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41話 信じたくない現実と最悪の仮定


 ──誰よりも心の支えだったユランが、自身をどん底に突き落とした犯人かもしれないなんて。


 クリスティアに洗脳魔法をかけ、リズリーを呪わせたのがユランであるという可能性が高いことが発覚した次の日、リズリーは絶望の中朝を迎えた。


(頭も体も重い……)


 昨日リズリーは、ユランが疑わしいという話になった直後吐き気を催し、話し合いは中断して直ぐに部屋に戻った。

 精神的なことが原因であることは自身が一番良く分かっていたので、医者を呼ぼうと提案するシルビアを止めて、全身シーツに包まって朝を迎えたのだけれど。


(そりゃあそうよね……吐き気はおさまったけれど、頭の中がぐちゃぐちゃで、一睡もできなかったんだもの)


 今日ばかりは心配そうにしているシルビアに空元気を見せることもできず、着替えもされるがまま、食事は喉を通らなかった。


「リズリー様……本当にお医者様をお呼びしなくて平気なのですか……? 顔色も悪いですし、お食事も全く摂れていませんし……」

「……ええ。大丈夫、ごめんね……」


 せめて笑顔だけでも浮かべることができたなら良かったけれど、今のリズリーにはそれさえも難しかった。


 頭の中には、ユランに対する不安定な感情でいっぱいだった。信じたいと思うのに、昨日のルカとの話で、ユランへの疑心暗鬼が頭を支配していたから。


(私のことが嫌いだったの? だから周りから嫌われる呪いをかけたの? いつから嫌いだったの? あんなに、優しかったのに……。私が何かしたのかな……? それに、どうしてクリスティアお姉様に洗脳をかけたの? 何でそんな面倒なことをしたの? ……もう、訳が分かんないよ……っ)


 人を呪いたいと思うほど憎んだことがないリズリーには、ユランの底知れぬ感情を察することは容易ではなかった。



「そういえば、ユランから手紙が来ていたわね……」


 シルビアを下がらせてから数分後、ふとそのことを思い出したリズリーはテーブルの引き出しを開けて、手紙を取り出す。

 この手紙が届いた頃には開封が楽しみだったというのに、今は全く違う感情がリズリーの中に込み上げてきていた。


(何が書かれているんだろう……っ、怖い……っ)


 けれど、リズリーはなけなしの勇気を振り絞って手紙を開けると、それを上からゆっくりと読んでいく。


「これは──……」


 そして、読み終わったから、扉から聞こえるノックの音に、リズリーはハッとして顔を上げた。


「リズリー様、失礼いたします」

「……! シルビア、どうしたの?」

「旦那様が、もし出歩けるようなら、庭園にあるガゼボに来てほしい、とのことです」

「ルカ様が……?」


 この呼び出しは十中八九、昨日の話の続きをするためだろう。 

 リズリーの体調が芳しくなかったために話し合いは中断したものの、まだまだ話が詰められていないから。


(……正直、ユランのことを話すのは……怖い。嫌われていたなんて、信じたくない。けれど、一人で悩んでいたって解決はしないし、これ以上シルビアに心配もかけたくないもの。それにおそらく、ルカ様も心配してくださっているだろうから、しっかりしないと)


 リズリーは一度コクリと頷いてから、うじうじするのはここまでだ、と決意する。

 それを示すように、できる限りの明るい表情を浮かべてシルビアに礼を伝えた。


 すると、「どんな事があってもお支えしますから、頼ってくださいね」と言ってくれたシルビアにリズリーは堪らず抱き着いてから、ルカが待つガゼボに足を運んだのだった。



 ◇◇◇



「ルカ様……これは……?」


 天井があるため日陰になっているガゼボに、斜めからの朝の日差しが降り注ぐ。

 柔らかなその明かりのおかげでガゼボに置かれたテーブルも照らし、そこに置かれた色とりどりのフルーツやサンドイッチ、ケーキにリズリーは困惑の表情を見せた。


「リズリー、おはよう」

「おはようございます……。あの、ルカ様これは……?」


 到着を待ってくれていたのだろうルカが立ち上がり椅子を引いてくれたので、リズリーは彼の向かい側の席に腰を下ろしながら問いかける。


 すると、ルカは再び腰掛けてから、どこか気まずそうに口を開いた。


「昨日の今日だから、ろくに食事を摂っていないと思った」

「……!」

「医師に尋ねたら、精神的なもので食欲が無い場合には食事制限は基本的に設けないと……とりあえず何か食べさせないと本当に体を壊すかもしれないとも言われた。だから、比較的食べやすい果物や、お前が好きなサンドイッチやケーキを用意させた」

