか、切実に問題なのだ。
仮に病気にならなくても、森から迷い出たモンスターに襲われたりすることもあるし、街中で人さらいにあって奴隷になることもあり得るらしい。
それを聞いてファンタジー世界怖いと思った。
いや、マジで。
その話を聞いたとき日本の治安の良さを改めて実感したよ。
そんな厳しい世界なら最初から加護をくれって話しなんだけど、加護があるだけじゃ強くはなれない。
レベルを上げるには、戦ったり、働いたり、学んだりしないといけないらしくて、赤子じゃどうあがいてもレベルが上がらず加護を与えても意味がない。
むしろ時々強力な加護をもらえることもあるから、理性も知性もない赤子に加護を与えると時々暴走して危険になる。
だから、5歳とある程度成長してからの祝福と言うことになっている。
祝福と言うのが加護と呼ばれる神様から与えられるモノだ。
その加護の内容は2つスキルとレベルだ。
スキルって言うのは、その人に与えられるオンリーワン。
生涯変わることのない、一生ものの能力。
大抵は健康って言うスキルが与えられる。
これを持っていると病気やケガになりにくくなる。
大体、祝福された子供の8割がこれだ。
では他の2割となるとそこからは様々だ。
生きていくに便利なスキルだったり、戦うためのスキルだったり、中には本当にどうやって使うのかもわからないようなスキルだったりもする。
非常に当たり外れが左右される集団だ。
だけどこの2割が別名才能持ちと呼ばれるエリート集団だったりもする。
貴族だと、この2割に入り込まないと下手したら勘当されるくらいヤバいらしい。
だけどここは孤児院。
そんなことは関係ない。
普通に健康でも誰も文句を言われない。
元気に生きてくれればいいと言うのがシスターの口癖だ。
そんなシスターには申し訳ないけど、俺はちょっとこの日を楽しみにしていた。
いや、正確には俺以外の人も楽しみにしている。
なにせこの祝福で農民の息子が勇者になったと言う御伽噺がこの世界ではメジャーだから。
俺は勇者願望はないけど、単純にどんなスキルが来るか楽しみにしている。
他の子は、男子が大半英雄に憧れ、女子の一部も同じ。
他の女子は、何かいいスキルがもらえればと言う感じだ。
「ジンは物心ついてから毎日ここを掃除しているからね、きっと神様も良いスキルを与えてくださる」
今日の午後、シスターがこの村の同年代の子供を集めて行われる祝福の儀。
それが楽しみで仕方ない。
「はい!」
気分はサンタクロースを信じていた子供の気持ちだ。
ちょっとした下心なんて、神様に見抜かれてしまうかもしれないけど、それでもこれくらいはしてもいいよねと、今日も朝の掃除を念入りにやった。
そしてそのまま午後になる。
朝は静かだった教会も、昼には村中から集まった子供たちで随分と賑やかになるものだ。
と言っても、今年5歳になるのは俺含めて4人しかいないけど。
祝福って言うのは村の中でもお祭りのような扱い。
受けた子供もまだ受けてない子供も集まって、さらにはどんなスキルが与えられるか楽しみにしてくる大人も集まる。
孤児院から俺1人、他はみんな村の子供たちだ。
「なんかドキドキするわね、ジン」
「そうだね、アン」
ちなみに俺含めて、今日祝福を受ける主役の子供はもう長椅子に横一列で座らされて、俺は真ん中の左、今話しかけてきたのは村で同い年のアネットだ。
綺麗な茶髪を一本のおさげにして、将来は美人さんになるだろうとわかるくらいに猫っぽい顔立ちの女の子。
俺よりも早く生まれたとかで、ちょっとお姉さんっぽく振舞うけど、元気で小さい子にも面倒見がいいとても良い子だ。
「……」
ちなみに俺の左にいる子は、初対面だ。
最初に会った時の挨拶からずっと沈黙してて、ちょっと人見知りなのかなと思う。
聞けば、この村の駐在騎士のお子さんらしい。
名前は確かレインだったかな。
連れて来たお父さんは随分とガタイが良くて、お母さんは美人さん。
お母さん似の子なんだなと思うくらいこの子は将来有望のイケメン君だ。
サラサラの金髪、中性的な顔立ち。
うちのちびたちのおませさんな女性衆はさっきから彼をちらちらと見ている。
将来モテモテだろうなぁって思っていると、右側が騒がしくなってくる。
「ちょっと、バブラさっきからきょろきょろと周りを見ないで」
「うっせぇ!俺は未来の勇者だぞ!!そんな口きいていいと思ってるのか!!」
ちなみにアンの右となりはバブラと言うこの孤児院のある村の村長の末っ子だ。
体が大きくて、村長の家だからご飯もいっぱい食べててちょっとぽっちゃりとしているとげとげ頭のガキ大将と言えばいいような感じの子。
ちなみに三男だから、村長にはなれない。
だからこそ勇者とか英雄へのあこがれが非常に強かったりする。
しかもちょっとした貴族の分家の血筋らしいから、村長の家は健康以外のスキル持ちが多かったりする。
だからこそ、この態度。
それと、お年頃だからのかな?
