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9話 仮初めの婚約者

 ルカに問われ、クリスティアに呪われた三年前のときのことを思い出したリズリーは、咄嗟に口元を手で覆った。


(……っ、お姉様……)


 クリスティアが自身の意思で呪ったのではないと今もずっと信じているリズリーは、直ぐに質問に答えることは出来なかった。


 というのも、過去に、今まで唯一呪いの影響を受けなかったユランにはクリスティアに呪われたときのことは全て話したことがある。姉妹仲が良かったユランならば、クリスティアの不可解な言動のことも話せば、クリスティアが自分の意思で呪ったわけではないことを信じてくれると思っていたというのに。


 実際は、リズリーがクリスティアを信じたい気持ちは分かるというだけで、完全には理解してくれなかったのだ。


 理由は何にせよ呪いを発動したのはクリスティアで、事実リズリーは関わった人たちから嫌われてしまっているのだから、ユランの考え方が間違っているわけではないのだろう。


 それでも、昔から兄のように慕っているユランでさえ信じてくれなかったため、リズリーはルカに本当のことを話すのは憚られた。


(呪いを解くためにはきっと情報が必要なはず。私の感情はさておき、事実だけはお話ししないといけないというのは分かっている。……分かっているけれど)


 上手く言葉を紡げずに、リズリーは暫くの間口を閉ざす。


(頭が、グルグルする。……話さなきゃいけないのに、言いたくない。お姉様に呪われたって、口に出したら、本当のことになってしまいそうで、辛い)


 トラウマのような三年前の呪われたあの瞬間。直後のクリスティアを信じたいと思った彼女のあ(・)の(・)言動。それらが頭の中でぐちゃぐちゃになって、しまいには仲の良かった頃のクリスティアの笑顔が脳裏に浮かぶ。


(だめ……思い出すだけで泣きそうになるなんて……そんなの迷惑なのに……っ)


 幸せだった頃のことを思うと泣きそうになる。

 込み上げてくるものを必死に堪えて、口を開こうとするものの、リズリーは上手く声が出せないでいた。


 ──その時だった。


「無理に話さなくていい」

「…………!」

「呪いを解くには解呪の術式がいる。そのためには呪いの術式を完全に理解する必要がある。だから、その手がかりになればと思って聞いただけだ。別に偶然でも故意でも術式は変わらないから、また気が向いたときに話したくなったら話せ」

「……っ、本当に、申し訳ありません……っ」


 気を使ってくれたのだろう。その優しさに、胸が締め付けられそうになりながらリズリーが礼を言うと、ルカが食事をしようと促してくれたので、食事を始める。


 僅かな咀嚼の音や、カトラリーを使う音だけが耳に届くほどの無言の空間は、決して居心地が良いわけではなかったけれど。


(久しぶりだわ……ユラン以外と一緒に食事を摂るのなんて)


 それだけで気持ちが軽くなり、頬が綻ぶ。

 誰かと一緒に食事をするのは、それだけでどんなに幸せなことなのか、リズリーは身を持って知っているから。



「ずっと気になっていたのですが公爵様。敷地内の結界についてって伺ってもよろしいですか……?」


 食事が終盤に差し掛かった頃、そう話題を切り出したリズリーに、ルカは「そうだな」と前置きしてから、説明を始めた。


「この世に呪いが存在していることを多くの者が知っていた頃、五代前の公爵が呪いの研究をしていたみたいでな。その時にこの土地に対呪いの結界を張ったらしいんだ。それが今も発動し続けている。だからこの屋敷の敷地内にいる間は、呪いの効果は無くなるんだ。まあ、不完全な結界だから、全ての呪いに効くわけではないんだが」


 この屋敷の敷地内にいる間は誰からも呪いのせいで嫌われることはない。

それだけでも本当に奇跡のように感じるし、そういう結界があると知れただけでも大きな収穫だ。

お聞きしたいのですが……と、リズリーは前置きしてから、口を開いた。


「その結界の文献や資料などありましたら、見せていただけませんか?」

「この結界の文献は古く、擦り切れていてほとんど読めないんだ。済まないな。だから新たな対呪いの結界を張ることも出来ないと思う」

 

どこか申し訳なさそうに話すルカに、リズリーは小さくほほ笑んだ。


「謝らないでください。教えてくださって……本当にありがとうございます」

 

 リズリーがそう告げると、ルカはほんの少し目を見開いた。


「あの、どうされましたか?」

「……いや、笑ったな、と」

「……? そ、そうですね? ご不快にさせたのならば申し訳ありません……」

「そんなこと言っていない。……ずっと暗い顔をしていたから、そんな顔もするのかと思っただけだ」


 ──もしかしたら、心配してくれていたのだろうか。


 それからルカは気まずそうにしてから残りの食事を平らげると、再び結界の話を始めた。

 五代前の公爵は、かなり苦労してこの結界を作ったらしいということや、彼が秘密主義だったことで、他家には結界の術式が広まらなかったことなど。

 そして、呪いが過去の産物だと言われている今は、この結界のことはわざわざ他言しないでいることを聞き、リズリーは丁寧に教えてくれるルカに、じんわりと胸が温かくなった。


「……公爵様は、お優しすぎます……」


 周りに聞こえるつもりで言ったわけではない、リズリーの呟き声。しかし、それが耳に届いたルカは、首に手をやるとバツが悪そうに視線を反らした。



 それから二人は、ぎこちないながら数度会話を交わした。

 しかし、リズリーのとある発言により、穏やかなダイニングの雰囲気が一転することになるのだった。


「公爵様。住む場所も、結界のことを教えてくださったり、解呪のこともありがとうございます。私には大してできることはないかもしれませんが……何かお役に立てることはありませんか……? 少しでもご恩をお返ししたいのです。私にできることでしたら、何でもしますから……!」


 まだ何もしていないからと、ルカは当初リズリーの頼みを跳ね除けていたものの、あまりの熱意に負けたらしい。

 それなら──と考えているルカに、リズリーは少しでも恩返しができるならと喜んだ。


 自ら、術式絵師としてなら役に立てると言わなかったのは、ルカを含めた第二魔術師団には術式を描けるものも複数人いると予想し、自分は必要ないだろうと思ったからである。

 それに、リズリーにとって術式を描くことは幸せで、生きる支えのようなものだったので、それで恩返しというのは自分に都合が良すぎると感じ、言うのは憚られたのだった。


「──本当に、何でも良いのか?」


 ルカの問いかけに、リズリーは力強く頷く。


 すると、ルカは一度頭を掻き乱し、シルビアとバートン以外の使用人たちを下げてから、意を決したように口を開いた。



「それなら、俺の婚約者になってくれ」

「こ、んやく、しゃ……っ!?」

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