「……っ、ルカ様……っ」


 てっきり話をするためだけに呼び出されたと思っていたけれど、ここまで心配してくれていて、医師に話を聞いて対処しようとしてくれているだなんて思わなかった。

 昨日泣きじゃくったせいで涙腺が緩んでいるためか、ルカの優しさにリズリーの目には涙が浮かぶ。彼の気遣いが、心の底から嬉しかった。


「……っ、ありがとうございます、ルカ様」

「…………。別に、俺にできることをしただけだ。……ったく、こんなことでは泣かんでいい」


 テーブル越しに身を乗り出したルカが手の甲でコツン、と優しく頭を叩いてくる。少し照れくさそうにしているその顔はどこか可愛らしくて、リズリーは心からの笑みを浮かべたのだった。



 それから、リズリーはルカと共に食事を摂った。フルーツを少しとサンドイッチ、ルカが入れてくれた紅茶を飲みながら、最後にスイーツまで。

 彼と他愛もない話をしながら食べる朝食は、美しい庭園を眺めながらということもあってか、特別なものに感じられた。


 そして食事を済ませると、ルカは意を決したように話を切り出した。


「リズリー、もう少し時間を置いたほうが良いかと思ったが、先送りにしていても解決しない。だから、少し俺の話を聞いてもらっても良いか」

「はい」

「実は前、討伐任務の際に俺が竜を召喚したとして冤罪を掛けられそうになったことがあっただろう? その時に洗脳をされていた人物がいたと話したが──実は以前侵入してきた殺し屋たちも同じ魔力を纏っていてな」

「……! つまり、同じ術者に操られているということですか……?」


 リズリーの問いかけに、ルカはコクリと頷く。そして、ルカは「もしかしたらその術者はユラン・フロイデンタールではないかと考えている」と語った。


「確証はないが、洗脳魔法をかけられる人物はそれほど多くはないことと、リズリーが屋敷に来てから起こったことであることから、可能性は高いと思う」

「けれど、どうしてルカ様を狙って……っ、呪うくらい憎い私を陥れたり、命を狙うのなら話は分かりますが……」

「さあな。そこまでは分からん」


 必死に頭を働かせつつ、再び口を開いたルカに、リズリーは耳を傾けた。


「それと、前にリズリーが呪いの資料の抜けを見つけただろ。その後思い出したんだが……数年前、ユラン・フロイデンタールが副団長に就任した際、あの男は第二魔術師団を訪問している」

「えっ……」

「あの男以外に外部のもので訪問した者はなく、その時に案内をした団員曰く、ユラン・フロイデンタールは少しだけ一人で書庫を周りたいと言ったらしい」

「…………!」


 流石にそこまで言われれば分かる。

 リズリーの額には、じんわりと冷や汗が浮かんだ。


「ユランが、呪いの術式を盗んだ可能性があるということ、ですよね」

「そうだ。可能性はかなり高いと思う」


 五年前のミリアムの件から、呪いが流出しないようなセキュリティは強化されているが、相手がユランなら話は別だ。


 呪いを忌み嫌っている第一魔術師団の者とはいえ、唯一呪いを否定せず、研究環境を視察したいと言ったユランは副団長であり、評判もいい。

 きっと、そんなユランを露骨に怪しむのは良心がいたんだのだろう。


 一人でじっくりと書庫を見たいと言われて、それを良しとしたことは問題だが、その時はちょうどルカは長期任務に駆り出され、ジグルドは休みだったらしく、上手く処置できなかったのは致し方なかったのかもしれない。


「このことからも、ユラン・フロイデンタールが犯人であることはほぼ間違いないと思う。俺はあの男に任務等でときおり会ったことはあるが、穏やかで誰にでも人当たりが良く、周りから大変好かれ、優れた魔術師である、という程度の情報しか知らない。だが呪いに対する知識は誰よりもあると自負しているから、そこの視点から話させてもらう」


 現実と向き合うのは、いつだって辛い。


 けれど、ユランが犯人だという線はかなり濃厚なのだ。それならば、彼に纏わることを少しでも知りたいと、リズリーは力強く頷いた。


「まず俺は、何故あの男がリズリーの姉──クリスティア嬢に洗脳魔法をかけたのかを考えた。ユラン・フロイデンタールの魔力量ならば、魔力量が豊富なクリスティア嬢に頼らずとも、自身の魔力で呪いの術式を発動することは可能なはず。……と、すると、呪いを発動させたいがためだけに洗脳魔法をかけたわけではない」

「…………はい、そうだと思います」


 だとしたら、一体どんな理由があるのだろう。リズリーは朝一よりも幾分かスッキリとした脳内で、疑問の解答を模索する。


「……! もしかして……」


 するとそこで、とある最悪の事態が脳裏に浮かんだリズリーの顔はざぁっと青ざめた。


 ルカはそんなリズリーを視界に収め、「可能性の話であるが──」と前置きしてから、切なそうに告げた。



「クリスティア嬢に『代償契約』を交わさせるためだと思う」

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