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7話 何故、迎え入れてくれるのか

 

 転移魔法は、使用する人物の魔力量や術式によって、移動可能距離やそこに至るまでの時間が決まる。


 筆頭魔術師であるルカは術式を描くのにも大変秀でており、魔力量はミーティア国最大だと言われているため、かなり遠いはずのアウグスト公爵家に到着するのは一瞬のことだった。


「これは……」


 一瞬の浮遊感の直後、転移魔法特有の眩い光が消え、地面に足がつく。


 ルカから体を離したリズリーは少しずつ目を開くと、まず見えたのはルカの手元にある術式が、火花のように散って儚く消えていくところだった。


(術式発動後の魔法紙が消えていく様はいつ見ても綺麗ね……。火花のせいか、ルカ様の横顔もより美しく……って、そんなことを考えている場合じゃない)


リズリーは気を引き占めると、次は目的地の一つである公爵邸の邸内に明かりがついているのを視界に捉えた。

 同時に、屋敷全体の大きさや、大理石で装飾された美しい壁に、感嘆の声を漏らしてしまう。


「凄い……流石アウグスト公爵家です……」

「ラグナム侯爵邸もそれ程変わらんだろう」

「いえ、我が家もそれなりに立派ではあると思いますが……桁が違います」

「そうか。とりあえず目の前に見えるのが、これからお前も暮らす屋敷だ。それで、詳しくはまた後日紹介するが、あっちが第二魔術師団の研究施設だ」


 ルカが右側を指差すので、つられるようにそちらを見れば、そこには公爵邸よりは簡素ではあるが、ほぼ同じ大きさの建物があった。公爵邸との間には連絡通路のようなものがあり、いつでも行き来出来るようになっているらしい。


 夜だからか、まばらにしかライトは付いていないものの、カーテン越しに人が動く影が見える。おそらく第二魔術師団の団員たちなのだろう。


(今後、私は彼らにお世話になることもあるのよね。ずっと筆頭魔術師様がお側について解呪について手を尽くしてくれるはずはないのだし)


 むしろ、筆頭魔術師でもあり、公爵でもあるルカはかなり多忙だろうから、ルカ以外と関わる時間のほうが長くなると考えておいたほうが良いだろうか。 


 情けない話かもしれないけれど、その風景を想像すると、リズリーの胸はズキリと痛んだ。


(きっと……筆頭魔術師様以外は、呪いの影響で私のことを嫌うのよね)


 今まで数えきれない人から憎悪の目を向けられてきたというのに、なんだか今はそれがとても辛い。ユランだけでなく、ルカも普通に会話してくれることを実感したせいなのか、それとも、少し希望が見えたせいなのか。


(……けれど、呪いを解くチャンスなんだもの)


 公爵邸では、使用人たちは当主であるルカの指示に従うだろう。

 第二魔術師団でも、団員たちは団長であるルカの指示に従ってくれるのだろう。


 嫌悪されるのは間違いないだろうが、ルカが迎え入れてくれたのだから表立って嫌がらせをされたり、罵詈雑言を浴びせられることは今までよりは少ないはず。


(辛いなんて気持ちは、胸の奥にしまい込んで置かなくちゃ。私なんかにせっかくこんな機会を与えていただいたんだもの)


 リズリーは気持ちを切り替えるためにブンブンと横に頭を振る。すると、ルカが振り返ったところだった。


「もう夜も遅いから、屋敷に入るぞ」

「…………」

「おい、どうした」


 まだ脳内がぐちゃぐちゃだったリズリーは、ルカの声かけに、ハッとして頭を下げた。


「あっ……申し訳ありません……っ、少し考え事をしておりました」

「……そうか。とりあえず早く入るぞ」

「はい……っ」


 スタスタと歩いて行くルカを、リズリーは足早に追いかける。


(ご迷惑をおかけしないようにしなければ……しっかりしなさい、私)