どうもこのバブラ君はアンのことを好きらしくて、しょっちゅうちょっかいをかけに来るんだよ。
それは完全に逆効果だから、俺も止めに入るんだけど、おかげで完全に目の敵にされてしまっている。
「お前はどうせ、しょっぼいスキルを与えられるんだぜ。アン、今のうちこいつじゃなくて俺と仲良くなっていた方がいいぞ!」
今もこうやって鼻で笑うように俺を見てきて、それを見たアンがカチンと来たと言わんばかりに怒るのが顔見てわかった。
「あんたなんかより、ジンの方がいいスキルをもらうに決まってるわ!!あんたなんてどうせ掃除のスキルしかもらえないわよ!神様ももっと部屋の片付けをうまくなりなさいって言うに決まってるわ!!」
うん、庇ってくれるのはいいけど、そろそろ儀式が始まるから静かにしようね2人とも。
「ゴホン」
じゃないと、ぎゃぁぎゃぁと騒がしくしすぎて注意を受けてしまうよ。
互いにお前のせいだとにらみ合うけど、大人からの視線で大人しくなる。
子供が静かになったタイミングで、シスターが普段の格好よりもちょっとだけ豪華な服で神様の像の前に立つ。
「それでは祝福の儀を始めます」
この神様は創造神という、この世界の唯一神らしい。
生憎と俺は神様転生じゃないからわからないけど、魔法もあるから神様もいるんじゃないかと思うくらいには信じている。
だから熱心にお祈りもしてきた。
いや、本気で、ちょっと実りが悪いだけで食卓がもろに悪化するから良い子にしますから豊作でお願いしますとかガチで祈ってたよ。
他にも嵐とか、土砂崩れとか、疫病とか、ファンタジーの厳しさを体験してきた俺にとって神頼みもしたくなるような要素がてんこ盛りのこの世界で神様を馬鹿にすることはできない。
知識も平凡な俺にとって、知識無双なんてできないんです。
精々、ちびたちの髪型を見様見真似に結ってあげて喜ばれるくらいの知識しかない人なんですよ。
ガチで知識無双できる人がうらやましいよ。
そんなことを考えている間に、シスターの神様への祈りが終わって。
「では、皆さまお祈りください」
今度は礼拝堂に集まっている全員で祈る時間になる。
「神よ、新たなる門出になるこの子たちに祝福を与えたまえ」
そしてシスターの声が祈っている俺の耳に届いたとき。
〝スキル、光線の魔眼を習得しました〟
そんな機械音声のようなモノが頭に流れて。
「あつっ!?」
急に眼が熱くなった。
「ジン!?」
急な熱は痛みで俺は咄嗟に目を覆うように手で押さえて前かがみなった。
俺の変化に、隣にいたアンの心配そうな声が聞こえるけど、マジで痛くて答えることができない。
ジュクジュクと何かが変化するような感覚、汗が大量に垂れて、気持ち悪くなっているけどそれを拭うこともできない。
「シスター!!」
俺の様子がおかしい、その雰囲気に駆け寄ってくる気配。
「ジン、聞こえますか」
シスターだ。
流石に頷くくらいは出来る。
ひたすら我慢するしかない。
「それは神からの祝福です。安心して、しばらくすれば痛みも治まるでしょう」
どれくらい痛むのかはわからないけど、その言葉を信じて頷くと本当に痛みが引いていくのがわかる。
目が完全に別の物に変わったような感覚。
「大丈夫?ジン」
「あ、ああ。大丈夫」
シスターに言われた通り痛みがいきなりスーッと引いていって、もういたくない。
アンにも心配かけたな。
「ジン、あなた、その目」
「目?」
え、何?
みんな驚いているけど、そんなに俺の目おかしくなった?
「すっごく綺麗」
「え?綺麗?」
ぼーっとさっきから見つめられてたから、何事かと思ったけどどうやら変な目にはなっていなかったようだ。
「ジン、こちらに鏡があります。見てみなさい」
「ありがとうございます。シスター」
どんな目になったんだろうなぁ。
ちょっと楽しみだな。
「青い目だ」
透き通る綺麗なサファイアのような瞳。
マジで綺麗な瞳だ。
そう言えば、さっきスキルを与えられた時に、光線の魔眼って言ってたな。
「これってどういう、目」
いきなり青い目になったのは驚きだけど、それ以外は普通の目だなって思ったら。
鏡に映った俺の目が突然光って。
「目がぁ!?」
その光が反射して俺の目に直撃した。
「ジン!?」
あまりの光量にめまいがして、俺は再び目を抑える羽目に、光線ってそういうことか!?
僅かに感じた熱量、まだ覚えたてのスキルだから命拾いしたと言っていい。
アンの心配の声を聴きながら、この魔眼の正体を把握した。
どうやら俺は、目からビームを出せるようになったようだ。