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4話 その出会いは突然に、そして必然で

 

 それは、雑用を全て終えたリズリーが魔法省の外に出たときだった。


「ふぅ……疲れたわ。けれど、今日はユランにも会えたし、それ程きつい雑用を命じられることもなかったし、良かった……」  


 すっかりと日が暮れて、月の光だけでは歩くのに心もとない中、照らしてくれるのは魔法省の建物から敷地の端にある門までずらりと並ぶ街灯だ。


 辺りを照らしてくれる街灯のオレンジ色の淡い光は、過去にリズリーが新たな術式を開発して出来たものだった。


(懐かしいわね……あのときは、嬉しかったな……)


 約四年前までの街灯は、とある光属性の術式が組み込まれており、眩いほどの光を放つことはできたが、短時間しか持続しないという欠点があった。

 そこでリズリーは持ち前の知識とセンスで術式をいくつか組み替えて、今のような街灯が出来上がったのだ。


 そんな街灯はのきなみ市街地にも使用され、著しく夜の犯罪率が下がったらしい。

 賞賛や見返りがほしいわけではなかったが、クリスティアだけでなく、誰かの役に立てることはこんなに嬉しいものなのかと思ったことを、リズリーは深く覚えている。


「役に立つ、か……。今の私では、それは夢のまた夢ね」


 夜がそうさせるのか、リズリーは儚げにそんなことをポツリと呟く。すると、そのときだった。


「どこだ……っ、どこに行ったんだ……っ?」 


 街灯から少し離れた場所で、腰を丸めるようにして足元をキョロキョロと見回す男を、リズリーは視界に収めた。


「あれは……確か、人事課の……」


 リズリーが術式絵師になってから直ぐのこと。魔法省内を案内してもらったとき、確か彼に「緊張なんてしなくて大丈夫だよ、新人さん」と声をかけてもらった気がする。

 当時緊張していたリズリーは、どれだけその他愛もない声がけに助けられただろう。


(何か探して、困ってるのよね。……手伝ってあげなきゃ。……でも)


 リズリーの踏み出した右足は、ピタリと止まる。


(今私が関わっても、すぐに嫌われてしまうだけ。手伝わせてもらえないし……酷い場合は私が盗んだなんて言われるかもしれない)


 ユランが特別なだけで、他の人物にはもれなく嫌われるのだ。

 この状況を見て見ぬふりすれば、関わらなければ、リズリーは嫌な思いをせずに済む。知人とさえ呼べないような間柄なのだから、わざわざ自分が苦しむような道を選ぶなんて愚かなのだろう。


(けれど、私……)


 嫌われても、文句を言われても、自分の心が傷つこうとも。


 ──もし手伝ったことで、少しでも。


(こんな私でも、役に立てる、なら……)


 覚悟を決めたようにコクンと頷いたリズリーは、ゆっくりとした足取りのその男の近くまで歩いていく。

 そして、「手伝いましょうか?」と恐る恐る声を掛けると、振り向いた男の顔はリズリーを認識した途端、みるみるうちに憎悪に染まっていった。


「お前の手助けなんぞいらん!! さては、お前が私の魔導具を盗んだんだろう!?  これを報告して正式にお前を追放してやる!」

「そんな!? ……っ、違います……! ただ探すのをお手伝いしたかっただけで……!」

「ええい! 白々しい!! なんて汚い女だ!! 絶対に追い出してやるからな!」


 術式絵師になった当初向けてくれた柔らかな笑みはそこにはない。掛けられるのは穏やかな声ではなくて罵詈雑言の嵐だ。


(ああ、やっぱり、こうなってしまうのね……でも、追い出されるのだけは嫌っ……!)


 家族に嫌われ、使用人たちからもまともに扱われない日々。職場でも嫌がらせされて辛いことは多かったけれど、術式を描くことが、術式に触れることだけが生きがいだったリズリーはどうしても職場を追い出されたくなかった。


「お願いします……! 私を辞めさせないでください……!」

「うるさい! お前なんて……お前なんてな……!」

「……きゃっ」


 しゃがみこんだところ、男にドンと肩を押されたリズリーはバランスを崩して尻餅をついた。 

 驚きと痛みに目を細めると、次の瞬間「言うこと聞かねぇと──」と男の手がずいと伸びてくる。


(……っ、殴られる……っ)


 リズリーは恐怖で目をギュッと瞑る。

 そして直後、体の何処かに痛みが走るのだろうと覚悟していたというのに。



「手伝おうとしてくれた女を罵倒した上、殴ろうとするとは、男の風上にも置けないな、お前」

「……! 貴方様は……っ」


 男との間に笑って入ってくれたのは、短めの漆黒の髪に、長身の男。

 広い肩幅からスラリとした長い脚にかかるほどの長いグレーのローブが風に靡き、心臓の位置にあるキラリと光り輝くブローチを目にしたリズリーは大きく目を見開いた。


「貴方様は……」


 ミーティア王国の国獣であるユニコーンの形をしているブローチは、この国で限られた人物しか着けることが出来ないとされていることは、有名な話だった。


 そして、そのブローチを付けた彼の風貌を、魔法に関わる仕事をするもので知らない者は、この国に一人も居ないだろう。


「筆頭魔術師様であり、第二魔術師団の団長様である、ルカ・アウグスト様……」


 この出会いがリズリーの今後の運命を大きく変えることになるだなんて知らずに、今はただ驚きでいっぱいで、ゴクリと息を呑んだのだった。

皆様のおかけで、異世界恋愛の連載中のランキングに乗せていただきました……!

ありがとうございます٩(๑´3`๑)۶♡

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