 そうリズリーは自身に言い聞かせると、ルカが扉の前に立った瞬間、ギギ……と音を立てて扉が開いた。


 するとそこは、明るいエントランスに、豪華なシャンデリア。

 使用人たちの中心には燕尾服を着た執事がおり、その後方にはお仕着せを着た十人以上のメイドがずらりと並んでいて、全員でルカに対して挨拶をしている。


 そんな様子をルカの一歩後ろで眺めるリズリーは、皆の反応が怖くて、両手を胸の前でキュッと握り締めた。


「旦那様、お帰りなさいませ。……して、そちらの女性は……」

「バートン。こちらはラグナム侯爵家のご令嬢、リズリー嬢だ。訳あってしばらくこの屋敷で暮らすから、準備を。専属メイドもお前の采配で構わん」

「かしこまりました。それにしても旦那様が女性を連れていらっしゃるとは……ほうほう。長生きするものですなぁ」

「……。無駄口を叩くな」


 ルカと話し終えたバートンと呼ばれる執事の男性が、少しずつ近付いてくる。

 ルカに対しては穏やかな表情だったが、直ぐ様、鬼のような顔つきに変わるのだろうか。


(怖い……っ、人に拒絶される瞬間は、やっぱり怖い……っ)


 それでも世話になるのだから、きちんと感謝を持って挨拶をしなければとリズリーが覚悟を決めた、その瞬間だった。


「リズリー・ラグナム侯爵令嬢様。私はこの屋敷の管理を任せていただいております、バートンと申します。屋敷内での不備などありましたら、基本的には私の方で対処させていただきますので、何なりとお申し付けくださいませ。それと、ようこそいらっしゃいました」

「えっ……は、はい。リズリー・ラグナムです。よろしくお願いします……?」


 何故か、バートンの態度が穏やかなままなのだ。


 リズリーは不思議そうに何度も目を瞬かせると、バートンに呼ばれたメイドの女性が自身の前にやって来て、ゆっくりと頭を下げた。


「彼女はシルビアと申します。リズリー様の身の回りの世話はこの者がいたします」

「リズリー様初めまして。シルビアと申します。何なりとお申し付けくださいませ」

「え、ええ。ありがとう……?」


 公爵家の執事ともなれば、嫌な顔を一切見せないものなのかとも一瞬考えたが、まさかのシルビアの態度にも嫌悪は一切なかった。


(どうして……? どうして私のことを嫌わないのかしら……)


 リズリーは三年間の苦しい生活のせいで、嫌悪を向けられていることに関して敏感になった。

 そして、バートンとシルビアがプロ意識で表情を取り繕っているわけではないこともまた、確信を持っていた。


(まさか私の呪いが消えたの? それとも何か理由が……呪いに関することって、今この場で公爵様に問いかけても良いものかしら……)


 疑問に思ったリズリーは、ルカに対してうかがうような視線を向ける。

 すると、ルカはその視線の意図に気付いたのか、おもむろに口を開いたのだった。


「敷地内一帯には対呪いの結界が張られているんだ。詳しいことはまた後で話すが、とりあえずお前の呪いが周りに影響を及ぼすことはないから安心しろ」

「そんなものがあるのですね…! わ、分かりました。では、ご迷惑でなければまた公爵様の良い時に詳しい話を聞かせてください」


そう伝えると、ルカに「そういえばリズリー嬢、夕飯は食べたのか」問われたリズリーは、空腹だったことを思い出す。

「あ、いえ、まだですが……」と控えめに答えれば、ルカはバートンに指示をしてから、再びリズリーに向き直った。


「もう少しで食事が出来るから、それまで部屋で休んでいろ。準備ができたら呼ぶ。シルビア、案内してやれ」

「あ、ルカ様……っ、少しお待ち下さい……って、あ……」


 部屋に行く前に一言伝えたいと思ったものの、咄嗟に言ってしまった『ルカ様』という呼び方に、リズリーは勢い良く頭を下げた。

 婚約者でも、ましてや友人でさえないのに、格上貴族を名前で呼ぶだなんて無作法だからだ。


「ルカ様などと、申し訳ありません……!」

「……いや、それは構わないが。で、何だ」

「あ、あの、お礼をお伝えしたくて……屋敷に置いていただけること、本当にありがとうございます……!」

「…………。ああ、話ならまた後でできるから、少しでも部屋で休め。ではな」

「はい……っ!」


 そうして、おそらく自室に戻っていくルカの背中を見送ってから、リズリーはシルビアに付いて部屋に案内してもらったのだけれど。



「あの、リズリー様」


 ソファに座って一息つく。 

 流れるような仕草でシルビアに紅茶でもてなされた直後、まさかこんなことを言われるだなんて想像もしていなかったリズリーは、口をあんぐりと開けることしか出来なかった。


「不躾で申し訳ありませんが……リズリー様は旦那さまと恋人関係でいらっしゃいますか?」

「……!? はい……っ!?」

 

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